唇で描けよくちびる、だなあと思う。実際には乾燥した粘膜なのかも。そんなわけないのかも。思考未満は、シャボン玉ようにぶつかって対消滅した。儚い。
「……なに」
眼前から不機嫌そうな声。睫毛を絡ませるように、私はゆっくりと瞬きをした。今は近づき過ぎて見えないけれど、彼の髪や睫毛はレースのカーテンを透かす朝の陽射しによく似ている。そんなことを打ち明けたことがあった。そしたらビリーは。
「しゃぼん、だま、のことを考えてた」
しばらく酷使されていた舌は、案の定拗音の発語でもつれた。過重労働に対するストライキだろうか。なんてね。とろとろに煮崩れつつある脳味噌は、こういうくだらなくてあり得ないことばかりポップアップさせる。けれど私に火を付けたはずの男は、どうやらそれが気に食わなかったようだ。肩に添えられていた掌が首まで滑り、頸動脈の近くで柔らかく爪が立てられた。
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