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    イヌピーお誕生日おめでとう🎉

    フォロワー様からマロで頂きました『誕生日のプレゼント選びに奔走するココと誕生日自体忘れてるイヌピーのお話』です。

    ココくんの奔走具合がそこまで激しくないですが、とっても楽しく書かせて頂きました!

    お題ありがとうございました!

    イヌピー誕生日2022 バイクがいいって言ったのに、タクシーにしろと言われて渋々やってきた東京銀座。高級ブランドの路面店やデパートが立ち並び、スクランブル交差点は車がビュンビュン通り過ぎる。
     休日はこの交差点が通行止めになり、歩行者天国になるとココは言うけれど、オレにとってはバイクを走らせにくい道ということしか分からない。綺麗な身だしなみをしたセレブたちが行き交う街に、オレはタンクトップにパーカーを羽織って、寝ぼけながら履いたビーチサンダルに半ズボンという格好でココの隣を歩く。
     ドレスコードが必要だとか言われたら一発で追い出されてしまうような服装だが、ココはそうなったら「カフェでアイスでも食ってればいい」と気にしていない様子だった。
     とは言うものの、久々に来た銀座の街は華やかで楽しい。道路に面して飾られているディスプレイにはマネキンが新作のセーターやジャケットを身に纏ってこっちを見詰めている。ココはこういう高級ブランドの服とか靴とかよく買ってるけど、ディスプレイの中に配置されているのを見るとより高級に見える。
     あちこち目移りしながら歩いていると、急にココが立ち止まり、よそ見していたオレはココの背中に思いっきりぶつかってしまった。

    「痛っ!」

     ガツンと肩が当たってちょっと頭が冴えたようにも思えた。呑気に当たったところを手で摩っていると、振り返ったココはもっと痛そうに身体を丸めていた。

    「痛ぇじゃねぇよ! オマエ、オレの話聞いてたのか?」
    「……なんだっけ?」
    「ったく……もういい」

     ふい、と前を向き、ココはそのまま歩いて行く。あ、拗ねた。ちょっと面倒なことになったかな、なんて考えながらその後を追いかけて、離れないように隣を歩く。その間もずっとココの横顔を見て、機嫌が直るのを待った。
     昨日はバイク屋の開店五周年祝いだとドラケンの友達やオレの先輩がわざわざ店まで祝いに来てくれたからすっかり飲み過ぎてしまった。まだほんのり体内にアルコールが残っている感覚もあるし、眠くて欠伸が止まらない。
     わざわざ今日じゃなくても、と思ってもみたが、実際にココと出かける予定を入れていたのは飲み会が決まる遥か前。眠いから、という理由で断ったら怒ることくらい目に見えていた。
     とぼとぼと歩きながらピカピカに磨かれたディスプレイに映るココの横顔を眺める。前も見ずに歩いていると、流れるガラス中で最も派手なディスプレイに思わず足を止めた。よく見るブランドロゴがガラスの真ん中に大きく表示され、ベロア生地の真っ赤なソファに腰掛けたマネキンがロングコートを着て脚を組んでいる。だいたい、コートと言えばキャメルやグレー、黒のイメージだったが、そのディスプレイに飾られているのはオフホワイトと呼ばれる明るい色だ。大昔に二人で着たブラックドラゴンの特攻服に似ていた。
     懐かしいなぁ、とディスプレイを眺めて顔を近づける。不良はもう辞めたけど、特攻服とかヒールとか、あの時から好きなものは変わらない。仕事柄すっかり作業着に作業用ブーツばかり身につけるようになったが、休みの日はラフな格好だけでなく、お洒落してバイクを走らせるのもいいだろう。ココはこういうの、最初から好きでもなんでもないんだろうけど、同じチームで過ごした時に揃って着ていたあの特攻服は今でも特別だ。このコートもきっと似合う。そう確信して舐めるようにディスプレイに張り付いていた。
     そんな思い出に浸っていると、ふいに腕を掴まれる。ビクッと肩を震わせ横を見ると、前を歩いていたココが呆れた顔でこっちを見ていた。

    「ったく、このバカ!」
    「ココ?」
    「振り返ったらオマエいねぇから探しただろ!」
    「あ……ごめん」
    「ほら、迷子んなんなよ」

     自然と手が繋がって、ココに引っ張られる。大人の街のど真ん中で子供みたいに扱われて、でも手を離したくなくて掴み返す。ココは目立つことが嫌いなくせに、こうやって先導してくれるから、オレは居心地が良くて後ろを歩いた。何度見ても飽きない後ろ姿を追いかけて、人混みに紛れて手を繋ぐ。真昼間なのに、昔手を繋いで歩いた夜の廃墟にいるみたい。
     まばらに行き交う人の波を掻き分け、するする路地を潜り抜ける。大通りから少し中の道に入っただけなのに銀座とは思えないほど人が少なくなり、古びた看板を立てる喫茶店に向かって歩く。ビルの薄暗い階段を上がったところに古い喫茶店があり扉を引くと、カランカランとおもちゃのような音がしてウエイトレスの女性が入口を覗く。ココが軽く挨拶をすると、女性はにこやかに席へと案内し、テーブルにお冷とメニューを置いた。ココに手を引かれるまま中へ入ると、奥の席にオレを座らせメニュー表を開く。
     料理の写真を見ると、忘れていた空腹にタイミングよく腹がぐぅと鳴った。それを聞いたココは可笑そうに笑ってそのまま立ち上がった。

    「イヌピー眠ぃんだろ」
    「眠ぃし腹減った」
    「んじゃ好きなん食っとけ」
    「ココは?」
    「オレは買い物してすぐ戻る。だから食いてぇモン全部頼んでていいぜ。残しても後でオレが食うからさ」

     そう言うとココは店員に話を付け、また長い階段を降りていく。扉についた鈴がカランカランと音を鳴らし、静かになると店内は小さく流れていたジャズミュージックが聞こえて来た。
     写真に写るオムライスやサンドウィッチも美味そうだが、次のページにあるハンバーグランチやパスタも捨てがたい。ミートドリアも美味しそうだし、エビフライも最近食べてなかった。食いたいモン全部頼んでていいと言われたし、ココをビックリさせたくてオレはテーブルいっぱいになるほどの料理を注文する。食後のパフェまで頼んだところで店員がメニューを下げ、オレはポケットに入れたスマホを出した。
     ひとりだとつまんねぇしSNSでも見るか。ディスプレイをタップする。するとそこにはココからの着信履歴がたくさん残っていた。多分、ディスプレイを見ていた時だ。今更ながら、何も考えずにコートを見ていた事を反省する。
     ココの買い物は難しい。そう思いながら先に運ばれて来たメロンソーダのストローを咥えた。


     焦げ目が美味しそうなドリアに卵がぷるぷる震えるオムライス、野菜がちょこんと飾られたハンバーグにサンドウィッチと店のメニューのほとんどがテーブルに並ぶ。美味しそうな匂いにもう一度、腹がぐぅと鳴り、口から涎が垂れそうになった。ココの言葉に甘えて温かいうちに食べてしまおうとスプーンを手に取ると、再びカランカランと古臭い音がした。
     思わず顔を上げて入口を覗くと、少ししてからココが顔を出す。なんだか大きな紙袋を抱えて戻って来たココは、店員と何か言葉を交わしてテーブルへと戻って来た。
     そんなにも買うなら飯を食ってから行けば良かったのに、とは言わなかったが、ココが椅子に荷物を下ろし、向かい側に座るのを待った。
     秋だと言えど、昼間はまだ半袖でもいいくらいだ。ココは暑そうにシャツをパタパタ仰ぎながら席に座ってアイスコーヒーを頼み、並べられた飯を端から眺めていく。

    「ふぅ、間に合った」
    「先に全部食っちまおうと思ってたのに」
    「そしたらイヌピー、オレが食うの待つことになるんだぞ」
    「えー……」
    「ほらな、そう言うだろ?」

     だから急いで帰って来たんだよ。ココはそう言って舌を出した。

    「食うか」
    「おう」
    「うっしゃ、いただきます!」

     その合図にドリアを掬う。チーズが細く伸びてライスから湯気が漂う。口に半分入れてみるものの、熱くて一度出し、ふーふーと息を吹きかける。それから再び口に入れるとクリームの甘さが口に広がった。ココも美味そうにオムライスを頬張り、二人してあっちこっちと手を伸ばす。喫茶店の飯が美味いだけじゃなく、ココと一緒にテーブルを囲んでいるのがいいんだ。
     そんなことを思いながらも空きっ腹に物を詰める。食べることに集中していると、その最中で向かいのココは買ってきたショップバッグをゴソゴソと探る。白に黒字でブランド名が書かれたシンプルなショップバッグを手前に出すと、それをこちらに差し出した。

    「ん、これイヌピーの」
    「……オレの?」
    「誕生日だろ? プレゼントだよ」
    「……誕生日」

     そう言われて思い出した。そういや誕生日だった。食べていたパスタをちゅるんと吸い上げ、今の状況に驚いて固まっているとココは眉を寄せて難しい顔をする。

    「まさか、忘れてたのかよ」
    「この歳になったらひとつやふたつ変わんねぇじゃねぇか」
    「そーゆー問題じゃねぇって!」
    「つか、何これ。でっけぇ袋」

     きっと高いブランドだ。ココは買い物には躊躇いがない。だからこうやっていいものをくれるけど、オレは貰ってばっかでちょっとモヤモヤする。いつまでもココの金に頼ってるみたいで格好悪い気がして。しばらく渡された紙袋を眺めていたが、ココが早く開けろと急かしてくるからオレは食事を止めて紙袋を抱え直す。
     紙袋の口が開かないように貼られたテープを引っ張って剥がし、中から溢れるビニール袋を引っ張った。すると白いウール生地が顔を出し、さっき見たコートを思い出した。

    「さっきオマエが見てたやつ。確かにあのマネキンが着てるの格好良かったし、オマエが欲しいモン買ってやりたくて」

     そこまで言われてようやく気付いた。さっき見ていた白いコート。別にオレが欲しかったわけじゃなくて、ココとの思い出を振り返っていただけなのに。ココはオレが欲しいと思ったみたいだ。ぽかんした顔のままココを見るとココは楽しそうに笑って間抜けなオレを見ている。その笑顔を見てるとオレまでも胸の中が温かくなって、嬉しくて紙袋を抱き締めた。

    「気に入ったか?」
    「うん」
    「良かった。イヌピー誕生日おめでとう」

     誕生日なんて別にどうだっていいが、ココがこうやって祝ってくれるのは嬉しい。紙袋を抱えたまま食事の続きを再開し、昂った気持ちを抑えることが出来ず先走る。

    「ココは着ないのか?」
    「あ?」
    「このコート。ココが似合うと思って見てた」
    「え……オマエが欲しかったんじゃねぇの?」
    「格好いいとは思ってたけど自分じゃ買えねぇし」
    「……」
    「黒龍の時の特攻服みたいだろ? ココが着たらぜってー似合う!」
    「……」
    「また、ココと一緒に着たい」

     紛いもない本心にココは頬を赤く染め、照れ臭そうに鼻を掻く。ココも同じように思ってくれているのだろうか。強く願えば叶う気がしてテーブルに身を乗り出す。すると、ははっ、と声を出して笑ってココが目を細くした。

    「じゃあオレの分も買いに行くか?」
    「マジで!?」
    「ああ、でもちゃんと着ろよ。五十万すんだから」
    「ごじゅうまん……」
    「んな顔するな。イヌピーの誕生日だから特別。じゃ、会計するか」

     金額に驚いたがココは臆することなくポケットからカードを出した。あれだけ金のことを否定していたくせに、すぐにでも買い物に行きたくて、残りの料理と食後に食べるつもりだったパフェを口の中に掻き入れる。そして紙袋を肩にかけ、カードが返ってくるのを待った。
     店の扉を開けると、またカランカランと音が鳴り長い階段を下りていく。ココは相変わらず前を歩いて、オレはその後ろに続いた。下まで降りると秋の太陽がほんのり俺たちを包み込み、ぽかぽか身体を温める。その心地よさのせいにして、ココの肩に顔を乗せた。さりげなく腕を絡めて指と指をギュッと繋ぐ。近づくオレに狼狽えながらも、ココは素気ない素振りを取った。

    「ココ」
    「なんだよ」
    「お揃いのコート着てツーリング行こうな」
    「……おう」
    「ありがと」

     無防備な頬にちゅ、と唇をくっつけて今度はココの腕を引っ張る。呆気に取られたココは触れたところを手で押さえながら、先を歩くオレの後をついてくる。「おい、なんだよ、こんなところで!」なんて煩い声がするけど、今のオレは無敵だった。
     今年の誕生日はココと一緒に過ごした日々の幸せを上書きするみたいに幸せな一日になりそうだ。


    おわり
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    52mng

    DONE春香(仮)

    梵天軸・決別した二人がひょんなことから再開し、再び関係を築いていくお話。

    いぬ恋2を記念して去年の秋ごろからちまちま書いていた小説を先行公開します!

    シリアス色が強くココの出番が少なめです。
    関東事変による決別が二人のけじめであり、別れであるという公式からの栄養源にめちゃくちゃ萌えたので書きました。
    完成後はPixivに載せる予定です。
    春香(仮)二○一八年 四月──


    『小田原インターは現在、事故の調べのため上り八キロの渋滞です。東名高速道路上り、大和トンネル付近でトンネル工事のため十キロの渋滞となります。以上、交通情報でした。──只今生放送の途中ですが、速報が入りました。先日、渋谷のナイトクラブで起こった、乱闘事件に犯罪組織・梵天が関与していることが分かりました。被害を受けた四十二歳の男性はすぐに病院に搬送されましたが、昨日午前十時頃に死亡が確認されました。今年に入って梵天が関与している事件は三回目となり、警察は今までの事件との関連性を調査しています。また梵天の首領である佐野──』

     ブチっと電波の切れる音を遮るように店先につけていた風鈴がチリンチリンと大きく揺れる。春先の突風は地面の砂を巻き上げながら、花粉を遠くへと飛ばしていた。
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