星の数あるひとつの話 caseイベジトナ昔々、三人の愚か者が使命も果たさず、来る日も来る日も悪さばかりで遊び呆けていた頃。
ある日、愚か者の一人が「光の生物を食たい」と言い出した。
二人は躊躇いつつもその言葉に賛同し、まずは草原にいる蝶を食べることにした。
蝶は簡単に捕まえることができた。
それぞれ翅を摘み「せーの」という掛け声で、蝶を口に放り込む。
ひとりは、口に放るフリをして、そっと蝶を逃した。
ひとりは、蝶を丸呑みすると、次第に体が粒子化し、粒子が光の蝶へと変化。草原の空へと舞っていった。
ひとりは、味をしっかりと確かめるように咀嚼し、飲み下した頃には、その容姿は化け物へと変化していた。
化け物の姿へと成り果てた愚か者を見て、心優しい優しき愚か者は恐れ慄きその場から逃げ出した。
ひとり取り残された化け物は、行き交うかつて同じであった者たちからも怖がられた。
化け物として追われ、身を隠すように雨林へと向かう。
化け物は星の子に戻る方法を探した。遺跡や神殿を巡り、書庫から盗んだ文献を漁るも、それらしい記述は存在しなかった。
さまざまな魔法を試しもしたが、一向に戻る兆候はない。
どれほど年月が経っただろうか。
愚かなる化け物はいつしか戻ることを諦め、死に方を探していた。
首を切り落としても、串刺しにされようとも死ぬことが許されない身体。
最後の手段として化け物は、重い足取りで天空を目指す。
こんな化け物でも、エアバードに頼めば死なせてくれるかもしれない。
そんな淡い期待を抱いて……。
天空で愚かな化け物を待っていたのは一匹の蝶だった。
言葉ともとれぬ小さな音が頭の中に響く。
「こんにちは、愚かな星の子。キミから受けた苦痛は24回。キミが人の姿に戻れるのは24回目の転生後。
人に戻れたその時、キミの命は燃え尽きるだろう」
24回。それは蝶を咀嚼した数。
そう、愚かな化け物は光の生物から報いを受けていたのだ。
あれから、17回の転生を繰り返した。
もうほとんど戻れたが、よくよく見れば手足などヒトでない部分が目立つ。
長年、地道に作っていた幻惑の薬がようやく完成した。これで小さいが星の子の姿になれるようになった。
星の子として見られるのなら、わざわざ転生して嫌味な蝶に会う必要もない。
雨林の晴れ間のエリアの小さな洞穴の中、少女は小さくほくそ笑んでいた。