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    nagak

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    nagak

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    以前呟いた星サク学園死闘編の更なる幽霊パロディ
    ※なんでも許せる方向け
    私が楽しいパロ

     物心が付いた頃から周りには俺以外の人でも見えるヤツと、俺にしか見えないヤツとがいた。俺にしか見えないヤツ、というのは所謂ユーレイというもので、そういう連中はどことなく周りの人とは違った雰囲気を持っているのだが、そもそも着ている服が季節外れだったり時代が違っている事が多い。おっとうとおっかあも見えない側の人だったから、説明も上手くできず逃げ回るしかなかった俺の幼少期、これは弟のツキトが生まれて話し始める頃には変わっていった。
     理由は知らないが俺よりもツキトの方がユーレイに纏わりつかれやすい体質だったのだ。
    幼かったあいつはしょちゅうユーレイに絡まれては逃げ回り、その上ユーレイなど見えていない近所のガキ共がツキトをからかうものだから俺はユーレイとツキトの間に割って入っては啖呵を切り、それに怯んだらしいユーレイが消えるとその足で悪ガキ共と喧嘩した。
    こればっかりは両親ではなく、ツキトと同じものが見えている俺の兄としての役目だと思っていたからだ。
     そんなツキトも成長するにつれ、ユーレイあしらいも人あしらいも上手になったから少しずつ俺の出番も減っていき、今では滅多になくなった。何なら俺の方が絡まれるようになったとすら思う。
     そう、ツキトなら絶対にならない。
    こんな風にユーレイと追いかけっこをするような状況になるなんて絶対に、ない。


    「なんっ、で!追いかけてくんだよコイツ‼」
     他の人には見えていないのはわかっているのに、つい口をついて出る悪態に応える者など当然いない。そもそも周りに人がいないような場所を目指して走ってきたのだから思い通りではあるのだけど。
    適当に目についた路地に飛び込み更に走る、立入禁止と書かれた看板も無視して走る。後ろから唸り声のような言葉じゃない音が何かをひっくり返す騒音と共に聞こえてくることで、まだあの底知れないモノが自分を追い続けているのを知った。

     始まりは何の変哲もない放課後。一人での帰り道、今日の夕飯は何だろうだとか、そんなことを考えていたら今腹が減ってきたからコンビニにでも寄ろうかな、とか他愛もないことを考えながら歩くいつもの道だ。
    その道端に座り込んだスーツ姿のサラリーマンが目に入ったのはもう、仕方なかったんじゃないかと思う。夜でもない時間帯に道路に顔を伏せた状態で座り込んだサラリーマン、多分酔っ払いじゃない。酔っ払いなら自分で何とかしろって話だけど、もし体調不良だったら?そんな考えが頭をよぎったのが結果論ではあるが運の尽きだった。
    「なあ、オッサン大丈夫か?」
    「…君、」
    「具合悪いなら救急車呼ぶ?家近いの?」
    「心配してくれるのかい?」
    「え、そりゃ当たり前だろ。具合悪そうな人前にしてりゃ心配くらいするぜ。」
    「心配してくれて、何より、
     
        見えるんだネ。」

     救急車を呼ぶべきかと取り出していたスマホをいじる手が止まる。待て、この人何て言った?
    目の前にいるサラリーマンの灰色のスーツ、手提げのビジネスバッグ、その外ポケットから覗く二つ折りの携帯電話。もしかして、と背筋に冷たいものが走る中、今までうずくまっていたのが嘘のように立ち上がった男の口元がにっこり、というよりもニヤリと笑う。その上がった口角にぞわりと粟だった肌とほとんど反射のように駆け出した後ろでさっきまで話していた人とは全く違う声がした。
    「ミエル!キコエテルナ!」
    「っ、」
    「ウレシイナァ、オレヲ、ミトメタナ!」
    「〜ッ!クソっ、」
     完全に油断していたこっちのミスだ。俺からアレに話しかけた上に受け応えまでした。話してわかる相手ならまだしも、そうでない気配のやつに出くわしたら無視してさっさと逃げる。無駄に喧嘩は売らねえ。これが今までで体感してきた鉄則だった。最初に見抜き損ねたのが致命的だったけど考えたところでもう遅い。

    「ガラケーだけで、分かる訳ねーだろっ!」
     思わず叫んだ声が虚しく響いた行き止まり。基本的にこちらから殴って解決、とはならない相手に俺ができることなんてひたすら逃げて撒くことくらいだ。逃げ切ればなぜか二度は追ってこない事に気づいてからは、俺一人なら下手に啖呵を切らない方が良さそうだと学んだ。
    できれば目の前のコイツともそうでありたかったんだかな。
     諦め半分に振り返った視線の先、ユーレイに疲れなんてものは無いんだろう。それってズルくないか?などと現実逃避したい気持ちもそこそこに相手を睨む。アレに捕まったらどうなるのかは分からないし最悪は殺されるかもしれないという本能的な恐怖があるが、無抵抗でたまるかというなけなしのプライドを振り絞って拳を握る。裂けそうなくらいにつり上がった口で笑う男の手が目前まで迫ったことでゾワリと悪寒が走って反射的に振り上げた拳、しかしそれよりも目の前の男の動きが止まる方が早かった。

     視界に飛び込んできた色は青。それに続いた銀色が刃物の色だと気づいたのは俺の前から男が消えて、銀色の刃が青い鞘に仕舞われた後だった。
    「え、なに、えぇ……」
    「…バカ星。」
    「んだとテメェ!」
     あ、しまった。また俺から話しかけてどうする。
    着物に刀、現代にそぐわない姿のこいつはどこからどう見ても侍のユーレイで間違いない。それから、さっきの男はこいつが斬ったから消えた。つまりどう考えても新しく出てきたこいつの方がヤバいんじゃないか、追いかけっこの再開は勘弁してくれ、そもそも前が行き止まりな以上こいつの横を抜けなきゃ逃げらんねぇじゃん。
    そこまで考えたところで、新しく出てきた侍のユーレイがこちらをじっと見ていることに気づく。
    「…なんだよ。初対面の奴をバカ扱いしてくるとはいい度胸じゃねえか。」
    「見えるし、聞こえる、と。」
    「おいこら、無視すんな。」
    「…初対面、か。
    バカ星に関わるつもりは無かったんだが、どうしたものか。」
    「よーしわかった、歯ァ食いしばれテメェ。」
     もう関わり合いを持ってしまったのだから何回話したところで一緒だと開き直ってみれば、問答無用で襲いかかってはこなそうで内心ホッとする。ユーレイって歯食いしばれるのか?そもそも俺はユーレイのこと殴り飛ばせないんだけど。
    「お前、俺のこと知ってんのかよ。」
    「…。」
    「ちぇ、だんまりかよ。お前みたいなユーレイ、一回会ったらインパクト抜群で忘れる訳ねえんだけどな。」
    「忘れる訳ない、とは言ってくれる。」
    「? 何か言ったか?」
    「いや、ずいぶんと警戒しないものだと思ってな。いくらバカ星でも襲われたことをもう忘れたはずはないだろうに。」
    「おい、バカ言うな。」
     涼しい顔で暴言吐いてくるユーレイだなこいつ。
    好き勝手言ってくれるが俺のことを舐めないでもらいたい。伊達に数十年おかしなモノが見える暮らしをしてはいないのだ。大抵は初見で相手が有害がどうかくらいは見抜いてきたし、その経験から言えば目の前のこいつは悪い奴とは思えない。
    …今日は見抜き損ねる大ポカをしている、というのは今は脇に置いておく。
     そう言ってやれば着物の男が呆れたような溜め息を一つついて俺に背を向ける。青色混じりの長髪が揺れるのがやけに印象的だな、などと思っているとそのまま立ち去ろうとするもんだから慌ててその後ろ姿に声をかけた。
    「おい!まだ大事なこと聞いてねえ、待てよ。」
    「…何だ。」
    「さっきのユーレイはお前が斬った、んで合ってるよな。それで消えた。どういうことだ?」
    「自分の役目だ。生きている者に強く干渉するモノを斬る。そうでないとつり合いが保てない。」
     淡々と”役目だから斬っただけ”と言わんばかりに返事をした姿に、俺の背筋を冷たいものが伝う感覚がする。一切のためらいを見せずに言い切り俺を振り返ったその瞳からは、何の感情も読み取れないのにそれが酷く胸をざわつかせた。何を考えているかわからないのが何故かもどかしい。
    俺とこいつは初対面、そのはずなのに。

    「っ、お前!」
    「何だ。」
    「名前!何ていうんだよ、お前の、名前。」
    「…呆れたな。良からぬ奴と関わって痛い目をみたばかりだろう。」
    「でもお前はアイツらと違うだろ。それに、お前とはどこかで会った気がするんだよ。俺のこういう時の勘は当たるんだ。」
     微かに目を見開いたその顔を見つめる。感情の起伏などどこかに置いてきたんじゃないかとすら思えた男に初めて見えた揺れ動き。すぐに元の無表情に戻ってしまったがやっぱりそういう顔、できるじゃねえか。
    そんなお互い無言の時間が過ぎて、先に溜め息をついて目を逸らしたのは着物の男の方だった。
    「土方、だ。」
    「は?」
    「貴様が聞いてきたのだろう。土方歳三、それが自分の名だ。」
    「ひじかた、としぞう。」
    「あぁ。」
    「え、新選組…?」
    「そうだ。」
    「教科書の顔と違うじゃん。」
    「教科書の中身を覚えていたとは意外だな。」
    「馬鹿にすんな。何となくだけど幕末は好きなんだよ。」
     フン、と鼻を鳴らした様な仕草をした土方歳三(仮)はもう話すことはないとでも言いたげに再び俺に背を向けると軽やかにブロック塀の上に飛び乗った。ユーレイだからか知らないが、随分と身軽な奴だ。
    「今日のに懲りたらもう関わるな、バカ星。」
     そう一言だけ言い残して姿を消した様子に、相手が本当にユーレイだったことを実感する。
    「さっきから人のことバカバカ言いやがって…、何なんだよ、もう……。」
     次々に降り掛かってきた展開がようやく一段落して肩の力が抜けた。背負っていた通学用のカバンがやけに重たく感じるのも仕方がないと思えるくらいに、疲れが一気にきた俺の頭は大して回っていなかったのだろう。
     俺は一度も名乗ってないのに向こうは俺を知っていた。
    このことにすら、気づかなかったのだから。




     🌟くんは記憶がないけど⌛ちゃんは記憶がある、というより幕末そのままな変則学園死闘編。
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