Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ichi_nashi

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 🎲 🛁 🚂
    POIPOI 19

    ichi_nashi

    ☆quiet follow

    なんでも許せる人向けアベンシオ🦚🛁。
    公共の場で痴話喧嘩する🦚🛁とモブ。
    モブはもちろん俺という夢小説。

    犬も食わない話「レイシオ、君はいい加減そのやり方を見直した方がいい」
    「いつも僕の忠告を聞き入れない君が、それを言うのか?」
     
     昼下がりのカンパニーの廊下に、激しく口論をしている声が響いている。
    「ああ…またやってるよ、あの二人」
     すれ違った二人組が呆れたように口にして、立ち去った。
     角を曲がると、遠目にも目立つ二人組が今にも掴みかかりそうな雰囲気で言い争っている。
     一人は戦略投資部のアベンチュリン総監。もう一人は、彼とパートナーを組んでいる技術開発部のレイシオ教授だ。
     二人の横で頭を抱えている女性は、総監の秘書だろうか。
     ご愁傷さまな事である。
     そして、遠巻きにパラパラと野次馬が囲んでいる。もちろん、廊下のいざこざを目に止めて、野次馬に混ざらずUターンしていく人もいる。
     ここ最近、よく見かける光景だった。
     なお、野次馬の皆様におかれましては、巻き込まれたくはないので、止めに入ることは一切ない。自分も含めて。
    「今日はどうしたの?」
     近くに顔見知りを見かけたので、声をかけた。
    「あー……珍しく、レイシオ教授が怪我してるんだよね」
     よく見ると、レイシオ教授の額にはガーゼが貼られているようだった。
    「で、アベンチュリン総監がそれを見咎めて…。火が点くのは一瞬だったね」
     同僚は、まあいつもの事だよと言って首をすくめる。
     アベンチュリン総監といえば、いつも感情が全く乗っていない、やたらと恐怖を感じる笑顔がトレードマークと言っても過言ではない人物であったので、感情を顕わにして他人と口論をする様子などこれまで見たことがなかった。
     精々、トパーズ総監と言い合いになってるところを見かける程度だったが、それもどちらかと言えばアベンチュリン総監が余裕を持って相手にしている印象だった。
     けれど、そんな様子は全く無く。現在は怒りも隠さずに言葉の応酬を続けている。
    「君はいつもそうだ! 何でもかんでも一人で片付けようとする。僕に一言くらい言ってくれれば、協力できることもあるのに!」
    「ひとりで片付けられるからな。そもそも協力? 君が? その多忙極まるスケジュールの中でどうやって? 君と僕は所属も全く違うのに、何をどう協力すると言うんだ。君は自分のスケジュール管理もまともにできない人間だったか?」
    「所属は違っても僕たちはパートナーとして仕事をする仲だろ。君が一言言ってくれれば、都合のひとつやふたつ用意だってしてみせるさ!」
     その言葉に、秘書と思しき人物は顔を顰めている。その都合を用意するのは、きっと彼女の手腕にかかっているのだろう。
     改めて『ご愁傷さまです』と内心手を合わせた。
    「どうだろうな。そう言う君こそ、先日の仕事では怪我をしていただろう。簡単な仕事だと言っていたはずだが、怪我をして帰ってくるような仕事が君の中では簡単な部類なのか? そうであれば仕事の基準を一度見直した方が良いだろう」
    「あれはリターンを多く得るための手段だよ。商人である以上、僕には多少のリスクがあっても最大限の利益を得る必要があるからね。僕のやり方を、君はよく理解してくれてると思うけど?」
    「そうだな。それにしたってハイリスクハイリターンと馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返すのは如何なものか。同じリターンを得るにも、いくつかのシミュレーションを行った結果を元に最大限の結果を残すことが上に立つ者としての役割と僕は考えるが?」
    「他の人間と同じ事をしていてもこの世界では評価されないからね。それとも、君ならそれができると?」
    「ああ、そうだな。例えば、僕に助言を求めたとしたら。何かしらの過程を提示し君のそのギャンブル思考に侵された脳にいくつかの選択肢を与えることも出来るだろう」
     大変弁が立つ二人であるので、一を話すと三倍、五倍と言葉が積み重なって、口論は益々ヒートアップしていく。
    「でも、それこそ君の畑違いの話じゃないのか」
    「その言葉、そっくりそのままお返ししよう。要は僕らは戦略的パートナーとして仕事をしながら、実際のところお互いに全く畑違いの仕事をしていると言える。よって、君は僕の仕事に口を出すべきじゃないし、僕も君の仕事に口を出すべきじゃない」
    「ああ、そうかもね! でも、君がそんな怪我をするなら話は別だ」
    「君は、自分の事を棚に上げ、僕の気持ちも棚に上げて、自分に都合のいいことばかりを口にする。明らかに矛盾したことを言っているのが理解できないのか?」
     そして、レイシオ教授は深い溜息をついた。
     お…? これは……??
     二人の口論の行く末を見守っていた野次馬の目の色が変わる。
    「やはり、僕の存在は君にとって負担にしかならないな。いい機会だ、わか…」
    「絶対に!! 別れないからね!!」
     ついに、アベンチュリン総監がレイシオ教授に掴みかかった。
    「そうは言っても、僕たちは毎回話が噛み合わない。君もいい加減、僕みたいな男に付き合うのは疲れたんじゃないか?」
    「君は本当に! いつもいつもいつもいつも!! そうやって自分から僕の事を遠ざけようとするけど、その手には乗らないぞ!! 絶対にっ!!」
     アベンチュリン総監が、ものすごい形相でキレ散らかしている。対して、レイシオ教授の表情は終始一貫して変わらないので、感情が読み取れない。
    「本当は僕のことなど…好きでもなんでもないんじゃないか?」
    「はぁ!? 大好きだけど!?」
     あまりの声の大きさに、このだだっ広いカンパニーの端から端まで響いているのではないかという程だった。
    「誰が何と言おうと! それこそ君がどう言おうと僕のことをどう思っていようと、僕は君のことが大好きだし、愛してるし、宇宙で一番大切にしたいし!! だから、君の綺麗な肌にキズなんて一つもつけてほしくないし、本当なら家に閉じ込めて鎖に繋いでどこにも出られないようにして僕だけのレイシオにしたいのをずっと我慢してるんだからな!!」
     一息で告げられる熱烈な告白に、おぉ…という感嘆やら、パチパチと控えめな拍手やらが贈られる。
     よくもまぁ、これだけの言葉がつらつらと出てくるものだと感心するけれど、同時にあまりの重さに多少…いや、かなり引いた気持ちも混ざる。
    「それでもわかんないって言うなら今ここでキスしたって…」
    「総監、お待ち下さい」
     これにはさすがに秘書も止めに入った。
    「…なに?」
     アベンチュリン総監は、大変ご立腹の様子で振り返るが、秘書は動じない。さすが、この人の秘書である。
    「申し訳ありませんが、総監…そろそろタイムリミットです」
     どうやら、途中から腕時計とにらめっこをしていた秘書は、ここぞとばかりに時間を告げた。
     センシティブ案件での待ったではなかったらしい。
     もしかして、時間があったら止めなかったのだろうか。気になるところだ。
    「大変盛り上がってきたところかとは思いますが。これ以上お待たせすると、またジェイド総監からペナルティをもらいますよ」
     皮肉交じりの一言に、アベンチュリン総監は何か言いかけた口を一瞬開いてぐっと閉じた。
     代わりに、掴みかかったままだった両手を離し、一度閉じた口をレイシオ教授に向かって再び開く。
    「いいか、レイシオ! 僕はこのミーティングを一システム時間で終わらせて、君の所に行くからな! 逃げるなよ!!」
     当のレイシオ教授は、掴まれてシワの寄った服を整えながら、果敢にも煽り返した。
    「はっ、逃げる? 僕が? 君こそ…怖気づいて姿を現さない、なんてことにならないようにな」
     表情こそ相変わらず変化がないが、僅かに頬が赤く染まっているように見える。
    「言ったな! 今日こそ、君に! 絶対に分からせてやる!!」
    「ふん。精々精進するといい。ちなみに、僕は君のことを待っている義理もないから、君の宣言した時間までに現れない場合は帰らせてもらう」
    「レイシオ、この野郎…!!」
     そうして、二人はそのまま反対方向へと進み(アベンチュリン総監はずるずると秘書に引きずられ)、強制終了と相成った。
     
    「まーぁ、やっぱり今回もこのパターンだったね」
    「まぁ…そうだね」
     そう、『今回も』なのである。
     カンパニー内で突如発生する重役二人の痴話喧嘩は、いつも総監の超重量級の告白で幕を閉じる。
     口論が絶えないくせに、蓋を開けてみればお互いに激重の愛の言葉が詰まってるんだから、要はなんとかは犬も食わない、というやつだった。
    「今回もなかなかの物を見せてもらったよ…ごちそうさまでした」
     しかし、隣の同僚はニコニコと手を合わせている。その他、パラパラと解散した野次馬の中にも同じような者が数名。
     そして、自分もそれに倣って手を合わせた。
     犬も食わないやつではあるが、一部の人間にとっては…まあ、そういうものだった。
     
     ちなみにこの二人、口論の翌日は必ずと言っていい程甘い雰囲気を漂わせているのだが。
     それはまた別の話なのである。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖🙏💖💖💖💖💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works