結果よければなんとやらミスタとヴォックスは週に何回か、二人で飲むことが習慣になっていた。始めのころはどっかのパブとか、お互いの家を行き来したりしていたが、最近ではヴォックスの家にミスタがお邪魔する、という形に落ちついてきている。
そもそもの始まりはなんだったか、散々楽しく配信をした後、なんだか寂しくなったのだ二人とも。友達と遊んだ後の帰り道みたいに。
つまりお互い寂しがり屋だったのでじゃア、同じ国にいることだし、会うか!となったというのがこの話の始まりである。
今日も今日とて楽しく飲んで、明日の二日酔いが心配になるくらい酔いがまわった頃、飲んでいた缶が空っぽになったミスタが「それ美味い?オレにもちょーだい」と身を乗り出してきた。
距離が近づく。
酔によって上気した頬、潤んだ瞳、相変わらず綺麗な顔だな、と思った。自分の前で無防備になるところが可愛い、と思った。思って、しまったので、キスをした。
酒でしっとりと濡れた柔らかい唇を噛んで、舐めて、しっかり堪能した後でヴォックスは正気に返った。
やっちまった、と思った。軽いキスならともかく友人同士で唇は舐めない。犬じゃねぇんだから。いやこいつは私の犬だが。
焦ったヴォックスが言い訳を用意し終える前にミスタが言葉を発した。ミスタの顔が見れなかった。「なんでキスしたの、」「ア、いや、」「なんでキスしたの」「それは、すまない…」「後悔してる?」「していない」「そっか、」「ああ」「なんでキスしたの」「待ってくれまだ続けるのか」思わず顔をあげるとミスタはおっきなお目々をうるうるとさせていた。
「泣くほどか、泣くほど嫌だったのか、」
ちょっとへこんだ。
「や、ちが、ちがう。けど、、」
いっぱいいっぱいだったミスタは泣き出してしまった。ヴォックスはそれはもう吃驚した。だから、
「ア、待て、泣くな。そうだ、そうだな、じゃあ結婚しよう」
盛大に間違えた。仕方のないことだった。めちゃめちゃに動揺していたので。ついでにぎゅっと抱きしめた。絶対にそれは正解ではなかったが、ミスタの方も大分混乱していたので、
「する、結゛婚゛す」
と返事をしてしまった。涙と鼻水で顔をめちゃめちゃにして必死に頷いた。
返事を聞いたヴォックスはよし、と思って指輪を探した。プロポーズには婚約指輪がつきものだと思ったので。
ただ、飲みの席に指輪なんぞ持ってきてない。そこらに転がっている指輪になりそうな物は缶のプルトップか何かの針金。無いな、と思った。これは格好良くない。ヴォックスはこだわりが強かった。
そんなヴォックスの目にあるものが入ってきた。栓抜きだ。これだ!と思った。正直どれを選んでも全然よくねぇのだが、ヴォックスはこれしかないと思った。
なのでヴォックスはそれを拾い上げて、頭部分をブチッと千切った。
そしてミスタの指に合うように、ぎゅっと広げて凹凸を潰して、そして、恭しく薬の指にはめてやった。
ついでに軽くキスを落してやったので、完璧にキマッた、と満足した。ミスタもミスタでさすがヴォックスだな、と何故か感心していた。まァ二人ともしこたま酒をのんだあとだったので、まともな思考回路はしていないのだ。
すっかり泣き止んだミスタにヴォックスは嬉しくなって「婚姻届が必要だな」と言って手を引いた。
ミスタは元気に頷いて立ち上がり、二人は役所へ向かった。
その道中、「ところでどっちが花嫁」「お前だろう、お前を幸せにするための結婚なんだから」「それだとヴォックスは幸せになれないじゃん」「お前が手に入る時点で私は幸せだ」「そっか、じゃァいっか」「ああ、これでいい」こんな会話をしながらイチャイチャしていた。
斯くして二人は結婚することになった。