紫陽花の箱庭ザアザアと降る雨の音と独特な匂いに目を覚ました。
まだ目覚める時間じゃないが、そっと布団から抜け出す。音をたてないように、自分ひとりぶん襖を開けて縁側へ出た。
庭では塀に沿って植えられた紫陽花が、どんよりとした空の下で鮮やかに存在を主張している。
濡れた紫陽花はとても綺麗だから、もう少し近くで見たい。そう思って足を下ろそうとした時、
「おはようミスタ、今日は随分と早起きじゃないか」
いつの間に近くまで来ていたのか、柱にゆったりと体を預けて男がミスタを見下ろしていた。
ふ、と笑みを浮かべながらミスタの側に寄ってきた。
「下駄も履かずに何をしようとしてたんだ?今日は雨も降っているんだ、濡れてしまうよ」
「おはよ、紫陽花、見たくて。濡れてるといつもよりキレイだから」
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