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    @94_ROM_12
    稲妻の目金君関連のみ

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    #萌目
    moemoon
    ##目君受け

    hnst有り難う(大人萌目)日はとうに落ち月が暗闇を照らす夜更け頃。普段は利用者で賑わっている商店街も誰一人として歩いておらず、その路地裏に入り口を構えるゲームセンターも不気味なまでに静まり返っていた。
    そんな人気の無いゲームセンターの奥にあるメガネハッカーズのアジトで一人、漫画萌は原稿を描き進めていた。このアジトには昼夜問わず誰かしら居るのが普通なのだが、今は時折訪れるゲーム制作や仕事の依頼が入っていないオフの期間である。この『アジトに誰一人訪れないオフ期間』という絶好の機会を利用し、萌はアジトを期間限定の原稿作業部屋として活用していた。
    普段はリーダーである目金が愛用しているソファに座り、机に置かれたノートパソコンに液タブを接続してデジタル原稿を仕上げていく。今萌が作成している原稿は製本する予定の無い、精々ネットの海に流すだけの作品で、言わば萌の趣味で描いている品物だ。その為〆切の類はなく、今の様な時間にゆとりがある時期にのんびりと描き進めているのであった。
    そんな調子で作業を進めていると、何者かの足音が聞こえて来る。一瞬誰かと警戒したが、その足音が聞き馴染みのある物だと分かると、萌は再び原稿へ意識を向ける。

    「__うわっ!?……ま、漫画君?」
    「ふふ。こんばんは、目金くん」

    無人の筈のアジトに人がいたことに驚いているのか、目金は目を瞬かせて萌の顔を見つめる。そんな想定通りの反応に萌は穏やかに笑い目金を招き入れる。

    「こんな時間にアジトにいるだなんて、一体どうしたのですか」
    「原稿を仕上げているんだよ。自宅で作業をするとどうしても気が緩んでしまうだろう?かと言ってレンタルスペースを使って原稿を進める気にならなくてさ」
    「成る程、そう言う事情で此処に居たのですか。アジトならパソコンは勿論あらゆる備品が使い放題ですし、時間を気にせず作業が出来ますしね。……ところで、原稿と聞きましたが一体何を描いているのですか?」
    「ああ、口で説明するよりも目金くんなら見た方が早いんじゃ無いかな?」

    萌はディスプレイに表示された原稿を直接見せようと目金を手招きする。不思議そうにしながらも素直にこちらの呼びかけに応じた目金は萌の横に行きディスプレイを覗きこみ、カッと目を見開く。

    「こ、これは!?五年前に月刊ヤングマンデーに掲載された読み切り漫画『C・S(サイバー・スクランブル)』のヒロイン、サンちゃんでは無いですか!」
    「作品名だけじゃなくてヒロインの名前まで覚えているだなんて、流石は目金くんだね」
    「当然ですよ!萌え漫画家の漫画萌先生が手掛けた初のSF作品として、この作品はファンの間でも根強い人気を誇っているのですから」

    目金は鼻息を荒くし、今自身の目の前にある作品のキャラクターがどれだけファンに愛されているかを作者本人に力説して見せる。そんな想像以上の反応を見せてくれた目金に萌は満足げに笑みを浮かべる。

    「それで、どうしてこの作品の原稿を描いているのですか?……まさか、連載が決まったのですか!?」
    「あはは、残念だけどそうじゃ無いよ。これは僕がプライベートで描いてるもので、今みたいに時間と余裕がある時に少しずつ描いているのさ」
    「そういう事でしたか。でしたら、一日でも長くアジトの活動を休止しなければなりませんね!」
    「それは僕も困るよ目金くん」

    萌の漫画を見たいがあまりに突拍子もない提案をする目金に呆れつつも、作品の完成を待ち望んでくれるその姿は十年前のあの頃と全く変わらず、萌は内側から胸が熱くなるのを覚えた。そんな気分になったからか、ふとちょっとした悪戯めいた考えが萌の頭に浮かぶ。唐突だと理解しながらもそれを飲み込むことは出来ず、萌は自身の頬が少し上がっているのを自覚しながら目金にこんな提案をする。

    「そんなに僕の漫画を楽しみにしてくれているのならさ、久し振りにアシスタントをしてみないかい?」
    「ええっ?そんな急に言われましても……ほらっ、液タブも無いのにデジタル原稿の手伝いなんか出来ませんよ」

    突然の頼みに困惑する目金に、そんな返事は想定内と萌は更に会話を続ける。

    「じゃあ僕が今使ってる液タブを使ってよ」
    「本末転倒じゃ無いですか!」
    「そうでも無いさ。目金くんがベタ塗りや背景の書き込みを仕上げてくれている間に、僕は作業を離れて休憩する事が出来る。そうすると僕はこの後の作業をより効率的に行うことが出来る。ほら、効果的だ」
    「いや、ですが……」
    「あー、目はしんどいし腰も痛いなあ。そろそろ休憩したかったところなんだよねえ」
    「あーもう!分かりました。手伝いますよ!」

    萌の押しに負けた目金は苦々しい顔で手を差し出す。それに萌はニコリと笑い、目金にペンを手渡す。

    「ペン入れが終わっているページのベタ塗りをすればいいのですよね」

    萌と代わり液タブの前に座った目金は、慣れた手付きで作業を始めていく。そんな目金に「任せたよ」と声をかけ、萌は二人分のコーヒーを淹れにアジトの扉を開き、ゲームセンターエリアへと移動する。ゲームセンターエリアの受付に設置されたコーヒーメーカーを起動させ、コーヒーを抽出する。回転率が悪いのかコーヒーから少し酸化した豆の香りがするが、まあそれは仕方がない事だろうと妥協して、せめてもと目金用のコーヒーに砂糖とコーヒーフレッシュを二つずつ入れて持っていく。
    アジトに戻ると強引に頼まれたと言うのに、目金は黙々と作業を進めてくれており既に二、三ページは仕上げ終わっていた。うっかり倒しては危ないと、ノートパソコンから少し離れたところに目金のコーヒーを置き、自身はクッションの上に座ってコーヒーを啜る。
    真剣なその顔付きは、かつて地獄の同人誌用原稿作業を手伝ってくれていたあの頃と変わらないもので、服装と髪型だけが時の流れを感じさせる。出会った頃はファンの鑑と呼べる振る舞いばかり見せていた目金とも、もう十年近い付き合いになる。十年前に目金と出会い、友となり、そして出会って一年と経たぬ内に恋仲となった。あの頃はまさか大人になってもこの関係が続くとは思ってもいなかったし、ビジネスパートナーにもなるなんて想像すらしていなかった。この十年の間で自身も目金も色々と変わったと思っていたが案外変わっていない所の方が多いのかもしれないなと、どこか青臭い考えに浸りながら萌は目金の横顔を当てにコーヒーを飲み進めていく。

    「……あの、そんなに見られると気が散るのですが」
    「良いじゃないか少しくらい。愛しい恋人の横顔を見ながら飲むコーヒーは格別だよ」
    「その愛しい恋人をほったらかして漫画ばかり描き進めているのはどこのどなたなのでしょうねー」
    「おや。それを言うなら目金くんだって休みに入った途端オンラインゲーム三昧で僕の事なんてほったらかしだったじゃないか。というより、君本当はほったらかされたなんて思ってもいないだろう」
    「まあ、言ってみただけです」

    そう言って目金は再び作業に戻る。その淡々とした表情に本当に唯言ってみただけなのだろうなと萌は目金の真意を探る様に再び横顔を眺めていると、不意に目金が笑みをこぼす。

    「どうしたんだい目金くん」
    「いえ、何だか懐かしいなと。漫画君の原稿をよく手伝っていたのは高校生の頃まででしたし、それ以降はアジトの仕事で手一杯でしたから」
    「ああ、そうだね。僕もハッカーズとしての活動に重点を置く様になったから漫画を描く頻度も減っていったし、締め切りがある原稿なんてたまにしか無いからね」

    あの頃の思い出が自分だけでなく目金にとっても特別な記憶なのだろうなと、萌は妙にくすぐったい気分になる。するとふと再び湧いて出て来た考えに、萌は悪い笑みを浮かべて目金にこう言った。

    「懐かしいついでにさ、久しぶりに呼んでくれないかな。あの頃みたいに、萌先生ってさ」

    そうにこりと笑ってみせると、目金はげんなりとした顔をする。

    「ええ……。そう呼んでいたのって中学生の頃だけじゃないですか。同じ高校に行ってからは自然と漫画君呼びに変わっていましたし。先生と呼んでいた時期よりも、漫画君呼びの方が長いじゃないですか」
    「良いじゃないか。久しぶりに呼んでよ」
    「……嫌です」
    「ええ?何でさ。断られるようなお願いだったかい?」
    「いえ、その」

    もごもごと口籠る目金をじっと見つめ、萌はその言葉の続きを目金に促す。その圧に耐えられなかったのか、目金は目線を下に向けてぼそぼそと話し始める。

    「だって、もう七年以上苗字呼びで、それが定着したというのに今更になって先生付きとはいえ名前で呼ぶなんて……っは、恥ずかしいじゃないですか!」

    最後はやけくそ気味に声を上げて、耐えられないと言わんばかりに目金はぎゅっと眼を閉じて顔を真っ赤に染め上げる。その初心な乙女の様な恥じらいを見せる目金に、萌は目を見開いて瞬時体を石のように硬直させる。その想定外の振る舞いに萌はふらついた思考のまま、目金の顎先を掴み目を合わさせる。そして、

    「___っ、んんんんん!?」

    つい抑えが効かず強引に目金に口付けた。慌てる目金の小さく開いた口元に舌先をねじ込み、固まっていた舌と絡ませる。舌に残るコーヒーの苦みと、砂糖の甘みがわずかに混ざり合う。目金から漏れ出る声が困惑から色気の混ざった物に変わった頃に、萌は名残惜し気に目金から離れる。

    「……ごめん」
    「ごめんじゃないですよ馬鹿!何を急に盛っているのですか!」

    顔を真っ赤にしたまま口元を強引に拭い目金はキャンキャンと不満を叫ぶ。元はと言えば目金が可愛すぎるのがいけないんだと、八つ当たりなのか逆切れなのか分からない反論が脳裏に過ぎるが、今はそれどころではなかった。

    「ねえ、目金くん」
    「何ですか。原稿なら今日はもう手伝いませんからね」
    「この後、家に来ないかい」

    今日の君をこのまま帰したくない。

    そう呟くと目金はぴたりと動きを止める。ぱちぱちと目を瞬かせた後目金は「はあぁ……」と大きな溜め息をつき口を開いた。

    「はいはい、貴方がそう望むなら幾らでも付いて行きますよ、萌先生」

    そう言って目金はにやりと笑う。萌の言葉に翻弄され続けていたあの頃とは違う、十年近くもの間同じ時間を共に過ごしてきたからこその余裕に溢れるその笑顔。あの頃と関係は少し変わったりしたけれど、相変わらず、これからずっと先も彼の事が好きなのだろうなと、萌はそう実感したのであった。
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    ROM

    REHABILI「嘘はまことになりえるか」https://poipiku.com/4531595/9469370.htmlの萌目の2/22ネタです。22日から二日経ちましたが勿体無い精神で上げました
    猫の日「……えっと、つまり。漫画君は猫耳姿の僕を見たいのですか?」
    「今日は2月22日だろう?猫の日に因んだイベント事をこう言う形で楽しむのも、恋人がいるものならではの体験だと思うよ」

    2/22。2という数字を猫の鳴き声と準えて猫の日と呼ばれているこの日。そのイベントに乗じてインターネット上では猫をモチーフとしたキャラクターや猫耳姿のキャラクターが描かれたイラストが数多く投稿されている。そして、猫耳を付けた自撮り写真が数多く投稿され、接客系のサービス業に勤めている女性達が猫耳姿になるのもこの日ならではの光景だろう。
    古のオタクを自負する萌にとって、猫耳とは萌えの象徴であり、身に付けたものの可愛さを最大限までに引き出すチートアイテムである。そんな最強の装備である猫耳を恋人にも身につけて欲しいと考えるのは自然な流れの筈だ。けれど、あくまでそれは普通の恋人同士ならの話。萌と目金の間に結ばれたこの関係は、あくまで友として萌と恋人のごっこ遊びに興じる目金と、目金に恋慕する萌という酷く歪な物であった。
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