WILDのような世界観映画は人間が狼側に合わせる流れだったけど、これは実弥が玄弥に合わせる流れがいい。
現代学生の玄弥、ひとりっ子でひとり暮らし。両親は健在で普通の家庭。裕福でも貧乏でもない。
玄弥が暮らすのは田舎とも都会とも言えない、どっちつかずのまあまあな街。道路も店もあるけど森みたいな自然もある。
そんな森のような敷地は、いつも玄弥がバイトから帰る道にある。
ある日、天気がいいからって歩きで帰ってたら、ふとその森の近くに真っ白い塊があるのに気付く玄弥。
なんだろう、って目を凝らしたらなんとビックリ、大きな狼ではないですか。玄弥は目が良さそう。
えっ?こんなトコに狼?つかここ日本だけど、野生の狼ってまだいるんだっけ…?
バイトでほどよく疲れた脳みそで考えてみるけど、まぁその狼が白くて白くて凛々しいもんで、考えはまとまらずに終わる。なんせ目がいいので。
ジッ……………とたっぷり目が合って数分。
先に逸らしたのは狼の方で、立ち上がってくるりと森へ帰っていく。
ほぁ………みたいな感じで間抜けな顔の玄弥、とりあえず帰るかってなるけど、頭の中は狼のことでいっぱい。その日も、翌日のバイト帰りまで。
そして翌日、なんとビックリ。同じところに同じ白い塊が。
またジッ………と目が合って、なんとはなしに玄弥はその場に座ってみる。
森は少し地面が下がっていて、玄弥がいる場所は土手のようになってる。座ってもまだ目線は高い。
でも狼もジッと見てくれる。
流石に延々とそこにいるわけにもいかないから、ほどほどに疲れた身体を持ち上げて、ばいばいって手を振ってみる。
そうしたら、狼は森に帰っていった。
なんだかほわほわしてしまった玄弥、ほわほわしたままその日を過ごす。やっぱり頭の中は白い狼でいっぱい。でも翌日はバイトがない。
でも森に来る。学校帰りに。やっぱり白い狼はいる。時間が違うのに。
定位置に座って待ってる狼。ふと、送り狼、なんて言葉を思い出すけど、彼は森の前から動かないので見送り狼だな、なんつって。
かるぅいギャグを挟んだところで、なんとビックリ。狼が近づいてくるではありませんか。
え?俺食われる?なんて思っちゃう。でも熊を前にした時って、下手に動くと逆にマズいって言うし、ヤベェ、動けねぇ。
土手にしゃがんだ玄弥、内心大ピンチ。ひやひやと汗が出る間に、白い狼はゆっくり土手を上がってくる。
よく見たらすげぇデカくね?狼ってあんなデカいもん?俺の頭なんて丸呑み出来ちまうぞ。
のそのそ。上がってきた白い狼はついに玄弥の目の前に。白い毛の中にある黒い縁の紫の目がジッと至近距離で見てくる。
目、めっちゃキレイ。
冷や汗だらだらでも、食われてもいいかもって思っちゃうくらい、その白い狼は美しかったのです。
めでたしではない。
すんすんって玄弥の匂いを嗅いで、首を動かして全身を眺めたあと、また顔をジッと見て。
白い狼は定位置に戻った。
今の時間はなに?
玄弥はマジでそう思った。
食われなかったのはいいけど、今の時間はなんだったんだ?マジで?え?
冷や汗の次は疑問符がぽこぽこ溢れ出てくる。バカみたいに白い狼を見てたら、早く帰れと言わんばかりに、いつも帰る方向に首を振られた。
かしこ〜〜〜ってバカになった頭で思って、緊張でバカになった関節を頑張って動かして立ち上がって、ばいばいって手を振ってみる。
振り返すみたいに尻尾を一往復、振ってくれた。