ゆっくり堕としていこうか 「お前は人間じゃねぇから、だから好き」
あっけらかんとそう言い放った目の前の恋人に、ヴォックス・アクマは度肝を抜かれた。
だって、エ?私のことを愛しているから、同じ人間じゃなくてもいいと思えたのではないのか。少なくとも私は、そう、思っていた。
嗚呼それなのに、それなのにそれなのに!目の前の可愛い人の子は別に、私じゃなくてもいいと、人でないから好きなだけだと言わんばかりのことを口走った。
それは、あんまりではないか。私ばかりお熱になっていたと言われているようで、なんだか恥ずかしくなってきた。最近の人間は皆こういう感じなのか?
人ならざるモノと恋仲になることは人間と同じような関係になることとそう変わらないのか?
いや、確かに、私達が今所属している組織は人ではないモノが多くいる。だから、容姿が整っているから好き、みたいに人間じゃあないから好き、という理由で恋仲になることもあり得る、の、か?
「どしたの?ヴォックス、固まっちゃってさァ。お前が聞いたんじゃん、なんか反応しろよ」
居心地が悪そうに髪を弄りながら座り直す姿も可愛らしい。
「すまない、ただ、少しばかり理由に驚いてしまってね」
「エ?まじ?ヴォックスもそういうカンジじゃねぇの?顔がそれなりに整ってれば、誰にでも手ぇだすじゃん?」
思わず顔を覆った。そしてやはり、人間じゃあないからと言うのは、容姿などと同列らしい。
それにしても、私とミスタとの間では大分気持ちの重さが違うということに気づいてしまった。どうしたものか、こちらとしては人間になって共に人生を歩むつもりだったのだが…
まァ、いいか。人間じゃないことが好きになる理由になり得るのならば、自分自身が人間じゃなくなるのも、マイナスにならないだろうから、これからは積極的に人の理から外していこう。
「そうだな、少々目移りが過ぎたことは謝ろう。それでも隣に居続けてくれるお前に感謝を。そして、これからもよろしく頼むよ、ミスタ」
居住まいを正して左手を差し出した。不思議そうにしながらもその手を握ってミスタは笑った。
「なにそれ、マ、感謝しなよ?俺じゃなきゃとっくに愛想つかされてんだからさ。で、なんだっけ、あァ、これからもヨロシク?」
改まって言うのはなんか恥ぃね、と視線をそらしたミスタに思わず笑みがこぼれる。可愛い私の恋人、ずっと私と生きようね。
気持ちの重さはこれからじっくりと合わせていけばいいさ、なんせ人間の比ではないくらい人ならざるモノの寿命は長いのだから。