「幸せの壺」その日はどうしようもなく気分が落ち込んでいた。
嫌な考えや不安で胸がいっぱいで、少しでも気を紛らわそうと外を歩いていた。
「あの、よろしければいかがですか」
優しそうな女性に声をかけられた。
その手には1枚のチラシ。
いつもなら拒否するのに、その日は何故か受け取ってしまった。
「あちらの方で取り扱ってますので、よろしければどうぞ」
どこまでもにこやかに、だけど押し売りする様子もない声に何故か安心してしまった。
その人が立ち去ってチラシを見ると、そこに書かれてたのは小さな壺の絵。
小さな水筒くらいのサイズの壺。
商品名は「幸せの壺」。
どう聞いても胡散臭いのに、その女性が示した店は人がたくさんいた。
もちろん、自分も並んだ。
きちんとチラシを読んだうえで、並んだ。
自分の番が来て、壺を買った。
口の部分からは1本の串が覗いている。
その串をゆっくりと引き抜く。
そこには湯気を放つとろっとろの蜜を垂らしたみたらし団子。
あまっじょぱくて、とても美味しい。
気がつけば落ち込んでいたモヤモヤはなくなって、代わりにあったかいもので胸がいっぱいになっていた。
こういう「幸せの壺」なら大歓迎だ。