無題「あー腹いっぱい!ごちそーさまでした!」
「うん。貴殿の食べっぷりはいつ見ても気持ちが良いな」
今日も今日とて無一文の俺は、いつもの如く理鶯さんのベースキャンプにお邪魔して食事をご馳走になっていた。
たまに理鶯さんのチームメイトから「入り浸り過ぎだ」と文句を言われたり、俺自身もちょっと気にしたりした時もある。だが当の理鶯さんが食事を振る舞う時やそれを綺麗に平らげた時にひどく嬉しそうな顔をするものだから、遠慮する方が失礼だと思いこうして厚意に甘えている次第だ。
「今日の飯もめちゃくちゃ美味かったっす!」
「それは良かった」
食後のハーブティーを飲みながら雑談する時間が好きだ。俺ばかり話していることの方が多いが、理鶯さんはいつも楽しそうに聞いてくれる。それに気を良くしてついついお喋りが加速してしまうのだった。
気付けば辺りはすっかり暗くなり星が瞬き始めている。焚き火にくべられた木の枝が爆ぜる音と、理鶯さんの穏やかな低音が眠気を誘う。欠伸を一つ漏らすと、理鶯さんは「今夜はここで休んでいくと良い」とテントを指さした。
「いやそんな、さすがに悪りぃっすよ。幻太郎んちにでも行きますって!」
「これからシブヤへ戻ったら真夜中になってしまうぞ。遠慮するな」
どうしようかと思ったのも束の間、今夜はドラム缶風呂を焚いてくれるというのでお言葉に甘えて泊まらせてもらうことにした。
先に入れと促され、いやここは理鶯さんがお先にと譲り合いの攻防が暫し続いたあと、結局俺が折れて一番風呂をいただくことになった。
理鶯さんが火を起こしてくれているのを横目に、さすがに世話を焼かれ過ぎなのではないかと思いながら何週間ぶりかの湯船に体を沈める。
少し熱めのお湯が心地良い。
「湯加減はどうだ?」
「ちょーきもちーっす……」
「ふ、溺れるなよ」
理鶯さんはどうして俺にここまで良くしてくれるのだろうか。彼のことだから頼られれば誰にでも同じように接するのだろうけど。想像して少し妬ましい気分になった。自分だけにこうしてほしい、だなんてとんだワガママだ。
体が温まり、眠気が上昇していく。頭がぼんやりとしてきた。
「りおーさん……」
「どうした有栖川」
「……なんでも、ないっす」
理鶯さんがそうかと頷く。思わずワガママを口走りそうになって口をつぐんだ。