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    いをる

    じゅじゅつのこばなし。
    75の民。

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    いをる

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    *五条先天的女体化*
    *妊娠ネタ*
    *子どもの父親は傑*
    *最終的には七五*

    「君にならできるだろ、悟」

     できねぇよ。誰がするか。バカ。
     頭の中で反響する言葉はどれもこれも私を苦しめる。

    「殺したければ殺せ。それには意味がある」

     できないって知ってたんだろ。どうせ。

     この感情は後悔だろうか。殺せばよかった?追い掛ければよかった?
     九月の往生際の悪い暑さは緩やかに体力を奪っていった。あまりに気だるく、机に突っ伏したまま黙って蝉の鳴き声を遠くに聞いていた。
    「ねえ、五条、ナプキンもってない?」
     家入が教室に入って来るなりそう聞いた。
    「持ってなーい」
     掌を振って応える。
    「はッ。使えな」
    「ひどい言い草だね」
    「保健室行ってもらってこよ」
     踵を返した家入が、ぴたりと動きを止めた。一拍おいて、いつもと同じさらりとした声で再び問う。
    「つーかさ、アンタ、最後に生理きたの、いつ?」
    「えっと……」
     任務で忙しかったから、生活のリズムが崩れているからと言い訳をしながらも、家入が付き添う形で高専の息のかかった病院で検査をすることになった。
     女の勘なんて曖昧なものではなく、五条の身体に起きた小さな変化に家入は気付いていたのかもしれない。
     五条は、大袈裟だよ。ただの夏バテじゃない?と呆れて笑い、その道中、家入は一度も煙草を吸わなかった。


    「妊娠されてから二か月ほど経過していますね」
     つわりなどの症状はありませんか?食欲は?眠れていますか?気になることがあったら、何でも言ってください。お父さんになる方とも一緒に来てくださいね。
     流れるような説明。柔和な笑顔を浮かべる女性医師に見送られて病院を出た。
     五条の中にあった漠然とした予感はこの瞬間、ある種、残酷な事実へと変貌を遂げた。
    「意外と普通だね」
    「まあね。正直、何となくそうかもって思ってた」
     答えを得て、楽になりたかったのかもしれない。
    「あのさ、確認だけど、アイツとの子……なんだよね」
     習慣づけられた動作でポケットの中の煙草を探り当てた家入は、小さく舌打ちをして掌の中にある箱を握りつぶした。
    「うん。相手は傑。私、誰とでも寝るような女に見える?」
    「あのクズ、どこまでも迷惑掛けやがる」
     夏油傑。五条と家入にとっては同期の呪術師であり、つい先日、特級呪詛師として処刑対象になった男だった。
    「傑だけのせいじゃないでしょ。避妊はね、気をつけてはいたんだけどね、」
     『失敗した』というのは違う気がした。確かにそこに宿った命に失礼な気がしたから。
    「で、どうすんの」
    「どうするとは」
    「どっちにしたって、決断は早い方がいいよ」
     家入はすぐ横の五条の顔を見た。整った横顔はずっと遠くを見つめながら、その実、その目は何も映していないのかもしれない。
    「またまた、わかってるくせに」
     口元を歪めて笑った。殆ど、自傷行為じみた笑みだった。
    「とりあえず、夜蛾センセーに報告するか」
    「そうだね。ねぇ、硝子……」
     凛と澄んだ声だった。
    「産むよ」
     透明度の高い瞳が揺らぐ、燃える。
    「ん。その言葉が聞きたかった」
     喉の奥で小さく笑う。短い決意の言葉に五条悟の『らしさ』が垣間見られて、家入は嬉しかった。


     あの家入と五条がアポイントを取ったことに夜蛾は少なからず驚いた。
     人払いが済んでいる場所がいいとのことで、誰も寄りつかない校舎の奥に位置する生徒相談室を指定し、二人の到着を待った。

     約束の時間を迎え、パイプ椅子と長机が並んだその部屋に三人はいた。
    「珍しいな。お前達がきちんと手順を踏むとは」
     夜蛾の前で行儀よく座っている二人の顔を見比べ、きっといい話ではないのだろうと、タカを括った。
    「五条、言える?」
     家入が珍しく気遣わしげに、俯き加減の五条の顔を覗きこむ。
    「うん。大丈夫だよ」
     か細い声でそう言って、深呼吸を一度。
    「妊娠した。子どもの父親は傑だ」
     真っ直ぐな瞳には一つもふざけた様子がない。
    「なに?」
     さしもの夜蛾も短く言ったきり、言葉を失った。
    「二ヶ月だって」
    「ジョークじゃないよ。医者にも診てもらった」
     家入が言うが、決して疑っているわけではない。事実を咀嚼し、飲み下すのに時間がかかっている。
    「どうするつもりなんだ」
     やっとのことで呟いた。
    「当然、産むよ」
     そこでなんだけど、と五条は現実的な話をするトーンに声を上げた。
    「どこかに匿ってもらえないかな、って」
     高専御用達とはいえ、民間の病院を受診したことから情報が洩れる可能性もある。
    「子どもが生まれるまでの間か」
    「うん。バレたらまずいでしょ。特に上の連中に」
    「結界を組めば、隠蔽は可能ですよね。何処かいい場所ありませんか?」
     家入の追撃に夜蛾は頭を抱えた。
    「硝子、オマエ、」
    「私はコイツの味方をすることに決めたので」
     サムアップの指先を隣の五条に向ける。梃子でも動かないと言わんばかりだった。
    「隠れて子どもを産んだとして、その後はどうするつもりなんだ」
    「当然、私が育てる」
    「一人でか」
    「硝子だっているし、金もある」
     確かに、独りではないし、資金面も心配はないだろう。
     そういうことが言いたいんじゃない。と、夜蛾は二人を見た。
    「隠れて生んだ子をずっと日陰においておくのか」
    「そんなことあるわけない」
    「周りは黙っていないだろう」
     五条悟の血を継いだ子となれば、尚更。
    「生まれてくるのはオマエの子だ。わかるだろう。五条の正当な血筋だ」
     夜蛾の言葉に五条は小さく反応を見せた。
    「何が、言いたいんだよ」
    「言わなきゃわからんとも思えんな。生まれてくる子はお前ほど強いのか?」
     覚えがあるだろう。と声を低くした。
    「命を狙われるぞ。目が眩むような大金を懸けられてな」
    「だから、最初の内はどこかに隠して」
    「お前が任務にあたっている間もか。硝子だって卒業すれば忙しくなるだろう」
    「それは、」
    「それがいつまでもつと思う。お前が姿を消せば、嗅ぎまわる連中だって出てくる。いや、もしかしたら、もう動いているかもな」
     どうする?と夜蛾に言われて唇を噛む。
    「四六時中一緒にいるか?無理だな。隠すことと矛盾する」
    「実家は頼れない。頼りたくない……」
     きっと、生まれた瞬間に引き離される。乳母だの何だのが育てるに違いない。自分がそうだったように。それは、絶対にいやだった。
    「この子は私の子だ……」
    「でも、案がないわけじゃないですよね」
     割って入るように、家入が静かに言った。
    「コイツ、今あんまり余裕がないんで、試すようなマネしないでください」
     細い指先が苛立たしげに机を叩く。
    「五条と子供を隠すという考えが浅はかだったことは、よくわかりました」
     いつの間にそういう目付きを覚えたのだと、夜蛾は彼女の評価を改めた。
    「仮にも妊婦なんです。ストレスかけるの、やめてくれます?」
     澄み切った怒気を孕んだ声だった。
    「私たちは、本気です」
    常に冷静なのは変わらないが、友人のために怒ることができる。
    「そうか。悪かったな。これも教師の性でな」
     強くて見込みのある者は、千尋の谷の淵に立たせたくなる。
    「硝子の言う通りだ。案がないわけじゃない」
    「何だってする」
     蒼い瞳に強い意志がありありと浮かぶ。
    「これはデカい賭けになるぞ……お前が身籠っていることを公にする。その上で厳重な結界内で匿う」
     五条と家入の二人は息を飲んだ。
    「老人たちに知らせる。父親が誰なのかについても話す」
    「……それで、この子は助かる?」
     目線を腹部に落として五条は呻くように、声を絞り出した。
    「連中の前で経緯について詳らかにする必要があるが」
     五条の胎から出てくるものへの興味を引くことができれば、あるいは。
    「はは。上等だよ。どの体位でフィニッシュしたかまで教えてやるっての」
     しっかりと覚悟を決めた顔。悪童の強い眼差しで五条は言った。
    「わかった。上への連絡役は俺に任せてくれ。日程については、また追って連絡する」
     また一皮剥けたな。と夜蛾は目の前に座る二人の表情を見た。


     ああ、これが『つわり』ってやつか。視界が暗く塞がれるのを感じる。
     夜蛾に妊娠を報告した数日後だった。日差しが強く差し、容赦なく体力を削いでいくのがわかる。目指す校舎の昇降口まではあと少しだった。
     五条は夏バテと思い込もうとした体調不良への認識を改めた。腹部の不快感、吐き気と眩暈。つわりだと思った瞬間から症状が重くなったような気がする。
    「クソッ」
     一人で悪態をついて、その場にしゃがみこむ。こんな情けない姿を誰かに見られたら。
    体に力が入らない。額に滲む脂汗がこめかみを伝ってぽとりと落ちた。
     動け、動けよ。動けったら……
    「五条さん!?」
     誰の声だろう。声の主が遠くにいるのか、近くにいるのかも分からない。
    「どうしたんです?」
     悪あがきするような晩夏の陽光を背に受けた男の姿。
    「なな、み?」
    「大丈夫ですか?熱中症かな」
     日陰に行きましょう。と七海は、五条の腕を自らの肩に回して腰を支えて立ち上がらせると、すぐ近くにある木陰のベンチへと移動させる。
     存外逞しい腕に五条は少しばかり驚いた。
    「ちょっと待っていてくださいね」
    「だいじょうぶ、だから」
    「すぐに戻ります」
     五条の言葉など聞いていない風で、七海はどこかへ走り去ってしまった。
     硝子を呼びにいったのかな。と頭の隅で考えた数分後、七海は再び同じ場所に姿を現した。
    「ポカリ、飲めそうですか?あと、これ、濡らしたタオルです。首元冷やしてください」
     甲斐甲斐しくも、キャップを開けたペットボトルを差し出して、ひんやりと冷えたタオルを五条の首に巻いた。
    「少し落ち着いたら、医務室行きましょう。付き添います」
     相変わらず熱中症だと思っているのが、少しだけおかしかった。
    「本当、大丈夫だからさ」
     紙のように白い顔でそういったところで、七海に対しては何の説得力もなかった。
    「病気じゃないから」
     よせばいいのに。何故だろう。聞いてほしかった。この男ならば、信頼に足ると、そう思った。
    「術式の使い過ぎ、とかですか?」
    「ううん。つわり。実は今ね、妊娠してんの」
     「昨日からちょっと風邪っぽくてさ」と言う時と何ら変わりない抑揚で。
    「は?」
     その時の七海の顔ときたら。元気だったら、からかってやるのに。うまく言葉が紡げずに五条は唇の端を僅かに歪ませただけだった。
    「五条さん、そういった冗談は」
    「本当だよ……本当、なんだ」
     鼻の奥がツンと痛くて、視界が揺らぐ。
    「傑のね、子どもなの」
     泣くな。唇を噛みしめた。何故だか急に胸が苦しくなる。
    「夏油さんの」
     二人が交際していることは七海も知っていた。悪ふざけしているかと思えば、互いに慈しむような眼差しを結ぶ。それが、ついこの間まで二人にとっての日常だったはずだ。
    「夏油さんは知っているんですか?」
    「まさか。連絡手段なんてないんだから」
    「そうですよね。すみません……それで、その……産むんですか」
     真に迫る表情と声色で七海は言った。
    「どうしたらいいと思う?」
     試すような目で横目に見た。少しばかり調子が戻ってきたようだ。
    「どうって……五条さんの体の事ですから、私がとやかくいう権利はないことはわかっています。出産は心身に大きな負担をかけることだと思いますし……でも、その」
     まどろっこしく、迂遠で、それでいて最大限の配慮を感じさせる。七海の必死な様子に、五条は小さく噴き出した。
    「ふふ、正解」
    「はい?」
    「私も七海と同じ答えになった」
     うまく笑えていただろうか。五条は困惑に揺れる孔雀色の瞳の奥を見た。
    「産むよ。硝子も夜蛾先生も協力してくれるって」
     一人じゃないんだから。大丈夫。できるよ。と両手でペットボトルを弄ぶ。
    「私、最強なんだから」
    「でも、それ以前に一人の女性だ」
     複雑な感情を宿した目だと思った。怒りとも、憐憫とも違う。何の色だろうと、五条は不思議に思って彼の顔を見つめた。
    「私も力になります」
    「そ。例えば、どんなことをしてくれるのかな」
    「それは……えっと、重い物を代わりに持ったり、とか」
     途端に自信を失ったような弱い声で言う。他にどんなことが自分にできるだろうと考える。
     それは頼りになる。と五条は頷いた。
    「やっぱ、ひどくならない内に寮に帰って寝るわ。色々、ありがとね」
    「あの、送りますよ」
    「大丈夫だよ」
    「送ります。またさっきみたいに蹲って動けないでいたら、赤ちゃんに障りますよ」
     お腹の子に言及されると、強くは出られない。
    「じゃあ、おねがいしようかな。優しいね、七海」
    「当然のことをしているだけです。誰だってそうします」
    「そっか。ありがとう」
     素直に礼を言われると、何だか調子が狂うな。と七海は普段の五条の姿を思い浮かべて頬を掻いた。


    「おかえり。はは、ひっでぇ顔」
     家入は七海が何も知らないと思っている。内心では不安に思う気持ちが強かったが、表情には出さぬように、帰ってきた五条を玄関先で迎えた。
    「でしょ。つわりヤベえわ。完全にナメてた」
     その言葉に思わず目を丸くした。
    「おい、それ」
    「七海には話した。だから大丈夫」
    「……なら、いいんだけど。具合悪いならすぐ呼べって言ったでしょ。アンタ一人の体じゃないんだよ」
    「間に合わなかった。でも、七海が来てくれたからセーフ」
     五条の妊娠は未だ伏せられている。近日中に公になるが、それまではその事実を知るのは最少人数にとどめておきたいのが家入の考えだった。
    「七海はさ、口堅いでしょ」
     信じてるから。と五条は斜め後ろの七海を肩越しに見た。
    「ポカリありがとね。調子よくなったら飲ませてもらうよ。タオルは洗濯して返すから借りとくね。あと、お礼に今度なんか奢る。じゃあね」
     手を振って五条は寮の奥へと消えていった。小さくなる背中を七海はじっと見つめていた。
    「やっぱ、わかりやすいね。七海」
    「はい?」
    「こっちの話。うん。悪くない」
     喉の奥でくつくつ笑う。
    「アイツ、ちゃんと着替えてから寝るかな」
    「大分、汗をかいているようでした。体を冷やしてしまうかも。私も最初は熱中症だと思って冷やしたタオルを渡してしまいましたし」
    「オッケー。様子見てくる。じゃあ、今後何かしら頼み事するかも!」
     そう言い残して、家入は五条の後を追った。
    「……あれ。そういや、何をしようとしていたんだっけ」
     一人残された七海は頭の上に疑問符を浮かべた。


     五条が七海に秘密を打ち明けてから二日後。この日の夕刻、件の会合の場が設けられることが決まり、夜蛾からその報がもたらされたのが数分前。家入は、ある人物を探していた。
    「お、いたいた!七海!」
     あちこち探しまわり、最終的に校舎の廊下で見慣れた金髪の後頭部を見つけて、声を掛けた。
    「家入さん。お疲れ様です」
    「お疲れ。突然で悪いんだけど、この後ヒマ?」
     常の彼らしく静かな佇まいで、七海は一度頷いた。
    「特に任務や座学は入っていませんが」
     よし。と見えない角度で拳を握りしめる。
    「あのこと、上のじーさんたちに話すことになった。ついさっき決まってさ」
    「五条さんの件ですか?」
    「そう。もっと前もって言えよっての。嫌われてるからな、アイツ」
    と家入は五条の姿を脳裏に浮かべた。
    「そうでしたか……えっと……」
     ただの報告ではなさそうだと肌に感じる。
    「まぁ、アレでも妊婦だからさ。信頼のおける人間を一人付き添わせるって、話になって」
     近頃、煙草をやめたらしい家入がガムを咀嚼する。清涼感のあるミントの香りが淡く広がった。
    「七海、どう?やってみない?」
    「私がですか?それなら、女性同士ですし、家入さんが適任なのでは」
     思わぬ白羽の矢に、七海は目を丸くした。
    「いや。女二人で行ったって、ナメられるだけだよ」
    「高専の小僧がついていっても同じことだと思いますが」
     尻込みをしている自覚はあった。この一歩を踏み出せたら。
    「それもそっか。無難なところで、夜蛾センセーにお願いするか」
     もしかしたら、家入さんは、私の心中に気が付いているのかもしれない。だから、その役目を私に宛てようとした。
    「本当にそれでいいんだね。七海は」
    「……それは、」
     力になると、あの日、彼女に言ったではないか。あの言葉は社交辞令などではない。掌に爪が食い込むほどに拳を握りしめる。
    「私にできるでしょうか」
    「さて、どうかな。でも、オマエけっこう肝が据わってるからね」
    いけんじゃない?と家入は言った。突き放すような冷たさはなかった。


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    Replies from the creator

    いをる

    MAIKING*五条先天的女体化*
    *妊娠ネタ*
    *『最後の恋をはじめよう』の続編*
     キミのお父さんになる人は、温厚篤実。とても真っすぐで誠実で、ちょっとお堅いところもあるけど、私のことが大好きで、キミのことも大切にしてくれる素敵な人なんだよ。

     午後十時。灯りを落とした部屋の中で目を開けた。寝つきが悪い時は決まって、お腹に向かって語りかける。返事はないけど、きっと聞こえている。
    「たいくつだね」
     声が聞きたい。枕元に置いた携帯電話を手にした。
    「いいのかな。電話しても」
     時間帯としては遅すぎるということもない。きっと、まだ七海も起きているだろう。でも、任務帰りで疲れているかもしれないし、明日は早い時間に出る可能性もあるし。
     画面に表示された名前と電話番号を見つめながら逡巡の時間が延びていく。
    「いいんじゃないかな……電話しても」
     婚約者なのだし。と自らの立場を強調して納得させて発信ボタンを押した。
    『こんばんは』
     三コール目で相手は出た。
    「こんばんは」
    『ちょうどケータイ見てました。一コール目の途中で出たら、食いつきすぎかと思って我慢したんです』
     息を漏らして笑う声が微かに聞こえた。
    「ネタばらししたら意味ないじゃん」
     低くて透き通った声。自然と鼓 8255

    いをる

    MAIKING七五♀妊娠ネタの初夜を書き始めました。「五条さん、バニラとピスタチオとレモンなら?」
     冷凍庫を開けた七海の問いかけに、
    「うーん……バニラとピスタチオと……レモンかな」
     眉間に皺を寄せ、顎に手をあててやっとのことで答えを絞り出した。
    「ははは。夜も遅いので、少しずつにしましょうか」
     昨日買ってきたジェラートをガラスの器に盛り付ける。
    「どうぞ」
    「ありがとう。あ、七海も全部盛りじゃん」
    「はい。お揃いです」
     並んでソファに腰を下ろして、三食ジェラートに舌鼓を打つ。
    「おいしいね」
    「初めて入ったお店でしたが、正解でしたね」
     さっぱりとした甘みとバニラの香り、混ぜ込まれた小さな氷の粒が軽やかな食感を生む。
    「今度、チョコとかキャラメル味が食べたいな」
    「リクエスト、承りました」
     レモンのソルベを口に含み、冷たさと甘酸っぱさに眉を寄せる。
     ふむ。初めてのお店。初めて……初めて……
     言ってもよいものかと、少し悩ましくはあるけれど、
    「ねぇ、七海は溜まってないの?」
     五条の問いかけに、ことりと小首を傾げて見せた。
    「溜まる?疲れですか?任務と座学の両立は難しいですが、今のところは特には」
    「ううん。それじゃなくて 1693

    いをる

    MAIKING*五条先天的女体化*
    *妊娠ネタ*
    *子どもの父親は傑*
    *最終的には七五*
    「君にならできるだろ、悟」

     できねぇよ。誰がするか。バカ。
     頭の中で反響する言葉はどれもこれも私を苦しめる。

    「殺したければ殺せ。それには意味がある」

     できないって知ってたんだろ。どうせ。

     この感情は後悔だろうか。殺せばよかった?追い掛ければよかった?
     九月の往生際の悪い暑さは緩やかに体力を奪っていった。あまりに気だるく、机に突っ伏したまま黙って蝉の鳴き声を遠くに聞いていた。
    「ねえ、五条、ナプキンもってない?」
     家入が教室に入って来るなりそう聞いた。
    「持ってなーい」
     掌を振って応える。
    「はッ。使えな」
    「ひどい言い草だね」
    「保健室行ってもらってこよ」
     踵を返した家入が、ぴたりと動きを止めた。一拍おいて、いつもと同じさらりとした声で再び問う。
    「つーかさ、アンタ、最後に生理きたの、いつ?」
    「えっと……」
     任務で忙しかったから、生活のリズムが崩れているからと言い訳をしながらも、家入が付き添う形で高専の息のかかった病院で検査をすることになった。
     女の勘なんて曖昧なものではなく、五条の身体に起きた小さな変化に家入は気付いていたのかもしれない。
     五条は、大 6868