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    tooi94

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    20230809 モブ ロ様の女
    ロくんには認識されません

    case1 5日目の依頼人彼女はロナルド様に本気の恋をしている。
    ロナ戦初版の表紙で一目惚れして、そこからずっと追いかけてきた。週バンで取り上げられるちょっと情けない姿も可愛く思うし、それでも市民を守る彼はとても素敵だ。ビキニ姿だって愛してる。
    そう、愛しているのだ。
    ロナルド様がおっぱいの大きな女性が好きらしいと聞けば、何らかの手段で豊胸したし、彼の横に立つのにふさわしい顔にもした。
    料理だって練習した。店には及ばないが家庭料理ならだいぶいい方だろう。ロナルド様はそういう、家庭の味に飢えているはずだ。
    あとはもう出会うだけ。
    けれどその機会はなかなか訪れない。そもそも彼女の所在は新横浜から離れていた。
    何らかの手段で引越しをした。ロナルド事務所の近くのはずだ。しかし、漫画であるような道端で偶然すれ違うことはなく、ロナルド様の事務所に駆け込むような事態も起きない。街ごとの被害に遭った時にやってくるのは吸血鬼対策課の方だ。
    まずはただのファンとしてプレゼントを持って行くのはどうか。
    しかしロナルド様はタイミング悪く不在、もしくはビルの手前で見かけても、オータム書店の編集者と一緒だったりで上手くいかない。
    ギルドの前の喫茶店で張り込みをしたこともあったが、ロナルド様はお忙しいのか、滅多にやってくることはなく、訪れることがあっても忙しない。
    吸血鬼にまつわる相談事はないけれど、予約を入れて行けば不在に当たることもないはず。メールには新横浜に越してきたばかりで、吸血鬼も多いと聞いているので不安とか書いておけば良いだろう。
    返信はすぐにあった。ロナルド様は丁寧に、彼女の不安を慮り、善良な吸血鬼もいること、彼の友人にはダンピールがいて家族仲も良いこと(その情報を得た時、ロナルド様のプライベートを教えてもらえた気になって彼女はちょっと浮かれた)、吸血鬼対策課や役所の相談窓口、退治人ギルドの連絡先、吸血鬼を含む住民たちとの交流会の案内を送ってくれた。ccにはおそらく、紹介されている吸対かギルドの女性メンバーのアドレスも入っていた。
    なんて真面目なひとなんだろう。そういうところも好きだけどそうじゃない。
    そうして彼女が手を拱くうちにロナ戦は2巻が発売され、ロナルド様が敵であるはずの吸血鬼を相棒として時間を解決したという記事を読んだ。
    すごい。素敵。
    けれど同時に心配にもなった。ロナ戦では戦闘力はないが邪悪で狡猾と描写されている。そんな吸血鬼とコンビを組むなんて。
    彼女は吸血鬼のことを調べたが、その情報を集めるのは簡単だった。ヌーチューブでチャンネルを持っているような奴だったからだ。
    それはロナ戦にある通り全くの雑魚で、骨と皮ばかりのガリガリのおっさんだったので、彼女は安心した。こんなやつ、ロナルド様ならいつでも殺せる。
    それが、自分も参考にしたレシピ動画の提供者だと知り、ロナ戦の3巻になって急に増えた食卓の描写に、記事に掲載される仲の悪そうな、あるいは楽しげに笑う2人の写真に覆されたのはすぐだった。
    好きな食べ物を聞かれて、ロナルド様が「ドラルクがこの間作ってくれたんですけど」と前置いてバナナフリッターやオムライスをあげる。それは可愛いけれど、そんな前置きいらない。その後の「あいつ、メシだけはうまくて」とかいう情報もいらない。そこには本来、私の名前が入るべきだ、いや、私の名前が入るなら、飯も美味くてと言ってくれるはずと彼女は思った。
    ギルドによく来るようになったロナルド様は、7割あの吸血鬼を連れてきていた。大抵はロナルド様らしくない大声で、乱暴な言葉遣いで口喧嘩をして吸血鬼を小突いて殺しながら歩く。今日は唐揚げが食べたいとか、昨日はクソ映画に付き合ったんだから、今日はトトロを観ようぜとか、そんな子供じみたことを話す。
    悪影響だ。
    吸血鬼の実況や生配信に、ロナルド様が映り込むことがあると聞いて見た。
    嘘だ。悪影響だ。こんなのは違う。こんなのは私のロナルド様ではない。
    こんなふうに、ゲームの途中に割り込んできて隣に座り込んで一緒に笑って、ホラー映画で悲鳴をあげて、レシピ動画では味見をねだって、凭れあって寝落ちるなんて、ロナルド様はしない。

    だから彼女はSNSに抗議のDMを送った。
    ロナルド様は公開されているアカウントを見つけられなかったので、オータム書店に。ご意見をありがとうございます。見守ってくださいなどと、ふざけた回答をされた。
    信じられない。作家を守れよバカなの。
    吸血鬼の方にも送ったが、生意気なことに反応がない。許せない。
    直接に訴えることも考えたが、大抵はロナルド様か、ほかの退治人や吸血鬼対策課と一緒にいて、話しかける隙がない。そう仕向けているのだ。なんて卑怯。死ねばいいのに。
    彼女は吸血鬼のファンを装って銀を送った。ロナルド様を守るためだ。
    何度か繰り返したところで、宛先を書かずに送っているはずのそれが彼女の元へ返ってくるようになった。ゾッとした。やはり吸血鬼だ。恐ろしい術を使っているのだ。死ねばいいのに。
    やがて吸血鬼への贈り物もオータムを通すかギルドを通して欲しいと、よりによってロナルド様から公言された。どうしてその吸血鬼を守るみたいなことをロナルド様が言わされているのか。死ねばいいのに。
    彼女は吸血鬼への呪詛とロナルド様への愛を綴った。直接ビルのポストへ投函していたが、そのうちビル自体に辿り着けなくなった。これも吸血鬼の仕業に違いなかった。しね。

    彼女の祈りが天に通じたかのように、吸血鬼が不在となる日がきた。
    期間は一週間ほど。
    チャンスだ。
    この間にロナルド様と出会い、私と彼が結ばれるべきだと、あの吸血鬼の危険を説いて追い出すべきだと分かってもらわなくては。
    しかし彼女は事務所に行けない。ビルがわからない。
    ロナ戦で何度か描写されたヴァミマを訪れて、暇そうにしていた店員に案内させた。ロナルド様のために作った胸をやたら見られたが、彼に会えるのであれば些細なことだ。
    けれど店員と別れて乗り込んだエレベーターは、ロナルド退治人事務所のある階に何故か止まらなかった。階段を使ってみたが、どういう訳か辿り着けない。
    ふざけるな。あの吸血鬼の邪悪な術だ。私がロナルド様の恋人になることを恐れて警戒しているのだと、彼女は思った。

    次に彼女は、下等吸血鬼の殺鬼剤を退治人に設置依頼をしなきゃという同僚に目をつけた。再発生の防止を心がけていても、土地柄でどうしても湧くのだとかで、町内で持ち回りで依頼しているのだという。同僚は「決まった持ち回りだから」と遠慮したが、なんらかの手段を用いてこの退治人に依頼し作業に立ち会う権利を得た。このなんらかの手段のせいで、今後同僚とは縁が切れるかもしれないし、この町内会みたいなところにも目をつけられるかもしれないが別に構わない。いずれ新横の退治人の頂点に立つ男の恋人になるのだから、向こうから頭を下げてくるだろう。
    ギルドではもちろん、ロナルド様を指名した。ギルドのマスターには別の退治人を薦められたが知ったことではない。

    そうしてようやく会えたロナルド様はやはり凛々しく美しい。やはり彼に相応しいのは自分だと彼女は思った。こんな地味な仕事で呼び出したのが申し訳ないくらいだが、これが2人の忘れられない思い出になるのだ。
    彼女はロナルド様のファンであることを訴えた。ここへ越してきて吸血鬼の多さに驚いたけれど、ロナルド様と同じ街にいると思ったからがんばれたとも言った。
    ロナルド様は少し驚いて、けれどすぐに目を細めて「ありがとうございます」と言ってくれた。彼女にはその笑顔とも言えない緩やかな口角が輝いて見える。ああ、なんて、素敵なの。
    再発生を抑えるための措置の方法を聞き流しながら、彼の横顔を見つめる。どの雑誌に載っていた写真よりかっこいい。彼女にはその輪郭に少しの翳りも見出せてはいない。
    けれど、話のきっかけに、お疲れのようですね、と彼女は声をかけた。実際に彼の食卓を預かっているはずの吸血鬼がいないのだから、その負担はあるはずだ。
    ロナルド様は戸惑ったようだ。それからバツが悪そうに目を泳がせる。かわいい。何か失敗してしまったのかしら。
    「…動く城で、でっかいベーコン使う目玉焼きあったじゃないですか」
    ああ。ありましたね。もしかして焦がしちゃったのかしら。人にはできることとできないことがありますもの、私はお料理が好きなので、そういったところはサポートできます、ちょうどいいですね。
    「うちにあったベーコンが、背中のロースのやつで、脂の量が普段使ってたやつと違ったんですよね」
    分厚い方が美味いかなと思って、一気に量を焼いちゃったせいもあるんですけどと、恥いるように仰る。
    え、と彼女は思った。ベーコンなんて、スーパーでスライスされているものくらいしか彼女は知らない。あったかもしれないけれど、気にしたことなんかない。
    …これから覚えれば、問題ない。大丈夫。
    彼女は話を切り替えることにした、とはいえ用意していたのはロナルド様が苦手なはずの家事のことばかりだ。
    今週はお1人と聞きましたけど、やっぱり大変でしょう、お部屋の掃除とか、お洗濯とか。
    「ああ、大丈夫ですよ、最低限は」
    ドラ公がやるほどではないですけど、とロナルド様は続ける。
    いえ、あの、今いない人は置いておいて。
    寂しくないですか、夜とか。1人の食事とか。
    「うちには他にも同居鬼はいますし」
    そんな、所詮ペットみたいなものじゃない。
    「家族ですよ」
    そんなの、どうだっていいじゃないですか、それより誰かと会話しながらの食事って大事ですよ、今夜、いかがですか、わたし、今日はローストビーフを用意してて。
    「ああ、いいですね」
    ロナルド様が笑う。やった、と彼女は浮き立った。やっぱりだ、やっぱり、ロナルド様は家庭に飢えててあの吸血鬼なんかじゃ満足できない、私が、私が。
    「うちのも作ってたな、ローストビーフ。八角とか生姜とか使ったやつで。今夜はそれにします」
    え、と彼女は戸惑った。うちの。八角。なに。
    ××さん、とロナルド様が彼女を呼んでくれた。
    「仕事は以上です。後日改めて、地区の責任者の方に、うちのと一緒に伺わせていただきますので、そのようにお伝えください」
    え、私が、私がここの責任者です、だから私が、つぎも、あなたと。
    「あなたが本当にこの地区の責任者なら尚更、適任が他にいますのでそちらに任せるべきだ。
    代理の責任感で仰っているなら大丈夫、ここの人たちとは長い付き合いなので」
    ちがう、違います、確かに私は代理ですけど、私は、私があなたに
    「ええ、はい、吸血鬼関連で何かお困りでしたらどうぞご依頼を、もちろんギルドへのご連絡でも構いません。
    では、これで。お互い楽しみですね、ローストビーフ」
    そうしてロナルド様は、それまでが作り物だったような笑顔で足早に去って行った。
    そんな、嘘でしょう、いないのに、あの吸血鬼は今いないはずなのに。所詮作り置きじゃないの。何がそんなに嬉しいの。やっぱりおかしい、ロナルド様はきっと催眠とか洗脳とか、そういう酷いことをされているに違いない。
    そうだ、ギルドに連絡しよう。あの吸血鬼は危険だから退治させなきゃ。
    しかし彼女がスマホを取り出そうとするより先に着信があった。こんな時にと思う間もなく、ついとってしまう。
    はい、××ですけど。
    『××さん。吸血鬼対策課の半田と申します。この番号は〇〇さんのものでは?』
    ギョッとして手元のスマホを改めた。何らかの手段で、退治人に依頼する権利を譲ってくれた同僚から借りたスマホの方だった。自分のものではない。
    拾ったんです、拾って、同僚のものだったので、職場で会った時に返そうと思って、もしかして同僚が届け出たんでしょうか、すみません、大ごとにしちゃって。本人が電話かけてくれれば良かったのに。大袈裟にしちゃって。バカなんだから。
    『〇〇さんは職場ビルの階段から落ちて、今は病院にいますよ』
    えっ、そんな、たいへん! じゃあその時落としたものを拾ったんだわ。
    『…この番号で、ギルドに下等吸血鬼駆除の依頼があったようですが、それは、あなたが?』
    ええ、あのこ、町内の仕事でやらなきゃいけないとか言ってたから、代わりに頼んであげたんです。そうだ、吸血鬼対策課なら、悪い吸血鬼の駆除してくれますよね!
    ロナルド様の事務所にいる吸血鬼なんですけど、酷いやつなんです、今すぐ殺したほうがいいわ、ロナルド様のために、ロナルド様を正気に戻さなきゃ!
    「…では、そこから先は、署の方でお伺いします」
    その声はすぐ後ろで、女の子の声で聞こえた。
    彼女が振り向くと、吸対の制服を着た赤毛のまだ若い女性と、黒髪の背の高い、金色の目をした男性がいた。スマホをもっているから、この人が電話をかけて来てくれたのだろう。それから、ギルドのマスターだ。
    素敵。さすが公僕。早速市民のために動いてくれるのね。
    彼女は喜んで新横浜署へエスコートされた。
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