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    52mng

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    遅くなりましたが5月に発行した
    『今夜、きみに会いたい』のイベント頒布分のペーパー小説です。

    イヌピー誕生日に何もなくて申し訳ないですが、
    少しでも楽しんで頂ければと思います。
    ただ内容は本を読んで頂いた方が分かりやすいと思います。

    『今夜、きみに会いたい』ペーパー「おばさん、なんて言ってた?」

     裸のままベッドに寝っ転がって乾がそう問う。純粋に見つめる瞳に耐えられなくなった九井はそっと目を逸らした。

    「あ〜……まぁ、うん……痩せてた」
    「……そっか」
    「やっぱ実家には帰れねぇな」

     温かく迎え入れられるとは思っていなかったが、環境が随分変わっていたことに九井自身付いていけなかった。
     考えてみれば当然だと思う。腹を痛めて産んだ息子が犯罪者になり、自分の都合で家に帰られても最早迷惑でしかない。
     抱き締められて、ほんの少しだけでも情が残っていたのだと分かったが、結局その後は虚な瞳で目も合わなくて、自分がどんどん追い詰められていった。
     実家に帰った方がいいと言ってくれた乾には申し訳ないが、しばらくは戻れないだろう。もし和解するなら、時間が必要だった。
     電気の消えた天井をジッと眺めて悲しいとか虚しいとかごった返す気持ちを渦巻いていると、そっと指が手のひらに重なり、ゆっくり、しっかりと繋がれた。

    「じゃあ、大学に受かったら一緒に挨拶しに行くか」
    「え」
    「おばさんビックリするぜ。自慢の息子だって喜んでくれる」
    「あんま期待すんなって。もう、昔みたいにはいかねぇって分かってるよ」

     諦めではない。自分がしてきた事実がそうさせてしまったのだ。乾がなぜそこまで親との関係にこだわるのかは分からないが、九井自身よりずっと気にかけていた。

    「ココ。オレ実はドラケンと店始めた時、お袋んとこ行ったんだ」

     乾は得意気にそう言う。

    「最初は居留守使われた。何時間か粘ったけど全然出てきてくんなくて。結局違う日にドラケンと一緒に挨拶行ったんだ。そしたらオレには会わないけどドラケンとは仲良くなっててさ……そっからちょっとずつ、会う回数を増やしてるとこ」

     繋がれた手のひらを握り直す。まるで大丈夫だと言われてるようで、思わずイヌピーの方を見てしまう。

    「だから大丈夫だ。ココにはオレがいるし、オレにはココがいる。受験が落ち着いたら会いに行こうぜ」

     優しくて、温かくて、なんだか泣きたくなった。窓から見える星たちが薄い膜で滲んで消えて、鼻の奥がツンと熱くなった。
     誰かがこんなにも想っていてくれるなんて、勿体無いほどの幸福ではないだろうか。

    「イヌピー……」
    「ん?」
    「なんで、そんなに……」
    「オレたちマブだって言っただろ」
    「……うん」
    「ココのためなら、それくらいたいしたことねぇよ」

     朗らかに笑う乾が大人の顔をする。いつだって救われていたのは九井の方だというのに、乾はためらいもなく尽くしてくれた。
     今は、すぐに前を向くことは難しくても、この手を離さなければ強くなれる気がする。
     そして自分の弱さも受け止めてくれるような気がした。

    「それに、おばさんだって本当はココに会いたがってるかもしんねぇだろ」

     どうしてそんな根拠のない自信があるのだろうか。勉強ならすぐに分かることが、自分のことになると全く分からない。足を踏み入れる恐怖というものが、欠落しているように見えた。
     乾は引き攣った顔をした九井を見て笑ってみせる。それまでもお見通しだと言うように。

    「オレがココに会いたかったみたいに、おばさんだってココに会いたかったのかもしれないだろ? でもムカつく気持ちもあるからこの前はあんな態度だったのかもしれないし、まだ全然分かんねぇじゃん」
    「まぁ……」
    「ダメだったら、その時は一緒に落ち込んで、また一緒に頑張ろう」

     折れてしまっていた心に絆創膏を貼ってくれたみたいだった。
     喧嘩して、傷だらけになって、痣が出来ても、いつか癒えるように心だって癒えていく。
     例え完全に元に戻らなくても、隣で手を握ってくれるなら、もう少し、もう少しと動き出せるから。

    「ああ……イヌピーがそう言うなら、頑張ってみようかな」

     ほろりと涙が頬を伝う。それを隠すように抱き締められた。
     隣に居てくれて、マブだと、好きだと言ってくれて、不確かなものに支えられて、今を生かされている。
     世界から全てを奪われたって、今手の中にあるものから新しい大切なものが生まれるということを、星になったあなたにも伝えたいと心からそう思った。
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    52mng

    DONE春香(仮)

    梵天軸・決別した二人がひょんなことから再開し、再び関係を築いていくお話。

    いぬ恋2を記念して去年の秋ごろからちまちま書いていた小説を先行公開します!

    シリアス色が強くココの出番が少なめです。
    関東事変による決別が二人のけじめであり、別れであるという公式からの栄養源にめちゃくちゃ萌えたので書きました。
    完成後はPixivに載せる予定です。
    春香(仮)二○一八年 四月──


    『小田原インターは現在、事故の調べのため上り八キロの渋滞です。東名高速道路上り、大和トンネル付近でトンネル工事のため十キロの渋滞となります。以上、交通情報でした。──只今生放送の途中ですが、速報が入りました。先日、渋谷のナイトクラブで起こった、乱闘事件に犯罪組織・梵天が関与していることが分かりました。被害を受けた四十二歳の男性はすぐに病院に搬送されましたが、昨日午前十時頃に死亡が確認されました。今年に入って梵天が関与している事件は三回目となり、警察は今までの事件との関連性を調査しています。また梵天の首領である佐野──』

     ブチっと電波の切れる音を遮るように店先につけていた風鈴がチリンチリンと大きく揺れる。春先の突風は地面の砂を巻き上げながら、花粉を遠くへと飛ばしていた。
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