バレンタインな萌目「バレンタインだよ目金君!」
「そうですね漫画君」
「14世紀頃からイタリアで恋人達のイベントとして楽しまれ、日本に於いては凡そ1950年頃から『女性が男性にチョコレートを贈る日』として定着したこの日。恋人達は愛を育み、それを尻目に独り者達は『リア充爆発しろ』と呪詛を吐く。長らくその呪詛を吐く側だったけれど今年はそうじゃ無い!僕らは恋人同士!」
「__と言うわけで。世間様に則って今日という日を楽しむべく用意して来たのがこちら、催事場で買ったチョコレート達です!」
「事前に『買いすぎたから一緒に食べよう』と聞いてはいましたが、こうして見ると凄い量ですね。これだけ沢山あると食べ切るのに数日はかかるのでは」
「まあ、5月頃まで持つチョコも混ざってるから、賞味期限が早い物から食べたら何とかなるよ。あ、そうだ目金君。催事場でこんな物も売っていてさ。開けて見てよ」
「?綺麗な缶だとは思いますがこれが一体……って、これは!?マニアの間で根強い人気のある旧HIAT600型のミニカーではありませんか!何故これがチョコと一緒の缶に!?」
「あ、気に入った?どうやらイタリアの老舗チョコブランドとHIATがコラボした商品らしくてさ。目金君好きそうだなーって思って買っちゃった」
「流石はバレンタイン、こんな変わった商品まで売られているとは。……それにしても、まさか漫画君がこれ程までに沢山のチョコを用意してくれるとは想像もしていませんでしたよ」
「あはは。確かに多過ぎるよねこの量は。これ目金君好きそうだなーとか、目金君に食べてもらいたいなーって考えながら買っていたらこうなっちゃってさ」
「正直な事を言うと、漫画君は僕からチョコを渡して欲しいのではと考えていたので」
「あー……。欲しく無いって言ったら嘘にはなるけど、目金君こういうイベント苦手そうだったからさ。楽しめる僕が買った方がいいかなって」
「……下手な物を選んでも邪魔になるのではと思い何も買いませんでしたが、漫画君に尋ねるべきでしたね」
「ぁ、……。__じゃあさ、もし僕が何も連絡しかなったら、目金君はどんなチョコを用意してくれた?」
「えっ?」
「目金君がそこまで考えてくれていたってことは、きっと何か用意するつもりだったんだろう?僕知りたいなあ、ねえ教えてよ目金君」
「えー、あー……。……漫画君が想像した通り、僕なりに何を用意するべきか、連絡が来るまでの間色々と考えてはいました」
「お。何々?聞かせて」
「少し話は飛びますが、シルキーナナの第7巻に、バレンタイン編が収録されていますよね」
「あー、その辺りだったかな?それでそれで?」
「その話で、ナナちゃんが彼にチョコを食べさせて、そのままキスをするという素晴らしい展開があったかと思いますが」
「ああ、あったあった。ノベルからあの話を渡された時はテンション上がったなあ。僕も筆が乗ったよ」
「ええ。ナナちゃんと彼がキスする瞬間の作画は、普段の萌先生の作画が100点だとしたら120点、いや200点クラスの最高傑作でした」
「えー本当?照れるなあ」
「それを見て、僕は思ったのです。漫画君は__いえ、漫画萌先生はこういうシチュエーションが好きなのだなと」
「……うん?」
「ですので、漫画君から知らせが来る前は、バレンタイン当日に一口サイズのチョコを買って、君の家に向かおうかなーと、考えて、いました……」
「…………」
「……何か言って下さいよ」
「…………つまり、僕は目金君からチョコレートキスをして貰う機会を逃したって事?」
「……まあ、そうなるのですかね」
(ダンッッッ)
(ビクッ)
「チョコパ……開かなきゃ良かった…………!!!」
「そんな失意のポーズで落ち込まなくても……うわっ、何で泣いているのですか」
「泣くに決まってるだろう!?僕が呑気に『目金君と一緒に食べよー』ってチョコを選んでいる間に、君はそんな愛らしい決意を固めてくれていたなんて。それも僕自身の手でその決意を無碍にしてしまっただなんて……!」
「愛……っ!?いや、僕も迷走に迷走を重ねてその結論に辿り着いたというだけですし、漫画君が落ち込む様なものでは」
「その君が迷走と称するものは僕の事を思って悩んでくれた時間なんだろう?それを無駄にしてしまった何て……。って、あれ?ちょっと待って」
「何ですか漫画君」
「ここに沢山チョコがあるんだから、チョコレートキス、幾らでも出来るよね?」
「……。あー、僕少しお腹の調子が」
「そんな理由じゃ逃してあげないからね!?目金君僕量り売りの豆粒状のチョコとかも買ってるからさあ、これ一粒ずつ食べよう。そしてキスしよう!」
「情緒の欠片も無いじゃないですか!絶対にお断りです!」
「え、ムード作ったらしてくれるの?」
「あ、いえ、その……」
「んっ。目金君好き、大好き。愛してる。君と出会ったあの日から僕は君の虜だ。大人になったら結婚しよう」
「何ですがその雑な口説き文句は。その手のフレーズを取り敢えず並べておけば僕が喜ぶでも思っているのですか?」
「……キス、してくれないのかい?」
「…………一回だけなら」
「目金君!!!」
「ああもうっ。急に!抱き付かないで!下さい!!!」