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    toyakunnokega

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    toyakunnokega

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    突如としてセカイに現れた
    彰人ぬいと冬弥ぬい
    冬弥ぬいが高いところを怖がったり、甘い匂いに酔ったり、ゲームセンターに行ったりします

    ※モブ男に冬弥と冬弥ぬいが同時誘拐されます
    ※ぬいが「ぬ」などと軽く喋る
    ※害のあるモブ男が出てきます
    ※全年齢

    ぬ企画小説いつも通り練習を終えた少年少女たちは、揃って絶句していた。
    「……か」
    一番初めに沈黙を破ったのは、メンバーの一人である杏だった。
    「かっ、かわいい〜〜〜www」
    「杏てめえ……」
    対照的に彰人は拳をぶるぶると震わせている。こはねは笑い転げる杏をおろおろと宥め、冬弥は冷静にそれを見つめていた。
    そう、彼らの前には彰人と冬弥の姿にそっくりの小さいぬいぐるみが立っていたのだ。


    「うん、セカイのバグだね」
    興奮するわけでも、悲観するわけでもなく目の前の少女はそう言った。バーチャルシンガーであるミクは、彼らと同じよう目の前にちょこんと自立する2体のぬいぐるみを見下ろした。
    「どうすんだよこれ……」
    頭を抱える彰人の落胆したような声に、冬弥の姿をしたぬいはビクリと震えた。
    「そう言うな彰人。ほら、怯えてしまっているだろう」
    冬弥が自分のぬいにそっと手を近づけると、それよりも早く彰人ぬいがその手を弾いた。ぬいぐるみのふわふわな手触りが冬弥の手を撫でる。
    「ぬ!」
    彰人ぬいは警戒するように冬弥ぬいの前に立ちはだかる。冬弥ぬいはぬ、ぬ、と小さく鳴いて戸惑っているようだった。
    「あ……すまない。傷付けるつもりはなかったんだ。少し離れよう」
    そう言って冬弥は離れたところから見守ると、ぬいたちは敵意がないと分かったのか自ら近付いてきた。
    「……ぬ」
    彰人ぬいが冬弥の手を指差す。といってもぬいぐるみの手では指まで細かく作られてはおらず、だいたいの方向を示すのみにとどまった。しかし冬弥はそれに気が付き首を傾げた。
    「ん? 俺の手がどうかしたのか?」
    不思議そうに聞き返す冬弥に、彰人ぬいは落ち込んだように俯く。
    「ソイツ、さっき冬弥の手を叩いちまったからって気にしてんじゃねーのか?」
    彰人の言葉に、彰人ぬいがぱっと顔を上げる。そうだ、と言わんばかりの視線に冬弥は納得した。
    「ああ、なるほど。心配してくれてありがとう。だが大丈夫だ」
    ほら、と言ってなんの傷もない綺麗な手先を見せると、彰人ぬいは確かめるように丸い形の手を、冬弥の手先に擦り付けた。
    「ふふ、彰人はぬいぐるみになっても優しいな」
    「ばっ、冬弥お前」
    「ええ〜? 彰人が優しいのなんて冬弥にだけなんですけど」
    杏がすかさず横槍を入れる。再び拳を握りしめた彰人は、自分が冬弥にだけ甘い自覚があるのか、反論できずにいた。ぬいぐるみのため表情が変わることはないが、和気あいあいとした雰囲気に冬弥ぬいも嬉しそうだった。
    「で、なんで俺たちの姿のぬいぐるみがセカイに現れてんだよ」
    そんな彰人の言葉にミクは再び口を開く。
    「うーん、たまにあるみたいなんだよね。ここは人の想いでできたセカイだから、想いの主である人が色々な形で具現化されちゃうってことがさ」
    「だからってなんでぬいぐるみの姿なんだよ……」
    そんな彰人の言葉に、こはねが語りかける。
    「やっぱり、最近作ってもらったぬいぐるみが印象に残ってたからかな?」
    「まあ、普通に考えたらそうだよね」
    杏の同意に彰人と冬弥もそうだな、と思い返す。彼らは活動の幅を広げ、最近では歌だけではなくメンバーに対するファンも増えてきた。そこにグッズ化の話が舞い込んできたのだ。(ぬいぐるみになった理由は、ぬいぐるみであればゲームセンターに配置されることもあるだろうという担当者の発言に冬弥が目を輝かせたからである)
    「あっ、いけない。今日お店手伝うことになってたんだった!」
    杏の言葉に、みんなも練習終わりの疲れを思い出したようだ。
    「名残惜しいが、俺たちもそろそろ帰らなくてはな」
    「そーだな。まあ、次来た時にはいなくなってんだろ」
    セカイで生まれた小さないのち。偶然の出会いではあったが、2人寄り添うその姿はまさに相棒に見えた。彰人は現実世界に戻る直前に見たその姿に、そっと目を細めた。


    「で、なんでまだいるんだよ」
    彰人の言葉に冬弥もさすがに苦笑いをする。現実世界に戻ってきた彼らは、それぞれの家に帰ろうとした。杏は足早に去っていき、こはねもじゃあね、と言って家路に着く。早々に彰人と冬弥だけになり、俺たちも帰るかとなったところで、足元に何か小さなものが蹲っているのが見えたのだ。
    「ぬ!」
    「お前たち、どうして……!?」
    冬弥は驚きの声をあげる。セカイで生まれたものが現実世界にまで着いてくるとは思わなかったのだ。だが、ぬいぐるみ2体は何もおかしなことはない、とばかりに不思議そうにこちらを見上げている。
    「とにかく、こいつら隠さねーとやべえだろ」
    彰人の声に冬弥もはっとする。いくらゲームセンターに設置されているぬいぐるみとほぼ同じような見た目であるとはいえ、動いたりしているのを見られたら大変だ。それに、道路にいたままでは車にも轢かれてしまう。冬弥は2体のぬいぐるみをそっと両手で包み込んだ。
    「……ぬ」
    冬弥ぬいが突然震え出した。表情が変わらずとも怯えているのが分かる。
    「もしかして、そのぬいぐるみも高所恐怖症なんじゃねーか?」
    彰人の問いに冬弥は自分が歩道橋を歩こうとした時のことを思い出した。確かに自分の何倍もの高さに持ち上げられたら、きっと怖いだろう。
    「……すまない。だが、このままだと危ないから少し耐えてくれるか?」
    そう言って冬弥は冬弥の目線をハンカチで隠す。視界が狭められたことで高いという感覚を薄くすることができたようで、冬弥ぬいの震えはおさまっていった。
    「とりあえず家に連れて帰ろう」
    「家って言ってもな……」
    彰人はぬいぐるみをじっとりとした目で見つめる。普段ぬいぐるみなど持ち歩かない彰人はもしこれを絵名に見られたら、と嫌な予感をさせていたのだ。
    (……絶対にバカにされる!)
    そんな彰人の気配を察してか、冬弥は声をかける。
    「このサイズなら俺の家でも連れて帰れるし、問題ないだろう」
    「2体なんて大変だろ。こいつら結構動き回りそうだしな」
    ほら、どっちか来い。とそう言って彰人が手を差し出す。
    「でも無理に離すのも……」
    冬弥がそこまで言いかけたところで、ハンカチの下に収まっていた冬弥ぬいがもぞもぞと動き出した。
    「……ぬ!」
    冬弥ぬいは冬弥の手のひらから、彰人の差し出した手へと乗り移った。冬弥ぬいにとって高所は怖いはずだが、ぐっと我慢したような様子でゆっくりと移動した。
    「……こいつ」
    「もしかして、俺たちの会話を聞いて気を遣ってくれたのか?」
    自ら移動した冬弥ぬいのことを彰人ぬいが心配そうに見守る中、冬弥ぬいはぺこりと頭を下げた。ほぼ首のないふわふわのぬいぐるみでは判別が難しいが、こちらに対して申し訳ないと思っているのが伝わってきた。
    (こいつ、性格も冬弥に似てんな……想いから生まれたっつーんだならそれもそうだが)
    彰人の元へと移動した冬弥ぬいを、彰人ぬいがじっと見つめる。冬弥ぬいは見つめ返すと頷いたように見えた。
    「まあ……詳しいことは明日また考えるか……」
    「そうだな、後で俺から白石たちにも伝えておこう」
    こうして、彰人と冬弥ぬい、冬弥と彰人ぬいとの共同生活が始まったのだった。


    「よし、行くぞ」
    あれから数日。特に問題なくそれぞれの家で過ごしたぬいたちは、いまだに消える気配を見せなかった。
    『何かに満足したら自然に消えると思うよ』
    そう言うミクはどこか楽しんでいるように見えた。そうして、結局原因の分からないまま休日練習の日を迎える。
    「ぬ!」
    彰人の足元にとてとて歩いてきた冬弥ぬいは、嬉しそうに彰人に擦り寄った。
    「つーか、本当に付いて来んのか?」
    「ぬ、ぬ」
    そう問いかける彰人の声に、冬弥ぬいは肯定の意を示した。練習前に走り込みをしてくると言った彰人に、冬弥ぬいはついて行くと言っているのだ。
    「いいけどよ。ったく、本当にそういうところも冬弥に似てるよな、お前」
    誰に話しかけるでもない言葉に、冬弥ぬいは首を傾げた。言葉の意味は分かっているようだが、意図までは感じ取れなかったらしい。
    (そういうところもだよ)
    少しほくそ笑んだ彰人を見て、冬弥ぬいはそのふわふわの小さな手でぺちぺちと彰人の足首を叩いた。
    「はいはい、じゃあ行くぞ」
    彰人は高くても怖くないように、外が見えないポーチに冬弥ぬいを入れた。
    「結構揺れるからな。何かあったらすぐ呼べよ」
    ぬいぐるみ相手なのに、どうしても冬弥に接するような言い方になってしまう。彰人はそう自覚するものの、素直に反応する冬弥ぬいに微笑ましい気持ちが湧かないわけがなかった。


    「はっ、はっ」
    順調なペースで走り込みをする彰人に、冬弥ぬいはポーチの中で僅かな揺れを感じながら過ごしていた。体幹も鍛えている彰人は、走りながら無駄に上半身が揺れることがない。そのため、冬弥ぬいにとっては過ごしやすいようだった。
    「ちょっと休憩するか」
    やがて彰人が辿りついたのは、ゲームセンター横にあるベンチだ。ポーチを開けると、ひょこりと冬弥ぬいが顔を出す。
    「大丈夫だったか?」
    そう声をかける彰人に、冬弥ぬいは小さな手を振って答える。
    「そうか。良かったな」
    目を細めて答える彰人に、さらに嬉しそうに手を振った後お辞儀をするかのように頭を下げた。
    (ほんと、こういうところ律儀だよな)
    「ちょっと飲み物買うわ」
    彰人はベンチの近くに設置してあった自動販売機へと向かう。たいした距離もないそれは、ベンチで休憩する人用に用意されたような位置にある。彰人は小銭を探りながらもチラ、と冬弥ぬいを見る。すると、きちんとポーチの中に収まるように静かにしている冬弥ぬいが見えて安心した。
    ちゃりん、ちゃりん
    小銭の音が響く。シンプルに500mlの水を選ぶ。走り慣れているとはいえ、走り込みをした後の体は水分を求めている。冷たい水が喉を通るその瞬間を想像しながら、ペットボトルを取り出す。そうして荷物を置いてあるベンチに向かって歩みを進めた、その時だった。
    「……は」
    彰人の手から買ったばかりのペットボトルがすとんと落ちる。地面にぶつかり、中に入っている水がちゃぷんと音を立てた。その視線の先には、空になったポーチだけが置いてあったのだ。
    「っ、嘘だろ」
    焦ってあたりを見渡すも、地面を歩く2色の髪は見つからない。小さいが、いればすぐに分かるはずだ。一体どこに、と視線を彷徨わせたところでふと、目の前のゲームセンターが目に入った。
    「まさか、中に入ったのか?」
    彰人は駆け出してゲームセンターの中へと入る。ガヤガヤとした音と、数人の客の声が耳につく。普段は冬弥たちと入ることもあったが、こうも騒がしい場所であったか。通常であれば何も思わない音に、何故かこの時はイラつきを覚えた。
    「……ぬ……」
    「!?」
    何か聞こえた気がする、と彰人は辺りを見渡した。かすかな声がする方に向かうと、なんとそこにはコラボした、たくさんの冬弥ぬいがいたのだ。目を凝らしてよく見ると、ゲームセンターの景品としてUFOキャッチャーのガラスケースに入れられた冬弥ぬいたちの中に、あの動く冬弥ぬいが混ざっている。
    「おま、なんで中にいるんだよ!?」
    それもいくつかの本物のぬいぐるみが、冬弥ぬいの上に折り重なるようにして積まれている。思わず叫んでから視線を感じて振り向くと、店員がちらりとこちらを見ているのが分かった。1人で喋っている客を不思議に思ったのであろう。
    (そうか、普通に景品だと思われて戻されたのか……っ)
    クソ、と言葉を漏らして目の前のガラスケースを見つめる。冬弥ぬいは、周りのぬいぐるみに押し潰されて苦しそうだった。ジタバタと手足を動かしているように見えるが、何の意味もない。
    彰人はどうすべきかと辺りを見渡すが、景品として中に入ってしまっている上に本人が動けない以上、どうしようもない。何か不正をして取り戻すわけにもいかないだろう。
    「やるしかねえのか……!?」
    彰人はもったままの財布から小銭を取り出してちゃりん!とお金を入れた。軽快な音と共に音楽が流れ出す。3本爪のアームを手元のハンドルで操作する。30秒間という時間の間は、いくらでも調整が可能なタイプだった。
    (まずは上のぬいぐるみをどかさねえとだな)
    しかし、彰人はクレーンゲームに慣れている訳ではない。冬弥が楽しそうにゲームをしているのを見てはいたが、自らやることになるとは思っていなかったのだ。
    「……っくそ」
    冬弥ぬいの左半身に乗るぬいぐるみにアームの爪を引っ掛ける。真ん中を狙ってアームを下ろすも、力が弱く全く持ち上がらない。
    (冬弥は普段こんなのやってるのか……!?)
    これではいくらお金をかけてもできる気がしない。何回かチャレンジしても全く配置が変わっていないのを見て彰人はどうする、と思った。ガラスケースの中の冬弥ぬいの悲しそうな目を見て、彰人は眉根を寄せて舌打ちをした。そんな時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
    「どうしたんだ急に走り出して……っ彰人!?」
    それは、この後に歌の練習で落ち合うはずの冬弥だった。近くには彰人ぬいもいる。
    「ぬ! ぬ!!」
    冬弥に話を聞くと、何かを強く訴える彰人ぬいに慌てて付いてきたのだという。2体の間には、片方に何かあれば異変を感じ取ることのできるセンサーみたいなものでもついてんのか? と彰人は思った。
    「それより彰人。この下にいるぬいぐるみは……」
    「景品と間違えられて戻されちまったみてーだ。今オレもやってみたんだがダメそうだ」
    財布を手にそう言う彰人はアームの力が弱いことを、冬弥に説明した。すると冬弥は一回彰人と同じように真ん中を狙ってアームを下ろした。
    「む、確かにこのアームは力が弱いな。それに爪の角度も鋭角で滑りやすくなっている……それなら」
    冬弥は自身の財布から小銭を取り出すと、ちゃりんとそれを入れた。ピコピコと楽しげな音を出す機械に、細い手首を使って冷静にハンドルを動かす。彰人が見守っていると、アームはどかしたいぬいぐるみの、真ん中よりもズレた位置に降りていった。そうして、爪が景品を掴もうとするその動きで横へとはじくことに成功した。
    「す、すげえ」
    「持ち上げるのではなく、弾くように意識してみた。これで彼も動けるだろう」
    自分の上に乗るものが何もなくなった冬弥ぬいは、やっとという感じで立ち上がった。疲れていそうではあったが、特に糸のほつれなどもなさそうだ。ほっと胸を撫で下ろす。
    「というかどうやってここから出すんだ……?」
    「あ……」
    冬弥ぬいは立ち上がってみたものの、困惑していた。アームで掴めたとしても高所に持ち上げることになってしまうし、そのまま景品口から降りるのも自殺行為だ。
    「ほら、下に手置いておくから降りられるか?」
    彰人が景品の落ちる出口に両手を入れる。飛び降りる冬弥ぬいを受け止められるようにしている。
    「……ぬ」
    冬弥ぬいはぶるぶると震えて動けないようだった。人間にとってはたいしたことのない高さでも、ぬいぐるみサイズの冬弥ぬいにとっては崖から飛び降りるも同然なのだ。
    「ぬ!」
    その時、彰人ぬいが飛び出した。彰人の手に飛び乗ると、そのまま垂直な壁を駆け上がって行く。さすが彰人モチーフのぬいぐるみなだけあって、体力がおかしい。そうして冬弥ぬいのいるところへと駆け登ると、冬弥ぬいの手をぎゅっと握った。
    「ぬ、ぬ!」
    「……ぬ……」
    2人だけが分かる会話をした後、冬弥ぬいは意を決したように彰人ぬいの手を握り返したように見えた。彰人ぬいは冬弥ぬいの背中を支えて、ついに一緒に飛び降りた。
    ぽふ、という軽い音がして無事に2体は彰人の両手へと着地することができた。
    「危ねえ、大丈夫か?」
    「良かった、彰人も、彰人ぬいもありがとう」
    冬弥ぬいはまだ震えているようだったが、無事に戻ることができて安心しているようだった。
    「ぬ!」
    冬弥ぬいの頭を、彰人ぬいが撫でる。それはいつかのイベント後に彰人がやっているようなものだった。それを見て冬弥は当時の幸せな気持ちを思い出した。ふと隣を見ると、彰人はバツが悪そうに頭をかいているのだった。
    「彰人、もっと早く来られなくてすまない」
    「いや、オレこそ目を離しちまったからな。悪い」
    「彼らが満足して消えるまでは、安全に過ごせるようにお互い気をつけよう」
    「そーだな」
    そうしてゲームセンターでの事件は無事に幕を下ろしたのだった。



    「ぬっ!」
    ある日、学校終わりに2人と2体は共に街を歩いていた。彰人ぬいの大きな反応に彰人と冬弥も足を止める。冬弥の鞄から勢いよく飛び出した彰人ぬいは、そのままなんなく着地した。
    「突然飛び出すと危ないぞ」
    冬弥の注意もそこそこに、彰人ぬいは興味津々な様子だ。
    「何のイベントだ?」
    歩いていた通りの近くにある広場から、何やらお祭りのような雰囲気を感じた。彰人ぬいをひょい、と手に持ち上げた彰人はそのまま広場を覗く。するとそこでスイーツのイベントをやっているのが見えた。
    「スイーツフェス……へえ、今こんなのやってるのか」
    そう言っていると彰人の手の中で、彰人ぬいがじたばたとしているのが分かった。本人の特性を反映させたぬいぐるみだからか、彰人ぬいも甘いものに目がないようだった。冬弥もイベントをやっている広場へと顔をのぞかせる。誰にも気付かれないくらい少しだけ、眉を顰めた。
    「……ぬ?」
    その後すぐに彰人ぬいは、ピタリと動きを止める。そうして彰人が持っている小さなポーチに手を向けた。先程とは違う様子だ。
    「ん? 彰人、どうやら俺のぬいぐるみに用事があるようだぞ」
    そう言われてすぐにポーチを開けてみると、冬弥ぬいはポーチの中でぐったりとしていた。
    「っどうした!?」
    彰人は慌ててポーチから冬弥ぬいを出す。すると、余計つらそうに顔を俯かせてしまった。
    「……もしかして」
    冬弥が思いついたように冬弥ぬいをそっと手に乗せる。
    「彰人たちはここにいてくれ」
    そう言って冬弥は、冬弥ぬいを連れてその場から離れる。しばらく歩いて練習の待ち合わせ場所であった公園までくると、周りに誰もいないことを確認してから冬弥ぬいを手の平からそっと出した。
    「……ぬ……」
    「やはりか。甘い匂いに酔ってしまったのだろう?」
    冬弥は持っていたハンカチで冬弥ぬいを少しだけ扇いだ。澄んだ空気を送ると、冬弥ぬいは気持ちよさそうに小さく頷いた。
    「俺もそうなってしまうことがあるから、もしかしてと思ったんだ。しかし、俺よりも甘い匂いを感じやすいようだな」
    冬弥ぬいはその言葉にしゅんとうなだれる。
    「すぐに気付けなくてすまない。彰人たちは甘いものが好きだから、せっかくだし楽しんできてもらおうと思うのだが、どうだろうか?」
    その言葉に、冬弥ぬいはうんうん、と言うように何度も頷いた。
    (確かに。自分をベースにしたぬいぐるみというだけある……なんとなく感じていることが分かる)
    「よし、それでは彰人たちに電話しておこう」
    「ぬ!」
    ♪〜〜
    着信を知らせる音楽が鳴る。彰人はケータイを取り出すと、すぐに相手の名前を確認した。
    「冬弥!」
    『すまない彰人。こちらはこの後の集合場所で少し休憩しているから、後で直接集合でも良いだろうか?』
    「あー悪い、甘いのがダメだったんだよな?」
    『少し酔ってしまったみたいだ。こちらは大丈夫だから、彰人ぬいと一緒に是非楽しんできてくれ。そうしてくれた方が俺たちも嬉しい』
    冬弥の言葉に彰人はガシガシと頭をかく。
    「分かった。まだ練習まで時間あるし、後で集合な」
    『ああ、楽しみにしている』
    冬弥はそう言って通話を切る。彰人ぬいは心配そうにこちらを見ていたが、きっとここでこちらが我慢しては逆に冬弥たちに気を遣わせてしまうと考えた。彰人ぬいもそれを感じ取り、目の前のスイーツを楽しむことにしたのだった。


    「ふふ、なるほどな。彰人ぬいに心配されているのが申し訳なく思う時もあるのだな」
    「ぬ!」
    「確かに、彰人は優しいからな。彰人にしてもらったのと同じだけ返せているか不安に思うこともある」
    「ぬ……」
    「だが、もう彰人なしで歌うことは考えられないんだ。あの時歌うことを辞めないで、本当に良かったと思う」
    「ぬ……!」
    冬弥は公園のベンチに腰掛けながら、冬弥ぬいと会話をしていた。直接言語を話せる訳ではないが、お互いに意思疎通ができるようだった。この後この公園では彰人以外にも杏やこはねと待ち合わせをしていて、歌の練習をする予定であった。今の時間は誰もいない。
    (だが、誰かが来ても良いようにぬいぐるみはポーチの中に入れながらの方がいいだろうな)
    「狭くてすまないが、この中で待っていてくれるか?」
    そう提案して、先程のように会話を楽しんでいたのだった。冬弥ぬいはというと、だいぶ調子が戻ってきたのか元気そうだった。誰もいない公園で、1人と1体はゆったりとした時間を過ごす。そうしていると、公園の入り口近くに1台の車が停まった。
    「ふー……」
    白い車から降りてきたのは、男性だった。運転席から降りて真ん中のスライド式の扉を開けると、手に大きなバケツを持った。子供用であろうそのバケツは鮮やかな青色をしている。子供と公園に遊びにきたのだろうか。
    「あっ!」
    なんとなく目線で追ってしまっていた男性の手元から、バケツが滑り落ちた。中には大量のおもちゃが入っていたのか、小さなシャベルやボールなど細かいものが辺りに散乱する。プラスチック製のボールはコロコロと転がると、ベンチに座っている冬弥の足元近くまできた。
    「大変だ。返しに行ってくるから待っていてくれ」
    足元のボールを拾うと、冬弥ぬいに声をかけて立ち上がる。
    「ボール、こちらにきていました。よかったら俺も拾います」
    そう言いながら、青いバケツにボールを戻す。車の近くに散らばった他のおもちゃの一つを右手に取る。それを戻そうとしたところで男性が声を発した。
    「ああ、ありがとう。今日は子供と遊びに来たんだ」
    「ここは人が少ないですから、たくさん遊べますね」
    そう言って冬弥は、ふと助手席を見た。後部座席には荷物が詰まっていたし、子供は助手席にいると思ったのだ。助手席にピンと張られたシートベルトの先を目線で追う。
    「え……?」
    そこには誰もいなかった。シートベルトが何もない空間を、無意味に固定している。
    「本当に君は優しいね」
    ドン、と強い衝撃を感じたかと思うと冬弥は車の中に押し込まれていた。背中を押されてバランスを崩した冬弥は思わず座席に手をつく。持っていた魚の形をしたおもちゃが車内に転がる。
    「な、にするんですか……!」
    冬弥が振り返るとすぐ、男は冬弥の上にのしかかるようにしてきた。そうして抵抗する冬弥の右手を、男は片手で押さえ込む。そうしている間にもう片方の手に持っていた布を、冬弥の口元に素早く押し付けた。
    「ん、ぐ」
    必死に抵抗しようとするが、馬乗りになられている状態ではあまり力が入らない。また、成人男性の力にはどうしても勝てなかった。
    (あ、れ……)
    目の前が霞む。おかしいと思った時にはもう手遅れで、布に染み込ませてあった睡眠薬が確実に冬弥の意識を奪う。
    (……まずい……意識が)
    だんだんと全身から力が抜けて、ついに冬弥の瞼は閉じられてしまった。男は満足したように笑うと、完全に意識を失った冬弥をそのままシートに寝かせた。
    「やっと1人になってくれた。いつもあのオレンジがいて手が出せなかったから」
    そう言って冬弥の座っていたベンチにスタスタと近付くと、冬弥ぬいが入ったポーチを鞄ごと乱雑に掴む。そのまま眠る冬弥の近くに鞄を放り込むと運転席へと向かった。
    (……ぬ!!!)
    視点がぐるぐると回る。冬弥ぬいは鞄を雑に扱われたことで、荷物の中でころころと転がってしまっていた。その時だった。
    「冬弥ーって、あれ? いねえのか?」
    彰人だ。彰人ぬいと共にスイーツを楽しんだ彼らが、集合場所にやってきたのだ。しかし、先に来ていたはずの冬弥たちの姿がない。時間も経っていたし、お手洗いや近くのコンビニにでも行っているのか、とこの時彰人は思った。しかし、彰人ぬいは激しく動き出した。
    「ぬ!!ぬ!!!!」
    強い意志を感じるその手先は、公園の入り口前に止まっている車を指していた。
    「車……? この車がどうしたんだよ?」
    しかし尋常ではないその様子に、彰人は訝しげに車を見る。運転席には男が座っているようだった。嫌な予感がした彰人は急いで冬弥に電話をかける。すると、すぐ近くで聞き覚えのあるメロディが聞こえた。それは目の前の白い車の中から聞こえてきて、耳を澄ませないと聞こえないような微かな音だった。
    「おい、なんで冬弥のケータイがこの中にあるんだよ!!」
    慌てて彰人は車へと駆け寄る。しかし、それを見た運転席の男は車を急発進させた。
    「……ッ!!」
    その一瞬の間に、彰人は車の窓から冬弥の姿を見た。車の座席で横になっている冬弥は、意識がないように見えた。確実に合意ではないそれに、彰人は怒りで頭の中が真っ赤になるのを感じた。
    「冬弥!!!!」
    彰人の叫びも虚しく、車はあっという間に走り去ってしまった。辺りには、散乱したままの子供用のおもちゃが放置されていた。


    「う……」
    冬弥は頭が鈍く痛むのを感じながら、ゆっくりと目を開いた。目の前には白い布のようなものが見える。
    (…………?)
    状況がうまく掴めないが、とりあえず起きあがろうとする。しかし身体を起こすための腕が動かしづらいことに気が付いた。
    「……ッ」
    冬弥はよくある普通のベッドに、横向きに寝かされていた。しかし両腕は後ろ手に回され、黒いガムテープでぐるぐると巻かれている。足も同様で、両足を重ねた足首の部分を何重にも巻いているため、自力では全く外せそうになかった。
    「これ、は……」
    それでも身を起こそうと上半身を持ち上げた時、くん、と首元が下に引っ張られるのを感じた。驚いて首元を見てみると、そこに革で作られた黒いベルトの首輪があり、鎖を通してベッドの端にある柱に括り付けられていた。
    「……なにが」
    冬弥は気を失う前のことを思い出していた。公園で彰人たちを待っていたこと。そして男に会い、車に押し込まれたこと。
    「〜〜〜!」
    そこまで考えたところで、どこからか微かな声のようなものが聞こえてくるのに気が付いた。ハッとして辺りを見回すと、冬弥の横たわるベッドの柱を登ってきたのだろうか、冬弥ぬいがひょっこりと姿を見せる。
    「ぬ……!」
    「ああ、良かった。無事だったんだな!」
    冬弥は少し安心したような表情を浮かべる。冬弥ぬいはベッドをよじ登ってきた疲れを見せながらも、すぐに冬弥の首に付けられた首輪に近付いた。
    「ぬっ! ぬっ!」
    綿の詰まった小さな手で、冬弥の首輪を外そうとベルトを引っ張っている。しかし革製の首輪はびくともしないようだ。今度は冬弥の背中側に回って両手首を拘束するガムテープを剥がそうとする。しかし新品の黒光りするガムテープはしっかりと粘着しており、小さなぬいぐるみの力でだけでは到底剥がせそうになかった。そうして、また首輪を外そうと冬弥の首元に寄ってくる。
    「ぬ〜〜〜……」
    「いいんだ、お前の力では外すことは難しいだろう。それより、お前だけでも逃げるんだ」
    「ぬ……?」
    よく分かっていないような様子の冬弥ぬいに、窓の方を目線で示す。
    「ほら、開いている窓のところに格子が付いているだろう。お前のサイズならあそこから出られるはずだ」
    「ぬ、ぬ!」
    嫌だと言わんばかりにぬいは首を振る。
    「いつあの男が来るか分からない。だから早く行くんだ」
    冬弥は少し厳しい声を出して冬弥ぬいを諭す。冬弥ぬいは、悲しそうな声を上げながらも窓を見上げる。そして、次の瞬間にはふわふわの腕をバッと上げる。
    「ぬ!」
    自分が助けを呼んでくる、と言わんばかりの勢いで、冬弥ぬいは窓に向かった。窓はそれなりに高い位置にあるため、部屋の物を伝ってよじ登っていく。自分が高いところにいると、冬弥ぬいはなるべく意識しないようにした。そうしてもう少しで格子のついた窓に到達する、そんな時だった。突然ガチャリと扉が開く。
    「面白いね、それ」
    「っ!?」
    冬弥は後ろからかけられた声に慌てて振り返った。対して広くない部屋を素早く移動した男は、そのまま窓の近くにいる冬弥ぬいを強く掴んだ。
    「へえ、コラボしてるから1つ自分で持ってるのかと思ったけど、普通のぬいぐるみじゃないみたいだね」
    「な、に言ってるんですか。俺が外に投げようとしただけです」
    苦し紛れなことは分かっている。ただ、ここで冬弥ぬいがただのぬいぐるみでないとバレてしまえば、どういう扱いを受けるか分からない。冬弥は動揺が伝わらないように、なるべく冷静に答えた。
    「はは、可愛い言い訳だね。でもこの部屋には監視カメラがあるからね。ずっと君たちのことを見ていたよ」
    初めからバレていたのか、と内心冬弥はしまったと思う。男の手に握られている冬弥ぬいは恐怖のあまり動けないようだった。
    「……あまり驚かないんですね」
    「もう君以外はどうでもいいんだ、ただ、助けを呼ばれると困るな。ああ、そうだ。ちょうどこの前、飼っていた鳥が死んでしまってね」
    冬弥が突然何の話だと思っていると、男は家主のいない黒い鳥籠を取り出し、冬弥ぬいを中へと放り込んだ。籠にぶつかりころころと転がる冬弥の目の前で、ガチャリと鳥籠の錠前がかけられた。
    「ぬ……」
    男の目的が分からないことが、冬弥の不安を煽る。警戒心を露わにする冬弥に対して、男は不思議そうな顔をした。
    「何がしたいのか? っていう顔だね」
    「……!」
    男の言葉に冬弥はビクリと肩を振るわせる。すると男はそれを気にするような素振りもなく、手元の端末を操作した。
    ♪〜
    部屋に流れたのは、冬弥たちがチームで歌っている曲だった。つい最近できたこの曲は、こはねのソロから始まる。杏へと受け継がれた流れを受けて冬弥がAメロを担当する曲だ。
    「僕のために歌ってくれないか?」
    突然の申し出に、冬弥は唖然とする。何故、と思っているうちに冬弥が歌う箇所へと曲は進んでいく。当然冬弥がその場で歌うわけもなく、ダウンロードされた音楽が冬弥の声を再生する。
    「何故歌ってくれないんだ!」
    先程まで冷静だった男が激昂したことに、冬弥は恐怖を覚えた。しかしよく男の顔を見てみると、見覚えがあることに気が付いた。
    「あ……俺が1人で歌い始めた時、後ろの方で聞いてくれていた人ですか……?」
    「ああ、そうだ。嬉しいよ、気が付いていてくれたんだね」
    「どうして……!」
    そこまで話すと、男は苦虫を噛み潰したような顔をした。
    「あのオレンジが来てから、君は人のものになってしまった! 遠い存在になってしまった!」
    だからこうして攫う機会を探していたのだと、男はそう言った。自分だけに歌って欲しいから。そんな身勝手な理由で攫ってきた冬弥の前で、男は再び曲を流す。今度は冬弥が1人だった頃によく歌っていた曲だった。
    「ほら、歌ってくれ」
    イントロが終わり、歌い出しが始まる。しかし、声が喉が張り付いたように出てこない。後ろ手に拘束された冬弥の背中に、嫌な汗が伝う。にっこりと笑った男の顔が、再び歪んだ。どうして、と小さく呟いた男は冬弥の横たわるベッドに持っていた端末を強く投げつけた。
    「ひっ」
    跳ね返って飛んだ端末はそのまま部屋の固い床へと落ちる。ガシャン、と派手な音がして、そのまま音楽の再生も止まってしまった。
    「歌ってくれないならこんな喉、いらないよね?」
    そう言いながら、男は冬弥の首元に触れようとする。人間の急所である首を他人に無防備に晒すことの恐怖が、冬弥の中には駆け巡っていた。
    「ぬっ……!」
    その様子を見て、冬弥ぬいは中から鳥籠を叩くことでカタカタと音を立てる。冬弥ぬいも恐怖を感じている中、必死に男の注意を逸らそうと必死だった。その時だった。
    「ぬ!!!!」
    部屋の入り口とは逆方向の窓。そこにオレンジ色の髪をした彰人ぬいが現れたのだ。男は予想外の敵に慌てて、冬弥から離れた。彰人ぬいに注目が集まっている中、窓とは逆方向の部屋の扉が開く。
    「冬弥ッ!!!!」
    「お前は……!」
    男が何か行動を起こす前に、彰人は男に飛びかかって床に引き倒した。痩せ型の男は、彰人の強い力に抑え込まれて身動きが取れないようだった。
    「お前のせいだ! 冬弥くんが誰のものでもなかった時代を返してくれ!」
    叫んでいる男に、彰人は眉根を寄せて返した。
    「今だって、誰のもんでもねえよ。勘違いすんな」
    「来たぞ、彰人!」
    そうしている間に、杏の父親である謙が到着した。彰人ぬいの探知能力によって場所を突き止めた彰人は、各所に連絡をしつつ自分だけで乗り込んでいたのだ。幸いにも冬弥がいなくなったことをすぐに謙やメンバーに伝えていたため、皆が現場に駆けつけるのも早かった。警察も家の周りに来ているようで、あっという間に大人たちが男を連行していく。
    「冬弥、待ってろ。今取ってやるからな」
    「彰人……」
    ガムテープでガチガチに固められた両腕と足首を、彰人は素早く解いていく。彰人ぬいも、大人たちが戻ってこないうちに冬弥ぬいを鳥籠から出してあげていた。
    「助けられなくて、悪い。変なことされてねえか?」
    「あ、ああ……」
    極度の緊張のため強張っていた身体が、突然思い出したかのように震え出した。手足の拘束がなくなり自由になっても、特に指先が痺れたように震えが止まらなかった。死んでいたかもしれない、という恐怖が全身を震えさせる。
    「すまない、彰人。今は……」
    冬弥は自分がまともに会話できないことを悟ってその場を離れようとしたが、彰人は冬弥の身体を大きな両腕で包み込んだ。
    「あ、きと……」
    彰人に抱き締められたことで、ゆっくりと緊張がほぐれていくのを感じた。ここまできて、初めて助かったという実感が湧いてきたのだ。震えが徐々におさまっていく。
    「お前を失うかもしれねえと思ったら、すげえ怖かった。だからもう後悔はしたくねえ」
    抱きしめる腕に、さらに力を込める。冬弥は彰人の痛いくらいの強い感情に、泣きそうになった。
    「オレはお前のことが好きだ。どうこうなろうってワケじゃねえ。気持ち伝えねえまま終わるのは嫌だと思ったんだ」
    「彰人……」
    冬弥はそっと彰人の背中に手を回した。恐怖で冷え切った冬弥に彰人が体温を分け合って、だんだんとその境目が曖昧になっていく。
    「俺は……そういった感情には疎いから、どうしたらいいのかは分からない。ただ、彰人の気持ちを聞いて嬉しいと思っているのは確かだ」
    「冬弥……」
    「ぬ!」
    ぬいたちの声に、彰人と冬弥は振り返った。すると、ぬいたちの形がだんだんと不明瞭に、薄くなっていた。
    「彰人、ぬいたちが……」
    「どうやら、満足したみてえだな」
    彰人がふん、と笑っているうちにさらにぬいぐるみたちは薄くなっていく。すると、彰人のポケットからミクの声がした。周りに誰もいないことを確認して端末を取り出すと、ホログラムのようにミクが現れた。
    「そのぬいぐるみは、2人のお互いへの想いが具現化したものだよ」
    「は……?」
    「最初は2人とも自分の気持ちに気がついてなかったから言わなかったけど、もうだいぶ分かったみたいだしね」
    ミクはいたずらっぽく笑った。彰人ぬいと冬弥ぬいは、そのふわふわの身体でお互いにぎゅっと抱きしめ合った。そうして最後には、2人に向かって手を振って消えていった。やがて謙や警察が部屋に戻って来て、様々な処理を行っていった。冬弥は身体に問題がないか、病院で診てもらうことになるだろう。

    「オレたちの、お互いへの想い……?」
    先程ぎゅっと抱きしめ合ったぬいぐるみたちを思い出して、彰人と冬弥は少し恥ずかしいような気持ちがした。
    自分の気持ちを少しだけ自覚した彼らの関係は、今後変わっていくことだろう

    めでたしめでたし
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