幸福な獣 【囚われる獣の書き下ろし 抜粋】「とりあえず、異常はないな」
家入が悠仁の目を見てニコッと笑うと悠仁はホッと表情を緩めた。
「薬はしっかりと抜けている。アレだけの量を飲まされて一晩で解毒とは流石だな」
「よかったぁ」
悠仁が嬉しそうにそう答えると後ろに立っていた五条と夏油も嬉しそうに声を掛けた。
「あ~よかったぁ」
「これで一安心だよね」
「安心?」
夏油の言葉に家入は眉根を寄せた。
「硝子?どうかした?」
「どうかした?じゃないだろう」
家入の表情が険しくなっていく。
「薬はいい。薬は。虎杖の体質上、大丈夫だと思っていた。だが、お前ら昨日私が言ったことを忘れたのか?」
とげとげしい声で問いかけると二人が顔見合わせてキョトンとした。
「何かあったっけ?」
「起きたら硝子に診せるってうのは今してるね」
「だよね」
二人の言葉に家入が深くため息を吐いた。
「はぁぁ~~~。お前らなぁ、クズだクズだと思ってはいたが……」
殺気の孕んだ瞳でギロっと睨んだ。
あまりの迫力に悠仁のビクッと肩がビクッと跳ねたが、当の二人は素知らぬ顔で軽く受け流した。
「私は薬が抜けるまで休ませろ言ったはずだが?」
「硝子、ちゃんと言われた通りに休ませたよ。ねぇ、悟」
「そうだよ、硝子。明け方までぐっすり寝てたよ、悠仁は」
「ほぅ、明け方ねぇ……それじゃ、まず聞くが、今は何時だ?」
「何時って……」
夏油と五条が壁に掛かっている時計に視線を向ける。
短い針がほぼ数字の五を差し、長い針は十二のほんの少し前を差していた。
「五時かな」
「悠仁が起きたのは明け方なんだよな?」
「うん、そうだね」
「それでは何で五時なんだ?私は起きたらすぐにと言ったはずだが?」
五条がもっともらしい表情を作って答えた。
「そりゃ、悠仁、あれから朝まで寝てたじゃない。だからさぁご飯食べたりとかお風呂はいったりとか」
「だけじゃないよな?」
声が一オクターブ下がった。
「あれ?わかる?」
五条が明るい声で言い、更に家入の表情が険しくなる。
「分からないわけないだろうがっ!あれほど何もするなと言ったのに!夏油っ!五条を止めると言っていたのはどうしたんだ?」
「え~、俺だけが悪いの?傑も一緒にしたのに~」
五条が不満げに文句を呟く横でニコッと胡散臭い笑顔を浮かべて夏油が答えた。
「硝子、ちゃんと約束は守ったよ」
その言葉に家入が胡乱気な表情で問い返した。
「どこがだ?」
「ちゃんと薬が抜けたあとにしたから」
ニコッと笑ってしれっと答えた。
「夏油……そうじゃ、なくて」
呆れてものも言えないとばかりに家入が深いため息をついた。