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    t_asgiri2

    @t_asgiri2

    @t_asgiri2
    ういなです
    もそもそと妄想を文字に起こしています。
    アイコンは、もりながさん産です。

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    t_asgiri2

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    pixiv公開中「マブと友情を育んでいたと思ったら、告白されて男女交際することになった話」です。
    「星乙女の真珠」の前提というか、前編というかプロローグです。

    マブと友情を育んでいたと思ったら、告白されて男女交際することになった話言い訳塗れのStranger

    「好きだ」

     そう告げられて、咄嗟に茶化して逃げ道を作ろうとした。
     しかしそれを許さない真剣な瞳に言葉を無くした。

     この学園に来てはじめて言葉を交わした少年。

     一緒にいろんな厄介ごとに巻き込まれたり(たまには彼自身が原因だったり)
    一緒に学校行事を乗り越えたりしたクラスメイト。

     エース・トラッポラ。
     彼に、愛の告白とやらをされたらしい。







     冗談みたいな話だが、どうやら異世界に来てしまったらしい。
     自分の知っている世界では、魔法など使えることは無い。
     Dの付く強大な王国とか海とか、某紅茶を大切にする国の産んだ児童文学の中などにある夢物語だ。
     自分の常識の通じない世界で、ふらふら彷徨うなんてゴメンだし、そんな逞しさは無い。
     居住のために貸し与えられた建物は「オンボロ寮」という廃墟マニアなら大喜びしそう建物だった。
     そこに「大魔法士になる」と言い張る一見ネコ科の動物に見える火を吹く魔物と一緒に暮らすことになった。

     そこにはゴーストが先住しており、いよいよ自分の知る常識を訴えることを諦めた。
     そもそも、ネコ科に見える動物が流暢に話すことも、国籍が異なるだろう人間たちと労せず会話出来るのも、不思議に思って考えこんだら負けだと悟った。

     なんならあからさまに横文字書かれてそうな本を、自分が難なく読めているあたりでおかしい話だ。

     だからまあ、ヒト科であるだけ性別など些末な問題なのだろう。
     気にしたら負けだとスルーした。

     前後左右すべて男子生徒しか居ない学校に、自分が唯一の女子生徒として在学したところで、もはやツッコミ不在でも気にしない事に決めた。
     決めたったら決めた。

     ここで私が美少女だったり、なにか特別な存在だったならば恋愛ルートもあって不思議はないのだが、モブ要素を無双しているので、安心していた。
     イケメンにこれだけ囲まれていたら、乙女ゲールートが用意されているかと思いきや
    乙女などおりませんので、私の物語はイケメン観察日記になるはずでした。

    (何故、血迷ったのだ我が友、エース・トラッポラよ)



     
    説得のtag

    「お前、大丈夫か?」
     ジャックが気遣わしげに、尋ねる。
    「大丈夫なはず」
    「そうは見えないっスけどね」
    ジャックの隣に座るラギー先輩が、思案顔で告げる。
     私は、ふたりが座るベンチの背後の植え込みに潜伏している。
     昼休みに、ふたりが寮の買い出しの件で打ち合わせしているところに、お邪魔した。
    「あー…なんだ
    話し合いは無理なのか?」
    「無理。
    勘違いだから、余地なし」
    「勘違いって……」
    「男の子ばかりの学校で、寮生活で、娯楽が乏しいからたまたまイレギュラーで在学しているヒト科のメスが居たから、勘違いしちゃったのよ」
    「ヒト科ってなぁ」
    ジャックが、呆れたようにため息を吐く。
    「私なんか、魔力もないし行く場所も無いだけて留まってるグリムのオマケだもの」
    「て、なに笑っているんスか?」
    「いえね、元居た場所にグリ●って食品メーカーがあったんですけど、そこのお菓子には、ちょっとしたおもちゃが付いてきて、それを[グリ●のオマケ]て読んでいたの思い出してしまいまして」
     この数日、血迷ったエースから逃げ回り続けて緊張状態が続いているので、変なテンションに陥ってしまい笑いが止まらない。
     あの小さな玩具たちは、コレクターも居るぐらいのものだから、自分など同列に語るべきでは無いけれど、語感が似ていてツボに入った。
    「[オマケ]って名乗るには、主張激しくない?監督生」
     聴き慣れた声に、目を向ける。
    「おまえがそんなに[かくれんぼ]好きだなんて、知らなかったわ」
     口元に笑みは浮かべているものの、目はまっっったく笑っていない、目元にハートを描いている少年が立っていた。
     一直線にツカツカと歩み寄ると、ジャックとラギー先輩の間のベンチに力強く足を乗せて、植え込みに手を差し入れて、私の手首を引き上げる。
     トラッポラくん、土足で人が座しているベンチに足を乗せるのはどうかと思うわ。
     ほらぁ、ジャックとラギー先輩が身を引いてくれてる。
    「つーかまえた」
    ニヤリと楽しそうに笑っているはずなのに、声はまったく弾んでいやしない。
    「見つかったから、次は私が鬼ね。
    エースくん1000数える間に、かくれてね」
     声を震わせないように、言ってみるが相手の表情は変わらない。
     そばにいる2人に、助けを求めて視線を向けるも首を横に振られた。
    「エース君、まあ……止めやしないけど、昼休み終わるから授業のあとにしたらどうスか?」
     ラギー先輩の提案に乗っかる。
    「そ…そうだよ!
    授業に行かなきゃ。
    さあ、学生の本分の勉学に励みましょう」
     ふたりに暇を告げて、エースに手を掴まれたまま走り始める。
    「なあ、監督生」
    「なにかしら?トラッポラくん」
    「もう、逃げるなよ」

     いつもより低い掠れた声に、胸の奥を何かにキュッとつねられたような痛みが走る。

    「わかったよ。逃げない」

     返事をすれば、手首を掴むエースの力が少し緩んだ。
     かたくて大きな掌は、すこししっとりしていた。



    「オンボロ寮に、行けばいい?」
    「へ?」
    「話するんだろ」
    「ああ…此処じゃさすがにダメだよね」
    「見せ物になりたいの?」
    「エース、部活は?」
    「サボる」
    「ダメだよ、待ってるから行っておいでよ」
    「こんなんじゃ、落ち着かなくて練習に身がはいらねーの。
     だから、気掛かりを片付けて来るよう、先輩たちに言われてんの」
    「じゃあ、グリムを…」
    「グリムはデュースが、うちの寮に連れて行ったよ。
     観念して、行こうぜ」
    「わかった」
     鞄を肩にかけて、エースに向き合う。
     彼が、瞬きひとつ真顔になりくるっと背を向けて、歩き出したのでその背中を追いかけて後に続く。

     校舎から出ると、空が蒼く広がっていて、なんとなく泣きたくなった。
     オンボロ寮について、談話室にエースを通す。
    VDCの強化合宿に提供に際して、以前より環境改善された室内は、はじめのころにエースとデュースの手を借りて、掃除に勤しんだときより随分とボロ屋感は払拭されている。

    「お茶でも淹れようか」
    「要らない。
     いいから座れよ」

     渋々ソファに腰を下ろす。
     それを見たエースは、私の前に座る。
    「で?」
    「で…?」
     首を傾げた私の反応に、彼は呆れたように深い息を吐く。
    「珍しく真剣なんですけど」

    (エースの低い声って、もの凄くイイ声だ)
     少し鼓動が跳ねる。

    「珍しいんだ?」
    「オレ、モテるもん」
    「ああ、そうだよね」
    「でもさ、好かれようと行動し続けるのもちげーじゃん」
    「まあねぇ」
    「女の子って、そういうことあるじゃん?」
    「そりゃあ、好意を持ったら相手に好かれたいと思うのは道理だし」
    「お前は、そんなことしないじゃん」
    「それどころじゃないし?」
    「そんなお前が好きなんだから、この先どんな姿を見せられても醒めない自信がある」

     見つめる眼差しから逃れたいのに、叶わない。
    「私、そんな大層な人間じゃなくてね」
    「うん」
    「ほら、ここの常識が通じない所から来たし」
    「そうね」
    「学園唯一の女子だし、イレギュラーまみれの珍獣じゃない?だから、もの珍しいだけよ」
    「物珍しさで言ったら、オレからしたらデュースもいい勝負だし、グリムなんてそもそもそのまんま獣だろ」
    「そこは、たまたま私の種族と性別が…」
    「だぁかぁら!
    お前だから好きだって言ってんだろ?
    お願いだから、信じてよ」

     頬を紅潮させた、いっそ泣きそうなエースを前にしてどうしたらいいのか分からずに、俯いてしまった。
    「なんかトラウマでもあるわけ?」
     声に顔をあげれば、真顔でこちらを見つめるエースと目が合う。
    「とらうま?」
    「なんか、付き合ってた彼氏に嫌なことされたことがあるとかさ」
    「いや、別にないし
    彼氏なんか居たこと無いし、そもそも私をそういう対象に見る人なんているわけ無いし」
     エースが目をまんまるにしている。
     イケメンな上に可愛いとか、特盛り定食かな。
     多分デザートと食後のお茶もつくね。

    「お前、自己肯定感が壊滅的に無い?」
    「なんの話よ」
    「自分が可愛いと思ったことない?」
    「そんな烏滸がましいこと思うわけない」
    「オレが好きだと言ってるのも、信じられない?」
    「気の迷いだと思ってる」

     エースは『アー』とも『ウー』ともつかない声を発して、彼は背中を背もたれに預けた。
    「大丈夫?
    気の迷いを自覚した?」
    「いや、思ったよりも無理ゲーでとりつく島が無さすぎて、途方にくれてる」
    「こんなの攻略する価値無いよ」
     恋愛ゲームなら、攻略対象に名前さえ連ねないNPCか通行人Cだ。
    「お前、オレのこと嫌い?付き合うの無理なぐらい?」
    「そんなわけ無いじゃない。嫌いな相手と一緒に行動出来る性格じゃあないよ」
    「じゃあ、いいじゃん、付き合ってよ」
    「いや、そんな軽く…」
    「オレが本気じゃないなら、すぐ飽きるからさ、それまで付き合ってよ」
    「つまり、男女交際の申し込みね、だが断る」
     ニコニコと笑いながら目の前の少年は、つらつらと言い募る。
    「えー。いいじゃん、なんにも変わらないぜ」
    「そんなわけないじゃん」
    「まず、一緒に登校するのは、今でもしてるでしょ」
    「してるね」
    「メシも、一緒に食べるでしょ」
    「食べてるね」
    「放課後、たまに一緒に遊んだり」
    「ふむふむ」
    「授業も、なるべく隣に座ったり」
    「まあ、今も大抵そうだね」
    「ほら、変わらない」
    「そうかな」
    「ね、ほら付き合おう」
    「わかった」
     ニッコリ笑うエースに、幾分かの違和感を感じたけれど、流れで結局は受け入れてしまった。
     下手に固辞するほうが、意識しているように思われてしまって都合が悪かった。
     ……後にこの判断を、後悔する時が来るのだがあとの祭りだ。



    画策のCard Soldier


     エースとの[お付き合い]での約束事は、ひとつ『他言しないこと』

     これを言ったとき、エースは『秘密の関係ってもえるじゃん』と、笑っていた。
     ほんの少し寂しそうな笑顔に見えたのは、きっとこの提案が、彼の意に沿うものではないせいだろう。
    (でも、エースの為なんだよ)
     エースは、かっこいい。
     身長も高くて、すんなりした体型で、快活な物怖じしない性格は嫌いになる人がいるなら、僻んでいるだけだ。
     悪さをしても、どこか憎めない。
     器用で、大抵のことは難なく熟す。
     意地の悪い言動が目立つが、懐に入れた人間を見捨てない情の深さもある。
     
     自分なんかを、本来なら積極的にかまう人ではないはずなのだ。

    (たまたま、この学園ではじめて話しかけて成り行きでいきなり窓拭きやら、ドワーフ鉱山で石探しやら一緒にして、自分のところの寮長のオーバーブロットに一緒に立ち合わせさせたから、その流れで親しくしてるだけだし)

     エースの側は、安心できる。
     文句を言いながらも、見捨てられないくらいの好意は持たれていると思うし、一緒なら大抵のことは乗り越えられると思ってる。
     彼の器用さを、頼りにしている。
     デュースとグリムも、少し常識に欠けるところがあって、そこをフォローするのはいつもエースだ。
    (私も、ここの人が当たり前に知っていることを知らないから、エースから見たら同レベルだろうし)

     内心、苦痛だと思っていたのかも知れない。
     その苦痛と折り合いをつけ、納得する為に、たまたまヒト科のメスだった私と男女交際をするという選択に至ってしまったのかもしれない。

    「なんか、すまないね。エース。苦労ばかりかけて」
    「なんなの?いきなり」
    「いや、気をつけるね」
    「だから、なにが?」

     ふたりで課題を片付けるために、ハーツラビュルの談話室に居る。
     デュースとグリムは、部活動に行った。
     バスケ部は、体育館の補修のために急遽おやすみだそうだ。
     今日になって決まったということは、誰かしらが何かをやらかしたのだろう。
     この学園は、とにかく事故や事件が頻繁に発生する。
     優秀な魔法士の卵たちが集まっているから、ふとすると被害が拡大しそうになるが、事態収束に携わる側が飛び抜けて優秀なので、学園内だけでコトが収まっている感がある。



    「おや、監督生いらっしゃい」
    「お邪魔してます、リドル先輩」
    「課題をしているのだね、君が一緒だとエースも真面目に取り組むようだから、助かるよ」
    「そんなことありませんよ」
    「エースは、すぐ手を抜くことを考えがちだからね、君のように真面目な生徒が側に居てくれれば、助かるよ。
     トレイが焼き菓子を焼いたから、一緒にお茶にしないかい」
     「いや、お茶の時間を邪魔しちゃ悪いんで、部屋に行きますからお気遣いなく。
    行くぞ、監督生」
     言うが早いか、エースはさっさと私の分の荷物も片付けて、手を引く。



     抗議の声もままならず、手を引っぱれて階段を登ってエースとデュースの部屋に押し込められる。
     四人部屋だが、あとの二人も居ないようだ。
    「リドル寮長のこと、好きなの?
    ああいうのが、好みなわけ?」
    「はい?」
    「なんで、頬赤らめるわけ?」
    「そんなことしてた?」
    「緩んだカオで、寮長見つめちゃってさ」
    「ヤキモチ?」
    「あたり前じゃん」
     面白くないという表情を隠しもしないエースは、珍しい。
    「オレ、お前に対しての感情は素直に表していくことにするから。
     そうしないと、お前には伝わらないみたいだから覚悟して」

     そう言うと、掴まれた手がエースの口元に持っていかれて、手の甲に唇が落とされる。
    (この動作が、サマになる人間を目にする日が来るなんて思わなかったな)
     あさってな思考が脳内を満たしていることは、口にしない方が身のためだと判断した。
    「こうされるの嫌じゃない?」
    「いやぁ、流石サマになるなぁ…と、感心してる」
    「ふぅん?
    もう少ししていい?」
    「もう少し?」
     頬に、手が添えられる。
    (エースの手、男の子の手だなぁ)
     そうかと思えば、エースの真顔が近づいてくる。
    「待てぃ!
    何をしようとしてるのか!?」
    「キスだよ!
    マウストゥマウスな!」
    「鼠から鼠へ!」
    「違うわ!観念しろ」
     ぐっと引き寄せられ、腰にも手がまわされ逃げられないと思ったと同時に、扉が勢いよく開いて凛とした声が響いた。
    「そこまでだよ。エース」
    「いや、リドルくん。
    そこに突入するのは、どうかと思うなー、オレ」
    「寮内の風紀は、ボクの管轄だ。
    節度ある交際でなくば、認めることは出来ない」
    「リドル、そこは若い2人に任せるべきではないか?」
    「トレイ先輩、私たちお見合いしている訳ではないです」
     自分でも、場違いなツッコミをしてしまったと思っている。
     それでも、笑われたりせずに三年生の二人が苦笑を浮かべるだけだった。
    「エースは、これからお説教だよ。
    トレイ、ケイト、監督生をオンボロ寮に、送っておあげ」
    「はい、寮長」
    「了解、さあ監督生ちゃん。行こうか」
     私の鞄は、トレイ先輩が持ってくれて、その隣でケイト先輩が手招きしている。
    「あ、あの、リドル先輩」
    「なんだい」
    「私、エースと男女交際を始めました、だからキスするのはおかしくないんです」
    「ボクには、君が必死に拒んでいるようにみえたよ」
    「私なんかが、エースの唇奪ったらいけないと思いました」
     言った途端に、ケイト先輩が笑い声をあげる。
    「エースちゃん、苦労するね。
    どうする?エースちゃんに送ってもらう?」
    「ケイト!僕の決定に従えないのかい」
    「だからリドル先輩。あんまりエースを叱らないでください。
    本当に大した事では無いので」
    「監督生もこう言っている事だし、ほどほどになリドル
     さあ、行こうか」
     三年生ふたりに伴われて、オンボロ寮に帰寮することになった。
     
     私を見送っているエースが、どんな表情をしていたのか、私は知らない。



     
     
     
    「監督生、食堂に行くぞ」
     お昼になり、声をかけてくれたデュースに尋ねる。
    「エースは、今日も居ないの?」
    「今日は、クローバー先輩に呼ばれたから、先に食べて居るよう言付かっている」

     ハーツラビュル寮でのちょっとした騒ぎから、3日が過ぎた。
     登校もランチも下校も別で、会話も一日の間にせいぜい二言、三言交わすだけだ。

     急に寮で仕事を与えられて忙しくなったのだと、聴いた。

     けれど、避けられているように感じる。
     授業中、ちょっかいをかけてくる事もなくなった。
     今まで与えられていたものが、当たり前ではなかったと認識して、胸がザワつく。
    「なあ監督生、エースとなにかあったのか?」
     ひっそりと尋ねるデュースの言葉にも、首を振るしか出来ない。



     更に数日が過ぎて、週末が来た。

     授業は休みなので、寮の掃除をしたり布団を干しているとスマホが着信を知らせた。
     デュースからだった。
    「どうしたの?」
    『今日、バスケ部が練習試合をするんだ』
    「そうなんだ」
    『てっきり監督生も来るものだと思い込んで、差し入れのトレイ先輩のタルトがあるんだが、今からでも来る事は出来ないか?』
    「トレイのタルトがあるのか!
    オレ様、食べたいんだゾ。行こうぜ、子分」
     駄々っ子のように、騒ぐグリムに息を吐く。
    「わかった。
    予定していた家事も終わったし、今から行くよ」

     布団を取り込む時間までに、帰って来れば良いだろうと算段をつけて、制服に着替えて戸締りをする。
     体育館の近くまで来ると、黄色い歓声があがり驚いてしまう。
     グリムなどは、驚いたのか全身の毛が一瞬膨らんだ。
    「なんなんだゾ?」
    「女の子が、たくさん居るみたいね」

     ハロウィンや文化祭の際は見たけれど、学園内に女の子が居ると、なんとなく身構えてしまう。
     中を覗こうとすると、ホイッスルが鳴り試合がちょうど終わったところのようだ。
     試合に出して貰えていたらしいエースが、ベンチにタオルを取りに行く。
     すると、背後から声をかけた他校の女の子がふわふわなタオルをエースに差し出した。

     可愛らしい、いかにも女の子らしい風体の子は、エースと並ぶとお似合いに見える。
     エースは、少し照れくさそうにタオルを受け取ってお礼を言った。

    「監督生!こっちだ」
     デュースが、手招きをしている。
     エースが、目を大きく見開いて此方を見た。
    「監督生?どうしたんだ」
    「え?」
     デュースが、表情を曇らせて駆け寄ってくる。
     流石陸上部。
     それなりの距離があったのに、気づいたら目の前に居た。
     目の前に立つなり、デュースは人目から私を隠した。

    「泣いてる。何かあったのか?」
     目元を指で触ると、言われた通り涙が出ていた。
    「ホントだ。
    ゴミでも入ったかな」
    「痛みは無いのか?」
    「平気だよ」
     会話の最中も、両眼から涙は溢れて溢れていく。
    「ごめん、水道に言って目を洗ってくるね
    グリムのことお願い」
     そう言いながら踵を返して、足はオンボロ寮に向かう。

    (私じゃない
    私が、エースの側なんかに居るのは釣り合わない。
     他に可愛い子が居たら、エースだって目が醒めるはず)
    「監督生、なんで帰ろうとしてんの」
     声に反射的に振り向けば息を切らしたエースが、背後にいた。
    「ぼろぼろ泣いてるし」
    「なんかおかしいから、帰るね。試合も終わったみたいだし」
    「午後にもあるよ。
    トレイ先輩、お前のぶんの昼飯も用意してくれたし」
    「エース」
    「ん?」
    「別れよう」
    「なんでさ」
    「私と別れないと、別の子と付き合えないじゃない」
     涙は、止まらない。
    「ヤダよ
    オレ、お前のこと好きだし」
    「だから、それは…」
     言葉を封じるように、エースの胸に閉じ込められるように抱き締められて、彼の匂いに包まれた。
    「お前も、オレの事好きでしょ」
     エースの鼓動が、振動で身体に直接響いてくる。
    「勘違いじゃないし、血迷ってもない
    例えば道端ですれ違っただけでも、お前のこと好きになる自信あるよ」
     耳元で囁かれるように紡がれた言葉が、くすぐったくて仕方ない。
    「オレが少し距離をとっただけで、捨てられた仔犬みたいな眼差しでオレを見てきて
     他校の女の子と、接触しただけで泣いちゃった監督生さん。
     なにかまだ、言いたいことある?」
    「私、面倒くさい女かも知れない」

     そう言ってエースの背中に、腕を回して抱き締めると彼も私を抱きしめる力を強くして、笑った。

    「上等じゃん」

     もしかしたらこの人と出会うために、この世界に来たのかも知れない…そんな世迷い言を今なら真面目に言ってしまえる
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    t_asgiri2

    DONE女監督生(弊監です)
    エアリクにあった[アイドルパロでエー監がユニット組んでる]に挑戦してみました。
    私としては、重くて執着ッポラと天然デュースが書けたので満足です。

    【バイトしているスーパーの敷地でイケメンふたりがダンス動画撮っているけど、リズムがズレてて気持ち悪いから指摘してたら曲提供することになり、何故か一緒にデビューした話し】と言うタイトルにしようとしたら文字制限
    その肌に刻むは独占欲※監督生呼びです、
    無口キャラでエースとデュースふたりを監督している設定のアイドルな為呼び名が[監督生]というご都合設定m(__)m




    「まぁこのごろ流行りだし、来るとは思ってたよ」
    マネージャーのジャミルから渡された仕事のリストを見ながら、エースが呑気な口調で言った。
    「言ってる場合?」
    「そうだぞ、エース。
    監督生のことがバレたらどうするんだ」
    デュースの言葉にちらっと視線を向けるも、澄ました顔で返す。
    「んじゃ、断る?」
    ぐっと、ふたりは言葉に詰まった。
    話題になっているのは、深夜枠のドラマの主演のオファーだ。
    彼らのような売り出し中のアイドルたちの、登竜門ともいえるドラマ枠で、友情から恋愛になるというBL寄りの青春ドラマの企画だ。
    3910

    t_asgiri2

    DONE拗らせたエースに『大丈夫?おっぱい揉む?』と言い出す女監督生がいます。
    いきなり言い出したから、書いててびっくりしましたよ。どうしたの監督生さん。

    既刊「星乙女の真珠」の続編になる[天秤の碇]のチラ見せです。
    未来設定となりまして、エースたちが二年生です。
    なので、三年生は不在です。
    未来捏造、星乙女の真珠後に少しギクシャクし始めてているエースと女監督生です。
    とばりの枷異世界に渡り監督生を迎えに行き、無事に彼女を連れ帰ってきたエース・トラッポラは、一躍時の人となった。
    なにしろ、まだ高校生でありながら将来を約束した相手が居ることが、学園中に知れ渡ったのだ。
    そんな彼が変化したかと思えば….…変わらなかった。
    相変わらず飄々と要領良く立ち回り、楽しいことを優先させる。

    変化したのは、監督生はますます真面目になった。
    これまで以上に様々な相手と交流を深めるようになった。
    真意を聴けば「そうかな?」とはぐらかすばかり。
    その姿を見てエースは、どこか面白くなさそうに眺める。
    「不満があるなら直接言えばいい。
    言わずに不貞腐れるなんて、君らしくない」
    見かねたエースの所属寮の寮長であるリドルは、彼を呼び出してそう告げる。
    1840

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