暗中問答 ――また、俺は何もわからない。
十年前のことも、今も。他ならぬ自分の身の周りで起こっていることだというのに、そのすべてが天智舖を置き去りにして動いているかのようだった。
何故黒田は襲われたのか。何故透也は何も言わないのか。何故自分が被疑者なのか。黒昏さんや青木さんが俺を連れ出したのは。なぜ、どうして、どうして。
考えても湧くのは疑問ばかりで、答えはひとつも見えてこない。
(透也さん……)
無機質な目だった。天智舖を見るそれも、倒れた黒田を見るそれも。これまでの彼の姿なんて欠片も想像もできないような、冷たい眼差しだった。
(父さん)
広がる赤と、逃げなさい、と重ねられた手の感触が消えない。彼はこうなることを予期していたのだろうか。拘置所に入れられたときには殺人未遂だと聞かされた。いま、容体はどうなっているのだろう。俺のことなんてどうでもいいから、どうか、どうか。
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