日記雨の中蹲る人がいたので声をかけた。驚いたことに以前病院で見かけた『スティーヴン』だった。あまりにも体調が悪そうだったので心配になってしまった。残念ながらあの時は担当になることは出来なかったが、今なら救ってあげられるかもしれない。家に連れて帰った。

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彼の本当の名前は『マーク』というらしい。ずっと鏡に向かって話していたから、｢私とも話してくれないか｣と取り上げたら大人しくなった。｢スティーヴン｣｢ジェイク｣と呼び続けるのでそんな人はいないと教えてやった。それ以降何も話さない。

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何度も教えてやるうちに口をきいてくれるようになった。｢先生｣とこちらを見る目に応えてやりたくなってしまう。治療が終わるまでは関係を持つわけにはいかないので、雨の降る間ずっと背中を撫でるに留まった。早く治れば良い。

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ついに彼が笑ってくれた！スティーヴンもジェイクもいないのだと繰り返させたのが良かったのかもしれない。暴れようとするから部屋から出られないように鍵を掛けておいたけれど、そろそろ開けても良いだろうか。今度は幸せになりたいと言ってほしい。できれば私と。

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昨日は随分と恥ずかしいことを書いてしまった。彼にはまだ気付かれてないと思うが。患者にこんな想いを抱くだなんて許されないことだ。早く治れば良い。

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｢幸せになりたい｣と言ってくれるようになった！手を握って促してやると頬を緩める様がなんとも愛らしい。多少乱暴なことはしてしまったけれど、幸せになりたいと言ってくれるようになったのだから結果的には良いだろう。今は私の声以外は聞こえないと笑っていた。

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彼が出ていってしまった。｢もう大丈夫です。ありがとうございました｣と書き置きが残されていた。昨日は濃い隈が残っていたから心配だ。きっとすぐに帰ってくるだろうから、その時のために部屋を整えておこう。枷はもっと短くても良いかもしれない。

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彼はまだ来ない。今朝新聞に自殺した男のニュースが載っていたから一瞬心配してしまったけれど、彼は治ったのだからそんな心配は必要なかった。無駄に慌ててしまったのが恥ずかしい。これも笑い話としていつか彼に話せるのなら、まあひっくり返したコーヒーも報われるだろう。

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彼はまだ来ない。