よくのかたまり自分の感情を制御するのは難しい。
今でもカッとなってしまうし、物に当たってしまう事もある。
けれど、以前よりはずっとマシになった。
アイツに教えられてから。
「おはよう、マリオン」
「……おはよう」
洗面台で顔を洗っていると、眠そうな顔をしたガストがやってきた。
口元を覆いながら「くぁ」と欠伸をかみ殺し、俺の後ろに立つガストはいつも通りで。
昨日の夜、ボクに何度も口づけた男と同一人物には見えなかった。
「マリオンはもう走ってきたのか?」
「もちろんだ」
「さすがマリオンだな。昨日の夜、あれだけ――」
「さっさと顔を洗え。そのたるんだ顔を鞭で打たれたいのか」
「はは、さすがに顔を鞭で打たれるのは勘弁してくれ」
場所を交代してやろうと顔を拭きながら、一歩後ろに下がろうとした時だった。
鏡越しにガストと目が合った瞬間、後ろから抱きしめられた。
「なっ……! おい、ガスト……!」
「ここ、痕残ってる」
「!?」
そう言って、ガストは僕のシャツを軽く引っ張ると肩口に唇を押し付けた。
強く吸い付いた唇のせいで、昨夜の出来事が一気に蘇る。
身体が熱い。感情に身を任せて血が昂るのとはワケが違う。これは……
「はっ……く」
「マリオン……ッ」
「~~っ! 待て、ガスト!」
「がっ!!」
唇を重ねてこようとしたガストの顎を思い切り上へ押し上げる。
ボクを抱きしめていた腕が緩んだ隙に、腕の中から抜け出すと痛そうに顎を押さえるガストを睨みつける。
「コントロールできてないのはオマエの方じゃないのか、ガスト」
ボクにコントロールだと言う割に、最近のガストは二人きりになると所かまわずがっついてくる。
ボクから見たら、今のガストの方がよほどコントロールが必要なんじゃないかと思うほどに。
「悪い悪い。つい痕が見えたら興奮しちまって」
「はぁ?」
「いや、マリオンに俺の痕が残ってるっていいなぁって思っちゃっただけなんだ」
「……ッ」
ついさっきまで熱の孕んだ瞳でボクを捉えてたくせに。
今はいつも通りに戻っている。
そういうところが気に食わない。
「さっさと顔を洗って、運動着に着替えてこい」
「へ?」
「そんなに持て余してるなら鍛えてやるって言ってるんだ」
「そういう意味じゃなっ……」
ガストが何かを言い終わる前にギロリと睨みつける。
すると、まるで飼い主に叱られた大型犬のようにしゅん、とうなだれた。
「まぁ……今日は休日だし、トレーニングが終わった後だったら……オマエに付き合ってやらなくもない」
「マリオン……それって……!」
今日はノヴァも忙しいらしいし。
たまには丸一日ガストに使ってやるのも悪くない。
そう、誰かに言い訳しながら、ガストから逃げるように洗面台を後にするのだった。