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    EastBudTree

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    EastBudTree

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    忘羨ワンドロワンライ「宴」より。
    道侶となって初めての清談会。

    楽しい宴会 それは藍忘機に道侶が出来て初めての清談会のことだった。

     彼が清談会に出席すると言うことも大変珍しいというのに、なんとその彼の道侶が同席するという話は仙門世家に轟かせることとなり、その日行われる雲夢は出席者でごった返していた。
     ある者は好奇の目、あるものは畏怖の眼差し、あるものは怨嗟の視線、それらは全て彼、藍忘機の道侶に向けられた視線だった。
     その為、盲点だった。

     よもやあの雅正で品行方正の代名詞と呼べるような含光君が、宴の席で大乱闘を起こすことになろうとは。


    1.

    「誰だ!含光君に酒を飲ませた奴は!」

     それは魏嬰が少しばかり宴の席を外していたところに起きた出来事であった。
     宴の大広間の光景は、彼がほんの少し前に見た多くの仙師が酒を酌み交わす宴会の光景ではなく、ただの血なまぐさい闘技場であった。
     死屍累々、いや死んではいないが気を失って横倒れになった仙師が足の踏み場もないほど転がっている。
     魏嬰は足元のそれに顔を引きつらせると、声を張り上げた。

    「江澄!」
    「そこに転がっている奴に聞け!」

     幾人かの立っている人間の中に見知った顔を見つけ問いただそうとするが、当の人物が真っ当に答えてくれるわけもなく、魏嬰は足元のどれかをとりあえずは見てみたものの有象無象のそれらに天を仰いで諦めた。
     そうこうしているうちに、藍忘機が目の前にいる金家の若者の鳩尾に掌底を当て、こめかみに打突を食らわせたところで何かに祈った。とりあえず神ではない。
     ゆらりと、身体を揺らして虚な目で次の相手を探す様子の藍忘機に仙師は皆怯え、戸惑っていた。

    「魏無羨、お前の道侶だろう、なんとかしろ!」
    「またお前は、そんな無茶を」

     江澄の怒鳴り声に、魏無羨は頭を抱えた。
     はっきり言って、酔っ払いの藍忘機を制御するのは並大抵ではない。
     しかし、その藍忘機を止められるのも確かに自分しかいないのだ。
     意を決して魏嬰は次の犠牲者が出る前に彼の前に身を乗り出した

    「藍湛、俺だ、分かるか?」

     そう言って、わざとらしく戯けたように首を竦めて、魏嬰は気安く声をかけた。
     ゆっくりと、藍忘機の視線が魏嬰に向けられる。虚ろにさまよう視線が一点に定まった。

    「…魏嬰」
    「そう、俺…って、うわっ!」

     藍忘機は視界に魏嬰を捉えると、恐ろしい速さで軽々と彼を担ぎ上げた。

    「藍湛!?」

     丸太を担ぐように担ぎ上げ、藍忘機は雲夢の大広間をひょいと飛び出すと屋根を飛び上がった。
     その藍忘機にあっけに取られたのは江晩吟である。

    「藍忘機!魏無羨!!」
    「悪い江澄!あとは任せた!」

     屋根を見上げて文句を並び立てる江澄を尻目に、二人は屋根へ屋根へと登っていった。
      

    2.


    「で、なにがあったの藍哥哥」

     屋根の天辺に魏嬰を下ろした藍忘機はぎゅうぎゅうと魏嬰を抱きしめ続け、なんとか身体を捩って呼吸を確保した魏嬰は、優しく彼の頭を撫でてあやすようにそう尋ねた。

    「何も」
    「何も、ということは無いだろう?お前はいくら酔っていたとしても、何もやっていない奴に手を上げるような事はしないし、あいつらは俺の目を盗んでお前に酒を飲ませることを企んでいた、これでそうですかと言うほど俺はお人よしじゃないぞ」

     そう言う魏嬰を藍忘機はさらに抱きしめる手を強くした。

    「ぐえ、藍湛、藍湛!手加減をしてくれ」

     魏嬰の悲鳴でようやく彼を手放すと、藍忘機は小首をかしげて魏嬰の頬を撫でた。

    「傷が」

     よく見ると魏嬰の頬に微かな一本の線が入っていた。

    「ああ、俺もお前のこと言えないな。ちょっとひと暴れしてきたのさ」

     魏嬰が席を立った理由の元と、藍忘機に酒を飲ませたのは同じ人物だろうと、魏嬰は予想がついていた。
     江澄が「そこに転がっている」といった「そこ」には確かに転がっている仙師もいたが、さらにその横には怯えて戸惑っている綺麗な仙子もいた。

     つまりそういうことだったのだろう。

    「なあ、藍湛。今回どうして俺を連れてきたんだ。さすがにここまでとは思わなかったが、何か起こるのは分っていただろう?」

     何日か前にも同じことを何度も尋ねたが、藍忘機は頑なに理由を言わなかった。
     しかし、目の前の酔っぱらいが、とても素直なことを魏嬰は知っている。

    「ねえ、教えて藍哥哥」

     しばし戸惑った顔をしていた藍忘機だが、魏無羨が顎を撫でてやるとそれもすぐに陥落した。

    「君を見せたかった」

    「ん?」

    「私の道侶を見せたかった」

    「んん?」

     魏嬰は藍忘機の言葉が一つ聞こえるたびに、己の首が真横に傾くのが分かった。

    「ちょ、ちょっと待て藍湛。つまりお前はこの清談会に来たのって、俺を自慢したかったってこと?」

    「うん」

     魏嬰は今度こそ90度傾き、真横に転がった。
     転がって危うく屋根から落ちそうな魏嬰を藍忘機はひっぱりあげて懐に抱えた。

    「藍湛…そういうのは、心の準備をさせてくれ」

    「そういうのとは」

    「いやだから…いや、いい」

     藍忘機の懐で何か諦めたようにため息をついた魏嬰はごそごそと己の袖をまさぐった。
     そして現れたそれをにんまりと藍湛にさしだす。

    「下の宴はもう飲めそうにないからな、ここで飲もうか」

     そういって酒瓶を何個も袖から出してきた。

    「江澄には悪いが、宴は楽しいのが一番だ」

    にっこりと魏嬰は笑った。 
    そして、かちりと2人で酒瓶を重ねたのだった。


    【完】




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