賢者と呼ばれる女が居た。
異世界から来たというその女は誰にでも平等で、真っ当そのものを絵に描いたような人間だった。だが、賢者というたいそうな肩書を持っているにも関わらず、女の背はいつもほんの少し猫のように曲がっていて、自信のなさが滲み出ていた。
「しっかりしろ、お前はどっしり構えていればいい」
真紅の瞳をした少年がそう声をかけると、賢者は僅かに目を見開く。そして気恥ずかしそうにしながら、ぴんと背筋を伸ばすのだ。
しかし残念な事に、翌日になるとまたもやその背は曲がっていて、いつまで経ってもまっすぐに立てない賢者の様子は、長年連れ添った見眼麗しい幼馴染と重なり、シノはどうにも放っておけなかった。
きっかけなど、とうに忘れてしまった。ただ目まぐるしく過ぎていく日々の中で、言葉を重ね触れあっていくうちに、ひとつ、またひとつと彼女自身の持つ魅力に気付き始めた。
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