Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    enochifox

    @enochifox

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 👏
    POIPOI 19

    enochifox

    ☆quiet follow

    方向性が迷子

    真夏のホラーナンバー?? 雨が激しくて外に出られないから、車を出せる人がいないから、昨日の心霊番組を見たから。レッスン終わりに事務所に足止めを食らった僕たちは時間潰しに怖い話をすることになった。
     でも、オカルトマニアでもないのに急に振られて怖い話はない。そう思ったのにアマミネくんもマユミくんもレパートリーはあるみたいだった。特にアマミネくんは以前猫柳さんに怪談の語り方を伝授してもらっただけあって自信があるみたい。
    「百々人先輩の番は最後でいいですよ。その頃には帰れるかもしれませんし、まだ帰れなそうだったらテレビで見た話とかでもいいので」
     マユミくんも乗り気だし、どうやら僕が話さないで済む選択肢は天気が良くなる以外ないみたい。困ったなぁ、テレビもあんまり見ないから全然思いつかないや。
     まあ、こういうのは最初に話した人のクオリティで決まるものだ。アマミネくんがどんな話をするかわからないけれど、あんまりハードルを上げて欲しくないな。

    ****

     じゃあ、俺から話しますね。
     先輩たちも知ってると思いますが、俺は結構ゲームをする方なんでホラーゲームもそれなりにやってます。ホラーゲームって言ってもゾンビがいっぱい出てくるのを倒すのと、廃墟とかを探索するのでは全然タイプが違います。鋭心先輩なら映画も見るし和製ホラーと西洋ホラーで怖さの質が違うのはわかってくれますよね?
     ホラーゲームでもホラー映画でも怖いことが起きる発端の出来事ってあるじゃないですか。封印されていた悪霊が解き離れて、とか。大体そういうのって“やってはいけない”を破ってしまったから怖い目に遭ってしまうんですよね。
     俺の高校にも“やってはいけない”って言われてる話があるんです。常識的なことではないですよ、もっとオカルトじみた話です。
     この話は生徒会の先輩がしてくれました。というのも、出てくる人間が何年も前の生徒会長だからずっと生徒会内では語り継がれてるらしいです。
     その生徒会長、Aじゃ味気ないし仮に蒼山とします。蒼山は俺みたいに成績優秀でスポーツも万能、それから百々人先輩みたいに人好きのする性格で評判の良い生徒会長でした。ここまでくると鋭心先輩みたいに最強の生徒会長とも言われてたかもしれませんね。
     今とは違って当時は結構緩かったので生徒会で遅くまで残ると鍵を任されていたそうです。しかもいくつもの教室の鍵が束になったまま渡していたらしいので不用心ですよ。締めた後は鍵束を教師に返していましたが、いちいちチェックなんてしませんから一本くらい取ってもバレませんでした。あー、さっきは常識的な”やってはいけない”ことではないって言いましたけど、蒼山は常識的なルールを破ってましたね。取った鍵は生徒会室だったとか、空き教室だったとか、バレないうちに返していたそうです。ともかく蒼山は一本の鍵を持ち帰って、夜の学校に忍び込んでいました。警備員がいたので戸締まりにそこまで厳しくなかったらしく、門さえ乗り越えてしまえば薄く開けたままの廊下の窓から侵入できました。
     生徒会長がわざわざリスクを犯してまで忍び込んだ目的はなんだと思いますか?
     呆れないでくださいね、彼女との逢瀬のためでした。蒼山は言ったとおり人気者だからすごいモテて、学区一の美人って言われた彼女――この人は加賀さんとします――がいました。二人とも年相応に性欲はあったけど、家は家族の目があるのでなかなか難しかったんだと思います。年齢を誤魔化してホテルという手もありますが、片や生徒会長なのでうっかり出るところを見られでもしたら大変です。そんなわけで二人は窓から夜の学校に入ると鍵を持った教室を開けて愛し合っていました。
     でも、何度目かの逢瀬で加賀さんは嫌がるようになりました。
    「もう学校に忍び込むのは止めようよ蒼山くん」
    「なんで? スリルがあって楽しいって君も言ってただろ」
     こんな感じで蒼山が問い返すと加賀さんは困ったように眉を下げました。悪いことをしてるって気持ちは積み重なる程大きくなります。もしかしたら警備員に見つかりそうになったこともあるかもしれません。加賀さんはそれが不安だったのでしょう。しかし蒼山は止めるつもりはありませんでした。今まで見つからなかったという驕りもあったのでしょうね。
     不安になってる時ほど事態は起こるものです。カツン、カツンと廊下を歩く音が二人の耳に入ってきました。警備員が見回りに来たのです。軽い口論をしていた二人もハッとして物陰に隠れました。
     幸いにも警備員は懐中電灯で教室内を照らして不審な点が無いことを確認すると立ち去って行きました。けれど、加賀さんにとってはそれが最後の後押しになりました。
    「帰る!」
     そう言って教室を飛び出します。蒼山は当然追いかけました。二人がいたのは三階の教室だったので加賀さんは階段へ走りました。鉢合わせにならないように警備員が登って来た方に向かいます。先に教室を出ても男女の差があって、運動神経もいい蒼山はすぐに距離を詰めてきます。闇夜に慣れた目は非常口の緑色のランプがはっきりと見えて、その先にある階段も見通せました。
    「あっ!」
     焦っていた加賀さんは階段を踏み外しました。運が悪いことに宙に投げ出された身体は、頭から落ちていきました。彼女が最後に見たのはきっと迫り来る硬い床だったんでしょうね。
     追いついた蒼山は踊り場でぴくりともしない加賀さんに怖くなりました。酷いことに駆け寄って様子を確かめることもせず、もう一つの階段から逃げました。
     翌日、ビクビクしながら登校した蒼山ですが学校は少しも騒ぎになっていませんでした。探りを入れても女生徒が倒れていたという話はありません。それどころか、何事もなかったかのように加賀さんが出席しているじゃないですか。昨日のことは夢だったのかと思い声をかけました。
    「加賀さん、昨日はごめん」
    「おはよう、蒼山くん。昨日? 私、何か謝られるようなことされちゃったかな?」
     加賀さんの態度に蒼山は自分の記憶を疑いました。額にも傷一つなかったからです。だから昨日は夢だと思って、今日こそ学校に忍び込もうと約束しました。
     夜、いつもは学校の外で待ち合わせて忍び込みますがその日は加賀さんがいませんでした。先にいるのかと思って蒼山は学校に入りました。夜の校舎にずっと一人でいるのは心細いことです。連絡を取ろうと蒼山は電話をかけました。もう携帯電話は普及していた時期です。スマホじゃなくてガラケーですけど。一拍、二拍。コール音が続いて電話は繋がりました。
    「加賀さん? 今どこにいるの?」
     声を落として蒼山が尋ねます。持っている鍵は昨日、いえ、夢で言い争いをした教室なので三階へ向かっていました。
    『いるよ。蒼山くんのすぐ近く』
    「近く?」
     蒼山が顔を上げます。それはちょうどで加賀さんが落ちた踊り場でした。安心して声をかけようとしてゾッとしました。鏡の中は加賀さんがいるのに、こちら側にはいなかったからです。
     次の日、階段の踊り場には蒼山のガラケーだけが落ちていたらしいです。それ以来、蒼山も加賀さんも行方不明になっています。
     ここでようやく”やってはいけない”ことになります。三階の階段の踊り場で一人で電話をしてはいけない、あちら側に連れて行かれてしまうからって。

    「だけど、おかしいんですよ」
    「何がだ?」
     朗々と語っていたアマミネくんが声のトーンを落とす。今まで黙っていたマユミくんが口を挟んだ。
    「俺の学校、二十年は大規模な改修工事をしていないのですが、階段の踊り場に鏡がある場所はないんです。――あぁでも、大きな窓ガラスならありますね」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😍👍🏫
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works