「一番星ー!トリックorトリート!」
「おー、ほらよ。」
「さんきゅー!ほら、俺からも。」
互いに個包装の菓子を交換する一番星とあいつのクラスメイトを横目で見る。ハロウィンと呼んでこそいるが、最早だだの菓子交換会になっている一番星の周りには朝から代わる代わるクラスメイトが来てはお決まりのやり取りをしていった。
「ファミリーパック買っておいて正解だな!」
「ずいぶん減ったな。」
「俺ってば人気者だからなー。」
帰る頃にはすっかり中身の減った袋を逆さに振りながら一番星が言う。2つだけ出てきたチョコレート菓子は1つは封が切られ、もう1つは自分に向かって差し出された。
「これにて完売!」
「…ほう。」
もぐもぐと食べすすめる一番星を横目に、受け取ったチョコレート菓子を指先で弄びながら頭に浮かんだのは今日何回もこいつの隣で聞いた決まり文句。
「なぁ、バカ星。」
「ん、何だ?」
「トリックorトリート」
ぽかん、と口を開けたその顔がなんとも間抜けで、こいつの手元にはもう菓子は残っていないのを知りながら仕掛けた自分は大分意地が悪いのだろう。一番星が他から貰った菓子を横流しする様な奴ではないことだって分かっててやったのだから、余計に。
「もう、持ってないよな。」
「…おい、ずりーぞサクヤ。」
「何とでも。」
降参とばかりに両手を上げてみせた一番星の顔の前でデコピンでもお見舞いしてやろうと指の形を作る。その仕草で何をされるかを察したらしい一番星が軽く目を瞑ったのを見て、つい、悪戯心が再び沸いた。
「サクヤー、やるならさっさとしろよ。」
「あぁ、」
たっぷり間が空いたことに文句が出たのを遮るように一番星の頬に口付ける。チュッ、とわざと音を立てて離れれば一転して目を見開いたまま固まる一番星が見えた。
「は⁉お、お前…、な、普段は、そんな、」
「間抜けヅラだな、バカ星。」
「誰のせいだと思ってんだ!」
「自分か。」
「他に居ねぇだろ!」
喚き立てるのを放ったまま歩き出すと、大声を出したことで我に返ったらしいあいつが小走りで追ってくる。
手元に持ったままだったチョコレート菓子をポケットに仕舞った所で追いついてきた一番星はぶつぶつと未だに文句があるらしい。その顰められた横顔を眺めていると、何かを思いついたらしい表情が勢いよくこちらを向いた。
「おいサクヤ。」
「これ以上文句は聞かんぞ。」
「トリックorトリート。
言っておくけど俺がやったヤツはいらねーからな。」
「…チッ。」
「お前も無いだろ。じゃあ、いたずらでも構わねぇな。」
勝ち誇った顔の一番星が腹立たしい。そう思ったはずなのに、そのまま近づけられた顔があまりにも嬉しそうだから調子が狂う。
そうして受け取ったキスは微かにチョコレートの味がした。