Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ichi_nashi

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 🎲 🛁 🚂
    POIPOI 19

    ichi_nashi

    ☆quiet follow

    前回の続き。
    ちょっと拗れているアベとシオ。

    #アベンシオ
    aventio

    心に愛の降り積もる②「しばらくここを留守にする」
    相変わらずお茶請けを手土産にラボを訪れるアベンチュリンに告げられたのは、レイシオの長期出張の知らせだった。
    「しばらくって、どれくらい?」
    「わからないな」
    今回はカンパニーと博識学会の合同調査なのだと、目的地の資料を手渡される。
    資料に目を通せば、珍しくアベンチュリンは渋い顔をした。
    「ここに、君が?」
    「ああ」
    「忠告するけど、止めたほうがいい。少なくとも、今は時期じゃない」
    件の星は、市場開拓部が目をつけていた物件のひとつだった。
    カンパニーの手が入っていない未開の星は、ヤリーロⅥまでとはいかないものの、雪に覆われ資源も乏しく、民族間の抗争の激しい土地だったとアベンチュリンは記憶している。
    「最近、そこで独自開発された兵器の実験がされているという情報が入った」
    「こんな辺鄙な星で?」
    「辺鄙な所のだからといって、そこに根付いている技術も知識もないわけじゃない。むしろ、隔離された土地だからこそ、得体の知れないものが眠っていることもある。カンパニーも開拓を視野に入れている星だ。今回は先行調査の名目で視察に入る」
    「それは、君じゃなくてもいいんだろう?」
    「そうかもしれないが、僕が行かない理由ではない」
    さあ、話は終わりだとレイシオは立ち上がる。
    「ちょうどいい機会だ。君はここに来るのは、これを機にやめるといい」
    「…どうして?」
    空になったティーカップが、アベンチュリンの前から片付けられていく。
    「君に…ここでの仮眠は、もう必要ないからだ」
    お菓子たちと過ごすようになって、アベンチュリンの目の下の隈は薄くなった。
    最近は仮眠を取る必要もほぼなく、会話を重ねてティータイムを楽しんでいた。
    少なくとも、アベンチュリンはそのつもりだった。
    「彼らとの関係も良好そうで何よりだ」
    「僕は、親しい友人との交流を楽しみに来ているんだけど?」
    「そうか。なら、それこそ君の思い違いだ。僕たちは友人ではなく、ただの仕事仲間だ」
    「君は、ただの仕事仲間に寝床を提供して、お茶をごちそうしてくれる親切心溢れる人だった?」
    「…この答えが気に入らないなら、訂正しよう。君は、円滑に職務を全うするには支障がありそうな状態だったから、ほんの少しカウンセリングをした。君は、僕から見てただの仕事仲間であり、治療が必要な患者だった」
    「なら、君から見て僕の治療は終わったって事だね」
    「そうなるな」
    「それなら、今からでも友人としていい関係を気付けないかな?」
    アベンチュリンは、必死に糸口を探す。
    この、穏やかな時間を自分に与えてくれた人物との接点は、手放したくなかった。
    けれど、レイシオは頑なにそれを拒む。
    「…君とは、友人にはならない」
    「なぜ?」
    「君が僕に求めているのは、友人関係なんかじゃない。君が欲しいものは、依存先だからだ」
    「依存?」
    「君が生きていくためにギャンブルが必要だったように、君は自分の精神の安定を図るための拠り所を求めていた。健全な精神を保つ上では、それは必要な行為ではある。…が、それをどうやら無意識のうちに僕のみに定めていたように思う」
    すらすらと答えるレイシオの赤い瞳が、冷やかな温度でアベンチュリンを見据える。
    「依存行為は、何かひとつに絞るべきではなく、凡人である僕にそれを求めるなんてことは愚かと言える」
    「僕はそんなつもりじゃ…」
    「幸い、君の生活から不眠に繋がる不安要素はひとつ取り除かれたようだ。ならば、この話はこれで終わりだ」
    「いや、待ってよ、まだ…!」
    「僕はこれから準備がある」
    お帰り願おう、と伝えるレイシオの声が、冷たくアベンチュリンを突き放す。
    「それと」
    レイシオは思い出したように付け加える。
    「初対面の人間に、自分へ向けた拳銃を握らせるような男とは、友人にはなれないな」
    ピシャリと言い切られた言葉に、アベンチュリンは絶望の底に叩き落された。



    「うわぁ……君、なんて顔してるの?」
    目の下に再び隈を残してデスクへ突っ伏しているアベンチュリンの様子に、トパーズは大層ドン引きした。
    「やぁ、トパーズ!新しい仕事かい?」
    「いや、違うけど…」
    一瞬、嬉しそうに顔を上げたアベンチュリンは、それを聞くとまたつまらなそうにデスクに伏せ、指先でころころ、とカプセルの様な物を転がした。
    「何か、新しい仕事はないかな?君の抱えてる案件を手伝うのでもいいし…」
    「仕事もないわけじゃないけど…少なくとも、今の君に渡せるような案件はないよ」
    レイシオと別れてから約一週間。
    アベンチュリンは再び睡眠時間もそこそこに、仕事に打ち込んでいた。
    悪夢はほとんど見なかったけれど、とても眠る気分ではなく、何か別のことに集中したかった。
    おかげで、可愛い同居人たちに心配をかけてしまっているのが心苦しい…とアベンチュリンは思っている。
    きれいになってしまったデスクの上には紙の書類一枚も無く、時間を持て余した部屋の主がその上で溜息ばかりを溢していた。
    「教授と何かあった?」
    トパーズが真っ先に思い当たる事と言えば、レイシオの事だった。
    ここ最近、以前より顔色が良くなった同僚が、ティータイムに抜け出して技術開発部のエリアに足を運んでいたのは知っていた。
    律儀に自分の仕事を片付けてから出かけていたので、文句を言う者もいなかった。
    「…何にもない」
    「そうは見えないけど?」
    「何にもないんだ…僕が、レイシオから嫌われていただけで」
    「教授が?そうは見えなかったけど…」
    トパーズは首を傾げる。
    少なくとも、彼女の目にはレイシオがアベンチュリンを嫌悪している様子は見られなかった。
    むしろ良好な関係だったのではないだろうか。
    そうでなければ、あの気難しい教授が、自分の懐にアベンチュリンを置くわけがないだろうに。
    それに、仲間同士の痴話喧嘩という割にはあまりにも…、という疑問を禁じ得ない。
    「悩んでいるなら、話くらい聞くけど?」
    少し面倒くさそうな気配を感じつつも、結局目の前の廃人のような同僚を捨て置けず、トパーズは話を聞くことにした。


    「それ、普通に考えても初対面の人にするようなことじゃないでしょ…」
    ぽつぽつ、と事のあらましを語ったアベンチュリンを見て、トパーズは顔を引きつらせた。
    「僕も…そう思う」
    今なら、と付け加える。
    レイシオとそれなりに交流を持って、彼の人となりを知った今なら、たしかに悪手だとわかる。
    けれど、当時はそれがアベンチュリンのやり方であり、自身のスタンスを手っ取り早く理解してもらうには最良だと思っていた。
    少なくとも、それまではそうだったのだ。
    「アベンチュリン。それで、君はどうしたいの?」
    「レイシオに、直接謝りたい」
    メッセージを送っても一向に既読にならない端末を思い浮かべる。
    直接謝罪をして、それで、できればお互いの信頼関係を築くところからやり直したいと思った。
    「そう。それなら、ちょうどいいね」
    そう言って、トパーズは一束の書類を差し出した。
    「ジェイドさんから、君に伝言だよ。ただ、これを受けるかどうかは君次第でいいと言われてる」
    手渡された書類には、レイシオが調査へと向かった星の名前が記されている。
    「トパーズ、これは?」
    「別の部門の案件ではあるんだけど…ちょっときな臭いんだ」
    そう語るトパーズは、難しい表情をしている。
    「実は、教授を含む先行調査チームとの定期連絡が途絶えてる」

    ガタッ

    アベンチュリンが勢いよく立ち上がった拍子に倒れた椅子を一瞥して、トパーズは話を続ける。
    「本当なら、先行チームが合図を出したタイミングで、後続チームが送られるはずだったんだけど」
    「予定の時間を大幅に過ぎている?」
    「そう」
    アベンチュリンが概要に目を通している間、ここまでの経緯をトパーズが補足していく。
    「今回は、現地の博識学会の調査研究を名目にしているから、教授が主導を取ってる。先行メンバーも学会のスタッフがメイン。本当なら、安全なルートを確保した上で、教授の合図にカンパニーの社員が潜入するはずだった」
    「それで、連絡が取れなくなって手をこまねいているわけだ」
    トパーズは縦に首を振る。
    「それに対して学会からクレームが入ってね。でも、お互いに事を荒立てたくない」
    それで、カンパニーの中でも穏健派に位置するジェイドの下に話が流れてきた、というのが顛末だった。
    「今回は完全に単独任務。カンパニーからの支援は一切望めないけど、どうする?」
    けれど、そんなものは聞かれるまでもなく即答だった。
    「この案件、僕が引き受けるよ」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💞💞💞💖💖🙏💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works