夢の通い路 ミスタはこの頃同じ夢をみる。城の一室の様な広い空間で食事をする夢だ。
床を覆う朱のカーペットは靴を隠す程に毛足が長く、黒い石の壁によく映える。部屋の真ん中に置かれた架台式テーブルの所謂、お誕生日席にミスタはいつも座っている。
上を見れば豪奢なシャンデリアが堂々と鎮座し、真下のミスタとその周辺に明かりを落としている。
シャンデリアの種類も、壁に使われている石の素材もミスタはよく知らねぇが隅々までこだわられていることがわかった。
滑らかな肌触りの白いテーブルクロスに飾られた美しい花。まァ、歓迎はされている。
そしてこの夢のメイン、ミスタの目の前に置かれている料理。デカいテーブルにポツンと己の目の前のだけに存在している。他は空席。つまりぼっち飯。それがいつもちょっと寂しい。
いやまァもう慣れたけど。気を取り直して視点を下に向ける。
ミスタにあわせて左利き用に並べられたカトラリー、鈍い銀色が光を反射する。くもりひとつ見当たらない。
皿に乗った肉のようなモノ。表面は香ばしく焼き色がつき、ナイフを入れると赤く艶やかな内部が露出する。
上にかけられた琥珀色のソースがとろりとたれる。柔いソレを一口大に切って口へ運ぶ。
カチリ、フォークを噛んでそのまま引き抜いた。フォークによって辛うじて浮いていた存在がべちゃり、と舌の上に落ちる。独特な味が口に広がった。ぐちゃりぐちゅり、奥歯で潰して嚥下して、胃に落とす。
俺、何食わされてんだろ。甘いのか苦いのか、しょっぱいのか辛いのかわからない。否、わからなかった、と言うべきか。
だって今は美味しい、と感じている。マ、形容し難い味なのはかわんねぇんだけど。何故かコレが美味しいモノなんだと、頭が認識し始めているのだ。
しかしミスタの本能は、とんでもなく警鐘を鳴らしている。この料理に慣れてはいけない、と。それでもミスタは食べ続ける。毎夜、毎夜。この夢が続く限り。
この料理を食べなければいけない、という使命感にかられているのだ。だが、どうせ食べるならば普通の美味しい料理が食べたいと思うのが道理というもの。
「はァ〜…ヴォックスの手料理が食べてぇな!!!」
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今夜の料理はどうかな、ミスタ。そろそろコチラの食材が身に馴染む頃だろう。柘榴を4粒なんて生ぬるい。すべての時を私と過ごそうじゃあないか。
「認めればいい、美味しいと」
そうしたらお前も私も、すぐに幸せになれる。