【くわぶぜ】6畳一間の天国と地獄【ヘタウリちゃんです】僕の部屋は狭い。
平成初期の時代には最先端だったんだろう小さなアパートの一番奥にある6畳一間。キッチンと部屋の境目はなく、その分少しだけ広く感じるが、ベッドと座卓とそれ相当の本棚が入ればそれだけでいっぱいだ。
「なぁ、それ……終わんねーの?」
僕の部屋は狭い。
同居人の豊前と常に顔を見合わせて過ごさなければならないほどに……。
それは、ある意味天国であり、ある意味地獄でもあった。
「ごめんね。今日はもう少し時間がかかりそう。先に寝ててよ。」
僕は研究室から持ってきた資料を必死でまとめながら、ベッドの上に下着姿でコロコロところがる豊前から目をそらした。
「先に……寝てらんねぇ気分なんだけどなぁ……」
ベッドの上から、豊前の艶っぽいまなざしが投げかけられる。
言うと思った。
しかし、そう言われましても、譲れないものは譲れない。明日までに資料をまとめなければ、ちょっと留年だって視野に入ってくる状況だ。ここは心を鬼にして資料まとめに専念しなければならない。
豊前の眼差しから逃れるように僕は彼に背を向けて座卓に座り直し、ノートパソコンをぱちぱちとたたき始めた。
「むー……。」
豊前の不満げな声が聞こえる。しばらくコロコロと転がる音。そしてごそごそとなんだか動き回る音が聞こえてくる。僕はそんな豊前を無視してパソコンをにらんでいる。
「なぁ、桑名……見て……」
「だから、僕は忙しんだってば……わぁなに着てんの!」
ちょっとイラつきながら振り向いた僕の目に飛び込んできたのは、なかなかに刺激的な光景だった。
「どうだ、似合うだろ。」
ベッドの上に膝立ちになり下着姿で腰をくねらせてポーズをとる豊前。その上に羽織っていたのは、僕がいつも大学で来ている白衣だった。
忘れてた。洗濯しようと思って持って帰って来てたんだ。
僕サイズのそれは、豊前には少しだけ大きいらしく袖は萌え袖気味、ボタンは留めずにその薄い腹筋をチラチラとみせる煽情的な姿となっている。
「ちょ、ちょっとやめてよ!洗濯するんだから……。」
僕が引っ張って脱がそうとするが、豊前はそのままコロンとベッドに寝転がり、ニヤニヤと笑みを浮かべている。
「んー、お前の匂いがする。へへ、このままオナっちゃおうかなーー。」
めちゃくちゃ煽ってくるじゃん!
僕はソレに乗りたい気持ちをぐっと抑えて、しれっとそのままパソコンに向かう。
「別にいいよ。どうせ洗濯するんだし。」
「ふーん……。」
そのまま沈黙。
僕はようやく集中してパソコンへと向かい始める。
しかし、それもつかの間だった。
シュルシュルという衣擦れの音。
「ふぅ……ん……」という甘くかみ殺したような声。
にちにちと、湿ったような音の連続に、僕が思わず振り向けば。
豊前はその背中を小さく丸めて向こうを向いたまま小さく体を震わせていた。
「なに?ホントにひとりでやってるの……?」
「ンぁ…なんだよ、わりぃかよ……。」
僕がのぞき込むと、豊前はその白衣で自分のモノを握りこんだまま、ぷうっと頬を膨らませた。
「……いや、悪くないよ。頑張って。」
僕は平静を装いながら、謎の応援をすると、パソコンへと戻る。
部屋の中に僕のキーボードをたたく音と、豊前の小さく甘い嬌声が響く。
そんな時間がしばらく続き……。
「よし、終わり!」
僕がノートパソコンを閉じるのと、豊前が後ろから僕にとびかかりその唇を奪うのはほぼ同時だった。
「んんんんっぅうううう……ぷはぁ。」
長い長いキス。
腰には豊前の元気なものがこすり付けられている。
「豊前……。」
「やっぱダメ……。ひとりじゃイケねぇ。」
泣きそうな豊前の目元に僕はOKのキスをする。
「わかってる。僕も君が煽ってくれるから、結構限界。一緒に気持ちよくなろっ。」
僕は、豊前の肩から、真っ白な白衣をするりと脱がし、首元の黒子にやさしく吸い付いた。