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    kxxx94dr

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    94/ドラロナ(五十路、やもめ、Δ)ミニパパ
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    現パロ、セトネフティス夫婦とアヌビスくん
    1119がいい育児の日ということで、セトぱぱちゃんの育児のお話

    #ENNEAD
    #セト
    ceto
    #ネフティス
    nephthys.
    #アヌビス

    小さなたからもの「かあしゃ」
    「お母さんは今忙しいんだって。だからお父さんと遊ぼうな」

     見えもしない机の上に必死に手を伸ばすちっちゃな怪獣をさっと抱きかかえた。机の上にいくつもの資料を並べ、パソコンに向かっているネフティスが眉を下げながらこちらを見上げたてきた。

    「ごめんなさい、セト」
    「お互い様だろ。アヌビス、じゃあ俺たちは散歩でも行くか。ボールでも持って」
    「おしゃんぽ。とおしゃ、おしゃんぽ」

     医者という仕事はどうしても拘束時間が長くなる。それも産科ともなるとひっきりなしに呼び出され、休みなどあってないようなものだった。家に帰ってからも完全なオフというのも難しい。
     けれどそれを理由にアヌビスを放っておくことも、仕事を蔑ろにするのも違うと夫婦で話し合った。シッターも保育園も非常勤医師を迎えたりと、使えるものはなんでも使って育児も仕事も二人で乗り越えてきた。だからお互い得意不得意はもちろんあったが、なんでもできる状況にしておいた。
     時々無理をしすぎてしまうことももちろんあって、そんな時は姉がお小言と共にアヌビスを見てくれたり、手伝いに来てくれていた。まったく、と眉間に皺を寄せながら文句が止まらない姉は、まだ小さなアヌビスを前にした時だけは表情を緩めていた。

    「じゃあ頑張れよ。何かあったら連絡くれ」
    「お昼は?」
    「適当に買って外で食べさせるよ」
    「わかった。お願いします」

     必要なものをリュックに詰めて、アヌビスにもハーネスをつける。背中にふかふかの犬のリュックのついたタイプだから転んでも少しは安心だ。
     きっとネフティスのあの様子だと夕方まであそこから動かないだろう。さて、今日はどうするか。
     靴を履いて、アヌビスの靴のマジックテープをぴたんとはめてやる。じゃあ行くか、と部屋の奥へと声をかけると、ぱたぱたとスリッパを鳴らして駆け寄ってきた。

    「いってらっしゃい」
    「いってきましゅ」

     靴も装備しお散歩準備完璧で元気いっぱいのアヌビスをぎゅっと抱きしめて、ふよふよとした頬にキスをする。くすぐったいのか甲高い笑い声。なんでもないこんな日常が愛おしい。かわいい生き物が幸せそうに笑っている。
     毎日忙しくて、ゆっくりとする時間もずいぶんと減ってしまったが、この光景を見るために頑張ってきたんだと、毎日、毎時間思えるから子供はすごい。そしてそんな子供を前に夫婦揃って表情が緩んでいるのだから、もう色々と自覚はしている。

    「いってらっしゃい」
    「お、おう。いって……きます」

     突然立ち上がったネフティスが俺に抱きついて、アヌビスにしたのと同じように頬に口付けた。子供と同じ挨拶をしただけ。わかっている。わかっているけれど、突然のことだったから、少し驚いただけだ。
     アヌビスと手を繋ぎ、手を振ってから家を出る。いつもよりもゆっくりと、見慣れた景色の中を歩いていく。ハーネスは何かあった時の保険であって、外出時は手首を掴み一緒に歩く。少し屈みながらだと、近所の道も少し見え方が変わっていく。
     ご近所の花壇の花の色や、飼っている動物の種類。何気なく通っていた道も、何もかも鮮やかな色がついているように感じられて、景色を一緒に楽しめるようになっていた。
     ただ通過するだけだった道の端に落ちているきらきらした小石やどんぐりを、何分も飽きることなく見ているのを並んで眺める時間。
     まだ真っ白なこの子の頭の中に、この世界はどう映っているのだろう。美しいものだけではないこの世界を、好きだと思えるくらいには鮮やかに見えていてほしい。
     俺が愛おしいと思えるこの世界を、この子にも大切なものと思っていてほしい。ネフティスとアヌビスが与えてくれたこの世界を、今度は俺が与えられたら。

    「とおしゃ。どうぐり」
    「まん丸などんぐりだな。お母さんにも見せるか」
    「ん」
    「じゃあポッケ入れとこう」

     小さなおみやげをポケットに入れて、また公園までの冒険を始める。まだ何も知らないこの子は、季節で色や形を変える花や葉っぱの一つも魔法のような存在なのだ。自分よりも大きなもので溢れた街の中は、それこそ世界旅行のようなものなのだ。
     きょろきょろとあちこち見回して宝石みたいに瞳を輝かせている姿に、そんな風に自分まで思わせてくる子供という存在は新しい目を手に入れたようだった。俺たちの子。自分が親だという視点。少し前までは想像もできなかったものを与えてくれたネフティスとアヌビスには、感謝してもしきれない。

    「きゃあ~」
    「おーすごいすごい!」

     小さなボールを小さな体で思いっきり投げると、明後日な方向にぽんぽんと跳ねていく。少し前まではこのボールを握ることも、投げることもできなかったのに子供の成長は早い。投げれば取ろうと駆け寄るし、真似して投げ返してくる。
     俺たちがしたこと、言ったことを真似てくるアヌビス。子は鏡と言うが、じゃあ今の俺もこんなふにゃふにゃの顔で笑っているというのかと思うと笑えてしまった。確かめる術もないが、きっとそうなんだろうなと頬の感覚で思う。

    「とおしゃ、ぶらんこ」
    「お兄さん用しかないから、お膝な」
    「あい」

     膝の上に抱きかかえ、ベルト代わりに両手をアヌビスのお腹に回してブランコを揺らす。ほんの少しなのにきゃあきゃあと元気な声が聞こえてくる。小さなアヌビスにしては動くたびに頬を触れる風も、視線の高くなる景色もすべてが不思議なのだろう。
     大人になってから乗ったブランコは、あの頃とは違うものを見せてくれた。ゆっくりと回る景色も、膝の上の温かさも、あの頃は知らないものだった。

    「ん、お腹鳴ったか?」
    「おなかしゅいた」
    「そうだな。もうそんな時間か。何食べたい?」
    「にゅうにゅう」
    「牛乳? 牛乳飲めるとこか。あ、じゃあパン屋さん行こう」

     少し前にオープンしたばかりのイートインスペースもあるパン屋の話を仕事中に聞いたのを思い出す。大人も子供も楽しめるラインナップで最近ハマっているのだと、事務の人が言っていた。落ち着いた街だからこそ新しいものができるとみんなこぞって足を運んでしまう。そんな平和な街が気に入っている。

    「パン屋さんの中では、しーだぞ? 出きるか? アヌビス」
    「あい!」

     元気一杯短い腕を頭の横でぴんと上げるアヌビス。ふわふわのお顔も精一杯緊張させて見上げてきた。真面目にお返事してくれたこの子を笑ってはいけないと堪えて、店のドアを開けた。
     昼時だからか店内はそこそこ混んでいた。さすがにゆっくりは見て回れなそうなので、アヌビスを抱きかかえる。ぎゅっとしてろと言うと小さな手を首と肩に巻きつけてしがみついてきた。

    「何が食いたい? 甘いのがいいか?」
    「ぱん! ぱん!」

     わかっているのかわかっていないのか、あちこち指差してはにこにこしている。いくつか適当に買って、残りは持ち帰りにしてもいいかとトレイに乗せていくと、急に髪をぎゅっと引かれた。

    「いてっ、どうした?」
    「とおしゃ! あんぱん! あんぱん!」

     きらきらした顔でこっちを見ているアヌビスの指差す先には、キャラクターの顔のような大きいパンが並んでいる。チョコクリーム入りと書かれているのに、アヌビスは興奮したようにあんぱんと叫んでいる。

    「これがいいのか?」
    「うん! あんぱん!」

     トレイに一つ置くと嬉しいのか腕の中で小さくひょこひょこ跳ねていた。静かにと言われても我慢できずに小さく揺れているのが面白くて、同じパンをもう一つ乗せた。わ! わ! と嬉しげな声が上がる。どうしてと言いたいのに、興奮して言葉がまだ出てこないのが見ているだけでわかった。

    「そう、こっちがアヌビスのお昼ご飯で、こっちがアヌビスへのお土産。いいお土産あったな」
    「うん! うん!」
    「じゃあお母さんのお土産も買っていくか」
    「かあしゃ!」

     崩れなそうなものをいくつか見繕ってレジへと進む。会計をするために足元にアヌビスを下ろすと、爪先立ちになって一生懸命覗きこんでいた。

    「あ、こっちは持ち帰るんで包んでもらっていいですか?」
    「かしこまりました。お飲み物はいかがですか?」
    「にゅうにゅう!」
    「そうだった。牛乳とホットコーヒーで」
    「かしこまりました」

     あっという間に袋に包まれたパンがどこかきらきらとしているように見えた。いい香りの袋をリュックにしまっていると、飲み物と一緒にトレイも持っていってくれるというので、アヌビスを抱きかかえイートインスペースへと向かう。
     スペースの入り口にあった手洗い場で手を洗い、空いていたカウンターに幼児用の椅子をセットして座らせると、店員さんがちょうどトレイを運んでくれたところで、アヌビスの興味は一気にトレイの上に移っていた。コーヒーだけは少し離れた場所へ置いて、トレイをアヌビスの目の前へと動かした。
     お皿に乗せられた丸いパンは子供の興味を引いて離さないらしい。どうしたらこんなに夢中にさせられるのか、少し教えて欲しくもなってしまう。
     食事用のスタイをつけている間も待ちきれないのか、ぴょこぴょこと動きをとめられずいた。ウェットティッシュ、大きいの持ってきて正解だったな、と食べる前から思ってしまった。

    「アヌビス、いただきますは?」
    「たらきましゅ!」

     手をぱちんとあわせて、顔くらいあるんじゃないかという大きなパンを両手で持ち上げた。小さな口を限界まで開けてかぶりつく。こんな小さな体にこんなに大きなものが入っていくんだから、人の体は不思議だなと眺めながら牛乳の紙パックに紙パックホルダーをセットして目の前に置いた。
     この前まで哺乳瓶しかだめだったのになぁと、しみじみと思いながらコーヒーを口に運ぶ。生まれてからアヌビスは毎日成長して、変化していく。俺はちゃんと変わっているのだろうか。完璧ではないにしてもちゃんと親になれているだろうか。
     あれだけ患者さんの相談に乗ってきたというのに、自分のことになるとこんなにも不安にもなるのだと、この子が家にきてから知れたことの一つだった。

    「パンは逃げないからゆっくり食えって」

     口の周りを真っ黒にしていて、拭いてやるとまた新しいチョコをつけている。あとでネフティスにも見せてやろうとカメラを向けた。


    「じゃあ帰るか」

     お昼を食べて少しするとうとうととし始めたアヌビスを抱っこして、緑道のベンチへと移動した。ブランケットを出して寝てしまったアヌビスをくるむ。
     眠ってしまったせいでぽかぽかとするのが心地よくて、自分まで釣られて眠ってしまいそうだった。パンも美味しくて気候も良くて、そして腕の中ではすやすやと心地よいリズムの呼吸音が小さく聞こえてくる。
     何もかもが平和だった。特別なことなど何もないが、確かに愛おしい時間がここにはあった。こんなにも小さいのに、どれだけ特別なことをもたらしてくれているか、まだ幼いアヌビスには理解はできないだろう。
     目を閉じて、ぎゅうと小さな体を抱きしめた。



    「かあしゃ、たらいま」

     家に戻るとどこか薄暗く、物音すらもない。アヌビスに、しーと言いながら部屋を覗くとネフティスは机に突っ伏して眠ってしまっていたようだった。

    「ねんね?」
    「疲れちゃったんだな。向こうで遊ぼうか」
    「あい」

     ガウンをネフティスの肩にかけ、リビングでアヌビスと二人、今日の冒険のおさらいを始めていく。





    「……あら?」

     いつの間にか寝てしまったのか、部屋には夕日が差し込み薄暗くなっていた。二人はまだ帰ってきてないのかしらと体を起こすと、肩から着た覚えのないガウンがばさっと落ちてきた。こんなことをするのはこの家には一人しかいない。気を使って起こさずにいてくれたらしい。 

    「あらあら」

     ここに二人の姿はないけれど、机の上には確かに二人がいた。朝はなかったはずのパンやどんぐり、形のきれいなはっぱがちょこんとなら並べられている。それだけで今日二人がどんなことをして過ごしたのかが、目に浮かぶようだった。
     お話を聞かせてもらいたい。そう思うけれど、どうにも家の中が静かで不思議に思い部屋を出ると、その理由はすぐにわかった。
     リビングのテーブルの上には、まだたくさんの戦利品が並んでいた。緑や赤いはっぱに、丸や楕円のどんぐり。帽子をかぶったものもあった。
     そしてすぐ側のカーペットの上で、セトとアヌビスが眠っていた。口もぽかっと開けて、服も捲れてお腹が見えてしまっている。

    「お疲れ様でした」

     近くにしゃがみこんで呟いても、二人はぐっすり寝むってしまって起きる気配がない。力の抜けた顔が普段よりもずっと穏やかで、いつまでも見られそうだった。

    「やっぱり親子なのね」

     眠ってしまっている二人の寝相も、寝ているときの緩んだ表情もそっくりで、思わず笑ってしまった。この子は私たちの子供なのだと、胸がじわりと熱くなっていく。
     こうして少しずつ三人で過ごして、親子としての時間を守りたい。こんな気持ちをくれたこの二人のために過ごしていきたい。
     なので二人を起こさないように静かにキッチンに立つ。二人のお土産話を聞くために、一人、夕飯の支度をし始めた。
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