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    enochifox

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    モブ視点

    秀百々 恋した二次元のキャラは何人かいても、三次元の男には興味が無かった私が最近推している子たちがいる。
     都内の有名生徒会長がアイドルユニットを組んだC.FIRST。全員生徒会長というそれなんてラノベ? とツッコミたくなる共通点を持った三人だけど、三者三様でついているファン層にも違いがある。二次元の子たちと同じくグッズの売れ行きを見れば人気差が見えてくるもので、一番ファンが多いのは百々人くん。アイドルなだけあってみんなイケメンな中でも一際甘いマスク、チャームポイントのハートの泣き黒子。極めつけにファンサービスが良い。ミーハー人気が特に高いのがこの子だと思う。
     次に人気なのが鋭心くん。ご両親が有名俳優なだけあってデビュー当初から注目されていて、いざ映画出演すると見事な演技に魅了された人もいる。見た目からお堅い人間かと思えばバラエティでも案外ノリが良くて、ギャップに落ちたと二次元オタクしてた頃からの同志が語っていた。鋭心くんのファンは一見落ち着いているけどガチ恋も多い印象だ。
     そして三人の中じゃ一番人気がない、と言うと悲しくなるので私が一番推してるのが秀くん。C.FIRSTのリーダーでユニット最年少の彼は天才を自称するだけあってソツがない。鼻につくという意見が出るのも理解できるけど、彼よりも幾らか《﹅﹅﹅》お姉さんな私から見れば可愛いものだ。私が彼を推しているのはアイドルデビュー前の楽曲制作してた時から好きだったからだ。オタクらしくそれなりに動画投稿サイトを巡回していた私がたまたま辿り着いたのが秀くんの曲だった。アニソンくらいしか聴かない私にはコメントのEDMの意味がよくわからないがとにかく惹き込まれる曲だった。まだ逐一情報をチェックする程に彼にハマってなかった私はアイドルデビューすると聞いてたまげたものだ。どうなるか不安だったけど実際に曲を披露する姿に沼に突き落とされて今に至る。
     三人はそれぞれSNSアカウントを持っていて、日に何度か更新するのが秀くん。一日に一回は何かしら投稿するのが百々人くん。週に数回、業務連絡のような更新をするのが鋭心くん。秀くんは楽曲を作ってた時にフォローしたアカウントを継続して使っているけど、百々人くんと鋭心くんは新しく始めたのをフォローする形になった。秀くんは今どきの子らしく自分や先輩たちとの写真をあげるけど、たまに百々人くんや鋭心くん、他の315プロダクションの子の投稿からも供給があるのでチェックは欠かせない。
     ポコンとロック画面に現れた通知が秀くんの更新を知らせる。早速SNSを開くと先日出演した番組で紹介していたパスタを作ったという投稿。
     ん……?
     ごく普通の料理写真なのに、もやもやする。レストランで出されるような白い楕円の深皿にトマトベースのソースが平麺のパスタに絡み合ってくるりと巻かれて盛り付けられている。上にはイタリアンパセリが飾られて写真映えもバッチリだ。何もおかしなところはないのに、引っ掛かかるのはどうしてだろう。原因はわからないままその投稿にいいねを付けた。

    ****

     疲れた。もっと自分よりも大変な仕事をしている人がいるとは思うけれど、それはそれとして疲れるものは疲れる。カレンダー通りに働く人間の金曜は早く帰りたくて仕方がない。でも今日はほんの少しだけ楽しみなことがある。新曲の告知を兼ねて秀くんが三十分ばかりSNS配信を行うというのだ。そのために絶対に残業しないように仕事してきたし、ニコニコ定時でタイムカードを切った。つまみと酒を用意して準備はOK、パソコンの前で開始を待つ。
    『……こんばんは。配信やるの、久しぶりでちょっと手間取った。映ってる? ……ん、コメントありがと』
     スマホの内カメラ、下からの角度で秀くんの顔が画面に広がる。この角度から見てもブスにならないのは流石アイドル。デビュー前は頻度は多くなかったけど顔出し無しで配信していたけど、事務所に所属してからは勝手にやるわけにもいかなかったのだろう。“こんばんは。見えてますよ”とキーボードを叩いて送信する。
    『カメラ配信初めてだから見にくかったらごめん。変なの映ってても見なかったことにして。知ってると思うけど、俺たちC.FIRSTの新曲が〇時ちょうどに先行配信始まるから今日はその告知。本当はちゃんと事務所のチャンネルでやれたら良かったんだけど先輩たちの都合が付かないから俺だけでこんな形でやることになったんだ。もう視聴は聞いてくれた?』
     “聞いたよ〜!カッコよかった!!” “フルの歌詞はどうなるかな?” “生で浴びるのが早くも楽しみです” “カップリング曲は?”コメントがだーっと流れていく。全部は拾えきれてないだろうけど秀くんはそのコメントに満足気な顔をしている。
    『配信見てる人で聞いてない人はいないと思うけど、流すからしっかり聞いて』
     カチ。マウスのクリック音がした数秒後にバチバチにBPMが速いイントロが流れ早口のラップから始まる。C.FIRSTの若さ溢れるパワーのある歌声は格好良い曲がよく似合う。あと数時間のフル配信が待ち遠しい。
    『俺も先輩たちも本気で歌ってるから覚悟しててよ。……ここからは雑談配信になるけど、何か俺に聞きたいことある?』
     “夕飯何食べた〜?” “百々人くんと鋭心くんは仕事?” “聞いて欲しいポイントは?”真面目なものからプライベートに踏み行ったものまで質問が流れていく。そこにぽつんと投稿された一件のコメントが私の目に留まった。
     “ヘアピン、百々人くんのですか?”
     角度のせいでわかりにくいけれど、言われてみれば今日の秀くんは左耳の上側で髪の毛を留めている。チラチラと映る赤色がヘアピンだろう。
    『夕飯? 肉じゃが。先輩たちのことは内緒。あ、でも百々人先輩はこの配信見てるかもしれない。聞いて欲しいのはサビのソロパートかな。ああ、これ? ちょっと伸びてきてダンスレッスンで邪魔だと思ってたら百々人先輩が貸してくれたやつ。もう外してもいいんだけど、お揃いにしたから配信まで着けててって言うからそのままにしてる。外してたらコメントで文句言うって言ってたけど、百々人先輩いますか?』
     ヘアピンのコメントを拾った秀くんが答える。コメントの予想通り持ち主は百々人くんだった。“仲良しさんですね” “ヘアピン持ち歩く男子高校生可愛い” “いるよ。ちゃんと着けてるね。偉い偉い”
     いた。コメントに紐付けされたアカウントは間違いなく本人のものだ。百々人くんの降臨にコメントは爆速で流れる。
    『そうですよ。俺は聞き分けの良い可愛い後輩なんでちゃんと着けていますよ。……あ〜、ごめん。そろそろ時間だから終わりにする』
     秀くんが時計を確認して、配信終了の準備に入る。
    『みんな、今日は見てくれてありがとう。改めて、新曲の先行配信はこの後〇時ジャストだからよろしく』
     ピッと秀くんが配信を切る。さっきまでの騒がしさはどこへやら、コメント欄には配信の感想が流れている。私も秀くんの配信が終わったことを確認してからコメントを打ち込んだ。“絶対に聞きます”
     結局百々人くんの書き込みはあれだけだった。仲の良さを感じる一方で、なんとなく独占欲というかマウントを感じたのは気の所為だったのだろうか。肝心の新曲配信までは少し間がある。私はSNSを開いてトレンドを確認する。タイムラインで話題になっているのはやはりというべきか秀くんのヘアピンについてだった。
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