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    新島颯太

    しんじまそうたー!

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    新島颯太

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    伏見家の話

    兄弟イブ「え〜っ!?今日も鍋かよ〜!!!」



    肌に当たる風が生暖かく、青々とした葉が綺麗な紅葉に少しづつ変わっていく季節。この季節は風当たりが心地よく、学校帰りの外の空気が唯一の癒しだ。
    俺はそんな帰り道を、いつも通りの4人と歩いていた。

    アメ「え〜!?鍋いいと思うけどね!?ネオン料理上手だし、この季節の鍋って心温まらないかなぁ~?」
    イブ「そうだけどよ〜〜…でも!!でもこの季節になるとネオンが作る晩飯いつも鍋なんだぜ!?!たまには寿司とか焼肉とかさ〜!!外食行こうぜ〜!!?なぁ〜!ネオン〜!!!!!」

    黄色いゲソの赤いサングラスを頭に付けた少年の名前はイブ。イブは駄々をこねネオンにしがみついた。
    その様子を見たネオンは呆れ混じりのため息を付き、笑顔で半ば強引にイブを引き離した。

    ネオン「も〜、文句ばっかり言うなら一人で何か食べてきなよ〜。お金あるでしょ〜?俺達は温かい家で鍋食べながらお笑いでも見るからさ〜。ね〜レツ〜」
    レツ「そうだぞ!!鍋食った後にネオンとアイスでも食ってやる!!イブお前は寒い外の中一人で外食してるんだな!!!」
    イブ「びえーーーーん!!!!!!!!2人ともひでぇよ〜〜〜!!!!!!!!アメ〜〜!!!!俺ハブられてる〜〜!!!」
    アメ「あはは〜!!!ネオン達は仲良しだね〜!!!!」
    イブ「ハブられてんだよ!!!!!!!!!」


    俺達は毎日こんなくだらない会話をしながらいつも通りの帰り道を歩いている。くだらない内容だけど、何かと毎日楽しみにしている時間だ。

    俺達はそんな会話をしながらしばらく歩いた。
    すると小さな薬局屋を過ぎた所でアメは立ち止まり、何かを思い出したのか急いでいる口振りで俺達にこう言った。


    アメ「…あっ!やべ…あはは…どうしよう!今日母さんの誕生日だ!!…忘れてた〜…!急いでケーキ作らなきゃ、ごめん!先帰っててくれないかな!?」

    急ぐアメの話を聞いたイブはカッと目を見開き、アメの胸ぐらを勢いよく掴んだ。


    イブ「はーぁー!?!?!?母ちゃんの誕生日!?早く言えよ!!!そんなのに謝ってる暇あるなら俺達より母ちゃん大事にしろ!!!!!!!!」
    レツ「良い奴だな」
    ネオン「うん〜、全然いいよ〜。お母さんの誕生日なんだから綺麗なケーキ作るんだよ〜。」

    3人の返答を聞いたアメはどこかほっとしたような様子だった。そして頭の後ろを恥ずかしそうにかき、またにっこりと笑った。

    アメ「あはは〜、ごめんごめん!!ありがとう!じゃ!俺行くから、また来週〜〜!!!」

    アメは少々申し訳なさそうに、笑顔でネオン達に向かって手を振った。急ぐアメの後ろ姿をネオン達もしっかりと手を振り見送った。

    ~~~

    アメを見送った3人は無事に家へと帰り、玄関の扉を開けたイブは背負っていたリュックサックをその場へと投げ捨て、そのままベッドへと飛び込んだ。

    イブ「フゥ〜〜〜〜!!!!週末〜〜!!!!ベッド最高〜!!!!!」
    ネオン「ちょっとイブ〜部活終わりの汚い体でベッドに飛び込まないでよね〜」
    イブ「なんだと!!!!そんな事言うお前には〜〜!?うぉら!!!!!」
    ネオン「わわ、…ちょっとイブ〜」

    イブは枕をネオンに投げつけ2人は帰ってくるなりはしゃぎあっていた。その姿を見たレツは呆れたような表情で荷物を自分の部屋へと移動させ、洗面所から2人を覗きこう言った。

    レツ「お〜い!!!ネオンまではしゃいでど〜すんだよ〜!!!俺腹減ったぞ〜!!!先に飯食おうぜ〜!?飯飯~~!!!!」

    ネオンは枕を投げる手を止め、「あ〜、そうだったね」と言いその場から立ち上がり、帰りに買ってきた食材を冷蔵庫へと移動させ夕飯の準備をし始めた。それを見たイブはベッドの隣にあった一冊の本を手に取り寝転びながら読んでいると、ネオンにばしっと頭を叩かれた。

    イブ「いてっ!!!」
    ネオン「な〜に1人だけサボってんの〜、ほらみんなのご飯だよ、イブも手伝って〜」
    イブ「え〜!!!俺今から毎週楽しみにしてた漫画読もうと思ってたのにーー!!!!!」
    ネオン「言い訳は聞かないよ〜」

    ネオンはそう言い、イブの服を掴みずるずると台所へと引っ張った。イブは不満げな顔をしていたが、3人でいつも通り夕飯の準備をする事にした。



    夕飯の準備を済ませた3人は、小さなテーブルの上に鍋を置きイブとレツは先程切った野菜を机へと移動させていた。ネオンは3人分の食器を準備していたその時、家のインターホンが突然鳴った。現在時刻は夜の9時前。ネオンはこの時間帯にインターホンが鳴ることがない為不思議に思うも、食器を棚から取りつつこう言った。

    ネオン「ん〜?誰だろう〜、イブ〜俺今食器持ってて手空けられないからちょっと見てきてくれないかな〜」

    ネオンからそう言われたイブは頼られた事を嬉しそうににっこりと笑った。

    イブ「ん!!!!いいぞー!!!」
    ネオン「ごめんね〜ありがとう〜」

    イブは元気に返事をし、玄関へと向かった。その間にネオンは3人分の食器を机へと並べ、準備が終わったレツはちょこんと椅子に座って待っていた。

    レツ「ネオン〜俺腹減ったぞ〜」
    ネオン「うん、もう少し待ってね〜、もうすぐイブが来るはずだから〜」

    2人はそう言い、玄関へと向かったイブを待っていた。
    玄関の扉が開く音が聞こえ、ネオンはイブが出てくれた事を確認した。2人は何事も無くイブを待っていた。が、配達にしてはやけに静かだった。普段ならイブの元気な声が聞こえるからだ。既にお腹を空かせていたレツは眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに口を開いた。

    レツ「…アイツ遅くねぇ?」

    ネオン「…ね〜、遅いねぇ」

    レツ「おーーーい!!!イブー?もう飯あんぞーー!!!!早くしねぇと先食っちまうぞー!!!!!!」

    レツが大きな声でそう言うも、イブから返事が来る事は無かった。流石に不思議に思ったネオンは、イブの様子を見に行こうとドアノブに手を掛けたその時だった。何か嫌な予感がした。
    今朝、家を出る前にイブからとある話を聞いたからだ。




    イブ「なぁ知ってるかぁ?3年前の事件」

    ネオン「…何〜?それ〜」

    ネオンは不思議そうに首を傾げた。イブはネオンの反応を見て自慢げに、ニヤニヤと口角を上げながら話しを続けた。

    イブ「…俺も当時知らなかったんだけどよ〜、3年前俺達インクリングを使って不思議な実験をしてた医者がいたらしくてな!それもその実験の被害者は全員血の繋がった兄弟だったらしいぜ!?怖くね!?!?」

    ネオン「…ふーん…」

    ネオンは興味無さそうな反応をした。何故なら3年前の話だ。犯人は既に捕まっているに違いない。そう思っていたが、イブは突然声を大きくしネオンの顔をじっと見つめこう言った。

    イブ「でよ!!?俺ビックリしたのがさ!研究所は何者かによって放火されたらしいんだけどよ!?…犯人はまだ捕まってねーんだって!!!キャーッ!怖い!!!!!怖い!!!!!」

    ネオンはその言葉に反応したが、普段の笑顔に戻り呆れ混じりのため息をついた。

    ネオン「…ちょっと〜一人で話して一人で怖がらないでよ〜。…それにその情報どこからなの?デマじゃないよね〜?」

    イブ「さぁ知らねー!!!俺も友達から聞いただけだからさ!!!!嘘か本当かは分かんねーけど…仮に本当だとしたらまだ犯人捕まってねーらしいし…ネオンもあぶねーんじゃね!?」

    ネオン「…も〜そういう事あんまり言わないでよ〜。ほら学校行くよ、遅れちゃうからさ」

    イブ「へへっ、すまんすまん!!!」

    イブはそう言い、いつも通りの明るい笑顔をネオンへと向けた。



    今朝の事を思い出したネオンは軽く息を飲んだ。まさかな、と思い手を掛けていたドアノブを向こうへと押した。いつも通り彼の名を呼ぼうと、ドアを開けたその先には配達員と見られる人物が、ぐったりとしたイブを担ぎ堂々とこちらを向いて立っていた。


    ネオン「…イブ…?」

    彼の名前を心細く呼ぶネオンは非常に焦っていた。ネオンの様子を見た配達員はゆっくりと口角を上げ、嬉しそうに笑い自ら顔を隠していた帽子を取り素顔を表し、ゆっくりと口を開きこう言った。

    ダスト「……初めましてかな?私の存在を知るのは」

    ネオンは何も言えず、ただただその場で固まっていた。

    ダスト「……まぁ、何も言えないのは無理も無い。…おっと、自己紹介が遅れたね。私の名前はダスト、3年前からとある実験をしている医者さ」

    ネオンは今朝の事を思い出し、ごくりと息を飲んだ。イブの生存確認が先か、はたまた誰かに助けを求めるのが先か。それとも自分一人でこの場を乗り切るか。ネオンは必死に考えたが、そんな暇は無くダストは喋り始めた。


    ダスト「…さぁ、単刀直入に言わせてもらおう。」







    ダスト「……君のお兄さんは何処にいるのかな」



    ネオンはその言葉に酷く動揺した。ネオンはダストから目を逸らし、ぎゅっと手を握りゆっくりと口を開いた。


    ネオン「………俺に…、…兄さんなんか居ないよ」


    その言葉を聞いたダストは呆れるような表情をし、ネオンの顔をじっと見つめこう言った。


    ダスト「…どうして嘘を付くのかな?」


    ネオン「……っ…」


    ダスト「君達の事は既に把握済みなのさ。伏見狐、君のお兄さんの名前だ。…お兄さんは何処にいるのかな」

    ダストはネオンの顔をじっと見つめたまま、ネオンを責め立てるように問い続けた。

    ネオン「………」


    ダスト「……お兄さんは……」




    ネオン「知らない!!!!!!!!!!!!」


    ネオンは息を荒くし、ダストを睨みつけた。そんなネオンをダストは見下し、心底つまらなさそうな顔をしていた。ネオンは拳をぎゅっと握り、普段の温厚さと違い酷く焦っていた。ネオンは俯いたまま、息を荒くし喋り始めた。

    ネオン「……知らないって…言ってるだろ…俺だって今兄さんが何してるか知らない…知りたくもない…兄さんに用があるなら…直接兄さんの所へ行ってよ、…俺は知らない…本当に何も知らないんだ」

    ダスト「………」


    ネオンの話を聞いたダストは何を思ったのか、ゆっくりとネオンへと近づきネオンの手をぎゅっと握りしめ、にっこりと笑いこう言った。


    ダスト「……本当に何も知らないんだね。」


    ダストは軽く息を吸い、ゆっくりと口を開いた。








    ダスト「……君のお兄さんが気を病ませたのは、君のせいだよ」




    ネオンは突然言われた言葉に固まっていた。



    ネオン「………
    …どうい…う………こと」


    ダスト「伏見狐。伏見家の長男。生まれつき身体が弱く生まれたその時から入院させられていた。伏見狐は毎日窓から見る外で遊ぶ子供たちや友達という存在に憧れていた。憧れるのはいいものの、少しでも激しい動きをしてしまうと喘息で倒れてしまうことが多々あったらしく、伏見狐は編み物や絵といった手を動かす事の多い趣味を見つけた。編み物に没頭し、色々なぬいぐるみやマフラーといった可愛らしい物を沢山作っては同じく入院している子供達にプレゼントをしていただとか。そんなある日、伏見ネオン…そう、君が産まれたのさ」

    ダストは軽く息を吐き、酷く焦り怯えた様子のネオンの手を安心させるかのようにぎゅっと握りしめ、にっこりと笑い話を続けた。

    ダスト「伏見ネオン、キミが産まれた事を母親と伏見狐は非常に喜んだ。伏見狐は唯一の兄弟を大切にしようとぬいぐるみを作っては毎日毎日キミにプレゼントしていた。そんなキミは生まれつき才能があり、勉強も運動も成績が良く母親は伏見狐よりキミを優先し、深い愛情を注いでいた。
    ……キミは…そんな伏見狐をどう思っていたんだい?」

    ネオン「…………」

    ネオンは静かにダストの話を聞いていた。ネオンは何かを諦めたような、そんな表情で小さく息を吐きゆっくりと口を開き喋り始めた。

    ネオン「………兄さんは…確かに俺に優しくしてくれてた。兄さんは入院していたから毎晩一緒に居られないからって…兄さんは人形を作っては毎日毎日俺にプレゼントしてくれた。俺は毎日兄さんがくれた人形と一緒に寝てた…けど、中学に上がって授業参観がある日に兄さんはわざわざ車椅子に乗って見に来てくれた。…すごく嬉しかった。…けど周りからは不便だね、だの、あんなお兄さん可哀想〜だの…色々言われたよ。兄さんは笑って俺に手を振ってくれた。けど俺は…俺の苦労も何も知らない兄さんに少しづつ嫌気が指していったんだ。…とある日に兄さんと俺は喧嘩した。兄さんは母さんに期待されてなかった。その分俺に期待されて…俺はその期待を全部答えなきゃいけなかった。…なのに兄さんは呑気に人形ばかり作って、少しでも家に帰って来れるようにリハビリすればいいのに人形ばかり作って全く家に帰って来ようとしなかったんだ。…俺の事考えてくれてるなら少しでも早く家に帰って来れるようにするはずだよ、俺は我慢の限界が来て……兄さんから貰った物は………全部捨てたさ。…看病にも行ってないし…喧嘩して以来俺は兄さんに会ってない。これが全部だよ」

    ネオンは手をぎゅっと握り、今まで溜め込んでいたものを全て吐き出すかの様に言葉にした。
    ダストはネオンの話を静かに聞いていた。すると突然口を手で覆い、大声で笑いだした。
    ネオンはヒュッと喉を鳴らし、怯えたような表情をした。

    ネオン「……なにが…面白いの」

    ダスト「……フフ、アハハハハ!!!!!!!!!!!…キミは本当に何も知らないんだねぇ…そりゃあ伏見狐もキミに失望する訳だ。キミは伏見狐を迷惑者として見ていた。ただ伏見狐は純粋にキミを愛し、自分なりのやり方でキミに沢山の愛情を注いだ。そしてキミの言う、授業参観の日も伏見狐は自分のリハビリよりもキミの事を優先していた。キミの母親よりも愛情を注いでいた。キミがぬいぐるみを捨てていた事は伏見狐も知っているよ。…何せリハビリを終え、退院出来るとなりやっとの思いで家に帰ったその日に自分の手で作った物を捨てられていたのだからね。…愛した実の弟に…ね。」

    ネオン「………っ、………」

    ダスト「………伏見狐の身体は弱かった。毎晩喘息になり寝不足が続いた日もあった。そんな中キミの為に毎日毎日編み物を編んでいたんだ。…そんな物をキミは容赦無く捨てた。」

    ネオン「……違………違う………」

    ダスト「自分で言っていただろう?…何も知らないって。…キミの言う通り、本当にキミは何も知らなかったさ。…伏見狐の努力をね」

    ネオン「…………っ…違………あ、………ッ……」

    ダストはネオンが一切知らない紺の努力をあたかも自分の人生かの様に語った。実の兄の過去話を聞いたネオンは大量に汗を流し、何か物言いたげな口をはくはくとさせていた。

    ダストは目の前にいる無様なネオンを、優しく包み込むように、ぎゅっと抱きしめた。

    〜〜〜


    午後11時。すっかり外は暗くなり、外を走る車や外の明かりも少なくなっていた。
    そんな中、酒を飲みゴミ捨て場で意識を失ったはずの男は、何故か自宅で目を覚ました。
    男は目を覚ますなりため息をついた。部屋には黒い袋に無理やり詰め込まれたかのような大きなゴミ袋が大量にあり、周りには空き缶が転がっていた。
    男はそんな部屋をしばらく見つめ、背中をぐーっと伸ばしその場で大きなあくびをした。

    男はやっとこさ重い体を持ち上げ、何か食べ物は無いかと台所へ向かった。ふと机に目をやると、1枚の置き手紙がされていた。
    男は小さな紙を手に取り、眠そうな目を擦り綺麗で丁寧な字で書かれている文書を読んだ。


    「酒は程々にしておいてくださいね。」



    男は手紙に書いてある字を見るなり少し微笑みこう言った。



    紺「……過保護かよォ」


    紺はゆっくりと手紙を置き、台所の隅っこにある冷蔵庫へと手を伸ばした。冷蔵庫を開けた紺は「は」と気の抜けた声を出し驚いたような表情をした。


    そこには紺一人でも調理出来そうな冷凍食品や、紺の好物などが沢山入っていた。紺は誰がこうしてくれたのかも分かっていた。紺は頭の後ろをかき、軽く息を吐いた。

    紺「……律儀……ってかァ」

    紺は冷蔵庫から缶コーヒーを手に取り、手元にあった煙草にライターで火をつけベランダへと出た。
    外の空気は冷たく、紺はしばらくぼうっと景色を眺めていた。
    そんな時、紺の携帯電話から1件の着信音が鳴った。紺は不思議に思うも携帯電話を手に取り、煙草の火を消した。

    携帯画面には、1件の連絡が入っていた。





    『兄さん』




    携帯画面には、たった一言、そう映されていた。


    〜〜〜






    オムニ「ボクには今の仕事、向いていないのかも知れない」


    紺「……あァ?」


    外は寒く、雪がしんしんと降っている夜。紺の隣にいる彼は、海峡大橋を目の前に、何処か悲しそうな顔でぽつりと言葉を零した。
    紺は柵に肘を掛け、煙草を口に加えながら静かに流れる湖をぼんやりと見ていた。


    紺「……今の仕事がなんだってェ?……お前なら何でもこなせンだろォ?何が不満なんだよォ。」

    紺は彼が完璧主義者であり、また仕事熱心なのも知っていた。普段からネガティブな発言をしない彼がそう言葉を零したのだ。紺は彼の顔を覗き込んだ。すると彼は目線を下ろしたまま、ゆっくりと口を開いた。

    オムニ「……この前言っただろう、3年前の事件をボクは追っているって。そしてこの前その犯人と交戦になった。ギギ達が考えた作戦で犯人を捕えられるといったところでボクがその犯人を逃した。……そして今も、ずっと被害者を出し続けてる」

    紺はパッとしなかったのか、ぽかんと口を開け彼をじっと覗き見、こう言った。

    紺「……それのどこが仕事向いてねェ理由になンだよォ」

    その言葉を聞いた彼は、自身の袖をぎゅっと握り締め、片手で顔を覆いか細い声で言葉を零した。


    オムニ「…この前の交戦で確実に捕えられる場面がいくつもあった。皆が瀕死状態の中ダスト自身もかなり弱まっていた。……なのにボクの実力不足でアイツのことを捕まえる事が出来なかった。もっと努力していれば捕まえられたのかも知れないのに、舐め腐った態度で現実を見ていたからだ。……ボクが…ッ………ボクがあの時、……2度もチャンスを逃したからなんだ」




    オムニ「ボクが、ボクが全部悪いんだ」




    彼の目には薄ら涙が浮かんでいた。その様子を、紺は目線を逸らさないまま、じっと湖を見ていた。
    紺は口に加えていた煙草を口から離し、その場で振り返り地面に落ちている缶を、思いっきり水辺の方へと蹴り飛ばした。





    紺「……なァんだァ、そんな事かァ」





    オムニ「………は…?」



    オムニは戸惑った表情で目の前に居る紺を見ていた。
    紺はため息を付き、もう一度煙草を口に加えた。



    紺「お前はよォ、元々思ってたがァ完璧主義者すぎんだよォ。もう少し肩の力抜けェ。2度逃そうが3度逃そうが捕まえりゃアいいんだろォ?」

    オムニ「……そりゃそうさ、でもその分ボクらが逃した回数分被害者も多くな……」



    紺「既に被害者出てンだから今更数人ぐらい変わんねェだろ」


    紺の発言を聞いたオムニは、驚いた様な表情をしていた。そういえば紺は、こういう奴だった。と。

    紺「1人の人間が世界中の人間を救えると思うかァ?無理だろォ。完璧主義者なんて辞めちまえ。
    自分が生きてりゃア、それでいいんだァ。

    ……それかァ、まだお前が他人を救いてェ完璧じゃなきゃァ嫌だっつーならァ、失敗の数だけお前は学べる。なら沢山失敗して沢山学べ。今回の失敗だって決して無駄では無かったハズだァ。少しづつお前が思う完璧に近づいていきゃア、いいんじゃねェの。」




    紺は海峡大橋を背に鋭い目付きでオムニを見詰め、軽く息を吐くかのように、最後にこう言葉にした。





    紺「……だから諦めるな、絶対に捕まえろ」



    〜〜〜


    午後1時頃。仕事で疲れていた彼は、横長の机の上でハッと目を覚ました。机の上には大量の書類が積まれており、その光景をみた彼は額に手を当て、深いため息をついた。

    オムニ「………。」

    オムニがしばらくぼうっと机の上を眺めていると、部屋の扉がコンコンとなった。この時間帯に兄弟達が起きてるはずないと思ったオムニは、不思議に思うも静かに受け付けた。


    オムニ「……入っていいよ」


    すると扉がバン!!と勢い良く開き、オレンジゲソの赤いゴーグルを頭に着けた小さなタコの少年が部屋へと入り込んできた。どうやらシサがここまで案内したようだ。オムニは予想をしていた人物とは違っていた為少し驚いた様な表情をしていたが、タコの少年は沢山の汗を流し過呼吸になっていた為オムニは冷静に対応した。


    オムニ「……こんな夜中に、どうしたのかな」

    するとタコの少年はオムニの袖にしがみつきワッと声を張り、泣き叫ぶようにして話し始めた。


    レツ「お、お、おれの!!!!おれの友達が!!!!!!!し、知らない奴が突然部屋に入ってきて……わ、訳わかんねぇこと話し始めて……い、インクがどうとか……ふ、伏見家がどうって……話初めて、ッ……お、おれどうすればいいか分からなくて……!!!!!友達が殺されたかもしれない!!!!友達が!!!!!お、おれはどうすればいい……!!!こ、怖くて……怖くて何も出来なかった!!!!!!今ごろ死んでるかもしれない、た、助けてくれ……助けてくれ……ッッ!!!!!!」


    オムニにしがみつくタコの少年は泣きながら大声でそう話した。オムニは彼の話した複数の単語で全てを察した。オムニは椅子から立ち上がり、彼を落ち着かせるように話し始めた。


    オムニ「……事情は分かった。………一度落ち着いてくれ。大丈夫、その友達は死んでなんかいない。大丈夫、大丈夫だよ」

    オムニはタコの少年の背中を優しく摩り、机の中にしまってあった拳銃を隠し持った。扉の方から心配そうに見ているシサにオムニはこう言った。


    オムニ「……シサ、この子を頼んだよ。……すぐに帰ってくる」


    オムニはそう言い、すぐさま家を出た。
    オムニは何処かしら焦っているように感じ、自身の唇をぎゅっと噛み締めた。




    オムニ「…………紺……ッ……」




    〜〜〜

    携帯電話に映る一言の言葉を見た紺は実の弟であるネオンの元へと向かっていた。日常的にこうして弟から連絡が来る事は滅多にない。紺はネオンに何かがあったのだと、急いでネオンの元へと向かっていた。

    紺はネオンが住む家につき、玄関前に何も入っていない空のダンボールを目にした。紺は全てを察し、軽く深呼吸をしドアノブに手を掛けた。



    紺「……ネオン」



    紺は扉を開けると同時に、いつもの声で彼の名前を呼んだ。紺の目の前にいる彼は、ボロボロと涙を零し、扉の目の前にいる紺をじっと見ていた。




    ネオン「…………ごめんなさい」




    紺は涙を流す彼の元へとゆっくりと歩み寄り、これ以上無いくらい、優しく、優しく抱きしめた。



    紺「…………何を……謝ってんだよ……」


    ネオンは紺に抱きしめられたが、ネオンは紺を抱き締め返す事が出来なかった。


    ネオン「ごめんなさい……ごめん、ごめんなさい……ごめんね、今まで、兄さんの事何も知らないで……ごめんなさい……ごめんなさい……!」


    紺「………なんで、……なんでお前が謝ンだよ……!」


    紺はひたすらに目の前に居るネオンを抱きしめた。ネオンは紺の胸のなかで、ひたすらに涙を零していた。

    紺「……謝らないでくれ、頼む、俺はお前が泣いている姿なんて見たくないんだ、泣かないでくれ、頼むから」

    ネオン「……ごえ……っ、……ごめんね……
    ずっと辛かったよね……今さら……なにをって思うかもしれないけど、ずっと……ずっと辛い思いに気づけなくてごめんね、俺だけが苦労してると思っててごめんなさい……兄さんの事見捨ててごめんなさい……兄さんとの時間大事にしなくてごめんなさい……兄さんの気持ちを理解しようとしなくてごめんなさい……兄さんのこと支えようとしなくてごめんなさい……兄さんを除け者として見てごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!!!」


    紺「やめろ、本当に……違うんだ、お前は何も悪くない、頼む何も謝らないでくれ、俺はただお前と兄弟らしい事をしたかっただけなんだ、……一緒に遊んだり兄らしくお前に勉強を教えたり……お前に寂しい思いをさせたくなかっだけなんだ、頼む……謝らないでくれ」

    ネオン「ゔぅう……!!!!!ごめん、ごめんなさい……!!!!!!」




    紺は、ネオンを強く抱き締めた。
    ネオンは、紺を強く抱き締めた。



    紺はネオンを強く抱きしめた後、この事を引き起こしたであろう目の前に居る人物を睨みつけた。
    目の前に居る人物は非常に愉快そうにニッコリと笑っていた。その表情を見た紺は何処か苛立ちを覚え、ゆっくりと口を開いた。




    紺「……そのオニーサンを離せ」


    ダスト「……何故だい?」



    紺「離さねェならこの場で殺す」

    ダストはニッコリと笑い、ずるずると引きづっていたイブを紺の元へと引き離した。
    紺はネオンの背中をゆっくりと摩り、優しく話しかけた。


    紺「……ネオン、話し合いは後にしよう。……オニーサン連れて、逃げれるかァ」

    ネオンはあくまでも自分達の状況を理解していた。ネオンはこくりと頷き涙を拭いぐったりとしていたイブを連れ部屋を出た。ネオンが部屋を出たのを確認した紺は、ゆっくりと振り返り深いため息を着いた後舌打ちをし、煙草に火を付けた。


    紺「………どういうつもりだァ?」


    紺は心底不機嫌そうにダストの目をじっと見詰めた。ダストは紺を目の当たりにしても尚、ニッコリと笑い、目の前に居る紺を歓迎するかのように両手を広げ、嬉しそうにこう言った。


    ダスト「…初めましてかな?伏見狐くん。私の名前はダスト。…あわよくばキミの弟くんも実験体として使いたかったけれど……今回の目的はキミさ。伏見狐。キミに1つの条件を出したい!聞いてくれるかな?」



    紺「…俺の弟と友人を泣かせたのはテメェだな?」


    ダストはふっと鼻で笑い、広げていた両手をポケットの中へとしまい、はぁ。と呆れ交じりのため息をついた。



    ダスト「……私の話には聞く耳を持たない……か……
    まあ知ってはいたさ。それにわざわざ君が聞く必要なんてないのだからね。……なんだって」



    紺は煙草を咥え体制を変えた。




    ダスト「……なんだってキミのインクさえ採取出来ればキミたちの命だなんでどうでもいいのだからね!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


    ダストは大きく口を開け、ポケットから大量の注射器を取りだし紺に向かって飛びかかった。
    紺は煙草を地面へと吹き出し足で踏みつけ、その勢いで飛びかかってくるダストの腹を蹴り飛ばした。
    ダストは非力だと思っていた紺の大きな1発をくらい、不覚にも揺らりとふらついてしまった。

    ダスト「……ふ……フフ……あは、……非力とは過去の事だったかな」


    紺「黙れ、俺らの事なんて何も知らねェクセに人の過去ペラペラ喋ってんじゃねェよ」


    ダストはフフフと笑い、ゆらりとその場から立ち上がった。するとダストはニッコリと笑みを零し、ポケットから水色のインクが入った小さな瓶を取り出した。


    ダスト「……キミにクイズを出してあげよう!これは誰のインクか分かるかな?」


    紺はダストの態度が気に食わなかったのか、またもや煙草に火を付け、壁に寄りかかり煙草を吹かし始めた。ダストはニコニコと笑い、楽しそうに喋り続けた。

    ダスト「正解はこの前私を捕まえに来たえぱくんという少年のインクさ!分かったかな?正解できたかな?ふふふ!キミには分からなかったかもね!!!!えぱくんのインクは飲むと一時的に力だけが向上するのさ!!!実に素晴らしいだろう!?!魅力的だろう!?!?!ただ効果が切れた後は酷く吐血するけれどね!!!!!」


    紺はえぱと言う少年の名前に軽く反応するも、ダストの話しに聞く耳を持たずに居た。
    ダストはそう話し終えた後、持っていたインクを全て飲み干し、紺を不敵な笑みで見上げた後、目にも見えぬ早さで壁に寄りかかっている紺の頬を目掛けて拳を振りかざした。

    紺は反射的にその拳を腕で素早く防御し、重い1発を防ぐも壁へと殴り飛ばされた。紺は殴り飛ばされるもゆっくりとその場から立ち上がり、何事も無かったかのように服を軽く払い煙草を吸い直した。


    紺「……ふゥん。……ただのうるせェガキだと思ってたがァ……外見によらずそんな力持ってんのかァ。……警戒しねェとなァ?」




    紺「まァ所詮、ガキなのは変わりねェけどな」



    紺はそう言うと、ダストの腹を目掛けて飛びかかった。ダストは紺の蹴りを素早く避け、紺の後ろに回り片手に持っていた注射器を振り上げた。
    すると紺はニヤリと笑い、ダストの頭を鷲掴みし、顔面に膝蹴りを入れた後、鈍い音と共に床へと叩き付けた。ダストは声を出す暇も無く酷く吐血した。


    ダスト「ゲホッ!!!!ゲホ、ア、ア"……!!!!」


    紺は咥えていた煙草を床へと吹き出し、煙草を踏みつけ火を消した。紺は気だるげに酷く吐血しうつ伏せになっているダストの元へと歩み寄り、深いため息を付き、ダストの背中へと座った。



    紺「……はァ、……俺には完璧主義者な友人がいてよォ。……お前には分かンねェかも知れねェがお前のせいで苦しんでる奴が沢山いんだよォ。……これ以上被害出されると俺らも困るンだよなァ。……それに」





    紺「クズは俺だけでいいンだよ」





    紺はそう言い、ゆっくりとその場から立ち上がった。紺は煙草を吸おうとライターを手にしたその瞬間だった。ダストは目を見開き、目にも見えぬ速さで紺の背中を注射器で突き刺した。



    紺「……ケホ」


    紺はその場で膝まずき、胸元を手で抑えていた。
    ダストはゆらりと立ち上がり、顔を上げ大きな狂気的な笑い声をあげた。


    ダスト「……あは、……ア"ハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


    紺「…………」


    ダスト「キミたちは本当にバカだね!!!!!!!!いつもそうやって勝ちを確信し油断する!!!!!!!私がその程度で死ぬ訳無いだろう!?!?!?!?!?!?」

    ダストは嬉しそうに目を細め、注射器の中に入った紺のインクを愛おしそうに見詰めた。
    そして、ダストはそのまま注射器を自身の腕へと突き刺し、紺のインクを摂取した。
    ダストは酷く興奮しており、これ以上無いくらい大きな笑い声を上げた。
    紺は膝まづいたまま、胸元を抑えていた。

    ダストは紺の元へとゆっくりと歩み寄り、嬉しそうに注射器を取り出し、目を見開くと同時に腕を振りかざしたその時だった。

    ダストはその場で吐血し、崩れるかのようにして倒れ込んだ。
    ダストの表情は酷く焦っており、状況を理解出来てないようであった。


    ダスト「………どういう、…こ…とだ……?」


    紺は胸元を抑えつつ、帽子から見える目は笑っていた。


    紺「『自身の意思で自由にインクを変える事が出来る伏見家』……だっけかァ?」


    ダストはその言葉を聞きその場で固まった後、これ以上無いくらい大量の汗を流していた。

    ダストは紺のインクを飲んでしまった事で、体内のインクが紺自身の意思で自由に変えられていた。体内で様々なインクが混ざる事で、吐き気、吐血、目眩、幻聴等の様々な現象を起こしていた。

    ダストは酷く苦しみ、胸を押さえつけたまま声も出せないまま紺を睨み付けた。
    紺はその場からゆっくりと立ち上がった。



    紺「……研究不足か?ヤブ医者よォ」


    紺はニヤリと笑ってダストの頭を踏みつけた。ダストは何も出来ず、ただただ苦しみ、紺を睨む事しか出来なかった。

    紺「……さァて、このまま無駄な時間過ごしてるのも良くねェなァ。今日は気分的にオニーサンに会いてェし、さっさと片付けさせて貰うゼェ。」

    紺はよっこらせ、とダストの上から立ち上がり、顎に手を当てどうするべきかと考えていた。



    紺「……このままオムニに連絡するかァ?それともこの場で俺が片付けちまうかァ?」


    紺がダストの方へと、振り向いたその時だった。



    ラグ「……それは少々、僕が困っちゃうな」


    何者かが突然窓から侵入し、何やらポイズンミストのような物を床へと叩きつけ煙を発生させた。
    紺は突然の出来事に少量煙を吸ってしまうも、咄嗟に手で自身の口を覆った。
    紺は逃すかと何者かに手を伸ばすが、吸ってしまった煙が体内へと入り込んでいた。紺はその場で跪き、酷く苦しんでいた。その時、突然部屋の扉が勢い良く開いた。

    オムニ「紺!!!!!!!」

    到着したのは紺の友人、オムニであった。
    オムニは袖で口を覆い、瞬時に紺を担ぎダストを抱え窓から逃亡しようとする何者かに向かって発砲したが、何者かは素早く銃弾を避け窓からダストを抱えたまま飛び降り逃亡した。
    オムニは追いかけるよりも先に紺の生死を優先し、ネオンの部屋を後にした。


    オムニ「紺!!!!!!!」

    オムニは紺を外に連れ出し、紺の肩を支えていた。紺を支えるオムニの手は震えており、必死に紺の名前を何度も呼んだ。すると紺はぐったりとしたまま、ゆっくりと口を開いた。


    紺「…………た…………」

    オムニ「…………た、……た……?……ど、どうした…大丈夫ですか……?紺……!!」


    紺「……俺の……」


    紺「……俺の煙草、部屋に忘れて来ちまったァ……」


    紺はネオンの部屋を見上げたまま、ぽつりとそう言った。オムニはしばらく状況が理解出来ていないのか唖然としていた。すると、オムニはふと吹き出し、大きな口を開け涙が出る程大笑いをした。

    紺「……あァ?なんだァ?急に笑い出してよォ。気持ちわりィな」

    オムニ「…は、ははは……!!!!!……どんな状況であれど、普段通りなキミが面白くて……あはははは!!すみません……」

    オムニは普段の暗く、真面目でくぐもった顔とは裏腹に、涙が出る程楽しく、そして気楽に笑っていた。

    紺「ンだよォ。全く……お前も分かんねェな」

    オムニ「キミもね」

    紺はオムニの表情を見るなり呆れ混じりのため息をついた後、紺も少しだけ笑った。

    紺「……ンでェ、しっかり殺さずテメェの仕事残してやったんだァ。……ご褒美ぐらい……くれるよなァ?オムニ?」

    紺はニヤリと笑った。それが紺の目的だと元々察していたオムニは、呆れ混じりのため息をついた。

    オムニ「……そうだと思いましたよ。……今回は紺のお陰ですからね、お好きにどうぞ」

    紺「……ンじゃア」



    紺「お前の好きな奴とデート行かせてくんねェ?」


    紺はニコッと笑いオムニにそう伝えた。
    オムニはその言葉にもう一度ため息を付くも、何処か安心するかの様な表情で、こう答えた。




    オムニ「…その願い、キミの想う人と、なら応えられますよ」


    紺はその言葉に驚き、照れくさそうに頭の後ろをかいた後、嬉しそうに微笑んだ。


    〜〜〜


    とある少年は、真夜中の暗い森林の中を走り回っていた。自身より体格の大きい男性を抱えたまま、息を荒くし時々転びそうになりながらも、必死に走り続けた。やがて体力が尽きてしまったのか、少年は地面に躓き、転んでしまった。


    ラグ「…………」

    少年は地面へと転がる大怪我を負った男性に歩み寄り、真っ黒な瞳で男性を見下ろし、小さな声でこう言った。


    ラグ「………ごめん。」



    すると男性は、意識を取り戻したのか、咳き込みながらもゆらりと立ち上がり怒り狂った様な目付きでラグを見下ろした。ラグは、男性が立ち上がるのと同時に、男性から目を逸らした。


    ラグ「…………」



    ダスト「……ど」




    ダスト「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」


    ラグは目の前に立つ男性から根本的に目を逸らしていたが、ラグを見下ろしていたはずの男性は、突然頭を抱え、何かに怯えるかの様にその場へと力無く座り込んでしまったのだ。
    ラグは突然の彼の様子に恐怖を覚え、足がすくんでいた。


    ラグ「……な、なに……?急に……」


    ダスト「まずい、このままだと私の人生が全て灰となって消えてしまう……!!嫌だ……!!絶対に嫌だ……!!!何もかも上手くいかない、そんなもの私の人生では無い!!!!私は優秀な医者となり皆を救い皆に賞賛され……そして母の病も完治し……お父様にも認めて貰うはずだった!!!!……なのにどうして……どうしてこうなっているんだ!!!!私の人生は!!!!!こんなもの私の人生では無い!!!他の誰かの記憶だ!!!!!!!!!!……きっと……きっとそうだ……私の記憶では無い……!!!私は、私は世界に賞賛される人間なのだ!!!!!!!!!!!!!!」


    ダストは既に自我を見失い、「ダスト」という自分自身が何者か分からなくなっていた。
    ラグは狂う人間を目の前に、何も言えず、ただただ怯えていた。するとダストは、何かを思い出したのか、突然その場から立ち上がり、目の前にいるラグの肩を強く掴み、こう言った。




    ダスト「……キミは私の役に立ってくれていたのかい……?」


    ラグの肩を掴む強さは、恨みを込めるかのように次第に強くなっていた。
    ラグは痛い、とも言わず、ただただ俯いていた。


    ラグ「………」


    ダスト「……聞いているんだ、答えられないのかい?私を救ってくれるのはキミだけだと言っただろう……?あの時、キミを救ったあの時から……キミは私の役に立ってくれていたのかい……?キミは私に何を与えてくれた……?私は変われているのかい……?なあ、応えてくれよ……私の問いに……!!!!!!私の疑問に答えるんだ!!!!!!!」






    ラグ「……分からない」



    ダスト「……は?」


    ラグ「…分からないよ。…僕が君の役に立ってるとか、……分からないよ。何もかも。自分がどうして今此処いるのかも、どうして誰かを救おうとしたのかも、どうして自分以外が死んでしまったのかも、どうして誰も僕が思うように助けてくれなかったのかも、……



    ……どうして、キミなんかに助けを求めたのかも、ね」



    その言葉を聞いたダストは、ラグを平手打ちした。



    ダスト「…………私の事なんて分かってくれていなかったのだね、キミは。……まぁ仕方ない。所詮は私の人生における駒さ。…………キミはどうして自分が存在しているか分からないと言ったね?……それなら1つ提案がある。」



    ダスト「……このまま、最後の実験体として私の人生の一部になっておくれ」


    ダストは優しく微笑み、ラグの頬に手を当て、優しく抱きしめた。そして、また、笑顔でこう言った。


    ダスト「……私の人生に、間違いは無いからね」


    ラグは俯いたまま、何も抵抗する事なく、最後にこう言葉を零した。




    ラグ「……分かったよ」


    〜〜〜

    小さな扉が横並びに4つ並んだ家からは、深夜にも関わらず大きな声が聞こえていた。ギャーギャーと騒ぐその声は、小さな男の子達の声であろう。

    1人の少年の帰りを待つ3人の男の子達は、ゲームのコントローラーを器用に動かし、カーペットにはお菓子が沢山広げられていた。

    レマ「ギャアァァアァァアァア!!!!!!!!!!!!火力カッッッス!!!!!!なんだこのキャラ!!!死ね!!!!!!!!」

    グリ「やったー!!!!勝ったー!!!レマに勝ったぞー!!!!やーいやーい!!!!!レマの雑魚ー!!!!!!」

    レマ「これは手加減しただけだっつーの!!!!!!!」


    挑発された1人の少年は、ゲームに勝ったであろう少年の頬を思いっきり引っ張った。


    グリ「いだだだたたたただだあ!!!!!!やめてよ!!!!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いほんとに痛い痛い痛いごめんごめんごめんごめんごめん」

    2人の少年のやり取りを聞くカーペットの左端に座っている少年は、子猫を撫でつつにこりと笑っていた。ある程度の時間が過ぎると、子猫を撫でていた少年は、ふと時計に目をやり、不思議そうに眉間に皺を寄せた。


    グラ「……ラグ、いつもより遅いね」


    レマ「あ?ああー」


    レマはグラの言葉を気にする事無く、ゲームに集中していた。


    レマ「まぁアイツが遅いのはいつもの事じゃん。何してるか知らねーけどよ。まぁ心配しなくてもそのうち帰ってくるだろ」

    グラ「……そうかな」


    レマ「……んな心配すんなってー、大丈夫大丈夫!!!ほらお前もゲームしようぜ?そんな事忘れてさ!きっともうすぐ帰ってく……」

    レマがそう言いかけた時、玄関の扉が開いた音がした。その音と同時に3人は立ち上がり、玄関の方へと走っていった。

    ラグ「……ただい……」

    グリ「おかえりーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


    ラグが玄関を開けると同時に、3人はラグに飛びかかり、ラグをこれまでに無いくらい、思いっきり抱き締めた。
    ラグは困惑すると同時に驚き、行き場の無い手をあたふたさせていた。


    ラグ「……ちょ、……え?…ど…どうしたの……」


    グリ「どうしたも何も!おかえり!って言っただけだよ!!」
    レマ「お前帰りおせーんだよ、どんだけ待たせる気だバーカ」
    グラ「……おかえり、ラグ。……今日もお疲れ様」


    目の前にいる3人の存在はラグにとって暖かいものであった。3人は笑顔で笑い、ラグの帰宅を待っていたのだ。そんな3人を前に、ラグは心做しか酷く泣きそうな表情になっていた。


    レマ「……ラグ?」


    ラグ「……ん……?」


    ラグの目からは、自然と涙が溢れていた。
    自身が涙を零している事に気が付いたラグは、慌てて涙を拭い、にこっと笑った。

    ラグ「……へ、へへ……ご、ごめん……。……ありがとう、ごめんね、3人とも。……ちょっと今日は大変だったからさ。……とりあえず帰ってきたばっかりで汚いと思うから、……お風呂上がったら……4人で遊ぼうよ」

    涙を流したラグに驚いた3人だったが、優しく笑うラグにそう言われた3人も、にっこりと笑っていた。

    グリ「もちろん!!!!!任せてー!!!!お菓子もう先開けちゃったからさ!!!ラグの分足して待っとくねーっ!!!!!」
    レマ「おう、任せとけーでも早くしねーと先寝ちまうぞー」
    グラ「……ゆっくりお風呂入ってくるんだよ。ほら、僕の猫も待ってるから」

    ラグ「……うん。……3人とも、……ありがとう」


    ラグは嬉しそうにそう言い、自身の部屋へと入っていった。

    ラグ「……………」

    扉の向こうからは、自分を待つ楽しそうな3人の声が聞こえる。ラグは、そんな3人の声を背に、その場へとしゃがみ込んだ。そして、1番自分を支えてくれていたのは、ずっとずっと身近に居た人物だったのだ。その事に気づき、改めて自身が今、この瞬間何を思っているのか分かったラグは沢山、沢山涙を零した。そして、一言悲しく、寂しく言葉をこう吐き捨てた。




    ラグ「……アイツの人生の1部だなんて、……絶対になりたくない……!」



    〜〜〜


    一方で、とある男は現在進行形で怒りが頂点に達していた。


    クロ「ックソがァ!!!!!いけいけ!!!!ファルコォォンパァン!!!!!!!!!!!!!」
    オト「あぁ"ア"ア"ぁ"あ"ぁア"!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
    クロ「っしゃオラァーーーーーッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ざまァーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


    リア「こあが作るオムライスが1番美味しいね」

    こあ「そうか」


    クロ「ギャーッ!!!!!ハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!!!俺に負けてどんな気持ちだなァ???wwwなァ??なァオトちゃ〜〜〜〜〜ん!!!!!!!!!ねぇどんな気持ち?どんな気持ち〜〜〜?!?!?!?!?!?!?!?」
    オト「死ねボケェ"!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

    とある1家はこの光景がいつも通りであった。既にテーブルの上には兄弟達の事を想い丁寧に作られたであろうオムライスが並んでいた。

    4人テーブルの向かい側に座っている眉間に皺を寄せた男は、肘を尽きテレビに向かって騒ぎあっている男2人をじっと見ていた。またその男の向かい側に座っている穏やかな笑顔を浮かべた男は、美味しそうにオムライスを頬張っていた。

    クロ「いやァ〜〜〜〜!!!!!!!まさか逆転勝ちしちゃうとはなァ〜〜〜!?!?!?!?調子乗って煽りプレイなんてしてるから負けんだよバ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜カ!!!!!!ギャハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

    オト「…………し」


    クロ「……ん〜〜?し〜〜〜????」


    オト「…………死ねカスボケクソゴミ男がァアァアァァアァァァアァァァアァァアアァァアアァァアァアァァァア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
    クロ「キャアァァァァアァァァアアアアアアアァァアァァアアアアァアァァァアァァアァ!!!!!!!!!!!!!!????!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
    こあ「うるせえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


    男が男の胸倉を掴み、男が椅子から立ち上がった瞬間であった。突然眉間に皺を寄せた男のスマホが鳴り始めたのだ。男は立ち上がったまま、不機嫌に電話を出た。


    こあ「なんだよ殺すぞ」


    ギギ「おっとォ〜〜?一言目がそれかァ〜?相変わらず荒れてんなァ〜〜ハハハ〜〜〜」

    こあ「っるせえな」

    男に電話をかけて来た人物は、紛れもなく以前捜査に同行したギギであった。ギギはその時にかなりの重症を負ったが、既に元気な様子がスマホ越しでも伝わるほどギギの状態は回復していた。
    こあはギギの様子に安心するも、不機嫌そうに話を繋げた。

    こあ「……つーかなんだよ、こんな時間に。……もう時間遅せぇんだよ。俺らじゃなきゃただの迷惑電話だぞ」



    ギギ「お前らだからかけたんだぜェ」



    こあは既にある程度の事を察していた。
    そして、ギギは声を低くし、こう言った。




    ギギ「………もう一度、付き合ってくんねェか」



    こあ「…………」


    こあはしばらく無言になり、ふと口を開いた。



    こあ「…………すまん、今回は……応えられねぇ」


    こあの予想は当たっていた。が、しかし、こあは顔を顰め、小さく、ギギの頼みを拒否したのだ。
    ギギは何となく分かっていた。


    こあには大切な守るべき人物が、他にいるのだ。


    ギギはふと笑い、優しくこあに笑いかけた。

    ギギ「ンな謝んなよォ〜。無理矢理俺らの仕事をお前らに押し付けて悪かったなァ〜、お前が他に守るべきもンがあるのも分かる、分かった、ありがとうなァ〜、こあ」

    こあ「……すまん」


    こあがそう言い、電話を切ろうとしたその時だった。


    クロ「んじゃ俺が行こうかあ?」


    こあとギギの会話を電話越しに聞いていたであろう男が、自ら名乗り出た。
    こあは「は?」と間抜けな声を抜かし、電話からは大笑いが聞こえていた。

    ギギ「ッガハハハハ!!!!!!そォ〜だったなァ〜!……クロォ、テメェが居たなァ」

    クロ「俺達に用ってこの前の事件の犯人追うやつだろ?そんぐらい俺でも行けんぞ俺に任せろよ!」

    ギギ「……つってもよォ、お前前回結構な重症負ってただろォ、大丈夫なのかァ?」

    クロ「あー?あの後えぱと焼肉行って元取って帰ってきた後こあの飯食ってそれでも腹減ったから深夜ラーメン巡回行ってきたぜ!!!!!!俺は頑丈だぜ!!!!!舐めんなよ!?!?!?!?だから俺に任せとけって!!!今度はボッコボコにしてやるぜ!!!!!!!!!!!!」



    その言葉を聞いたギギは、安心したように笑みを零し、笑っていた。



    ギギ「…………ハハ、……若いって…スゲェなァ。」




    こあ「……お前本当に1人で行けんだろうな?」

    クロ「任せとけってェ!!!!!!いらねーことはしねーよ!!!!!やっぱ俺って天才だし!?!?!?!?!イケメンだからな〜」


    こあは不安でしかない表情を浮かべていたが、ギギからすれば頼もしい味方であった。

    ギギ「……ンじゃまァ、予定は後日連絡するぜ、よろしくなァ。クロ」

    クロ「おう!!!またな!!!!!!!」

    クロはハッキリ元気にそう言った。
    ギギはその声を聞き、電話を切った後、ふと綺麗に輝く星空を見上げた。

    ギギの不安は、すっかり消え去っていた。

    〜〜〜

    1人の少年は、病室で静かに本を読んでいた。


    昔、白雪姫という美しいプリンセスがいました。美しい心の持ち主である白雪姫は、優しく動物たちとも仲良しでした。

    ある日、白雪姫は王子様に出会いました。白雪姫と王子様が楽しく歌っているところを、母の女王がじっと見ていました。

    白雪姫の美しさを妬ましく思った女王は、家来に白雪姫を殺すように命じました。

    しかし家来は姫を殺すことができません。森から、女王に見つからず遠くに逃げるよう、白雪姫に言いました。



    城では女王が、白雪姫がまだ生きている事を知りました。

    怒った女王は、魔法の薬を飲んで老婆に姿を変え、白雪姫を騙そうと計画します。

    次の日、七人の小人が仕事に出かけた後、老婆の姿の女王は小屋へ来て、白雪姫に真っ赤なリンゴを差し出しました。

    リンゴを一口噛じると、白雪姫はそのまま深い眠りについてしまいました。

    白雪姫は深く眠ったままでした。七人の小人は、白雪姫をガラスの棺に入れて見守り続けました。


    そこへ王子様がやって来ました。王子は一緒に歌ったプリンセスをずっと探していたのです。


    王子が白雪姫にキスをすると、魔法が解け、白雪姫が目を覚ましました。 そして、白雪姫と王子は王国に戻り、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。






    るめ「……くだらね」




    彼はそう呟き、静かに本を閉じた。すると、病室の扉が彼にとってうんざりするほど、聞き覚えのある声と共に開いた。

    サド「るめー!!!!!!見舞いに来てやったぞー!!!!!!!」


    るめ「………………」


    るめは表情を酷く歪ませ、眉間に皺を寄せた。


    るめ「……大丈夫だつってんだろ」

    自分にへと向けるその表情を目の前にしても尚、サドは腰に手を当て、えっへんと言わんばかりの表情でこう言った。

    サド「大丈夫じゃね〜って!!ほら、この前の交戦で胸元撃たれたろ〜?それのせいでこうやって入院してんだしさ、少しぐらい世話させろよな〜!?」

    るめ「……要らねぇよ」

    サド「ま!ま!そー言わずさ!!!ちょっと別の話もあるし!ま!そーゆー事で付き合ってくれよな!!!るめ!」


    るめ「……はぁ」


    サドは元気そうに、いつも通りの笑顔をるめへと向けた。るめは溜息をつき、綺麗な緑色の葉が風に揺られているのを、窓越しからじっと見ていた。


    るめ「……仕方ねぇな聞いてやるよ、別の話ってなんだよ」

    サド「ん!聞く気になってくれたのかー!?」

    サドはそう言い、ひれおくんのキーホルダーが付いたリュックサックから1枚の写真を取り出し、るめが見えるようにと机の上に置いた。


    るめ「……誰だこれ」


    サド「……やっぱわかんねぇかー!」



    サド「これ!俺達と昔よく遊んでた子!……覚えてるか?」


    るめはそう言われると、過去の事を思い出し機嫌を悪くしたのか、顔を顰め、心底不機嫌そうに舌打ちをした。


    るめ「………なんでそいつが」


    サド「…まぁまぁ!そんな不機嫌そうな顔すんなってー!とりあえず聞けって!な?」

    るめは不機嫌そうに、机の上にあった水を1口飲み、聞く耳を持たない様子だったが、サドはお構い無しに話し始めた。

    サド「実はこれな!この前ダストの研究所に行っただろ?そん時に拾ったヤツだ!んで!俺思ったんだけどさ!ダストの研究所にこの子の写真が落ちてたって事は研究所にこの子がまだいるかもしんねーって訳だ!」


    サド「で!この前の交戦で俺らはダストを捕まえられず逃げちまっただろ?!んでギギ達はどうせもう1回捕まえに行くだろ!?そん時俺らもついて行って研究所に行けばこの子に会えるかもしんねぇって訳!」


    るめ「馬鹿か」


    サド「エェ!??!?!?!」


    るめは深いため息を付き、あからさまに呆れたような表情を取りこう言った。


    るめ「……そいつに今更会ってどうすんだよ」


    るめはサドの顔をじっと見て、そう言った。サドはるめの言葉に動じず、ニコッと笑った。




    サド「ちゃんと会ってあの日の出来事を話す!」




    るめ「…………」


    サドは一切曇りの無い顔でるめにそう言った。るめは目の前にいる純粋無垢で、いつまで経っても友達思いなサドと目を合わせられずにいた。そして、起こしていた体を倒し、布団へと潜り込んだ。



    るめ「……俺は行かねぇからな」



    〜〜〜


    とある兄弟は、白い大きな一軒家でいつものように迎え合わせになり昼食を食べていた。

    えぱ「ん〜!!やっぱしぇったんの飯はうめえな〜〜〜〜!!!!!」

    シェタ「……ふふ、そうかな?嬉しいよ。ありがとう、えぱ」

    シェタはそう言いいつもの様に優しく柔らかく微笑んだ。えぱは大好きな弟の作るビーフシチューを大きな口で頬張っていた。

    えぱがもう一口、もう一口と手を進めたその時だった。えぱのスマホから着信音が鳴り響いた。

    シェタ「……?……電話だよ。えぱ」

    えぱ「……あァ?」

    えぱはビーフシチューを口に運ぶ手を止め、心底不機嫌そうにスマホを手に取った。
    携帯画面に映っていた文字を読み取ったえぱは、またコイツかと言わんばかりの表情で電話を出た。


    ギギ「よォえぱちゃ」


    えぱ「お前ェエエェエエェエエ!!!!!!!!!!また愛しのしぇったん♡との癒しの昼食タイムをここぞとばかりに邪魔しに来やがってェエエェエエェエエ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!殺されてェのか!?!?!?!?!?!?!?!?!?テメェはよォ!!!!!!!!!!!!!!!」


    ギギ「まァ落ち着けってェ〜」

    えぱは電話に出るなり一言目から怒鳴り声を上げた。ギギは慣れてるかのようにえぱを宥めるも、癒しの時間を邪魔されたえぱの機嫌が治る様子は無かった。しかしギギは、そんなえぱの機嫌を気にすること無く話を淡々と続け始めた。


    ギギ「今度、また人数を集めてダストを捕まえに行くんだァ。二度と逃さねェ為になァ。
    そンでえぱちゃァんにも協力して欲しい訳だがァ〜、返事はどうだァ?えぱちゃァん」

    えぱ「………ってんだろ」

    ギギ「………あァ?」


    えぱ「……行くに決まってんだろ」


    ギギはえぱの返事を聞き、座っていた足を組み替え、電話越しにニヤリと笑った。

    えぱ「今度はぜってー逃さねェ。
    ……分かったンならこれ以上愛しのしぇったんとの時間を邪魔すんじゃねェぞクソカスボケギギがァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

    ギギ「……ハイハイ、……ありがとなァ」


    えぱは最後にそう怒鳴り、ギギとの電話を後にした。えぱはスマホをテーブルに置き、食べ途中であったビーフシチューを幸せそうに口へと運んだ。
    そんなえぱの正面に座っていたシェタは、何処と無く顔を顰めていた。シェタの表情の変化に気付いたえぱは、ビーフシチューを口に運ぶ手を止めた。

    えぱ「……?……どーしたの、しぇったん?」


    シェタ「……」

    シェタは珍しく黙り込んでいた。そんなシェタを目の前に、えぱは心配になり椅子から立ち上がり手をあたふたとさせた。

    えぱ「しぇっ、しぇったん!?そんな顔してどどどどうしちゃったんだよお!?!?な、なんか変なもん食ったか!?いや嫌なことあったのか!?俺が食事中にスマホ触ってたからか!?ごめんな!?今からこのスマホ割ってくるからちょっと待………」


    シェタ「……違うよ」


    えぱ「……へ?」



    シェタ「………兄さんは、その電話で何を引き受けているの?」


    シェタは真っ直ぐにえぱを見てそう言った。
    えぱはシェタからの思いもよらぬ言葉にその場で固まっていた。立ち上がり椅子にかけていた手を息を吐くと同時にゆっくりと降ろし、えぱは顔を少し俯かせた。


    シェタ「兄さん、その電話のお相手さん、この前僕らの家に来た人だよね。兄さんはその後僕に「少し用事があるから待っててな」って言って出て行ったよね。……で、その後兄さんは怪我だらけで帰ってきたよね。……僕心配だったよ。……今回もその事でのお話でしょ、……兄さんは何を引き受けてるの?」


    えぱ「……それは……」


    えぱは、俯いていた顔をゆっくり上げ、シェタから目線を逸らして話していた。
    シェタはダストが引き起こした過去3年前の事件で記憶を失っている被害者であった。シェタ自身でさえ、自分が被害者となっている事件を覚えていないのにも関わらず、今更全ての事を話すのはえぱとしても気が引ける事であった。
    えぱはシェタにもう二度と辛い思いをさせたくないのだ。
    えぱは拳をぎゅっと握り、シェタの方へと視線を変えた。



    えぱ「……ごめん、シェタ。
    ……シェタに詳しい事は話せない。シェタの事が嫌いだとか、何か隠し事してるだとかじゃなくてシェタが思うように、俺もシェタが心配だから。
    ……ただ、一つ言える事は命と隣り合わせって事ぐらい。だから今回も前みたいに怪我負って帰ってきちゃうかもしれない。……この前は何も言わずごめん、今回は先に言っておくよ。……だからシェタは心配しないで。俺は大丈夫だから」



    シェタ「……兄さんは」



    シェタ「……兄さんは、どうして自分を犠牲にしてまで、その頼み事を聞くの?」


    えぱは窓から漏れる明るい日差しに照らされ、ゆっくりと微笑み、シェタの方へと振り返り、いつもとは違う、小さな声でこう言った。



    えぱ「……みんなの悲しむ姿は、もう二度と、俺が見たくねェからさ」


    ーーー


    オムニは仕事に向き合っていた。何一つと聞こえない部屋で静かに、そして正確に書類を書き分けていた。そんな中、机の上に置かれたスマホからふと振動が伝わった。


    オムニ「………はい」


    ギギ「よォ〜〜オムニィ〜〜久」

    オムニは電話相手が喋っている途中で電話を切り、もう一度書類に手を伸ばした。そしてまた、スマホから振動が伝わった。


    オムニ「………はい」


    ギギ「おォ〜〜〜い、まだ喋ってねェのに切るなんて酷」

    オムニはもう一度電話を切り、スマホを自身の目に付かないところへと移動させた。そしてまた、オムニは書類に手を伸ばし黙々と作業を始めた。
    すると、静寂であった部屋にコンコンと音が鳴り響いた。オムニは扉の鳴らし方で誰かを察し、書類につける手を止め顔を上げた。


    オムニ「……どうぞ」


    シサ「オムニ兄さん、お仕事中ごめんね……。」


    オムニの部屋へ入ってきたのは弟であるシサであった。シサは一切れの小さな紙と、携帯電話を片手に持っていた。オムニはそれを見ると同時にはあ、と深い溜息を付いた。

    オムニ「……すまない、ボクが電話を取らなかったから。……手短に話してくれると助かるよ、ギギからの要件は?」

    シサ「そ、それが……えっと……」


    ~~~


    シサ『……はい!八葉家です〜……!』


    ギギ『よォ〜シサァ〜』


    シサ『ギギさん……ですかね、ご要件は……!』


    ギギ『オムニに伝えて欲しい事があンだァ〜、しっかり聞いといてくれよォ〜。オムニに仕事を付き合って貰うついでに助っ人を呼ぶ事にしたんだァ〜。かなりの戦力になる奴をなァ〜。だがそいつをまだ説得は出来てねェ、だからオムニに説得して貰おうと思ってなァ〜!!』

    シサ『え、えぇ!?!?!?ど、どういう事ですか……!?!』

    ギギ『用はめんどくせェ性格してる奴だからどうせならめんどくせェ性格してる奴に説得して貰おうって事だァ〜、お前の家に招待しといたからよォ、そろそろ着くはずだァ〜後はよろしく頼むなァ〜〜!!!』

    ~~~


    シサ「……って事らしい……です」



    オムニ「…………は?????」


    オムニは握っていた万年筆を力無く手放し、訳も分からず口をぽかーんと開けていた。
    すると、突然静かな家に、綺麗な鈴の音が鳴り響いた。


    シサ「……彼、ですかね」


    オムニは急いで椅子から立ち上がり、玄関の方へと向かいドアノブに手をかけ、向こうへと押し扉を開けた。
    そこには、随分と背丈の高い、十字架の簪を付け、左耳に2連のピアスの様な物を身に付けた、綺麗な水色に鮮やかなピンクのグラデーションの瞳を輝かせた若めの男性が立っていた。
    オムニは1歩後退りをし、扉を閉めようとしたが目の前にいる男性に扉をガッと掴まれ、その男性は笑顔でズカズカと玄関へと入ってきた。



    ワイド「あ〜、結構綺麗な家なんですね〜^^」


    オムニ「……帰ってくれないか」


    ワイド「え〜?俺の事呼んだの君達じゃ〜ん^^別に帰るなら帰ってもいいけど?俺興味無いし^^てか何?なんの為に俺の事呼んだの?^^ねえねえ^^俺今からトリスタンさんの事探しに行こうと思ってたんだけど^^ねえねえ^^」


    オムニ「……はああ……」


    オムニは額に手を当て、大きな溜息を付いた。そして玄関横にあった新聞を掴み、ガサツにワイドにへと渡した。

    ワイド「……なにこれ?」

    オムニ「……3年前の新聞さ。……それを読んで状況を理解してくれ」

    ワイドは新聞を広げ、まじまじと新聞の記事を読んでいた。途中途中飽きたのか、目で追うのを辞め、重要そうな部分だけを読んでいる様子であった。
    そんなワイドの態度を見たオムニは、つくづく不安になっていた。こんな奴が本当に戦力になるのかと。
    オムニはまたもや額に手を当て、はあ、と溜息をついた。


    ワイド「……ふーん。……研究所は放火、ね」


    ワイドは目を細め新聞の最後の記事を読み切り、新聞をぐしゃぐしゃと音を立てながら雑に折り畳んだ。そして新聞を玄関横へと置き、ワイドはニコッと笑いオムニの方へと視線を変えた。


    ワイド「……で、このダストって奴を捕まえるのに協力して欲しいって事?」

    オムニ「……まあ、そうなるんですかね」

    ワイド「ダストって子かわいい?^^」

    オムニ「…………」

    ワイド「ねえ、聞いてる?^^ダストって子かわいい?って聞いてんの^^ねえねえ^^聞いてるの?ねえねえねえ^^」

    オムニはワイドのだる絡みを完璧に無視し、「少し待っててください」と一言残しオムニの部屋へと繋がるワイン色のカーペットが敷かれた長い階段を、陽気に喋るワイドを残し静かに上がって行った。

    白いユリが飾られている玄関に1人取り残されたワイドは、胡散臭い笑顔をふと辞めもう一度新聞を手に取った。
    ワイドは何処か悲しげな瞳で新聞記事を見つめていた。そして過去の事を思い出すかのように目を細めた。

    ワイド「……世間はこんなにも被害者を出した大事な事件でさえ未まだ解決出来てないのに、……たかが児童虐待で警察が簡単に動く訳無いよな。」


    ワイド「……こんな大事な事件を知らなかったなんて、俺も世間知らずな父親と一緒か」


    ワイドは「はあ」と溜息を付き、新聞を丁寧に折り畳み白いユリが隣に置かれている木製の靴箱の上へと置いた。
    そして新聞を置いた靴箱の上へと肘を着き体重を乗せ、退屈そうに口笛を鳴らしオムニの帰りを待っていた。
    すると何か小さな写真のような物を片手に持ったオムニが階段から降りて来た。そしてワイドが肘を着いている靴箱の上へと静かに置いた。

    オムニ「……これがダストです」

    ワイドが待ってましたかのようにニコ〜と口角を上げ満足気かのように笑みを浮かべ写真を裏返した。
    写真を裏返しダストの正体を見たワイドは笑顔から眉間に皺を寄せた真顔になっていた。あまりにも理想とは程遠い姿だったのか、ワイドはワッと声を張り上げた。


    ワイド「ただのオッサンじゃん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

    オムニ「そうですけど」


    ワイド「え〜!!!つまんないつまんないつまんないつまんないつまんない〜!!!は!?何コイツ!!ただのオッサンじゃん!全ッッッ然可愛くないじゃん!!!!!こんなのじゃつまんないよ〜〜〜もっと可愛い子居なきゃやる気でな〜〜い!!!あ〜あ、な〜んかやる気無くなっちゃったな〜〜〜やっぱ帰ってトリスタンさんと遊んだ方がいいよ^^行くのやめようかな^^」

    ダストの姿を見るなりつまらないと嘆くワイドを目の前にオムニは静かに苛立ちを覚えていた。

    オムニ「(別にこんな奴居なくてもボク達だけでも解決出来る話なのでは……?)」


    オムニはそう思うと同時に、ワイドは何かを思い付いたのか突然無邪気な子供かのような笑顔を浮かべ、ハッと振り返りオムニに向かって指パッチンをして見せた。






    ワイド「あっそうだ〜!君が特別可愛い子用意してくれるなら着いてってあげてもいいけど?!」





    オムニ「………」



    オムニ「……は?」



    オムニは何処と無くどこかの友人と似ている条件を出てきたワイドに嫌気が差し、思わず眉間に皺を寄せていた。昔からの友人であれば聞いていたものの、先程会ったばかりのオムニとしては態度も喋り方も性格も何もかもが気に食わない相手であった。そんな奴の欲望でしかない望みをオムニはワイドと然程変わらない目線で拒んだ。


    オムニ「……こんな命懸けにもなるような任務に、そんな軽い気持ちで行く様な奴は必要無いんですが」

    ワイド「俺は特別可愛い子を抱けるのなら命懸けるって言ってんだけど^^」

    オムニ「………」


    オムニはワイドと会話をするのを諦め、苛立ちは呆れに変わっていた。目の前に居るワイドという人物は、どうしてそこまで欲に忠実なのかオムニは不思議で堪らなかった。しかし、それと同時にこんな奴がギギに推薦され戦力になるとまで言われた人物だと言うことに気が付いていた。オムニは綺麗な水色の瞳で、ワイドの怪しげな水色の瞳をしばらく見つめた。
    そして深い大きな溜息を着き、頭の後ろを面倒くさそうにかきながらスマホを片手にこう言った。



    オムニ「……好みは」



    ワイドはオムニのその一言を聞き、そして口角を存分に上げ非常に満足そうな笑顔を浮かばせた。
    オムニは態度や性格が気に食わなかったものの、ギギに推薦された人物がどれ程魅力的なのか知る為にワイドの素直過ぎる欲を受け入れる事にした。


    オムニ「……必要無いと思ったらその場で撃ち殺すので」


    オムニからの忠告を受けたワイドは、最後にニッと笑ってみせた。

    〜〜〜


    紺は目を覚ますと、小さい頃の記憶に近い見覚えのある天井を目にしていた。横たわっているベッドは普段とは程遠いふかふかで寝心地が良く、周りからピーピーと機械音のようなものの音が鳴り響き、窓からは太陽の日差しが横たわる紺を優しく照らしていた。


    紺「……(病……院……?)」


    紺は大きくて重いずっしりとした身体をゆっくりと起こし、周りを見渡した。
    紺は周りを見渡すと、ネオンの友人であるイブが隣のベッドですやすやと気持ち良さそうに眠っていた。イブの姿を見た紺は、やっとこさ昨日の事を思い出していた。

    紺「……(あァ、そう言えば昨日……色々な事があった気がすンな)」

    紺はそんな事を思いつつも、いつも通り煙草を吸おうとポケット辺りに手を当てたが腰周りにポケットは無く、もちろん煙草も没収されていた。
    紺はその場でしばらく固まり、小さな机の上に置いてある自身の財布を手に取り、面倒くさそうに頭をかき、紺はベッドからよっこらせと仕方無く立ち上がった。

    紺を纏っていたカーテンを開け、病室の扉を開けた瞬間、紺は何者かに勢い良く抱きつかれ後ろへと大きな音を立て転んでしまった。
    紺は完全に気を抜き、あまりにも突然の出来事だった為思わず怪我人ながらも元気で大きな声をあげた。

    紺「いッッッッッッッッッッてェ!!!!!!!!!!!!!」

    ネオン「兄さん!!!!!!!!!!!!!!」

    紺が頭を抑え、渋々顔をあげるとそこには実の弟であるネオンの姿があった。紺が出ていくと同時に兄の見舞いに来たネオンは思わず抱きついてしまったのだ。

    ネオン「兄さん、兄さん!目を覚ましたんだね、良かった、良かった…………!!昨日あれからずっと目開けないから……心配だった、良かった……良かった……!」

    ネオンは紺を強く抱き締め嬉しそうな笑顔と同時に沢山の涙を零していた。
    紺は突然の出来事に状況を理解するのに少々時間がかかってしまったが、ハッと我に返りネオンを優しく見詰め嬉しそうにそっと抱きしめた。


    紺「……あァ、ネオンかァ。……コッチは怪我人なンだァー、あンま騒ぐなよなァー。」

    ネオン「えへ、えへへっ……ご、ごめんね……兄さんが生きてて、嬉しくて、つい……!」

    ネオンは恥ずかし気にえへへと笑い、紺の手を引っ張り立ち上がった。そしてネオンは思わず抱きつく前の事を思い出し、慌てて話を振り戻した。


    ネオン「…あっ…そうだった。確か兄さん何処か行くところだったよね?俺が無理矢理引き止めちゃってごめんね。……兄さんも忙しいみたいだし、俺はそろそろ……」


    紺「……あンさ」


    ネオンがそう言い立ち上がると、紺は窓から見える桜の木を見ながら小さくぽつりと言葉を零した。
    そして、頭の後ろをかきながら、少し照れくさそうにネオンに微笑み、こう言った。



    紺「……もう少し、話していかねェか」



    紺からのその言葉は、兄として弟への初めての頼み事だった。
    ネオンは紺からの初めての頼み事に目を輝かせ、そして実の兄である紺と目を合わせた。
    実の兄から見る血の繋がった弟は、幸せそうに微笑んでいた。
    そして、子供らしくニッと口角を上げ、元気良く笑ってみせた。


    「もちろん!!」

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