沈めても沈めても浮かび上がるのは 眠り入る寸前の時に、うたた寝をする時に、必ずと言っていいほど見る夢がある。俺はそこでは花屋をしていて、狡噛はその店の客として現れる。季節の花を頼みたいのですが、そうですね、ではこちらはいかがでしょうか? 会話はいつも違うが、ありふれた感触でそれは始まる。俺は花を束ねながら、これは嘘だと勘づいている。嘘じゃないな、夢だと気づいている。狡噛は花束を愛でるような男ではないし、俺も花屋にはならなかった。しかしそれは平和な夢で、俺はそれが好きだった。ごっこ遊びのようで、とても好きだった。けれどそれは眠り入ればすぐに消えてしまって、うたた寝が終わればすぐに消えてしまって、俺はそれを悲しく思う。しかし俺は何度もその夢を見て幸せな気持ちになる。心地いい夢、温かい夢。俺はそんな夢に、何度も何度も沈んでゆく。
1981