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    y_r4iu

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    y_r4iu

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    添い寝するランガウェ。
    ランに逆らえないガウェの図が本当に可愛くて愛しいです。

    負け続き 聖杯を求める旅の道中、ガウェインは宿屋のカウンターの前で眉根をきつく寄せていた。
    「どうしてもか?」
    「どうしてももなにも、無いモンは出せねェよ」
    詰め寄るガウェインに、宿屋の主人は眉尻を下げて反論する。曰く、明日はどうもこの街で大規模な祭りがあるらしく、遠方から客が集まっているせいで今晩の空きはたった一室、それもひとつしかベッドがないと。ガウェインは乱雑に後頭部を掻いた。なんせ今日探さねばならない寝床は二人分だ。ガウェインはちらりと斜め後ろ、ここ数日行動を共にしている男──ランスロットに目をやった。
    しくったな。さほど大きくない町だったので油断していた。この町には他に宿屋などありそうにないし、隣町に行こうにももう時間も遅い。そもそも、本当ならもう少し早く到着する予定だったのにこいつが森で気まぐれを起こすから。
    思っていると、男はガウェインの視線に気がついたのか虚空へやっていた視線──ランスロット曰くグエンとかいう妖精らしいが──をこちらへ向け、呑気に微笑を浮かべた。こつこつ、ブーツの裏を鳴らしながらこちらへやって来、ガウェインの横に並び立ち店主へ話しかける。
    「その空き部屋を二人で使うことはできるか?」
    「ああ、そりゃ構わねえけど……」
    店主の返事を聞くなりランスロットは首を縦に降り、「ではそうさせてもらう」となんでもないように頷き携えていた小袋を開いた。金貨を数枚取り出して、あっさり店主に手渡す。突然の勝手にぎょっとガウェインは目を見開いたが、そんな相棒をもろともせず、金貨の代わりに手に入れた部屋の鍵を手のひらにしまい込みながら宿屋の奥の客室へ向かって淀みのない足取りでランスロットはさっさと歩き出してしまった。
    「行くぞ、ガウェイン」進みながら振り返ったランスロットはあの呑気な微笑のまま、まるでガウェインの鈍足を咎めるかのような口調で。名を呼ばれた男は慌てて足を動かした。
    「ちょ、おいランスロット!」
    お前、俺に相談もなしに──そう文句を言おうとして、途中で喉奥に留める。こいつの身勝手は不満だが、落ち着いて考えれば他に宿のあてのない今、この空き部屋に泊まる以外に良い策はなかった。マットレスを探し求めて結局野宿になるよりは多少寝心地が悪くても確実に屋根と壁のある部屋で寝られる方がずっといい。悔しいが、この人懐っこい顔の青年は尽く正しい道を選ぶのだ。
    ガウェインは言葉を溜息に変え、その背中を追いかけた。

    *
    食事を摂り、身体を清め簡単な衣服に着替えると、一日分の疲労を思い出したかのように全身は怠くなった。なんせ今日は数え切れない程の魔物に遭遇した。強さこそさほどでもなかったが、流石に長距離の移動に加えて一日中武器を振るっていたとなると身体への負担が大きい。ぐっと伸びをするガウェインの肩から腰からバキ、と盛大に骨の軋む音がする。
    明日も朝早くに出発だ。本当ならもう横になってしまいたいが、今日はまだあとひとつ問題が残っていた。ガウェインは目の前に置かれたたったひとつのベッドを見やる。即ち、どちらがこいつを使うか。
    ガウェインは目を細め腕を組み、整えられた寝具と金に近い柔らかな茶髪の男を交互に見る。それからランスロット、と彼の名前を呼んだ。
    「ベッド、お前が使えよ。俺は床で寝る」
    言いながら、ガウェインは床に大雑把に置いた荷物に手をかけた。幸いここの宿は清掃も行き届いているし、一枚布を敷けば問題なく寝られそうだ。……本音を言ってしまえば柔らかなマットレスが恋しい。動かしすぎて乳酸の溜まった肩周りやふくらはぎは鈍い痛みとだるさをしきりに訴えている。が、曲がりなりにも俺はあいつの兄貴分だ。こういう場面では若いものに得を譲ってやるのが年長者の嗜みというものだろう。名残惜しく白いシーツに食らいつこうとする視線を無理やり逸らす。

    「え?」
    しかし、ランスロットはガウェインの発言に対してきょとんと、いかにも意外そうな反応を。思いがけない返事にガウェインは一瞬動揺した。そんなに変わったことを言っただろうか。
    一瞬考えてから、ふと思い当たった。……こいつ、ひょっとして俺にベッドを譲る気でいたのか?そう思えばこの不思議そうな顔にも説明がつく。なんだ、我儘なやつかと思っていたが、案外年上を敬う精神は持ち合わせているらしい。相談もなしに部屋を借りられた時は驚いたが、思えばその時からこの男は寝床を譲る心づもりをしていたのかもしれない。健気なところもあるじゃないか。
    得は若輩者に譲るものだが、まあ、当のそいつがどうしてもというなら顔を立てて譲られてやるのもまた年長者の務めというものだ。
    「共に寝ればいいだろう」
    「仕方ねえな、そこまで言うなら俺が…………は?」
    おい、今なんて?すっかりベッドを譲られる気でいたガウェインは聞き違いかと表情を歪める。
    「共に寝ればいいだろうと。詰めれば二人くらい入る」
    「いや、いやいや、お前本気か?子供じゃあるまいし」
    ぎょっとして再度ベッドに目をやるが何度見たって目の前のベッドは一人用だ。そりゃあ詰めに詰めれば入らないこともないだろうが、あくまで「入らないこともない」というだけの話で。大人の、それもある程度縦も横にも幅のある男ふたりが横並びになれば極限まで身を縮めたって肩も足もあちこちぶつかって仕方ないだろう。年端も行かぬ稚児ならいざ知らず、もうとうに成熟した身で他人と密着する距離で眠りにつくのはどう考えたっておかしい。
    そう伝えれば、ランスロットはしかし尚も不思議そうな顔で、「硬い床で寝るよりはずっとましだろう」と。いや、それはそうかもしれないが……。
    「グエンもお前の身体を気遣っているぞ。今日は魔物も多かったからな」
    「隣人を味方につけるのはずるいだろ」
    ランスロットの周りを飛び回っているらしい妖精は9割9分の事象においてこの男の味方だ。ここには2人しかいない筈なのに何故か構図が2対1になっている。おかしい。
    「人肌が苦手か?なら無理強いはしないが」
    「いや、そういう訳じゃねえけど……」
    「なら問題ない」
    ランスロットは口角を持ち上げて、そう。問題ないと言われれば、まあ問題はない、かもしれないが。あれ、そもそも俺は何故共寝に反対していたんだったか。だんだん訳が分からなくなってくる。この一見柔和な顔をした男は、その実彼の意見こそが正しさだと他人に思わせるのが滅法上手いのでタチが悪い。
    「……枕が……」
    どうにかこいつには流されまいと絞り出した言葉はどうにも子供じみていて、言ってから猛烈に後悔した。枕なんて別にどうでもいいだろ。案の定ランスロットはまたあのいっそ神聖にすら感じられる微笑を浮かべ、「ではこの枕はガウェインに譲ろう。俺は適当な荷物にでも頭を預けておく」と。まるで子供扱いだ。年上の威厳なんてあったもんじゃない。最悪だ、と思って、なんだかもうこいつに歯向かう気力がすっかり削がれてしまって、代わりに大きな息だけをひとつ吐いた。

    *
    「……ガウェイン」
    背後から男の声がする。
    結局ガウェインはランスロットの言い分に首を苦い顔で縦に振り、二人は同じベッドで暗闇を過ごしていた。悔しいけれどやはり柔らかなマットレスは寝心地が良い。横向きになり、ランスロットに背を向けているガウェインに対して、向こうは身体をガウェインの方へと向けているのが多少落ち着かなくはあるが。反対側向けばいいだろ、ガウェインは思うが、口に出すほどの文句でもないので黙っている。
    「……なんだよ」
    呼ばれた名に返事をすれば、「まだ起きていたか」とやや喜色を滲ませた声色でランスロットは。夜中に相応しく囁くような、吐息っぽい声が首筋にかかってこそばゆい。お前の声に起こされたんだよ、あともう十秒で眠りに落ちるところだったのに。
    「ガウェイン」
    また名前を呼ばれて、来ている寝着の背中の辺りを引っ張られる。それから「こちらを向いてくれ」と。
    「はあ?なんで」
    「話がしたい」
    こんな時間に話だって?冗談じゃない、俺はもう寝たい。そう思うのに、自分勝手な彼の言葉を、それでもガウェインは頭ごなしに跳ね除けられなかった。
    「……話なら別にこのままでもできるだろ」
    「話は顔と顔を合わせてするものだろう」
    いかにもこの世の理、といった口調でランスロットは言い切る。しばしの沈黙。……こいつはこういう奴だよな、とガウェインは目を瞑り、いっそ呆れ交じりにそう思った。
    「…………ああもう……」
    この男に逆らうよりも、大人しく従ってしまった方が体力を使わずに済む。ガウェインは思って、狭いベッドの上で懸命に身を捩った。身を反転させると男はやはり自分の方を向いて待ち構えていて、それに妙に緊張する。枕にもう一度頭を乗せれば闇の中、焦点の合うぎりぎりの位置に彼の瞳があって、自分たちの近さを自覚して落ち着かない。やっぱりこの距離感はおかしい。そんなことを頭の片隅で。
    「……で、話って?聖杯についてか?」
    「いや、さして大事な話でもない。今日はなかなか眠れなくてな。寝話に付き合ってもらおうと思って」
    再度、沈黙。こいつ、人の眠りを妨げておいて何をいけしゃあしゃあと。「お前なあ、」と流石に文句を言ってやろうと思ったが、目の前の男はまるで無垢な子供の顔をして不思議そうにこちらを見るので、続きの言葉はたち消えた。こいつはこういう奴だよな。ガウェインは目の前の男に対して二度目の感想を抱いた。
    仕方がないのでこの年下の男が気の済むまで付き合ってやろうと、いっそ諦めと自暴自棄の境地でため息をついた。なんせ俺はこいつの兄貴分だ。そう心構えをした途端、突然ランスロットの腕がこちらへ伸びてきたのでガウェインは本能的に身を強ばらせた。ランスロットの手はそのまま耳の横へ降り、洗いたてで柔らかなガウェインの髪に触れる。

    「お前の髪は美しいな」
    一切言い淀む様子もなく、真っ直ぐにランスロットがそんなことを言うのでガウェインは目を見開いた。
    「は?お前……どうした?急に……。言う相手間違えてるだろ」
    ガウェインの言葉に、今まさに彼の髪に触れている青年は「間違えていない」ときっぱり。
    「ずっと思っていたんだ。綺麗な色をしていると」
    俺の故郷にあった草原の色だ。どこか懐かしむように言いながら、微笑みを浮かべてランスロットはガウェインの髪を手で梳く。間違えてるってそういう意味じゃなくて、というかもうそんなことはどうでも良い。なんだ、この状況。人から髪を褒められたことも、ましてこんなふうに丁寧に髪を触られたこともなかったので、いっそ死にたいくらいに照れくさかった。首から頬にかけてが猛烈に熱く、心臓は意思に反してひとりでに走り出す。ほど近い位置にいるせいで、頬に彼の伸ばされた腕の内側が触れていて、それが矢鱈に熱く感じられて駄目だった。
    髪が擦れるちいさな音がして、「柔らかくて手触りがいい」と感触まで褒められれば耐えられない程のいたたまれなさがガウェインを襲う。訳の分からなさに揉まれながら、せめてなにか反抗してやろうと目の前の男を睨みつけた。それを言うならお前の髪だって、湖に反射する朝日みたいで──そう口に出そうとして、ん?と思い直す。いやいや、違う違う。こんなことを言ったって俺が恥ずかしいだけだ。
    その間にもランスロットはガウェインの髪を触り続けていて、覗き込むように目を細められれば、もう本当に落ち着かなくて照れくさくて逃げ出したくて仕方なくなった。クソ、どうして俺ばかりこんな恥を。

    もう寝る、強制的にこの時間を終わらせたくて目を瞑ると、「そうか」とこちらの胸中の嵐など知らんふりの穏やかな口調で返されて余計に苛立った。その上男はガウェインの髪から手を離す様子は一向になく、もうどうしようもなくて癇癪を起こしたくなる。
    「おやすみ」
    暗闇の中で、ランスロットの声が至近距離で聞こえて漸く、ああ目を瞑る前に反対側を向けばよかったと後悔した。
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    y_r4iu

    DONEワンドロお題「煙」
    会社の飲み会に出席する至千
    煙に巻く オフィスのあるビルを出て1つ目の角を左に曲がった通りの、横断歩道に面したところにある派手な看板を掲げたチェーンの居酒屋は、いかにも大衆的で猥雑な雰囲気を醸し出している。店内は今時珍しく全席喫煙可能らしい。辺りを見渡せば客の手にまばらにある数本の筒から煙が上へ立ち上り、天井付近は白い靄がたゆたっていた。雑多な銘柄の混ざりあった煙たちは、お世辞にもいい匂いとは言えない。喫煙とは縁のない人生を歩んできた至には特に。
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