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    kinoko12069

    @kinoko12069

    pixiv http://pixiv.net/users/66783240
    ツイステ腐・夢の小説書いてます。

    感想くださると泣いて喜びます。基本tosでお返しします。
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    kinoko12069

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    捕まったルークを監督生が助けに行く話です。
    6章終わった時空になるのだろうか……。

    何度でも言いますが私は大の男が誘拐される話が大好きです。

    #twst夢
    #ルク監
    luxembourgSupervisor
    #女監督生
    femaleCollegeStudent

    狩人が誘拐された話「ええ、大人の事情というものですよ」

    何も尋ねてはいないのに、学園長はそう私に前置きした。「大人の事情」だとかそういう言葉を使う人間はあまり信用ならないが、話を複雑にするのもナンセンスなので黙っておくことにする。そんな私の様子に気づいているのかいないのか、学園長は飄々と掴みどころのない語り口で、そのまま話を続けていった。

    「どんなことにも多少の犠牲はつきものですし、私にも学園の運営という大切な仕事がありますからね。私、こう見えても忙しいので」

    ……分かってはいたけど、遠回りだ。業を煮やした私は話の続きを促した。

    「それで、今日はどんな御用です?植物園の草むしり?喧嘩の仲裁?行事の使い走り?今日は17時からサムさんの店で特売があるので、できれば早く教えていただけると助かるのですが」

    この学園に置いてもらっている以上、雑用を任されることはもはや義務だ。私は半ば諦めつつ、今回は何を押し付けられるのかとその言葉を待った。
    学園長は私の急かした様子にちょっとだけムッとして、しかし本題を切り出した。

    「まあ、お使いと言えばお使いでしょうか。君には学外に行ってきていただきたい」
    「はい。どこに行けばよいのでしょうか」

    今日の呼び出しは私一人だけ。グリムすら呼ばれていないので、もしかすると初めて一人で出かけることになるのかもしれない。普段この学園の敷地から出る機会の少ない私にとって、それは若干ながらワクワクすることだった。
    しかしこの学園長が、私にそんな甘いお使いなどさせるわけがなかったのだ。

    「近くの島で行われるオークションに行ってほしいんです」
    「オークション?」

    あの美術品なんかを競り落とすイベントのことだろうか。元の世界は勿論、こちらに落ち来てからもそんなイベントには参加したことがなかった。もしかすると学園長は何か欲しいものがあるのかもしれない。ついに個人的な用事を任されるところまで来てしまったか……。
    しかし学園長は首を横に振り、そして軽々しくその場に爆弾を落としていく。

    「どうやら、わが校の生徒が商品として出品されるようなんですよねぇ」
    「は?」
    「いわゆる闇オークションとでも言うのでしょうか……」

    学園長は心なしか苦々しい表情を浮かべている。
    生徒?この学園には様々な生徒が在籍している。私のような人間から獣人、人魚に妖精まで……みな多種多様な姿と出自ではあるけれど、共通して生徒として扱われ、そこに差異は無い。どんな種族にも人権が認められているということは、私も知る事実であった。
    しかし、そんな世界でオークションに生徒が出品されるとはこれ如何に?私は頭を抱えた。当然ながらこの世界でも人身売買はご法度である。

    「それで、どなたが出品されるんですか?」
    「ああ、君も知っている人だと思いますよ」

    取り敢えず面識のある人らしい。それにしても、最近行方不明になった知り合いなんていただろうか……。エースもデュースも先ほど教室で別れたばかりだし、ハーツラビュルの諸先輩も普通に挨拶したし、レオナ先輩ラギー先輩は植物園で押し問答してたし、オクタヴィネルもスカラビアも……思い当たる節がなかった。
    そうして学園長が教えてくれた名前は、あまりにも予想外なものだった。

    「ルーク・ハント君ですよ。ポムフィオーレ寮で副寮長を務めている。ほら、VDCの時に貴女のところに滞在していたでしょう」
    「えっ!?」

    VDCのことは記憶に新しい。ハーツラビュルの二人やスカラビアの先輩方、そしてルーク先輩を含むポムフィオーレの人たちが、オンボロ寮で合宿をしていたからだ。その生活の中で少なからずルーク先輩と話すことはあったし、お世話にもなっていた。とても親しいという訳ではないけれど、ある程度ならば私も先輩のことを知っているつもりだ。
    それはただの他寮の親切な先輩と言うことに留まらず、なかなか特殊な……いや、この際だからはっきり認めてしまおう。この学園でも群を抜くほどの変人だということは、私は身を以て理解するところであった。そしてそれはつまり、我を貫けるほどの強かさを持っているということでもある。確かエペルが先輩のことを「運動も勉強も得意な凄い人」と評していたっけ。魔法の腕も立つようだし、普段の動向を見ている限りでは捕まえられるより捕まえることを好む人だとも思っていた。

    「そんな人が何故……?」
    「目的は分かりませんが、一大事なことに変わりはありません」

    珍しくも学園長がまともなことを言っている。私がひたすら驚いていると、学園長は決まりが悪そうに腕を組んだ。

    「そのため寮長会議にも掛けたのですが、『あいつ(あの先輩)なら自力で帰ってくる(でしょう)』と一蹴されてしまいまして……」
    「ああ……」

    本来ならば薄情だと言うべきなのかもしれないが、私も彼らの言うことを否定しきれなかった。どんな拘束方法だろうと、あの先輩を捉えられるとは思えない……。学園長も同感だったようで、「ふうむ」とひとつ唸って難しい顔をしていた。

    「しかし学園としては一応なりとも助けを出さないと外聞が……いえ、保護者の方に面目が立ちませんからね」
    「正直ですね」

    つまり私は形だけの救出班ということになるらしい。学園長の雑な対応には、ただただ呆れることしかできなかった。

    「とにかく、ハント君を取り返して来てください。幸いにも明日と明後日は休日。貴女、特に予定も無いでしょう?」

    無くも無いけれど、そんな休日の趣味感覚で先輩の奪還を押し付けないでほしい。私が何か言う前に、学園長は何枚かのマドル札を私に差し出した。

    「交通費です」
    「えっ」

    学園からの長距離移動は概ね闇の鏡を利用してきた。それが一番安価で確実な方法だからだ。しかし学園長は今回に限って、公共交通機関で行けと命じる。

    「あちらの鏡は許可された者しか通ることが出来ないのです」
    「それ、ガチでやばいところなのでは……」

    私は嫌な予感がしてならなかったが、学園長は仮面の奥の目を細めながら首を横に振った。

    「そんなことないですよ!私が大事な生徒をそんなに危ないところへ行かせると思いますか?」

    思えてしまえるから嫌なんだけどなぁ。しかし私に反論する余地はなく、そのまま学園から送り出されることとなったのだった。

    〇〇

    幾つかの船を数々の港で乗り継ぎ、最後になかなか大きな船に揺られて約一日。私はとある島に降り立った。すっかり夜の帳の下ろされた空を見上げれば、星の煌めきなんて覆い隠してしまう程の楼閣の群れが整然と並び立っているのが目に入って来た。賢者の島とは全く異なる、都会の風景がそこには広がっている。この街のとある施設で、その取引は行われるらしい。

    ちなみにグリムは「魔獣ですし、見つかった途端に皮まで剥がれてしまうでしょうから」と言われたので留守番を頼んできた。現状、たった一人での潜入作戦である。不安で仕方がないけれど、このミッションをどうにかしないと学園には戻れないため、取り敢えずオークション会場へと向かうしかない。

    幸い学園長が必要な情報をメモにしてくれていたので、私はその指示の通りに動けば何とかなるようだ。そこまで情報が揃っているなら自分で行けばいいのに……どうせ「私、忙しいので」と言って逃げるのだろうけれど。何か手に負えないトラブルが起きたら、報酬を上乗せしてもらおうと心に決めた。

    〇〇

    指定された場所で足を止める。
    メモに書かれていた場所は街の一角を占める大きな屋敷だった。入口には多くの馬車や車が乗り付けており、多くの人が集まっていることが窺える。

    「おっと、」

    私は門から敷地に入る前に、学園長から手渡されたローブを頭から被った。これもマジックアイテムの類のようで、「相手から正体を悟られず、かつ怪しい者には見られない」効果があるらしい。何とも微妙な効果だが、無いよりはマシだ。
    それでもいちおう効果はあったのか、何の警戒もされずに門から入り、会場へと身を滑り込ませることができた。学園長曰く、今の私は「どこかの家の使用人」くらいの身分に見えているらしい。

    紛れ込んだ屋敷の内装は豪奢で、どこかコンサートホールのような賑わいを見せていた。これ、本当に人身売買の行われる会場なのだろうか。横を通っていく人々も正装をしており、ただの社交のようにも思われる。
    しかし人の流れに身を任せて移動していくうちに、違和感に気が付いた。それは大きな扉を潜り、薄暗い部屋に入った瞬間に確信へと変わった。

    布張りの椅子と白いテーブルクロスの掛けられたテーブルが広い空間にいくつも設置されている。そこには多くの人々が座り、密やかに語り合いながらとある一点を見つめていた。その視線の先には──舞台があった。しかし明かりに照らされているのは役者ではない。厚手の布の掛けられた何かが、舞台の中央に鎮座していた。
    私は会場の隅に寄り、壁に凭れかかった。今は使用人のていでいるため、席に着くのは気が引けたのだ。実際、お仕着せ姿の人や私の着ているようなフードを身にまとった人は、会場の壁際か主人の傍で控えているようだった。
    改めて壇上を見やれば、薄暗闇の中に布の掛けられたものは他にもいくつか並んでいるのが分かった。布の端から見えている部分を窺う限り、あれは鉄でできた檻のようだった。一つはガラスの水槽かもしれない。さっきまでは普通のオークションと言われたらぎりぎり信じたけれど、完全に黒だということが分かってしまった。

    とんでもないところに来てしまったなぁ……今さらながら、私は自分の運命を軽く呪わざるにはいられなかった。


    暫く待っていると、壇上に人影が現われた。黒い装束の、若いともそうでもないとも見える男性だ。男性は自らの喉の辺りに杖を当て、何か喋り始めた。彼も魔法士らしく、魔法で拡声しているらしい。静かな語り口である割に、その声は会場全体に響き渡っていった。

    『皆様、ようこそおいでくださいました……今夜も一級の品を揃えております。どうぞごゆるりと……』

    その人物が合図をすると、いちばん手前にあった檻の布が取り払われていった。そこに囚われていたのは、大柄な獣人の男性だった。恐らく腕力もあるのだろうけれど、すっかりやつれて座り込み、鉄格子の向こうから此方をねめつけている。
    その姿に同情を覚えるとともに、私の中の不安は増した。もしかして、ルーク先輩も……。あの人が弱ったり困ったりしているところを、私はそれほど見たことがない。いつも気丈に構えている先輩が、もし……。想像しただけでも胃がキリキリと痛み出す。

    『最初の品はヤマネコの獣人、25歳。魔法は使えませんが力仕事に適切。気性が荒いため扱いには注意。700万マドルから──』

    そのアナウンスと共に、静かだった会場が僅かにざわめき始める。どうやら競りが始まったらしい。私はその様子を茫然と見ていた。

    そのまま様々な「商品」が紹介されていった。人間に獣人、人魚、なんとも分からないもの──。取引は案外淡々としていて、大抵どれもすぐに買い手が決まっていった。
    購入する気など微塵も持たない私にとっては永遠にも思える時間を待ち続けて、ようやくその時は来てしまった。布が取り払われたその檻の中に、何故だか椅子が一脚置いてあり、そこに人が座っている。特徴的な髪に、私は確信した。

    『次の品は人間、18歳前後。魔法が使えます。見目もよろしい。3000万マドルから』

    その値段は適切なのかどうか分からないが、私の手には負えないことは確かだった。それもそのはず、正攻法で購入することは学園長には指示されていないし、そんなお金も持たされていない。あとで闇に乗じて連れ戻すようにと言われていたので、今この時は舞台の上の先輩を眺めていることしかできなかった。

    ルーク先輩はワイシャツと制服のスラックス姿で、ぐったりとした様子で椅子に縛り付けられている。ブレザーも帽子も無いその姿は、想像よりも痛ましく映った。早く助けにいかなくては。そう思う心はあれど、今の状況で出て行くのはまずい。どうにか自分の逸る心臓を抑えつけていることしかできなかった。

    ふと、ルーク先輩の目がうっすらと開いた気がした。そのまま会場を眺めるのかと思えば、その目線はこちらに向けられているようだった。その射貫くような視線に、私の背筋に微かな電流を感じる。しかしここまではなかなか距離があるので、まさか私に気が付いているとは思えないけれど……。

    私はこの光景に何か既視感のようなものを覚えていた。不謹慎だとは思うけれど、一度だけ見た現代劇のような静謐さと不可解さがそこには満ちていた。さながらルーク先輩は舞台の上の俳優だ。これが手の込んだ作り物の芝居と言われたとすれば、私は信じたかもしれない。

    結局、ルーク先輩は5億マドルで、どこの誰とも知れないご婦人に競り落とされた。その呆気なさと居心地の悪さに、私は冷たい唾を飲み込みながらひたすら耐えていた。

    〇〇

    競売が終わると、壇上から男性が一礼して去って行く。ほとんどの品に買い手がついた今、並んでいた檻は何人かの人手によって舞台袖へと下げられていった。

    ここがチャンスか……私は重い足をどうにか動かして、舞台裏のその先へと回り込むことにした。幸い、未だルーク先輩の身柄はあのご婦人に渡されていなかったようだし……。

    「旦那様、控室へ。商品・・が届けられております」
    「うむ」

    当ても無く廊下を巡っていたら、そんな会話が耳に入って来た。これはチャンス!私はその控室とやらに向かってこそこそと走り出したのだった。

    〇〇

    案外あっさりと先輩を見つけることができた。探しに出た回廊で不審者と見間違えられ、追っ手を躱す為にひた走り、たまたま逃げ込んだその部屋に彼は居たからだ。

    「おや、トリックスター。来てくれたのかい」
    「!?」

    ルーク先輩は私に向かって鷹揚に微笑みかけた。壇上で見上げた時には体調が悪そうにも見えたが、今の彼は妙に普段通りである。
    一方、部屋の隅では何故か幾人かの男性が伸びているが、それは見ないふりをした。こういうところは突っ込んだら負けなのである。
    そして私が説明を求める前に、ルーク先輩は勝手に事情を語り始めた。

    「彼らは私のことを模範的だと評価してくれていてね。おかげで檻には入れられないで済んでいるんだ」
    「模範囚の間違いでは……?」

    そう言えば檻にはもう囚われていない。
    とは言え先輩のその腕は未だ縄で縛られた状態だった。これでは逃亡はおろか、日常生活にも不便したことだろう。幸い捕らえられてから一日ほどしか経っていないそうで、身体に衰弱はみられなかった。
    それにしても、このルーク先輩ほどの人物が簡単に捕まるなんて、未だ信じられない。私が怪訝な視線を向けていたことに気が付いたのか、ルーク先輩は再び自ら話し始めた。

    「捕らえられる側の心情が分かれば、これからの狩りがもっと楽しくなるだろうかと思ってね!」
    「まさか、わざと捕まったんですか!?」

    この人が狩りを趣味としていることは知っているけれど、そのためにここまでやるとは……。半ば呆れる思いで、私はルーク先輩の話に耳を傾けていた。

    「普段の私は獲物を追うばかりだ。しかし、いつも同じことをしていては揺らぎのようなものに気が付けないのだよ」
    「ゆらぎ?」

    聞いたことがあるようでそれほど馴染みのない言葉に私が首を傾げると、先輩は目を伏せて説明を始めた。

    「例えば君が図鑑でとある生き物の情報を得たとする。その生き物は社会を構築して群れで生活を送り、より生存や生殖の成功率を高めるために長を戴く。しかし、それがその生き物の全てなのだろうか?」

    ルーク先輩の語り口は滔々としていて掴みどころがない。まるで芝居の台詞のようなその話は、私をさらに考え込ませてしまう。
    そんな私を置いてけぼりにして、ルーク先輩はさらに話を続けた。

    「時折、たった一つの個体が群れから離れる。そしてを目の当たりにしたとき、君はどう思うだろうか?想像してみておくれ。集団として生息しているはずのものが、ひとり君と向き合っている場面を」

    やはり先輩の声には不思議なところがある。他人のペースを乱してしまうような……否、相手を自分の世界へと巻き込んでしまうのだ。しかし私はその世界について何も理解することはできていない。恐らく多くの人はそう感じることだろう。
    しかし今日の先輩は、私をその世界へとすっかり引きずり込んでしまう前に、その舞台を自分で締め括った。

    「そういう例外を知ることが、時には大切だということさ」

    相変わらずその言葉の意味も、先輩の考えも分からなかった。けれど続けられた言葉には、唖然とするほかなかった。

    「ここは珍しい魔法生物も扱うから、良い機会になったよ」

    先輩はどこまでも飄々としている。その表情に嫌な気配がした。
    ここに来るまでの廊下でも、私は様々なものを目の当たりにしてきた。鎖で繋がれた動物、縄で全身を縛られた人間、何かしらの金属の枷を嵌められた何とも知れないもの……一歩間違えばルーク先輩もあのような目に遭っていたかもしれないというのに。
    ルーク先輩のことを変わり者と評する人は多いけれど、私はそう呼ぶにはどこか少し違っている気がした。同じ人間でありながら、何もかもが理解の及ばないところにある人。知れば知るほど、深淵のように新たな秘密を垣間見せる人。未知は恐怖とはよく言ったもので、底のしれないこの人に私は恐れすら覚えている。
    しかし今感じているのは、その恐ろしさよりももっと別のものに違いなかった。ふつふつとした何かが、私の腹の奥からせり上がって来る。
    その感覚は喉を上り詰め、ついに口から飛び出していった。本当ならば先輩であるこの人に言うには聊か不適切なその言葉だったが、今はなりふり構っていられなかった。

    「ばかっ!変な人に買われたり死んじゃったりしたらどうするんですか!?」

    私が一息に言い終えた後、先輩は珍しくもきょとんとした顔をしていた。ただでさえ大きな瞳はもはや零れ落ちそうなほどに見開かれている。その驚き様に、今度はこちらが吃驚する番だった。
    そうして暫く沈黙が続く。その珍しい表情をじっと眺めていると、これまで気が付かなかったようなことが分かってくる気がした。例えば、ルーク先輩の白い肌には微かにそばかすが浮いているということ。瞳の色が光の加減で揺らめいているということ。不意に訪れたこの一瞬を、私は永遠のようにも感じた。
    その沈黙を打ち破ったのは、ルーク先輩の声だった。それは普段とは違って、本当に驚いたときの色を帯びている。

    「……思わぬ副産物だ」
    「え、何ですか?うわっ、誰か来た!早く逃げましょ」

    その微かな言葉の意味を聞く前に、扉の向こうに複数の足音がした。もしかしたら先輩を管理・・している人々が来たのかもしれない。
    早く逃げなくちゃ。慌てて私が彼を縛る縄を解こうとしたところで、手を何かにとられた。冷たい感触に驚いていると、くすくすという笑い声が聞こえる。

    「そうだね。君の言う通り、ここは一度撤退すべきだ」
    「え、?」

    私の手を取ったのは、先輩の手そのものだった。いつの間に縄を……驚いている合間に、ルーク先輩は私ににこりと微笑みかけて言う。

    「さあ、帰ろうか」

    そのまま立ち上がり、繋いだ手を引いていくルーク先輩。
    助けに来たのは私のほうだというのに、まるでエスコートをするかのように先輩は私を導いていく。その足取りはしっかりとしていた。

    〇〇

    それからは……なんというか、凄かった。
    ルーク先輩は「戻る前に上着とマジカルペン、そして帽子を取りに行かせておくれ」と私に頼んだ。先輩にとってマジカルペンも上着も必要なものだろうから、私は快諾した。けれどどこにあるのかは分からないし、探しに行く途中で人に見つかったらどうしようか……そう危惧する私に対して、ルーク先輩は軽く言い放った。

    「トリックスター、心配はいらないよ」

    その言葉は俄かには信じがたかったけれど、先輩は案外強引な手段で私に安心感を植え付けた。

    「恐らくあのマダムが私の上着を預かってくれていることだろう。あのマダムは完成品がお好きなようだからね」
    「?」

    マダム?さっきルーク先輩を購入した人物のことだろうか。遠回しな表現に私が色々考えているうちに、ルーク先輩はさっさとドアノブを回して部屋を出ようとする。

    扉が開いた瞬間、私は息が止まるような思いがした。戸口の向こうに、着飾ったご婦人が佇んでいたからだ。その背後には彼女の使用人と思わしき人物がいて、手にブレザーと羽根つきの帽子を持っている。私が彼らの正体に勘付くとともに、ご婦人は大きく目を開いて息を吸い込む様に口を大きく開けた。これはきっと悲鳴を上げるに違いない……!

    「失礼、マダム」

    そう予想立てた瞬間、ルーク先輩は断りを入れながら手を婦人の目の前にかざした。それとともに婦人は言葉もなく目を閉じ、床に膝をついていく。ルーク先輩はその身体を優しく支えて、部屋の中にあった椅子まで運んでそっと下ろした。私も婦人の付き人も、唖然とその様子を見守っていることしかできない。
    そうしてこちらを再び振り向いて、彼は悠然と微笑む。

    「初歩的な魔法さ」

    その手にはマジカルペン。……いつ、取り戻したのだろうか。助けに来た相手ながら、私はルーク先輩のことが怖くて仕方がなくなってきた。

    ルーク先輩はそんな私のことなど置いてきぼりにして、私と同じく口を開けたまま立っている使用人の男性に歩み寄った。男性は何をされるのかギョッとしていたが、先輩はその手から帽子と上着を受け取っただけだった。
    ゆっくりと上着を羽織り、そして帽子を被る先輩。それはあまりにもいつも通りで、ここが学園ではないとんでもない場所だということを私に忘れさせるほどだった。
    ルーク先輩はブレザーのポケットからネクタイを取り出し、手際よくその首元に結んでいく。そこでようやく、付き人の男性が呆けた状態から正気へと戻ったようだった。ルーク先輩に掴みかからん勢いで、早口で捲し立てていく。

    「っ、お前っ!奥様が大金をかけて購入したのだぞ!権利書も此方に……」
    「ムシュー」

    男性の必死の大声は、先輩の呼びかけに遮られた。男性は再びきょとんとした表情に戻り、先輩の顔を見つめている。その視線には、僅かに恐怖が混じり始めているようにも見えた。
    場には妙な緊張感が漂い始めている。しかし先輩は穏やかに、男性に向かってたった一言だけ述べたのだった。

    「私の心は既に美の虜なのさ」

    妙に気障な台詞だったけれど、それは真実だったように思う。何も言えなくなってしまった男性を置いて、先輩は私の手を再び取り、部屋の外へと連れ出した。

    〇〇

    「トリックスター、」

    柔らかな声が、私を微睡みから揺り起こす。重い瞼を開くと、闇と淡い光が視界に入った。

    「ん……」
    「お目覚めかい?」
    「? うわっ」

    妙に温かいと思ったら、私の頬は誰かの背中に触れていた。いや、これは誰と問うまでも無く、ルーク先輩の背中で間違いないだろう。
    急いで身体を離すと、先輩がくすくすと笑ったのが聞こえた、恥ずかしくなってしまって、つい語勢が強くなってしまう。

    「っ、下ろしてくださいますか!?」
    「仰せのままに」

    先輩はゆっくりと私を地面へと降ろした。そして私が自分の足で立って安定するまで、その手で身体を支えてくれる。エスコート上手いな……。私が色々考えているうちに、先輩は手にしていた帽子を被り直していた。羽飾りが私に当たらないよう、外していてくれたらしい。

    辺りを渡せば、そこは見慣れた学園のメインストリートだった。ただし時間が時間だからか、誰一人として歩いてはいない。
    そのまま静かな構内を二人歩く。私はオンボロ寮、ルーク先輩はポムフィオーレ寮へと向かうものだと思っていたら、ルーク先輩は鏡舎へと続く道を過ぎても私と並んで歩き続けていた。どうやら送ってくれるつもりらしい。

    それにしても、いつの間に眠ってしまったのだろうか。出発した時と同じ旅程で、しかし今度は先輩と共に私は学園へと戻ってきた。その間に何度も船と列車を乗り継いだため、身体は疲れてしまっていたのかもしれない。それでも、まさか寝てしまって先輩におぶってもらうだなんて……!私は顔から火が出そうな思いがした。
    そんな私の様子を横目で興味深そうに眺めながら、先輩は私にお礼を言った。

    「迎えに来てくれてありがとう、トリックスター」
    「いえ、学園長の命令でしたから……」

    もともとルーク先輩の生死を心配する人は(非情だとかそう言う次元ではなく)皆無だったし、私自身、放っておいてもすぐに戻ってくるものだろうと思っているところがあった。しかしあの場でルーク先輩と再会して以来、私の胸には別の懸念が居座るようになっていた。
    この際だし、聞いてしまおうか……この先輩とはこれからも少なからず関わる場面がある。私は何となくそう直感していた。秘密の多い人だということは知っているけれど、今はどうしてもはっきりさせておきたいことがあった。

    「……もしかして、私が迎えに行かなかったら帰らないつもりだったんですか?」
    「運命に身を任せるのも、また人生と言うものかもしれないね」

    答えになっていない答えを返しながら、ルーク先輩は道を行く。この人の帰る場所とはいったいどこなのだろうか。故郷のことも断片的にしか話してくれたことはないし、ポムフィオーレ寮だって在学中の住まいに過ぎない。その地にとどまる理由がなければ、次の地へと移ることに躊躇など無さそうな人。それが、私がルーク先輩に対して抱く印象だった。
    しかしルーク先輩は、私のように迷子という訳ではない。そもそも似ていると思うことすら、何だか違うような気がした。黙ってしまった私に、先輩は甘い声で囁く。

    「それでも、この感謝を伝えさせておくれ。ありがとう、トリックスター」

    ルーク先輩はやはり微笑んでいたけれど、その心の在処はどこにも見出すことが出来なかった。 
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    kinoko12069

    MAIKINGどうやらワンナイトしちゃったらしいルク監の話。かきかけです。

    卒業後設定、女監督生、捏造過多にご注意ください。まだまだ全年齢ですが、この手の話題が苦手な方はご注意ください。

    今回の狩人:相手から許可をもらうまでは絶対に自分からは触れないが、しかし一度許可を貰うとヤバいタイプの紳士狩人。
    目が覚めた時、いつもより太陽の光を強く感じた気がした。せせこましい住宅街にあり、東向きで日当たりのちょっと微妙な自宅では、朝にこれほどの陽光を浴びるという経験がなかったのだ。お隣の古い空き家がついに崩落したのかな……そんな寝ぼけたことを考えながら、気怠い身体をベッドから起こす。

    そこで私はもう一つの違和感に気が付くことになる。身を起こすと同時に、掛け布団が肩からお腹の辺りまで滑り落ちていく。瞬間、とんでもない寒気を感じた。
    風邪でも引いたのかな? いや、それにしては感覚が違うような……寝ぼけ眼を開いて自分の身体を見やれば、今朝の私はシャツ一枚を着ているだけだった。
    一般的な寝間着としては、特別おかしい格好でもないかもしれない。けれど、この季節は妙に花冷えがしていたので、冷え性の私はもっと着込んで寝ているはずだった。それが、今朝に限って薄手のワイシャツたった一枚きり……しかも妙にサイズが大きいような……それに、いつも同じベッドで寝ているはずのグリムもいない。ちょうどいい湯たんぽにしているというのに……違和感はまだまだ続く。
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