父の日「ごめん兄さん、父さん来られないって。」
席に戻ってそう告げる弟は少しうれしそうに見える。
俺が独立してから続く、父の日の食事会に今年も父は不在だ。
去年も、その前の年も来なかった。
実家暮らしの弟が計画を立て連絡してくれるが、父は決まって当日欠席だ。
ここ何年か会っていないけど元気にしているのだろうか。
俺の残念そうな顔を見て今度はすまなそうにする弟に、お前が謝るな、来年はきっと父さん来てくれるからと明るく言い、食事を続けるよう促す。
グラスを待ち上げ、安心したようにっこり笑う弟の笑顔に胸が絞られる。
本当はいないんだろ。
もう死んでるんだろ。
お前が殺したんだろ。
俺は知っている。
もう一度乾杯した酒と一緒に、その疑惑を飲み下した。
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