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    新島颯太

    しんじまそうたー!

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    新島颯太

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    誉チームの話

    真正とある日、おれ達はいつも通りのメンバーでリーグマッチに参加していた。

    勝率はそこまで悪くは無く、負けてしまう事も多少はあったが何試合も何試合も、おれ達は誰しもが夢中になれる試合をしていた。


    ミツキ「い〜やぁ〜!!今の試合惜しかったな!?なぁ?!?!」
    誉「…そう…だね。……もしあそこでおれがデスしてなかったら…勝ててたかも、ごめん。」

    おれがそう言うと、後ろから高身長の帽子を被った男が勢いよくおれの背中をバシッと叩きペットボトルの水を手渡してくれた。

    誉「いっっッたあ!!??…なにすんだよ……ってチアキ…」

    そこに立っていたのはおれの初めての友人、チアキであった。彼はミツキの弟で常にぼーっとしている。おれはそんなチアキがなんだか放っておけない。
    そんなチアキはおれに向かって優しく声をかけてくれた。

    チアキ「…おつかれさん。…みんなよく頑張ったな、えらいぞ」
    ミツキ「あ〜っ!チアキ!!どこ行ってたんだよぉ、探したんだぞ〜!?まぁた迷子か〜?!このこの〜〜〜!」

    チアキが来て嬉しそうにしたミツキはチアキと肩を組み、チアキの頭をわしゃわしゃと撫でくりまわしていた。おれはそんな光景を微笑ましく見ていた。
    すると遠くからおれ達の名前を呼ぶ、小さくて幼い少年がこちらに走ってくるのが見えた。


    誉「……ん、てんぺすとくんかな」


    てんぺすと「みんなー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

    こちらへと向かってきた少年は、笑顔で手を振りおれ達に向かって飛びつきかかってきた。受け止めようとしたおれ達は、てんぺすとくんを受け止めると同時にその勢いで派手に後ろへと転んでしまった。


    ミツキ「ッいってぇ〜〜〜!!!!!!!って、誰かと思えばてんちゃんじゃ〜ん!!!!」
    チアキ「……………てんぺすとくんだ」
    誉「…い、痛い…………」
    てんぺすと「えへへ!えへへ!!!みんながここにいたからね、ぼくね!嬉しくてつい走ってきちゃった!!!!!えへ、えへ!あ!あとね!さっきの試合おしかったね!!あとちょっとだった!!!!!でもね!みんな!みんなすごかった!」

    てんぺすとくんは嬉しそうに、さっきの出来事を笑顔でおれ達に話してくれた。その姿におれ達は癒され微笑ましくなっていた。

    〜〜〜

    おれ達は休憩がてらにお昼ご飯をみんなで食べる事にした。お昼ご飯はいつもチアキがお弁当を作ってきてくれている。それをブルーシートを地べたへと敷き、チームメンバーのみんなと食べるのがおれ達の日課だ。
    しばらくすると、ミツキは何か思い出したかのようにチアキが作ってくれたおにぎりを頬張りつつ、てんぺすとに問いかけた。

    ミツキ「…あ、そういえばさ〜!てんちゃん、この前おれがてんちゃんの名前呼んだ時にいつもなら笑顔で返事してくれるのにこの前は不思議そうな顔してしばらく固まってたじゃ〜ん?あれどうひはの?なんかあった?」

    てんぺすとは口いっぱいに頬張っていたおにぎりを一生懸命噛んで飲み込み、笑顔でミツキの問いに答えた。

    てんぺすと「んえ?このまえ?あ!あのね!ぼくの名前っててんぺすとなの!でもね!ミツキくんに『 てんちゃん』ってよばれたらね、なんだかね、すごく懐かしいきもちになったの!でね、さいきん思ったのがね!」



    てんぺすと「ぼくのほんとうのなまえ、てんぺすとじゃないのかも!」



    てんぺすとは純粋無垢な笑顔でチアキの握ったおにぎりを頬張りそう言った。てんぺすとが兄を探しバンカラ街まで来た事を知っていた3人は、不意にそう言われ何も言えず固まっていた。
    その3人の様子を見たてんぺすとは、不思議そうに首を傾げていた。


    てんぺすと「?どうしたの?だいじょうぶ?ごはんいる?」

    てんぺすとは一人一人に可愛く焼けたタコさんウインナーを食べさせてくれた。そしてまたニコッと微笑み嬉しそうにしていた。ミツキは一瞬顔を歪めたが、また気を取り直しいつも通りの笑顔に戻り、てんぺすとの頭をわしゃわしゃと撫で回した。

    てんぺすと「わ!わ!?」
    ミツキ「んなぁ〜!!かわいいなあてんちゃんは〜〜そうか!なるほどな〜〜そんじゃま!てんちゃんがそう思うならきっとそうだな!てんちゃんがまたしっくりくる名前思い出したらその名前で呼んでやるからさ!そん時は教えてよ!てんちゃん〜!!」
    チアキ「…僕も呼ぶよ。その時は教えてね、てんぺすとくん。」
    誉「…おれにも教えてくれたら嬉しいな。…その時は、その名前…大事にしよう。おれ達も大事にするから」

    3人はてんぺすとに優しく言葉をかけた。てんぺすとはまた嬉しそうにニコッと笑い、3人に向かってこう言った。



    てんぺすと「…!えへへ!

    ………みんな、ありがとう!」


    〜〜〜

    みんなでお昼ご飯を食べた後、おれ達はもう少しだけリーグマッチに潜る事にした。
    さっきの試合では残念ながら負けてしまったため、みんな気合いが入っている様子だった。

    ミツキ「よ〜ッし、お前ら!!!勝つぞ!!!」

    ミツキの掛け声と同時におれ達は武器を構えた。
    おれは武器を構えたその瞬間、少しだけ身体が重くなったような気がした。

    誉「………ッ……?」

    おれは周りのみんなを見るも、みんなは至って普通のようだった。おれは気のせいかと思い、特に気にする事なくもう一度スピナーを強く握り、手前へと構えた。



    スタートの合図と共に皆は一斉に飛び出した。現在のルールはガチヤグラでステージはスメーシーワールドだ。スメーシーワールドは裏抜けがされやすい為、護衛武器のおれが周りを見つつヤグラへと乗らなくてはいけない。
    ミツキが左側全線、チアキが右側全線、てんぺすとくんがヤグラを見つつ相手をヤグラに近付けさせないよう前線に立っていた。
    ミツキはダイナモローラーで広範囲な攻撃を繰り返し、相手は前へと出られない様子だった。

    ミツキ「いいぞ!!!その調子で第2関門突破だ〜〜〜〜ッ!!!!」
    誉「右側スペ持ちハイドラいるよ!チアキ!」
    チアキ「……まかせろ」

    角に隠れていたハイドラを綺麗な曲射でチアキはキルをした。相手の護衛武器は第2関門突破と同時にリスポーンした。これなら護衛武器の到着はもう少しかかる。
    この調子なら…この調子なら勝てる……!


    おれ達は、そう思っていた。


    第3関門を目前に、右側全線に立っていたチアキが目に見えぬ早さで溶けた。

    誉「!?チアキ!?」
    ミツキ「おぉ〜い!何してんだぁ〜よ〜!?相手イカニン持ちか〜?!どこだ?どこにいる!?このままじゃ第3関門突破は厳し〜ぞ!」

    おれはマップを開き、相手のギアパワーを確認した。相手にイカニン持ちなんて居なかった。

    誉「…いや、イカニン持ちなんて居ない…!…だって右側はハイドラが居て…その他に芋ってたのか…?分からない、チアキ!何があった?!」

    キルされ、リス地に膝を着いて立っていたチアキに声をかけるも応答はなかった。おれは何か様子がおかしいと思い胸を張り大きな声でチアキの名前を呼んだ。

    誉「チアキ!!!!!!!!!!」

    するとチアキはハッと気を取り戻し、元の位置まで戻ってきてくれた。

    誉「…大丈夫か、誰にやられた?」

    チアキ「…分からない。ハイドラをやって後ろに振り向こうとしたらやられた。いつもなら誰にやられたか分かるのにそのままリス地に送られた。…もしかしたら相手側、誰かラグいのかもしれないね」
    誉「…ラグい…?誰だ…?」

    おれはチアキにそう言われ相手側にラグそうな人物を探した。相手側の動きを見たが特にそういった特徴は無かった。おれ達は体制を整え、第3関門突破にもう一度挑もうとおれはヤグラへと足をかけたその時だった。

    目に見えぬ速さでおれの身体は溶けた。


    誉「ッ…えッ……」

    てんぺすと「!!誉くんがやられた!!!」
    ミツキ「んがぁ〜!?裏抜けか〜?!ちゃんと見てたんだけどな!?おれが見落としてたか!?」

    チアキ「……いや違う、…確実に…誰かがこの試合を妨害しに来てる」

    ミツキ「はァ!?何いってんだぁ〜よ〜!?だって相手側にそんな奴いな…」

    ミツキがよそ見していたその瞬間、前線に立っていたミツキ、てんぺすとくん、チアキの3人がブラスターにキルされたような音と共に身体が溶けきっていた。

    ミツキ「………は、…あ?」
    てんぺすと「………?」
    チアキ「…………」

    誉「……やっぱり…何かがおかしい」

    おれ達はその違和感を確信し、痛快心は警戒心へと変わっていた。

    おれ達はリス地から相手側の様子を見た。相手はおれ達がデスをした為ヤグラへと向かっている様子だった。おれ達はしばらくその様子を見ていたその時だった。相手がヤグラに乗ろうとしたその瞬間、相手の身体はインクと共に溶け、回線落ちしたような状態へとなった。

    誉「…どうなってるんだ…?」
    ミツキ「リス地から動いてないのに勝手に死んでる…?…のか…?時間差でおれ達がキルした判定になってるだけなのか…?」

    おれ達は動揺していたが、チアキは軽く溜息をついた。

    チアキ「………、違う。味方に殺されてる。」

    ミツキ「…は、はぁ…?どういうことだよ……?」

    チアキはそう言うとリス地からスっと立ち上がり、担いでいたダイナモを見えているかも分からない相手にチアキは静かに話しかけた。


    チアキ「……もう回線は落ちきっているんでしょ、相手は君しかいない。…そろそろ出ておいでよ」

    チアキがそう言うと、次の瞬間中心にあるヤグラの前に誰かが立っていた。その子はガスマスクを付けていて顔はあまりよく見えなかった。
    おれ達がしばらくその子の事をじっと見ていると、その子はガスマスクをスっと取り外しこちらを不気味な笑顔で見ていた。段々とその子は近づいてき、ゆっくりと口を開き始めた。


    ラグ「……僕の名前はラグ。…全員の回線を落とそうと思ったけど…そうにはいかなかった、……違和感に最初に気づいたの、君…凄いね」

    ラグと名乗る少年は手始めと言わんばかりにおれのことを褒めてきた。今更なんなのだろうか。おれ達はラグの目的が分からずただただ困惑していた。

    おれ達が困惑している中、ラグと名乗る少年はてんぺすとくんの存在に気付き、てんぺすとくんを指指した。

    ラグ「…あ、見つけた。…君だよ、僕が探してたのは」

    てんぺすと「…?」

    てんぺすとは状況が理解出来ずただただ困惑していた。そんな状況にも関わらずラグは淡々と喋り始めた。

    ラグ「君の名前…というか、正確には"ダスト"が付けた名前だっけ?てんぺすとくん。どう?覚えてる?」

    てんぺすと「…?…な、なんのこと…?」

    ラグ「…やっぱり覚えてないか、まぁ覚えてないのも無理は無いよね。あんな実験されたんだもん。
    …じゃあ改めて君の名前を紹介するね。

    テン・エイデンくん。君の本当の名前だよ
    名付け親は君のお兄さんシル・エイデンさん。ここまで言ったらもう分かるでしょ?」


    皆は困惑していた。目の前で淡々と話すラグについていけてなかった。てんぺすとくんは酷く困惑していて、バケツを握る手が若干震えているようにも見えた。

    てんぺすと「……お兄ちゃんの事…知ってるの…?」

    ラグ「もちろん知ってるよ。どこで何してるのかもね」

    てんぺすとはピクっと反応し、息を飲んだ。
    ラグをじっと見つめたまま、てんぺすとはそのままラグに問いかけた。

    てんぺすと「……っ、…お、お兄ちゃんは……今どこにいるの…?ほ、ほんとうに…いるんだよね…?」

    ラグ「…………」

    ラグはてんぺすとからの問いかけを聞き、ゆっくりと口を開いた。



    ラグ「君のお兄さんは今も生きているよ。そしてとある男性に恋をし、その男性と結婚した。今もずっと幸せそうだよ。…今も昔も」

    その言葉を聞き、てんぺすとはほっと安心したような表情をした。



    ラグ「……ただ」





    ラグ「…ただ、……実の弟である君の事は、残念ながら覚えていないよ」



    ラグがそう言った瞬間、ミツキがバッと飛び出しダイナモを振りかざした。ラグはミツキの振りかざしたダイナモが直撃するも、デスする様子は無かった。

    ラグ「…これだから気の短い奴は嫌いなんだよ」

    ミツキ「余計なデタラメ言うんじゃねぇよ」

    ラグ「…デタラメなんかじゃないさ。…それに僕は君達の味方だよ。…なんせ、僕もあの事件の被害者だしね」


    ミツキは足を止め、おれ達はただただラグの話を聞く事しか出来なかった。



    ラグ「……シル・エイデンさん。てんぺすとくんのお兄さんであり3年前の事件の被害者の一人。
    彼は物静かな性格であり、そこまで他人に興味が無い性格だった。…そんな彼がとある男性に恋をした。名はバーナード・エリソンさん。
    2人は互いの事を想いあっていた。
    …とある日、バーナードさんは彼に愛の告白をした。彼は戸惑うもとてつもない幸せを感じていた。だが彼は返事をするのに少し待って欲しいと答えた。
    なぜなら彼は、せっかくならばと少しロマンチックな方法で初のお付き合いをしたかったから。
    彼の初恋の相手とお付き合い出来るのだから。そう思い、数日後の休日にバーナードさんをレストランへ招待し、帰りに公園の噴水前で返事を返そうと思っていた。

    だけどそんな事、考えても無意味な事だった。

    次の日の夜、彼はてんぺすとくんと手を繋ぎ、夕食の買い出しへと外出していた。その日は日が降りるのが早く、街灯の灯りを頼りに歩く事しか出来なかった。そんな暗い夜道をてんぺすとくんは怖がった。すると彼は「大丈夫だからね」と優しく声を掛け、てんぺすとくんを安心させた。てんぺすとくんと彼はぎゅっと互いの手を握り、いつものお家へと帰る。

    ……はずだった。


    ふと彼は後ろから視線を感じた。彼はあえて後ろを向かず、少し早歩きをしさっさと家の方向へと向かっていた。…が、彼はふと足を止めた。
    目の前に誰かが立っている気がする。彼は視力が悪く、誰が、何が立っているのか、はたまた彼の気の所為なのかも分からずに彼は足を止めていた。
    彼は不安な気持ちでいっぱいになっていた。助けて欲しい。誰か、誰か助けて。分からない、どうしたらいいのかも、分からない。


    「助けて、バーナードさん」


    彼は最後にそう思い、想いを告げるはずだったバーナードさんの前から姿を消した。」

    ラグはふと息を着き、全て話し終えた様子であった。ラグの話す内容を聞いていたおれ達は、何も口にする事が出来なかった。

    実の弟であるてんぺすとはただただ困惑していた。約数年ずっとずっと想い、探し続けてきた兄は自分の事なんて記憶が無いのだから。それに伴い、自分以外のその他の記憶すら残っていないのだから。てんぺすとは途端に震えその場で泣き出した。どうしても兄だけでもと助けたはずが既に助かっていなかった。助ける事が出来なかった。そんな悔しさからてんぺすとは何も言えず、ただただ泣く事しか出来なかった。
    そんな様子を見たラグはゆっくりとてんぺすとの方へと近づき、ゆっくりとてんぺすとの前で足を止め口を開いた。




    ラグ「……それでも君は、…お兄さんを探し続けるの?」


    てんぺすとは何も言えなかった。


    ラグ「……可哀想だね。」

    ラグはそういい、てんぺすとに向かってブラスターを向け、哀れむような目でてんぺすとを見下し、軽く息を吐くように言葉を口にした。



    ラグ「…でももう、辛い思いなんてしなくていいんだよ」

    誉「やめろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

    ラグはそう言い、ブラスターの引き金を引きかけたその時だった。






    「やめなさい!!!!!!」







    大きな声が、観客席からステージ全体に響き渡った。てんぺすとくんはハッとし、観客席の方へと顔を向けた。

    てんぺすとくんの視線の先には綺麗な紫ゲソの、グラサンをかけた美人な男性が立っていた。男性は息を荒くし、ラグを睨むような目で見ていた。
    ラグは口角を上げ嬉しそうに笑っていた。




    ラグ「………やっぱり、1度離れても…血の繋がった兄弟なのは変わらないんだね」


    てんぺすと「お、おにいちゃ……っ……!!!!!」

    てんぺすとくんは観客席にいる男性へ何かを伝えようと必死に叫んだが、試合は3分を切り無効試合となった。おれ達は強制的にロビーへと戻されたのであった。

    〜〜〜


    ロビーへと強制的に戻されたおれ達は、片隅にあるベンチに座って泣いているてんぺすとくんを見る事しか出来なかった。おれ達はせめてもと、てんぺすとくんの背中を摩るなり3人でてんぺすとくんを優しく抱きしめた。てんぺすとくんは震えながらもおれ達の事を抱き締め返してくれた。





    その日の夜、てんぺすとくんは泣き疲れたのか、いつもより早めに就寝した。てんぺすとくんの声を聞いた後、おれ達3人は風呂を済ませリビングへと集まっていた。

    誉「…………」
    ミツキ「…………」
    チアキ「…………」

    誰1人喋る事なくしばらくの沈黙が続いたが、おれは思っていた事を口にした。

    誉「……まさか、……てんぺすとくんのお兄さんが記憶無いだなんて」
    ミツキ「…………」
    チアキ「……………」

    てんぺすとくんの状況を深く知らないおれ達でさえ、言葉を口に出来なかった。それなら……本人であるてんぺすとくんはどれほど辛かったのだろうか。離れ離れになってから長い期間探し続け、やっと会えると思ったお兄ちゃんは記憶を無くしている。そんな状況に置かれたてんぺすとくんは心に深く傷を負うだろうな。…そう考えながら、俺は唇をぎゅっと噛みしめた。
    そして、おれ達は深く決心した。


    誉「おれ達もてんぺすとくんのお兄さんの姿を見たんだ。……おれ達に出来ることはあるはず」
    ミツキ「……だな」
    チアキ「てんぺすとくんは一人で戦っているわけじゃない、僕達もいるからね。」






    「……探そう、てんぺすとくんのお兄さんを。」




    〜〜〜




    一方、ラグは味方や相手の回線を強制的に切った後、薄暗い廃墟地へと向かっていた。
    外は暗く周りには大木やもう使われていないであろう車やゴミ等が散乱していた。
    ラグは歩きにくい地面をさっさと歩き廃墟の中へと入ると、そこには白衣を着た妙な男が立っていた。ラグは呆れ混じりのため息を付き、その男の元へと歩いた。

    ラグ「……またやったの」

    その男は話しかけられても尚、喋る様子は無かった。ラグは手馴れた手つきで男の腕や首に包帯を巻き、妙な男を治療しつつ話し続けた。

    ラグ「…今日さ、キミが言ってたエイデン兄弟と会ってきたよ」

    その言葉を聞いた男はピクッと反応し、嬉しそうに口角を上げ口を開いた。

    ダスト「…………ほう…?詳しく」

    ラグ「……弟の方はインク混合症が治まりつつあった。ずっと環境が良かったのか凄く元気そうだった。……そして兄であるシル・エイデンも…同じくとても幸せそうだった。記憶を無くしてたとは言え結婚までしてさ。2人とも元気そうだったよ」

    ダスト「…………」

    その情報を聞いたダストは、どこかしら気に食わなさそうな顔をしていた。ラグは自分の思い通りになっていない事に機嫌を損ねているんだろうと察していた。

    ラグ「それでさ、僕考えたんだけど」






    ラグ「…兄弟2人、いっその事このまま会わせてあげて、…幸せに暮らせる環境にしてあげたら、…ダメなのかなって」





    そう言った瞬間、ダストはラグの頭を掴み壁へと勢いよく押さえつけた。


    ラグ「……………」

    ダスト「………私に逆らうつもりなのか?」

    ラグ「別に逆らうつもりは無いよ。…ただもうあの二人は実験体としての役目は果たしてる。今更あの二人のインク採取は難しいと思ったからだよ、シル・エイデンに関しては婚約もしているみたいだしキミ1人じゃ到底敵わない相手になると思う。そこで命を落とすより、より簡単な実験体を見つけて小さな進捗で徐々に研究を進めた方がいいんじゃないかな。」

    ダスト「………」

    ラグ「………頭、離して」

    ラグは冷静にそう言い、ダストの目をしっかりと見ていた。ダストはスっとラグの頭を手離し、乱れた白衣をきっちりと整え、こう言った。

    ダスト「……私に逆らうなど有るまじき行為だ。私はキミの全てを握っている、キミは私の物語の主人公なのだからね、あの中で唯一私に手を貸してくれた者だ、居なくなってしまうのは少々勿体ない。
    ……この物語の最後まで、一緒に着いてきてくれるだろう?…ラグ」

    ダストはラグの目をじっと見つめ、両手をぎゅっと握りそう伝えた。
    一方で、ラグもダストの目をじっと見つめ、両手を優しく握り返し、ダストの言葉に返事をした。



    ラグ「……もちろん。最後まで、いるよ」


    そう言ったラグの目は、何か諦めている様子でもあった。

    ラグの言葉を聞いたダストはもう一度ニッコリと笑いラグを優しく抱きしめた。
    そして、突然何かを思い出したかのように机の上に置いてあるパソコンに向かい早口で話し始めた。

    ダスト「…そうだ、キミに1つ報告があってね。」

    ラグ「…ん、なに」


    ダスト「今度のインク採取について目的人物が決まったのさ。今夜、計画を実行しようと思ってね。」

    ダストはニコニコとしており、若干興奮気味にも見えた。ラグはまたかとため息を付きダストの話を聞いていた。

    ラグ「…それで?今回の目的は?」

    ダスト「今回採取するインクは自らの思いで自身のインクを自由に変えられるという不思議なインクさ!!!どうだい?実に面白いだろう!!これがある事で母のインクが元に戻り母の思うようなインクになれるのさ!!あんな汚らしいインクとおさらば出来る!!どうだい!?興味深くは無いかい!?ラグくん!!!」

    ラグはダストの話を無言で聞いていた。何故か、と言うと実在しない母の事を話しているからだ。
    彼はきっと幻覚を見ているのであろう、1度救えなかった母の幻覚を。ラグは少し寂しげな表情をし、俯きつつ言葉を口にした。

    ラグ「……そうだね、…で?そのインクを持ってる人達はもう特定してるの?」

    ラグからの質問にダストは両手を広げ心から嬉しそうに答えていた。

    ダスト「もちろんさ!!!…このインクの持ち主は、海女美術大学の学生である18歳の少年、伏見家の弟である伏見ネオンと、…この家系ではあるが何故か血の繋がった兄弟とされていない25歳の伏見狐と言う男さ」

    ラグ「…へぇ、……血の繋がった兄弟とされていない…ね」

    ダスト「…ただ、今回の目的人物は厄介な事に血の繋がった兄弟とされていない兄の方の伏見狐でね。……彼は残念ながらどこにいるかこの期間で突き止められる事が出来なかった。毎日探し回り色々なものを見てきたが…彼の手掛かりになるようなものは無かった。
    ……が!1つ、伏見狐を誘き出す方法があるのさ」

    ラグは首を傾げ、ダストの目をじっと見つめた。


    ダスト「…弟である伏見ネオンを人質にするのさ。彼はとにかく気分屋で自由な人間だが…どうやら弟の事は大事に思っているようでね。……そんな彼の事だ。大事な弟が頼りにしてくれるのなら誘き出す事なんて余裕な事だろう?」

    ダストの作戦を聞いたラグは、1つ疑問に思っていた。

    ラグ「……そこまでリスクのある事するの?……伏見家なら弟の方じゃダメなの?……仮に人質にしたとして兄の伏見狐が来なかったら?」

    ダスト「……伏見ネオンは残念ながら未まだ自身の思いでインクを変えれた事が無いのさ。今後開化するかもだけどね。そんな結果の無い実験体より先に結果が出ている実験体の方がいいだろう?…それに彼の事だ。きっと来るさ。」

    ダストは1つの紙切れを握りしめ、ラグと目線が合うように屈みラグの肩を両手でぎゅっと掴んだ。



    ダスト「……だから今回も頼んだよ。ラグくん。君しかいないのさ」


    ダストはそう言い、ダストとラグは今夜、計画を実行する事にした。


    〜〜〜


    憂鬱な気持ちを酒で流し込み、ただただ欲に溺れた自分を重い脚どりでひたすらに暗い夜道を歩いていた。

    紺「………はァ……」

    フラフラと電柱にぶつかりそうになりながらも歩くが、やがて脚はもつれつまづき、大量に置かれているゴミ袋の上へと紺はダイブした。
    紺は何も考えず、ひたすらにぼーっとしていた。

    紺「…………」

    やがて、唐突に眠気が襲ってきた紺はうとうととし始め、最後に小さなか細い、どこか泣きそうな声で言葉をこぼし眠りにつくのであった。



    紺「……一人は……寂しいなァ……」
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