並べる手さえも、 さあ、覗いてみよう。
ぱらぱらと散らばっているのは、絵柄の書かれていないミルクパズルのピースたち。大小も様々で凹凸もまるで噛み合わないように見えるそれらは、至るところにあるようでそこが居場所とでも言うような大人しさを見せる欠片もあるようだ。
どれだけの広さがあるのかは分からない。いくつの欠片たちが存在するのかも把握し得ない。それらがいくつ噛み合うのか、並べきれるのか、完成形がどんな形状なのかすら想像がつかない。
目に見える範囲内でも集めて並べようと、健康的で武骨だが丁寧な所作の腕が、褐色でしなやかだが戸惑うように動く腕が、拾っては小さく寄せては離れながら少しずつそれを成型していく。
的確に嵌まっているピースはまばらで、距離感も均一性はなく不恰好だけれど、徐々に寄り集まったそれらは各々の物語の欠片たちだからこそ、その一つ一つが大切で尊きもの。それが、善いものであっても悪いものであっても変わらない。
時折、噛み合わずに取り落とされるピースがある。そのどちらも形を変えず、表を裏に返したり、或いは角度を変えてみながら寄り添える先を探しているようだ。
ともすれば、見知らぬ腕が伸びてきて噛み合わせ方を教えるかのように、間に挟まる別のピースを差し伸べてきたり、組み合わせるものが違うのだと指し示したり、諭すようにただ手を添えて見守っていることもある。
明らかにくっつくことが分かっているピースでも、見ない振りをしてぎゅっと握りしめるのが見てとれた。ひとたび欠片の表面に指を滑らせれば、それが放つ断片的な記憶が浮かび上がる。
思いがけず懐かしくなったのか、振り向きたくなったのか、自戒をするために呼び起こしたのか、よほど大切な思い出なのか。ただ、覗いてみたそれにかぶりを振ったことが見えてしまうと、どれもが違うことは想像に易い。
しなやかな手が少し震えながら両の手で包み込み胸元まで持っていく。しばらくそうしてから、服のポケットにそっとしまいこんだ。仄かに光りが漏れるそれに、手のひらでそっと蓋をする。
かたや小気味のいいパチリ、という嵌め合わせの音が響く。
完成形を思い浮かべながらなのか、組み上げていくことに楽しみを見出だしているのか、信じきって時折噛み合わさるそれに暖かさを感じているのか。即断即決ともいえる行動が垣間見える。
はたまたいくつかを拾い集めては並べ、数多あるパターンの内から絞り込みながら選定して、それでも譲れない形だけはそのままに一番しっくりくる姿で仕立て上げようと試行錯誤する。丁寧な積み重ねが構築していく物ではあるけれど、よくよく見れば杜撰で面白いところもある。
はた、と目が合って手が止まる。
コツン、と合わさるピースを何度かぶつけながらもくっつけて、笑う。心底嬉しそうに、心根を隠し通すように。
完成は、まだまだ遠く。
あちらこちらへ彷徨う腕をひっ掴んで離さないように、離れようにも離してくれない武骨な腕に、広い広い思考と感情の渦のなかに呑まれながらも、二人の物語は紡がれ続けていく。
パズルのピースを並べる手さえも、仕方のないほど不器用で覚束ないままに。