「孝支くんは、はいしか言っちゃ駄目ね」
「孝支くんとかキモいし、何」
及川が烏野の正門まで毎度出向いてくるから、今日は俺が青葉城西の正門で先に待ち伏せをしていた。
えっ嬉しいとか言われても、だってお前がこっち来ると女子が騒いで煩いし、その女子に笑顔振り撒いてるの見てるとウザいし、待たせてた相手が菅原!? とかみんなの注目浴びちゃうし、モテる彼氏を自慢しなよとか言うけど無理ったら無理。慣れない。
「孝支くん、迎えに来てくれて嬉しいけど、もっとヘラヘラして待ってて」
「はあ?」
「男前過ぎると女子が寄って来ちゃうでしょ」
「それはお前――」
と言い掛けて、言ったら及川を男前だと認めてしまうようなもんだからムググと口を噤む。
「あと、トビオ筆頭にバレー部の後輩にもっと厳しくして。ていうか、後輩にするみたいに俺にも接して」
「……なんなの、優しくして欲しいの?」
「そう! 俺だけに優しくして!」
「無理ぃ~」
「それで――こっからは、手ぇ繋いで帰ろ?」
及川の家と俺の家は結構離れてる。
でもお陰でこれが、毎日のデートというか、まあ……メンドクサイやつだけど、手とか繋がれると、リードするのは及川で。
「孝支くん、及川さんのこと好きでしょ?」
なんて、女子を卒倒させる笑顔が間近に迫る。
「……そういうの、ヤメロ」
"はい"って言ってよ~とか、わざとらしく困り顔をするけどそんなの、こっちの隠しようもない火照った顔見れば分かるだろ!
ばん! と鞄で及川を殴って、乱暴になるのだって、まるで何でも分かってるオトナみたいなお前が悪いんだからな!