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    『それはサーバーエラーを起こしている』

    前かいたシロアカのアカギさん目線の話。
    救いも何もないその2

    【500 internal server error】 晴れた昼下がりのことだ。夏も終わりに近づいていたが暑苦しい熱気は冷めることを知らず、むせ返るような暑さが続いていた。一見優雅に見える図書館通いも以前から計画していたもので、購入や貸出が厳しい本を事前に把握し、決めておいた本を片っ端から読み漁るだけの、優雅の欠片も無い物だった。春も秋も冬も時間が無く、長い休みのある夏だからこの場所に……否、今も時間があるわけではない。図書館で勉強すると嘘をついてまでこの場所に通い詰めている行為は、常人から見たら異常とすら思われるのだろう。それ程時間も、精神的猶予も欠け落ちていた。それが少しづつ馴染み、習慣にになりかけていた頃の話だろうか。

    「あっ、あれ」

     よく通る、少し訛りの入った声。歳はまだ若いか。この図書館で人が最も来ない、隅の方に席を陣取り本という壁を作ってまで外界を遮断していたというのに、女の声で私の静寂は呆気なく崩れた。流行りの曲を聴いても雑音にしか聞こえないからと、耳栓替わりにしていたイヤホンに音楽を流していなかったのは不運だったかもしれない。
     彼女は話し掛けてはこなかった。やけに当たる視線は私に向けられたものではなく、私の手元にある本だというのは分かりきっていた。とても若者が読む内容ではないと思うが、珍しい本だというのは把握していたし、実際ほぼこの本のためだけにミオへ通っていると言ってもいい位だった。この本にある内容をすべて理解したとき、常世の心理に近づけるのではないかという不思議な確信が在った。
     無視を決め込もうとしたが、少しづつ近づいてくる気配に気付き、諦めた。こいつは何を行っても無駄だ。何も知らずに人のパーソナルゾーンに介入しては荒らす。そういう人間像なのだろうと察しがついた。

    「気が散る」

     私は付けていた音の流れていないイヤホンを取るとゆっくりと女の方に身体を向けた。長い髪に人当たりの良い笑みを湛え、人形のような出で立ちをした、世間体的に【愛らしい】とされているであろう風体の少女。しかし一番目立つのは、その愛らしい見た目の中央付近にアンバランスに輝く、鋭い眼光だった。

    「人の気配があると本が読めない」
    「ごめんなさい、その本を捜していたものだからつい」
    「なら申し訳ないが諦めてくれ、先に読んでいたのは私の方だから」
    「うん、それはそうだから何も言わないわ、ただ……」
    「まだ何か?」

     少女は私を見定めるように全身を見回した。それが心底不愉快だった。世間的に良しとされる人間は何時も、私を見ると全身を舐め回すように見つめては自分勝手で主体的な判断を下す。それから、顔や全身を見つめられるのが嫌いになっていた。不快に思われないように必死に表情に出さないようにしていたが、少しだけ顔が歪む。

    「……その本、面白いよね、何で読もうと思ったの?」

     しかし、少女の口から出た言葉は想定外のものだった。何故私を見て私ではなく本の話をするのだろう、と呆気にとられてしまい、言葉に詰まる。

    「……私は」

     面白い、と聞こえるか聞こえないかわからない程小さな声で呟き、頷いた。この本の良さは事実で、それを否定したくは無かったから、言葉を選ぶようにゆっくりと話す。何一つとして間違いが無いように。

    「世界の始まりを知りたいだけだ」

     揺らぎようのない、ただ一つだけの目的だった。

    「え?あたしも一緒、凄い偶然ね!」
    「そうか、それで?」
    「え、えっと……だから……嬉しいなって」
    「そんなことで君は嬉しいのか」

     世界の始まりなんて答えがあるようで無いものを知りたい人間はごまんと居るのではないのか。何故嬉しいと感じるのか疑問だった。そもそも人と同じ目的だから喜びを感じるというのが良く分からない。同じだったとして、何か協力やメリットに成りうることが存在するのならば別だが。

    「同じこと考えてる人がいたらちょっと嬉しくならない?」
    「喜んで世界の始まりが分かるなら手を叩いて喜んでやってもいいけど」
    「……そこまで言わなくてもいいじゃない」

     頬を膨らまし、誰が見ても不貞腐れている顔をする少女は愛嬌があって、大抵の人間は笑って許してくれるのだろうな、などと下らない想像を浮かべてしまう。

    「友達少なそうね、あなた」
    「友達なんていらないから結構」

     話がずれ、世間話になりそうな所で見切りを付け、本に視線を戻す。

    「あなたみたいな人なんてロクな人生にならないんだからね、ばーか」

     知るか。お前に私の人生の何が分かるんだ。

     心の中でもう何千回目にもなる悪態をつき、今度こそ本に意識を集中させた。

     それで終わると思っていたのに。

     だが実際にはそうはならなかった。次の日もその次の日もその少女……彼女は同じ場所にいた。本は私が持っていたり彼女が持っていたり。その度にお互い恨めしそうに目の前の本を見つめていた。よく考えてみれば同じ本を同じ場所で読んでいるのだから当たり前なのだが。
     私はあまり時間に余裕が無かった。夏が終わる前に読み終わりたかった。いや、一日だって惜しかった。日が長引けば長引く程、図書館で勉強しているのが嘘だとバレてしまうリスクが高まる。彼女の事は何も知らないが、恨めしそうに背中を見つめる鋭い眼光と、こちらを勝ち誇ったように見る殊勝な笑みで、相当な負けず嫌いだというのは察しがついた。彼女に取られまいと早くなる時間に向こうも対抗してくるため、キリがなかった。
     本は八割五分読み終わっていた。もう少しゆっくり読みたいとも感じたが、時間がそれを許してはくれないだろう。そして思い付いたのだ、開館時間に合わせてミオに向かい、そして一日かけて読み切る。幸いなんとかなる文量だろうし、これで彼女との攻防を繰り返さなくていいと考えると、気が楽になった気がした。

     早速次の日、適当な理由を付けて家を飛び出した。日曜日の朝から大した理由もなく早朝から出かける事に両親の怒号が遠くからも聞こえていたが、追いつかれまいと必死に自転車を漕いだ。今日で全部終わるから。お願いだから今日一日だけは許してくれ。自然とハンドルを握る手が堅くなった。

     ……今日で終わるはずだったのに。

    「なんで君がいるんだ」
    「それはこっちの台詞なんだけど」

     同じように考えていたのは私だけでは無かったらしい。毎日くるくる変わる洋服では見つけにくいが、明らかに非合理的で目立つだろう目元が隠れた長髪を見つけてしまい、落胆する。

    「今日で読み終えると思って早朝抜け出してきたのに……最悪」

     結果が被ってしまっても目的が被る事など無いのだろうな、などと月並な事を考えながら、極力彼女と目線を合わせないようにしながら。何を考えているのだろうか、時折口元が緩む。大した理由も無く早朝から来るような奴だ、くだらない事でも考えているのだろうと折をつけて、時計を見ると、開館まであと数分しかなかった。

     今日、もし彼女に取られてしまったら。両親のあの顔は明日なんてないという形相だった。私の本当の目的にも薄々気づき始めているのかもしれない。お前には何も必要無いと本の表紙ごと切り裂くような両親だ、私物ならともかく、あんな貴重な本を目の前で切り裂かれでもしたら恐らく私は正気ではいられない。それ程内容に……あの神話に入れ込んでいるのだから。
     本で頭を殴られる音。頭には見えない程度の血がうっすら滲む。乱雑に扱われたせいで歪む本。そしてズタズタにされる本……嫌な想像ばかりが働いて、額から汗が吹き出した。
     咄嗟に身に着けていた腕時計を注視して思考を逸らそうとする……が大した意味は無く、時の流れをただ長く感じ、重苦しい思いが増すだけだった。
     それを終わらせてくれたのはゆっくりと開く図書館の扉だった。これ以上何も考えないように、何も考えられないように速歩きで歩いた。
     ふと気になり後ろを振り向くと彼女は、何もせず突っ立っていた。そして鞄から手鏡を取ると、何が入っているんだがボールペンや手帳らしきものがズリ落ちた。それを慌てて拾い上げると髪の毛をいじりながら、目的の本とは反対方向の……一般向けの図書コーナーの方に歩いていった。

    「何やってるんだアイツ」

     理由が分からなかったが、とりあえず目的の本を手に入れられて、心底安心した。どうやらあの不吉な想像は、現実にはならないらしい。
     
    「……」

     どうして、あんなことをしたんだ?

     彼女にとっても今日が最後の日になるのは、知っていたはずなのに。
     気まぐれで話の方向がいつもバラバラな彼女だったが、本に関してはそんな事をするとは思えなかった。一週間、話を聞いていなかったフリをして聞いていたから、彼女の行動は少しだが読める。間違い無い。気まぐれなんかじゃない。譲られたんだ。

     今までに感じたことない胸の高鳴り。心臓の奥のほうが熱く、締め付けられるような感覚。生暖かい気色悪さと、それを望む奇妙な心地良さが共存している。
     世間一般的には感謝に形容される類の物か。他の何かであるならば、何と形容するのが正しいのだろうか。もし形容出来たとして、証明は存在するのだろうか。不可能なのは誰よりも分かっているつもりだ。人間はいつも不確かなものに縋り、不確かなものに殺される下等生物なのだから。

     出来るだけ考えないようにし、いつもの場所で本を開く。だが先程の出来事を引きずっているのか内容は全然入ってこなかった。

    「どうしてあの女は」

     どうしてここまで私を苦しめるのだろう。揺さぶられるのだろう。彼女といると今までの正しさを、日常を真っ向から否定され、全く新しい日常に連れていかれる。このままずっと側にいられたら、きっと狂ってしまう。人生で積み重ねてきたものの全てを、普遍的な無価値な、平凡へと書き換えられてしまいそうになる。
     平凡な日常の話など、ましてや他人の話など興味の欠片も無いのに、彼女の話は聞いてしまう。彼女の話し方が、雰囲気がそうさせているのか。私がおかしくなってしまったのか。どちらにしろ普通の人間が大嫌いな私が普通の人間に成り下がってしまったら何も残らないし、今以上に不幸になることなど予想がつくというのに。

    「……もう限界だ」

     本を閉じゆっくり席から立ち上がると、今来た道を戻るようにして歩き出す。しばらくすると、ジッと本を見つめ真剣に悩む彼女の姿が見えた。

    「……ありがとう」

     痛くない程度に肩を叩くと、人並みの感謝の言葉を告げる。感情されると思っていなかったのか彼女は目を丸くしていた。

    「本、譲ってくれたんだろ」
    「ううん、今日はその本読む気分になれなかったの」
    「そんな訳無いだろう、来たときは読む気満々に見えたが」
    「じゃあ訂正するね、今は読む気分じゃないの」
    「……変な奴」

     読む気分じゃないのではなく、私に読ませようとしたのだろう、という言葉を飲み込み、言葉を続ける。

    「どうして譲ったりなんてした」
    「どうしてって、あたしがしたいからに決まってるでしょ」
    「下手な同情なんていらないんだが」
    「……そんなのじゃないわ、したくなったからしただけ、それだけよ」

     強情なやつだ、嘘を貫き通すつもりらしい。私にはその理由がわからず、そうか、とだけ告げた。申し訳なさそうに深々とお辞儀をすると、あとは何も言わずその場を立ち去った。

               ◆

     ……夢を、見ていた気がする。
     
     具体的にどんな夢だったか、何をしていたのかは思い出せない。冷や汗をかいているので嫌な内容なのだろうか。頭がスッキリしているから良い内容だったのだろうか。何も思い出せないのに頭がぐちゃぐちゃで、どうも出来なかった。
     昨日の女もそうだった。
     話しているだけで感情が掻き乱させるような不愉快な存在。嫌いとかではない。話し方が、雰囲気がそうさせているのだ。何もかもを光に引き摺り込んで、有無を言わずに幸せに持っていこうとする。天使の様相をした悪魔と呼べばいいか、女神の外見の戦乙女と言えばいいか。美しい外面と、生々しい中身が完璧な調和を持ってして具現化している。そんな存在。
     恐らく女のことを悪魔などと呼ぶのは私位のことなのだろう。世間一般的には私がエラーを吐き出す化け物のように捉えられている。
     本当の化け物は、何もかもを美しいものに同一化してしまう女の方であることを、誰も理解はしない。知ろうともしない。

     「大丈夫、いつか理解される日が来る」

     唾を強めに呑み込む。夢の内容も、何処かに残っている不安も恐怖も記憶も全て飲み下せるように。



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    「あっ、あれ」

     よく通る、少し訛りの入った声。歳はまだ若いか。この図書館で人が最も来ない、隅の方に席を陣取り本という壁を作ってまで外界を遮断していたというのに、女の声で私の静寂は呆気なく崩れた。流行りの曲を聴いても雑音にしか聞こえないからと、耳栓替わりにしていたイヤホンに音楽を流していなかったのは不運だったかもしれない。
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