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    verdure_kayaoi

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    絵であげてた現代版牛鬼くんのお話

    #実玄
    mysteriousProfundity

    社会に溶け込む牛鬼くん 第二話「マジで親子じゃないの? めちゃくちゃソックリだけど」


    そう宣ったのは粂野匡近。実弥の友人、ではなく警察官だ。鉄骨落下事件に駆けつけた警察官。
    いちばん初めの大きな不幸、警察沙汰になるほどの不幸一件目から今まで、110番すると必ず来るのがこの粂野匡近だった。実家にいた頃から。実家から今の実弥の住まいまではさほど距離もないので、もしかしたら管轄が一緒なのかもしれないが、ソレにしたって毎回「またお前かよ」は飽きる。3回くらいで飽きた。
    しかも初対面から「大丈夫?怪我はない?俺の名前は粂野匡近!」といらん自己紹介してきたし、名前をしつこく聞いてきたし、教えたら教えたで初っ端「実弥」と呼び捨てだったので、は?大丈夫かコイツと疑い続けている。容疑者よりコイツ捕まえた方がいいんじゃねえのか。怪しいぞ大分。というわけで、粂野匡近は実弥の友人ではなかった。連絡先は持ってるけど。一応ね。

    謎の鉄骨落下の後、初対面の子供に「はじめまして、兄ちゃん」と挨拶された実弥が「何だソレ」を脳内からシャバへ直送することなくかろうじて「ハジメマシテ」と発せられたのは、賛辞されるべき点だと思う。
    残念ながら、その場に2人の会話を聞けるほどの余裕と興味を持ち合わせてる野次馬はいなかったのだが。
    挨拶を済ませて5分後、野次馬の誰かが呼んだのか駆けつけた警察はパトカー2台分。速すぎだろ交番近かったっけ?出前じゃねえんだから。いそいそと降りてきた警察の中に、まァ案の定粂野がいたわけだ。そんでまたお前か、って顔して寄ってくる。コッチの台詞だが?????
    実弥が青筋をバッキバキにしてる同時刻、被害者にカウントされるであろう不思議少年は、粂野が近寄ってくる気配を察知して。

    あろうことか実弥の足にしがみついた。

    は?????なに。青筋を召喚したまま実弥は困惑した。その状態を粂野が顔が似てるだなんだとヒッかきまわし煽り倒し、冒頭に至るんである。


    「親子なワケねえだろォ」
    「カノジョもいないの?」
    「いねェよ。ンな時間ねェ」
    「まぁそのツラじゃしょうがないな」
    「ア?」


    誰がヤクザだ。キレちゃった。


    「じゃあ隠し子?」
    「子供が出来ねえから俺を引き取ったっつってたぞ」
    「ウーン……じゃ、この子どちら様?」
    「だァら知らねえっつってんだろうがァ」


    ウーン。ぐぐい、と首を捻って考えるが、当然ながら妥当な正解など思い浮かばない。そりゃそうだ。だって当の本人には聞いてないもの。ヨシ、では警察官お得意の聞き込みだ。粂野は少年の前に腰を下ろして目線を合わせた。ビク、と身を震わせてまたちょみっと実弥の足に隠れる。


    「ぼく、お名前言えるかな?」


    ゾ。実弥の背筋に悪寒が走ったことは置いといて、粂野はそれはそれは優しい声で問いかけた。少年はジ、と粂野を見たまま動かない。口は動かないが目も動かない。なまじ眼球がデカいので、そう凝視されると眉間を貫かれそうだ。脱落。


    「えーっと、お名前…わかるかな。お父さんとお母さんになんて呼ばれてる?」
    「……………………」


    沈黙。なァんも進展しない。例えるなら、子役でもない幼児がテレビに出て、インタビュアーにされた「お父さんは優しいですか?」という犬でもワンと答えられそうな質問に、緊張で答えられない、そんな感じだ。
    困り果てた警察官。硬直する身元不明少年。事件の大きさ故に休暇をもらったので早く帰りたい実弥。身の上の事情的に、いちばん判断が早いのは実弥だった。


    「…ボウズ、名前はァ」


    加勢というより早く答えてくれ俺の為に、という気持ちで問うたが、少年は打って変わってサッと粂野から視線を外し、実弥を見上げた。


    「ぎゅうき」


    違うだろ。そう思った。でもはて、何が違うのかさっぱりわからん。名前が?初対面の子供の名前なんぞ知らん。答え方?実弥の質問に普通に答えただけだ。文字の並び?発音?さっぱりすっぱり少しもわからん。


    「ゆうき?」
    「……………」
    「……………ぎ、だろォ」
    「ゆうぎ?」
    「ぎゅ、うき!」
    「ぎゅうき!」


    いい名前だねェ、粂野がありきたりな言葉で褒めそやすが、相変わらず少年は答えない。表情も変わらない。ただジ、と見つめて口をへの字に引き結ぶばっかりだ。最早緊張とかではない。異様だ。ソレなのに、実弥には反応を返すのだから、もっとおかしい。


    「お父さんとお母さんは?」
    「……………」
    「………父ちゃんと母ちゃんはどうしたァ」
    「いない」


    ぷるぷる、首を横に振る。答えに気味の悪さは感じるが、その前になんで俺が通訳みてえになってんだ。よろしく、みてえな目でこっちを見てんじゃねェブチ殺すぞォ。いよいよ警察に言ったらケツをヒッ叩かれて連行されるようなことを思った。


    「いないってどういうこと」
    「反抗期かァ?」
    「こんな小さい子が?」
    「早めに来たかもしんねえだろォ」
    「ンー…おうちの場所はわかる?」
    「家、わかるかァ。自分の」
    「いえもない」


    は?粂野も同じ顔をした。


    「エ、んん……ん?全然わかんないな。どうしよ」
    「警察が一般人に案を求めんな」
    「教師だろ」
    「関係ねえわ。迷子届けとか出てねえんかィ」
    「出てないんだよなあソレが」
    「保護して親が来るのを待ちゃァいいんじゃねえのか」
    「いないって言ってる親を待つ?」
    「子供の言うことを信じてどうすんだよ」
    「他に信じられる情報がないからね」


    いいのか警察がそんなんで。実弥は教師しかやったことがないので、お国のわんこの仕事内容がどんなモンかとんと知らないが、そうじゃねえだろってことだけはわかる。適当過ぎだろ色々と。
    議論が大好きな大人たちがぶちぶちとぼやいてるところに、やっと少年自らアクションを起こした。くいくい、とスラックスを張られて、実弥が先に気付く。


    「あのね」
    「オォ、喋った」
    「喋ってんだろさっきからァ。ちと黙ってろ」
    「アレ、おとしちゃったの、おれのせいなんだよ」


    アレ。アレって、ドレ。少年がちぃっこい指先を向けた先にあるのは、鉄骨。落ちた鉄骨。おとしちゃった。アァ鉄骨をね。は?


    「いやアレは事故だよ」
    「おれがね、はやく兄ちゃんのところにいかなきゃっておもって、いそいだから」
    「待って待って、マジで俺の話聞いてくんない待って実弥」
    「ボウズ、ちょっと待とうなァ」
    「うん」


    素直でよろしい。キュ、と再度口を結んだのを確認して、粂野が息をついた。これは…せっかく話してくれたのに機会を逃したんじゃないのか。調査の時間が伸びそうな予感にジワ、と冷や汗をかいた実弥。一方、まァ実弥がいるし大丈夫だろ、粂野はそんな心境だった。能天気め。人を利用しやがって。


    「鉄骨云々は置いといて、とりあえず」
    「兄ちゃんって呼んでくんだよなァ」
    「ホラやっぱり」
    「隠し子じゃねェ!!!」
    「もォ〜〜デカい声出すなよ急に。じゃあなんで兄ちゃんなんて呼ぶのさ」
    「マジで、わかんねえんだって、言ってんだろォ」
    「ウワ、顔面の治安悪」


    悪くしてんのはテメェだ。
    もうラチが開かねえので、とりあえず少年に喋ってもらうことにした。セイ。


    「はやくっておもったらね」
    「うん」
    「……………」
    「…オゥ」
    「兄ちゃんがちからをかしてくれたんだけど、でもそのせいで風がふいて、アレがおちちゃったの」
    「…オゥ?」


    ンン〜〜〜?マジでなに言ってっかわかんねえな。「ごめんなさい」なんて謝ってるがなに言ってっかわかんねえので許すもクソもない。とりあえず、フードの上からちぃっこい頭を撫でといた。ンデ?少年は実弥を兄ちゃんと呼ぶが、兄ちゃんが力を貸すと風が吹くのか?実弥はそんな特殊能力を手に入れた覚えはない。憧れていた記憶も……ないとはいえない。あるだろ。男の子にはあんだよ。特殊能力に憧れる時期が。


    「その、兄ちゃん、っていうのは」
    「兄ちゃんは俺なんだろォ?」
    「兄ちゃんは、兄ちゃん」


    ゲシュタルトが崩壊する。兄ちゃんってなんだっけ。実弥が勤める学校は私立高校だが、数学の方程式を覚えるよりも、「ぴえん」だの「やばたにえん」だの言葉をどう面白く略すかだのを考えることに精を出している高校生の方がまだ話、いや言葉が通じる。なんせ、向こうは普段宇宙語を話していたとしても、母国語が喋れる。こちらも…母国語のはずだが。日本語って難しい。国語担当を初めて憐れんだ。
    とりあえず、粂野が立ち上がる。実弥は何となく嫌な予感がした。


    「実弥がしばらく保護するってのは」
    「却下」
    「秒」


    寧ろ却下しないと思ったのか。逆に。


    「だって実弥の話しか聞かないしぃ」
    「気色悪ィ話し方すんな」
    「ひっついて離れないよその子」
    「だからって俺が保護ォ?適当過ぎだろ誘拐にカウントされたらどうすんだ」
    「俺が見てんだから誘拐じゃないだろ。はい、住所書いて」
    「しっかり疑ってんじゃねェか」
    「義務だよ義務」
    「本気で言ってんのか」
    「そう言っときゃ大体書くでしょ」
    「ブン殴んぞテメェ」
    「兄ちゃん」


    ハイ。天使の声に大人2人が大人しくなる。大人だけに。大人げねぇ大人を見上げた少年は、なんだかほんのちょびっと、悲しそうな空気を纏っていた。アレ?


    「兄ちゃん、おれがいたらめいわく?」
    「めッ……………………」


    直ぐにそんなわけねェと返せないのが痛い。迷惑かどうか、と聞かれれば、迷惑ではないが困るのだ。色々と。大人の事情ってヤツで。
    ぶわ、と子供、それも幼児の扱いが下手な大人たちは途端に焦った。泣かれたらどうしよう。実弥に任せるしかないな。
    まず、迷惑なんかじゃねェ。そう返事する前に、少年が「わかった」と頷いた。


    「じゃあおれはどっかいくね」


    またね、兄ちゃん。
    さっきまで世界が終わっても離さんとばかりに握り込んでいた実弥のスラックスを、最も簡単にパ、と離し、少年はぺこりときれェなお辞儀をした。
    エ。情報を整理出来ない内に、少年が走り出す。靴音はなく、ただ風を切る勢いだけが伝わる後ろ姿をぼけーっと眺めて「今時の子供は足が速えんだな」と頭蓋骨の外側で思った。

    で、少年が実弥から見て、ゴマくらいになった頃、やっと自我が戻ってくる。この間、僅か1分。


    「実弥」


    クソッッッッッタレ。
    この世でいちばん治安の悪いスタート音で、実弥は駆け出した。




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