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    @94_ROM_12
    稲妻の目金君関連のみ

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    どむさぶ斗欠に振り回される元秋葉面子の話。実質ハッカーズのSS。萌先生視点

    ##斗欠Dom/Sub
    ##目君受け
    #斗欠

    巷で噂のハッカー集団__"メガネハッカーズ"。その組織のリーダー的存在である目金欠流は、重度の症状を抱えたSubであった。
    自身の気質と相反する第二の性に長らく苦しめられてきた彼であったが、近年ではその様子も見られなくなった。恐らく、Subとしての自分を仲間に打ち明け、実質的なパートナーであった弟と正式に関係を結んだ二年前のあの日が大きな転機となったのだろうと、漫画萌は考えていた。
    そんな幸せの最中にいるはずの目金君が、ある日少しいじけた様子でアジトにやって来た。初めは"弟と喧嘩でもしたのだろうか"と心配した萌だったが、その手にはいつも通りお弁当らしき包みが握られていたため、すぐにその可能性を取り下げる。例え喧嘩をしていても大したことではないだろうと判断し、萌は「おはよう目金君」と声をかけるに留めた。その後、遅れてゲームきが到着すると自然とその日の業務が始まる。そして時計の両針が天辺を指し、アジト内の空気が緩み出した頃。

    「__んで?てめえは今日家で何があったって言うんだよ」

    ゲームきが、目金君に対し前置きも無くこう切り出した。不意を突かれた目金君は「な、なんのことですか?」とあからさまに上擦った声で白を切る。ゲームきは呆れ顔で「よくそれで隠せると思ったな」と吐き捨て、更に続けた。

    「辛気臭え面で作業されるとこっちの気も滅入るんだっつの。その顔引っ込めるか、まんがかに愚痴るかのどっちかにしろ」
    「あ、僕に振るんだそこで」

    急なパスについ突っ込むと「てめえも仕事中に何度もメガネの様子窺ってたじゃねえか」と指摘を受ける。確かに、あまりにもしょげた様子で作業を続ける目金君を見て、想定以上に大きな問題を抱えているのではないかと仕事中ずっと心配し続けていた。しかしまさかゲームきに見抜かれていたとは思わなかったが、バレた以上は仕方ない。気持ちを切り替えた萌は、目金君に優しく問いかける。

    「ねえ、目金君。多分だけど弟君と何かあったんだよね。もしよかったら聞かせてくれないかな?」
    「いえ、その。そんな深刻な話ではありませんし、むしろ今回に関しては僕が悪……いや、けど一斗が……。と、兎に角!他愛ない喧嘩ですので!」

    目金君はかなり気まずそうにそう打ち明ける。彼が珍しく自身の非を認めている点や、"けど一斗が"という言葉から、弟に対し無茶な要求をしたのだろうと容易に察せられた。どうやら本当に深刻な問題ではなさそうだと、萌はひそかに胸をなでおろす。

    「それなら、昼ごはんでも食べながらゆっくりその話を聞かせてよ。弟君お手製のお弁当を食べながらさ」

    そう言って萌は彼の傍らに置かれた大きな包みを指差した。目金君が持参するお弁当は日によって様々だ。ある日は紙袋いっぱいにおにぎりとそれに合わせたおかずがタッパーに詰められていたり、ある日は箱いっぱいに様々な種類のサンドイッチが並べられていたりする。そんな立派なお弁当に共通しているのは、彼が持参するお弁当はメガネハッカーズ全員で食べることを前提とした量であることだ。

    お弁当を持参し始めた頃は、目金君を置いてゲームきと二人で外食したり、コンビニやチェーン店で買ったものをアジトに持ち込み共に食事を取っていた。外で買ったものをアジト内で食べる時は目金君のお弁当を少し分けて貰った事もあったのだが、その出来事を彼はは弟に"今日起きた楽しかった事"として話したらしい。それを機に、目金君のお弁当が一般的な"お弁当箱スタイル"から、おにぎりとおかず、サンドイッチといった気軽にシェアしやすいものへと変化していった。
    するとまた、萌は目金君からおすそ分けを貰う機会が増え、次第にお弁当は二人で食べる前提の量へと変化し、いつしか弁当袋の中には二人分の割りばしや紙皿が同封されるようになった。そうなると萌は外にご飯を買いに行くのを止め、目金君が持参したご飯を共に食べる様になった。そして、その様子を見たゲームきが「何二人で食ってんだ」「俺にもよこせ」と目金君のお弁当の一部を掻っ攫い、それが定番化した頃にはお弁当の量は三人で分けても十分な量へと変化していた。
    この頃になると、萌も目金君の弟のことが心配になった。三人分の食事を毎回作らせるのは弟君の負担が大きいのではないか、と尋ねたこともあった。しかし、目金君は

    『あー、そのですね。一斗は心配性なんですよ』
    『皆さんの分のご飯も作り出したのは、一斗自身がそうしないと落ち着かないからしているだけなんです』
    『だから萌先生は何も気にしないで、僕と一緒に一斗の手料理を食べてください』

    と、カラカラ笑うだけだった。その回答は何の答えにもなっていなかったが、萌としては自分でご飯を調達する必要が無いのは助かる為、それ以上追及はしなかった。
    余談だが、目金君のご飯がシェア前提の量になった頃から、萌は目金君を介して彼の弟に昼ご飯代を渡してはいる。しかし、お金を渡して以降明らかに弁当の手の込み具合が上がっているため、萌は内心採算が合っているのか少し心配していた。

    「おいメガネ。今日肉系のやつあるか?もしあるなら俺も食う」
    「ゲームき……それ止めなって何回も言ってるだろう?弟君はゲームきも食べるかもしれないって三人でも分けられる量を作ってくれてるんだから」
    「別に残してもいいと一斗には言われているので構いませんよ。そもそもお二人は絶対に一斗のご飯を食べなければならない訳でもありませんし。……まあ、今日はこのお弁当の件で一斗と揉めたのですが」

    目金君は包みから大きめの箱を取り出し蓋を開ける。その中には王道から変わり種まで揃えたサンドイッチが並び、ゲームき好みなローストチキンを挟んだ物も入っていた。

    「俺、鶏肉が入った奴な」
    「ええ、良いですよ」
    「ちょっとゲームき!……まあ、目金君が良いなら別に構わないけど。えっとそれで、今日も立派なお弁当だけど、一体何があったんだい?」

    自分好みのサンドイッチを早々に確保するゲームきに苦言を漏らしつつ、萌は本題を目金君に尋ねる。目金君は渋い顔をしながら、ぼそぼそと話し始める。その話し声は、普段は堂々と話す彼にしては随分と小さく、要領を得ない。自分の非を極力話したくないという心情が滲んだその話の内容は、こういうものであった。

    昨夜、目金君は弟に『明日の昼は何が食べたい?』と聞かれたそうだ。毎日欠かさず尋ねられるその問いに目金君はいつもの様に『一斗に任せるよ』と返したらしい。丸投げともいえるこの返答は、弟のセンスを信頼しきっての行動でもあるだろう。しかし、その日の夜中。寝ている最中にふと意識が浮上した目金君は、強くこう思ったそうだ。

    『(明日の昼はハンバーガーが食べたい)』

    と。ジャンクフードから縁の遠い生活を続けているとなると、そういった欲が湧いてくるのは当然だろう。しかし時刻は午前2時頃。弟を叩き起こして自家製ハンバーガーのリクエストを告げるには些か遅すぎる。流石に起こすのは悪いと判断した目金君は、寝ぼけて頭が回っていない中、こんなことを考えながら眠りに着いたらしい。

    『(きっと一斗なら僕の思いを察してくれるだろう)』

    と。無茶である。案の定弟はハンバーガーを作るわけもなく、目金君が起きた頃にはバスケットに詰められたサンドイッチの姿があったそうだ。目金君も『そりゃそうですよね』と思ったらしい。しかし目金君は、中学の合宿以降一切手料理に関わっていないが故に、気軽にこう言ってしまったらしい。

    『一斗、今からこれハンバーガーみたいに作り直せないかい?』

    と。そして目金君は、朝から本気の説教を弟から浴びせられ、しょぼくれた様子でアジトにやって来たそうだ。

    「いや最悪じゃねえか」
    「弟君、かわいそー」
    「早起きして飯作ってくれた弟に言っていい台詞じゃねえだろそれ」
    「よくそのお弁当渡してもらえたね」
    「ううう……」

    一ミリも同情の余地がない話を聞き終えた萌とゲームきは、互いに好き勝手に感想を口にする。毎晩目金君の希望を尋ね、その上でお弁当を作っているというのに、朝になって__それも作り終わってから__メニュー変更希望を告げられたとなれば怒るに決まっているだろう。寧ろ作り終えたお弁当を持たせてくれる辺り、弟の甘さが垣間見える。

    「ぼ、僕だって、何もバンズを使ってハンバーガーを一から作れと言った訳じゃありません。食パンを使った、ハンバーガー風にして欲しいと思っただけなんです。なのにあんなに怒るなんて!」

    そう言って目金君は理不尽極まりない怒りを露わにする。彼の言うハンバーガー風のサンドイッチというのは恐らく、ホットサンドやクラブサンドの様な物だろう。確かに彼の弟なら前日にそれを伝えられていたら対応出来そうな要望ではある。あくまで、前日に告げていたらの話ではあるが。

    「当日は流石に無理だろ」
    「無茶振りし過ぎないであげなよ。弟君、倒れちゃうよ」

    暴虐無尽ともいえるその振る舞いをゲームきと二人で窘めていると、目金君から「一斗なら出来ますし……」とぶすくれた声で反論が返って来た。

    (ううんこれは、随分と甘やかされてるな……)

    過度な甘えと我がまま。その全てが"あいつなら許してくれる"という信頼によるものだと伺えるだけに、萌はさして交流の無い弟に心底同情した。心に傷を抱えた兄を大事にして甘やかしてやりたいという熱意は伝わるが、目金君の要望全てに応えようとすると疲れてしまうのでは無いか。そう心配になった萌は、つい目金君にこう提案した。

    「ねえ、目金君。君って弟君に報告さえすれば外食しても問題無いんだよね?」
    「え?そうですが……」
    「良かったらさ、今日皆んなで晩御飯食べに行かないかい?」

    突然の提案に目金君はキョトンとした顔で萌を見つめる。

    「話を聞くに、弟君は目金君のために随分と頑張っているんだろう?偶には外で食べて帰って、弟君を休ませてあげたら?」
    「えっと、その。萌先生……」

    目金君の為に頑張り過ぎてしまうなら、せめて夕飯だけでも外で食べて帰る方が、弟の負担軽減に繋がるのではないか。萌はそう考えての提案を目金君に伝えたのだ。
    しかし目金君は"Domに負担をかけるな"と言われたように感じたのか、しばらくおろおろと困惑の色を浮かべる。だが不意に何か思いついたらしく、表情が一転し、にやりと悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

    「そうですねえ、僕中華食べたいですねー。チャーハンとかカニ玉とかチンジャオロースとか」

    さっきまでの狼狽が嘘のように軽い足取りで立ち上がると、入り口近くの電源タップへ行き携帯を充電しながら楽しげに外食の希望を語り出す。その前向きな返答に合わせるように、萌も提案を重ねた。

    「あーいいね。今日は雷雷亭に行こうか」
    「ええ。王道の街中華、久し振りに食べたいなー」

    目金君は久し振りの外食の予定に浮ついているのか、機嫌よく相槌を打ち続ける。中華の話題に釣られたゲームきも参戦し、更に話は盛り上がってゆく。

    「揚げ物だと僕唐揚げ好きなんですけど、あれって短時間で作れるんですかね?」
    「俺は絶対餃子頼むからな」
    「餃子も良いですねー。僕はチルドの餃子も十分好きですよ」
    「え、雷雷亭って手作り餃子提供してたよね」
    「ああ、雷雷亭はそうですね」

    ニコニコと、噛み合わない返答を目金君は続ける。その違和感を指摘する前に「夕食は18時過ぎで良いですかね?」と提案され、萌とゲームきそれに同意した。

    「では、それまで仕事をしましょうか!」

    目金君の号令とともに雑談は終わり、皆作業に戻る。午前中のだらけた雰囲気が嘘のように皆集中して作業に没頭し、仕事に区切りがついた頃にはちょうど18時を回っていた。アジト内に程よい疲労感が漂ったその時、目金君の携帯が鳴った。

    「弟君かい?」
    「ええ。ここで出ますね」

    そういうと目金君は携帯の通話ボタンを押す。

    「ああ、ノックしてくれたら僕が出るよ」

    そう告げると、目金君はすぐ電話を切った。

    「……えっと。弟君はなんて」
    「もうすぐ来ますよ」

    「何が?」と尋ねる間もなく、扉をノックする音が響く。目金君が「はーい」と答え扉を開けると__

    「……えっ?」「は?」

    そこには、両手に大きな紙袋を持ち、額に青筋を浮かべた目金君の弟が立っていた。扉が開かれると同時にアジト内に広がる、食欲をそそる中華の匂い。それに気付いた瞬間、紙袋の中身が中華である事、そしてそれらが彼の手作りであることが推測できた。

    「あーにーきー?」
    「ふむ、18時5分。業務終了のタイミングも見越しての到着時刻。流石は一斗!僕の自慢のDomですね!」
    「あのさあっ!ご飯持って来て欲しいなら普通に電話してって前にも言ったよねえ!?」
    「えー?僕は元秋葉名戸学園のお二人と楽しく雑談をしていただけで、一斗に作って欲しいなんて一言も言ってないじゃないか」
    「あんな露骨に中華の話題になった途端盗聴器の傍で喋り出しておいて、よくそんなこと言えるね!?」
    「「は???」」

    二人のやり取りに割り込めず、ひたすら黙り続けてた萌とゲームきは"盗聴器"という単語にピリついた空気を醸し出す。そんな二人の変化に弟は、気まずそうに「え。兄貴、盗聴器の件説明したんじゃなかったの?」と口にする。その間にゲームきが目金君が使用していた三口の電源タップを手に取り、職業柄アジト内に常設してあった盗聴器探査機をそれに近付けると探査音と共にランプが点灯した。

    (わざわざ入り口付近の電源タップで充電したのはこのためだったのか)

    近くの差込口を使わずに、入り口側に移動して携帯を繋いだ行動の理由を悟り、萌は頬を引きつらせる。以前、弟の束縛気質を理由に「一斗が聴くためだけの盗聴器を置かせてほしい」と目金君から頼まれたことは確かにあった。しかし精々録音機を用いて聞かせているのだと思っていたが、まさかリアルタイム形式だったとは。萌は呆れ笑いを浮かべるしかなかったが、ゲームきは腕を組み、説教の体勢に入った。

    「おいメガネ、てめえ……」
    「と、盗聴器を持ち込むという話は前々からしていたじゃないですか!」
    「そうは言うがな、この電源タップお前がいない日も刺したままじゃねえか!」

    「これで機密情報洩れたらどうするつもりだったんだ!」「僕がそんなヘマするわけないでしょう!」と二人は大きな声で言い合いを始める。しかし、目金君も部の悪さを自覚しているのか返答にキレが無く、腰が引けている。これはそう時間も掛からないうちに目金君が折れるだろうと判断し、静観の構えを取ると「あのー……」と弱々しい声が聞こえてきた。

    「えーっと、この中にチャーハンとか餃子とか入っているので。使い捨てのカトラリーや取り皿もあるので使って下さい。あと適当にビールや酎ハイも買ってきたので」

    そう言って弟__一斗君から手渡された紙袋を、萌は部屋の中央に置かれたテーブルの上へと置いてその中身を覗き見る。中には使い捨て容器に入れられた料理が多数存在し、用意された酒も全てゲームきや萌が好むものであった。

    「うわあ至れり尽くせり。有難う……というかごめんね?」
    「いえ、僕がしたくてしていることなので……」

    一斗君がそう答えるとスッと顔に影が落ちる。笑顔でもなく、不快感を滲ませるでも無いその表情。それに引っかかりを覚えた萌は、部屋の入り口から動こうとしない一斗君の元まで戻り、こう尋ねた。

    「ねえ、一斗君。少し聞きたいんだけどさ。どうして君は目金君……お兄さんのご飯だけじゃなくて、僕やゲームきの食べる料理も用意してくれるんだい?」

    これはかつて目金君に尋ね、明瞭な答えが返ってこなかった問い。何故、赤の他人である萌とゲームきに__嫉妬の対象に成り得る二人の為に料理を作ってくれるのか。萌はずっと疑問を抱いていた。その質問に一斗君は顔をこわばらせ、そして重い溜め息を付いた後にこう語りだした。

    「……僕が兄貴に弁当を渡すようになったばかりの頃、漫画さんは外で買ったものをここに持ち込んで、兄貴とご飯を食べたりしてたじゃないですか」
    「ああ。昼休憩中も話を詰める必要がある時もあったし、何より目金君を置いて行ってまで外に食べに行きたいとは思わなかったからね」
    「……そうですね。これまでの昼休憩は三人揃って外に食べに行く流れが定番化していたんですよね。けど僕が、兄貴には僕が管理した物だけを食べて欲しいと、そんな我が儘を言ったせいで友達と食事に行く機会を奪ってしまっている。そう申し訳なく思っていたので、漫画さんには感謝しているんです。……ですが」

    そう言うと、一斗君はピタリと口を閉ざした。何となくではあるが、この先にある本音を打ち明けるのを怖がっているのだと萌には分かった。何を聞かされても決して怒らないと伝えるように、安心させる思いを込めて「教えてほしいな」と柔らかく微笑むと一斗君はおずおずと、再び口を開いた。

    「……ですが、漫画さんはご自身が買ったものを兄貴に分けたりしてましたよね」
    「ああ、うん。目金君から色々聞いてはいたからさ。おすそ分けする前に目金君に写真を取って貰って、何処の商品か分かるようにはしてたと思うけど」

    自分が何を食べたのか報告する。それを長らく簡易的なプレイとして行っていると聞かされていたため、一斗君への配慮としてその工程は必ず行ってはいた。しかし、それが話題に出るという事はそれだけでは駄目だったのだろうかと内心焦っていると、一斗君は暗い表情のまま口を開く。

    「……そうですね。漫画さんは必ず兄貴に分ける前にその買って来たご飯をレシートと一緒に写真に収めていたと聞いています。兄貴を介してその写真を見せて貰いもしました。僕らに配慮してくれているのは、僕も十分わかっているんです。……ですが、ごめんなさい。耐えられなかったんです」

    言葉の末尾を震わせ、ついに目元を手で覆い隠してしまった一斗君は、息つく間もなくこう語りだした。

    「たった一口でも僕が管理していない食べ物が兄貴の口に運ばれるのが許せなかった。昔よりひどくなっている自覚はあります。けど耐えられない。我慢できないんです」
    「けど兄貴に友人と一緒にご飯を食べるな何て言いたくない。だからあなたの分のご飯も作った。そうすれば兄貴が口にするご飯は僕が把握しているものだけになる」
    「ごめんなさい漫画さんは何も悪くないんです。兄貴の身体に僕が把握できていないものが混ざることが受け入れられないんです」

    「ただ、僕が知らない兄貴が少しでも存在する事が許せないだけなんです」

    ごめんなさい。
    そう語り終えた一斗君は、自分自身に嫌悪するように黙り込んでしまった。

    (あー、そうか。成程。……大変だなこれは)

    一斗君の言葉を聞き終えた萌は、心の中で大きく嘆息する。萌のお弁当まで作っていた理由は、想定通りのものではだった。二年前のあの夜、電話越しにも感じた威圧的なglare。そのむき出しの嫉妬心を真正面から浴びた経験がある萌にとって、彼がこうした心理に行き着くのは、ある意味で必然にも思えた。それと同時に、その欲求が一斗君自身を蝕んでいるようにも見えた。強迫観念じみた"管理欲"に支配され、それでも理性で兄の自由を縛り切らないよう必死に折り合いをつけている。そんな歪で不器用な様は、Domであると同時に弟であるがゆえの苦悩にも見えた。

    (にしてもこの状況の弟を見て『心配性』と称せるって。あの子はどうなっているんだ)

    そして、Domである一斗君の心配が募れば募るほど、その支配を受け止め続けているSubである目金君に呆れとも感心ともつかぬ思いが込み上げてくる。
    長年一斗君と向き合い続けてきた目金君にとって、"自分が管理したもの以外を食べてほしくない"という欲求など、可愛い弟の我がままにしか感じないのだろう。しかも、その欲求が自分への執着に根ざしていることを正確に理解したうえで受け入れている。だからこそ、弟の支配を甘受しながらも"愛しているならこれくらい聞いてくれるよね?"とDomを試すように、時に意識的に、時に無自覚に無茶を言うのだろう。なんて兄弟だと、萌はずしりと重くなった頭を右手で押さえた。

    「あー……その、あれだね。色々としんどくなったらお兄さんを介してでいいから僕達に相談してね。一斗君的にNGな行動とか共有してくれて全然いいから」
    「いえ、あの。僕が勝手にモヤモヤしてるだけで、お二人は何も悪くないので……」
    「そうは言うけど心配だよ。変に危うい所とかお兄さんにそっくりだよ?」
    「えっ!?」

    「兄にそっくり」という言葉が余程ショックだったのか、一斗君は俯いて固まってしまった。その姿すら兄譲りだと思いつつ、どうフォローするか迷っていると、テーブルの方からわっとした声が上がった。

    「うっわ何だこれ。これもう出前じゃねえか!」
    「ふふん。凄いでしょう一斗の作った料理は!って、あれ。かずとー、ジンソーダはー?」

    いつの間にか口論を収めた目金君とゲームきが、紙袋の中を覗き込みながら騒いでいる。目金君の意図的か無意識かは分からない甘え声に、一斗君は「そっちの袋の底の方にちゃんとあるから」と彼の傍まで行ってしまった。

    (__心配ではあるけど。まだ大丈夫。なのかな?)

    兄に振り回され、世話を焼くうんざりしたその横顔。だが、その視線の奥には隠しきれない"愛おしい"という感情が滲み出ていた。
    一斗君が、理性とDomとしての支配欲との板挟みに苦しんでいることは、この短い会話だけでも十分に理解できた。けれど、少なくとも今の二人は何かを変える意思を持っていない。危うげに見える関係性であっても、当人同士が幸せであるならそれを外から否定する理由はないと、萌は考える。
    しかし、この"管理欲"が強まれば、いずれは"自分が許可した人としか会ってはいけない"、"自分が許可した場所にしか行ってはいけない"といったものへと転じかねない。そして最悪の場合、目金君を誰の目にも触れさせまいと考える可能性すらある。そうなった時の為にも、一度目金君と本気で話し合って対策は立てておく必要があると萌は思案する。
    きっと目金君は、弟の頼みならどんな命令も受け入れてしまうだろうから。取り返しのつかない事態を避けるために、第三者としてこの兄弟に手を差し伸べなければならない。二人を本当の意味で幸せにするためにもだ。
    そう心に刻んだ萌は、三人に続いてテーブルの側に近づき、喧騒の中へと混ざっていった。



    「それにしてもこの量に品数、本当に凄いね」
    「弟、お前よく短時間でこんだけの量作れたな?」
    「あー、兄貴がリクエストした料理の多くは漬け込み時間とかが比較的短めで、すぐ作れるものが多かったので。……僕の調理時間も考慮した上でのリクエストでしたので、何も問題ありませんでしたよ」
    「……なあ、おい。今度飯奢ってやるよ。寿司でもいいからよ」
    「いえ、大丈夫です。本当に大丈夫ですから……」
    「いやこれは流石に何かお礼をしないと悪いよ」
    「かずと、食後のデザートは?」
    「家の冷蔵庫にマンゴープリン冷やしてあるから、帰ってからか明日の朝にでも食べてね」
    「デザートまでとかお前、本当に凄いな……」


    狭い一室に響く大人四人の騒ぎ声。外から見れば奇妙で歪なその喧騒は、確かに萌達の新たな日常の一部として、息づいていくのだった。
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    REHABILI「嘘はまことになりえるか」https://poipiku.com/4531595/9469370.htmlの萌目の2/22ネタです。22日から二日経ちましたが勿体無い精神で上げました
    猫の日「……えっと、つまり。漫画君は猫耳姿の僕を見たいのですか?」
    「今日は2月22日だろう?猫の日に因んだイベント事をこう言う形で楽しむのも、恋人がいるものならではの体験だと思うよ」

    2/22。2という数字を猫の鳴き声と準えて猫の日と呼ばれているこの日。そのイベントに乗じてインターネット上では猫をモチーフとしたキャラクターや猫耳姿のキャラクターが描かれたイラストが数多く投稿されている。そして、猫耳を付けた自撮り写真が数多く投稿され、接客系のサービス業に勤めている女性達が猫耳姿になるのもこの日ならではの光景だろう。
    古のオタクを自負する萌にとって、猫耳とは萌えの象徴であり、身に付けたものの可愛さを最大限までに引き出すチートアイテムである。そんな最強の装備である猫耳を恋人にも身につけて欲しいと考えるのは自然な流れの筈だ。けれど、あくまでそれは普通の恋人同士ならの話。萌と目金の間に結ばれたこの関係は、あくまで友として萌と恋人のごっこ遊びに興じる目金と、目金に恋慕する萌という酷く歪な物であった。
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