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    kxxx94dr

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    94/ドラロナ(五十路、やもめ、Δ)ミニパパ
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    kxxx94dr

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    シャモfes3rd 展示③
    みにぱぱちゃんR18予定
    まだ冒頭だけ!

    #ミニパパ
    mini-dad
    #木下親子

    「父さん、夕飯だけどさぁ……」

     確かにノックして返事も待たずにドアを開けてしまったのは僕だ。行儀が悪いことをした自覚はあるけれど、日常ではよくあることで、なんでもない時であれば許されるありふれた光景だった。
     ただ今回は状況が違っていた。それだけの話。けれどこの状況を予想することは、どう考えても無理な話だった。
     まだ日が高く、店の準備も始まらない時間。ドラ公は完全に寝ているし、父さんだって起きているかも怪しいタイミングだった。起きているならと軽い気持ちで声をかけただけなのだ。

    「あ……」
    「え……?」

     処理しきれず僕の手の中から滑り落ちたスマホが、ごとりと嫌な音をたてて床に落ちた。画面にヒビが入ってしまったかもしれないが、今はそんなことすら考えられないくらいに目の前の光景に困惑してしまっている。
     夢かと思ったけれど、部屋からは父さんの声がした。夢じゃない。夢じゃないならどういうことだと頭の中がフル回転で動いてしまって忙しなく、うまく言葉がでなかった。

    「父さん……?」

     父さんは真っ赤になった顔をふいと逸らした。おかげで異様な光景をじっくりと観察できてしまう。
     わかっている。けれどそれをどう飲み込んでいいかわからないだけだ。理由がわからない。

    「なにを、してるの……?」

     父さんからは返事はなかった。いや、あっても困惑してしまったと思う。
     だってベッドの上で一人、なぜか全身に縄を巻き付けている父さんがいたのだから。
     口も塞がれず一人でいるのならば事件ではないはず。けれどこうなった理由もわからない。縄の両端を持っているのならば、これは自分でしたということだろうか。
     返事は相変わらずなかった。けれど握りしめていた手から力が抜け、縄の両端がぽとりとベッドに落ちる。
     もう続けるつもりはないという意思表示と思い、父さんの体に巻き付いた縄を解いていった。一人でぐるぐると巻き付けただけの縄は簡単に解けていくが、まだ父さんは黙ったままだ。
     ドラ公が起きるとまた面倒だと思い、父さんの手を引いてリビングへと移動する。眩しいくらいの日差しの中にいると、さっきの光景が一瞬夢のように思えてしまうが、大人しく手を引かれる父さんの存在が嘘じゃないと言ってくる。
     黙ったまま椅子に座る父さんの前にコーヒーを置いた。こういう時の父さんは頑固だからそう簡単に話してくれるわけじゃない。苦めにいれたコーヒーを一口啜り、落ち着くためにゆっくりと息を吐いた。

    「さっきのはさ、事件とかトラブルとか……そういうのじゃないんだね?」
    「…………ああ」

     コーヒーを口元に運ぶ手首にはまだ生々しい跡が残っている。年齢によってできた皺とは違うもの。規則的な縄の跡があまりにも不自然で、つい視線を外してしまう。

    「じゃあ自分でしてたってこと?」

     何も言わず、父さんはカップに口づけた。長いまつ毛の下で瞳が泳いでいるのに気づいているのだろうか。さっきから視線があわない。
     リビングにはコーヒーを飲む音だけが響いていた。どれくらいそうしていただろうか。ようやく父さんの口がもごもごと動き始めた。
     意味をなさない音だけが、ぽつりぽつりとテーブルの上に散らばった。単語を広い並べ直していく。
     話は行ったり来たり。取り止めなくこぼれ落ちる単語を整理していくが、一番しっくりときたものが、一番飲み込むことの難しいものになってしまった。

    「えっと……それって、その……つまり……気になって自分でしてしまった……ってことでいいのかな?」
    「う、あの……そういうわけじゃ……いや、そういうことになる……のか?」
    「もしかして、あの日からずっと?」
    「ちが……っ! いや、その……」

     またもごもごと口籠る。こんなに歯切れの悪い父さんは珍しく、つい口元が緩みそうになるけれどグッと歯を噛み締め表情を作った。
     数分かけて聞き出せたのは、どうやら今回が初めてのことで、あの日のことがどうにも気になってて一回だけ試そうとした。けれどこんなこと言うわけにもいかず、自分でしてみようとしていたということらしい。
     あの日とはつい先日のこと。吸血鬼のせいか、僕たち二人は見知らぬ空間にいた。





    「なんだぁ……ここは……」
    「家じゃ……なさそうだね……」

     二人揃ってあんぐりと口を開けて、部屋をぐるりと見渡した。鏡も何もないからどれだけ間抜けな顔をしているかを見ないで済んだのは幸いだった。
     窓も照明も何もない真っ白な部屋。けれど昼間のように明るかった。そんな場所にぽつんと二人目を覚ました。
     あからさまに異変だと分かるが、特段驚くことはない。きっとまた吸血鬼の仕業なのだろうと肩を落としただけ。
     解除方法を探そうと辺りを見渡せば、真っ白な空間に一際目立つものがあった。白に鮮やかな赤い線。
     摘み上げればなんてことはない赤い縄だった。特に何もないように見えるが、わざとらしく置かれたものなのだから関係があるのだろう。
     けれどこれがどう関係があるのかわからず首を捻っていると、ぼんやりと壁に文字が浮かび上がってきた。

    「どちらかを、縛り上げないと出られない部屋……?」
    「あ?」

     読んでも意味はわからないが、今まで出会ってきた吸血鬼たちの行動も大概意味はわからなかった。吸血鬼とはそういう生き物だから。
     とりあえず部屋の目的も脱出方法も判明したが、従っても問題はないかと言葉の裏を考えた時、目の前に見慣れた腕が差し出された。細そうに見えて、未だしっかりと筋肉の乗った腕。

    「ほら、縛れば終わりなんだろ?」
    「え? 父さんを縛るの?」
    「お前が怪我したら大変だろ」
    「それは父さんだって同じでしょ」
    「ははっ、俺はそんなにヤワじゃねぇよ。安心しろ」

     そう言って両手首をつけるようにしてこちらに向けてくる。手錠のように拘束しろと示されて、ようやく自分の想像していたものが不正解だったことに気づいた。
     赤い縄、縛る、そのワードで想像したのは、いわゆる緊縛というものだった。複雑に絡ませ縛り目を使って食い込ませながら体を拘束していくもの。何かで偶然見たことがあったものを思いだした。

    「これくらいでケガなんてないから気にすんな」
    「う、うん……じゃあ……」

     人を縄で縛るなんて初めてのことで、指先が上手く動かない。ギリギリ肌に触れる程度の力で手首に縄を巻き付けた。
     サリサリと縄が擦れる音が耳に届く。意識しないようにと思っても、静かな部屋の中で聞こえるのが縄の音と呼吸音だけで、つい先程頭に浮かんだ映像が顔を出してくる。吐息が耳にかかりそうなのも良くないと思う。
     少しでも意識しないようにと、結び目を蝶結びにする。ぬいぐるみやプレゼントのような形に、ほんの少しだけ何でもないことのように思えた。
     ただ手首の先から縄の残りがだらんと垂れて、床まで伸びている。その異質さから目を逸らした。

    「できたよ」
    「おう。これでどこかに出口が……」
    「現れないねぇ…」

     見回しても何も変わったことは起きなかった。白一色の部屋も明るさも、扉や吸血鬼が現れたりなんてこともない。
     さて、どうしたものかとため息を零していると、壁の文字がじわりと滲み形を変える。壁の中を這う虫のような色は、新たな文字を形作っていった。

    「あ? なんだ?」
    「えっと……え……?」

     余すことなく縄を使うこと、四肢含め身体拘束すること、と書かれていて、つまりはこんな少しばかり縛るのでは許されないということだった。手首だけでどれだけ時間がかかってると思ってるんだ。
     言葉もなく長い長いため息をついた。文字が変わったことから、たしかな解除条件がわかったのは良かったのかどうなのかはわからなかった。

    「ったく……めんどくせぇな。さっさと終わらせて早く出るぞ」
    「まって、全身縛るとか……そんなのやったことないし! 危ないんじゃ」
    「俺だってやったことないから一緒だ。ほら、チャーシューみたいに適当にぐるぐる巻けばいいだろ」
    「チャーシューって……もうっ」

     いやらしい意味なんてない。ただ巻きつけるだけ。そう言い聞かせて、手首の先から余る長い縄を手に取った。
     規則性もなく細い体に巻き付けていく。後ろに回す時に抱きつくような格好になってしまうのは不可抗力だ。
     チャーシューというよりはクリスマスツリーにモール飾りをつけるような感覚だった。けれどツリーと違い引っかかることはないので、少し力を入れないといけない。
     巻きつけるたびに服が擦れる音がする。見ないように視線を逸らしたくても、逸らした先には父さんの顔がある。それも体を赤い縄で縛られた状態の顔だ。

    「痛くない?」
    「なんともない。気にすんな」
    「それならいいんだけど。何かあったら言ってよ?」
    「わかってるよ」

     少しでも規則性を出さないように、あえてバラバラに縄を巻きつける。チャーシューとかダンボールを縛るみたいに、なんでもないものと見えるように。
     両腕は体に添うように纏めて縛りあげる。肩周りから肘が腰回りにぴたりとくっついて、もう身動きは取れなくなってしまった。
     しゃがみながら更に下へと下りていく。腰元から足の付け根にかけてはどうにか縄が巻き付かないように緩く外していった。さすがにここに食い込ませてしまっては、色々なことを思い出してしまうから。
     両足を揃えてもらい、無心に手を動かした。下拵えでタコ糸を塊肉に巻き付けていた時のことを思い出しながら、目の前の赤をあまり見ないように縄を手繰る。

    「あ、どうしよう」
    「どうした」
    「長さがちょっと足りなくて。最後縛れなかったらダメだよね」
    「かもなぁ。もっと引っ張れば届かないか?」
    「そしたら父さん痛くない?」
    「これくらいどうってことないから。変な遠慮なんかするな」
    「う、うん……」

     遠慮というか配慮というか。それも自分に対してだ。表情がきちんと作れているかがずっと気になっているが、確認する術はない。
     靴紐を調整するように、上半身の紐から少しずつ締めていく。きゅ、きゅと縄が擦れ合い、さっきまでは軽かったはずの縄が、服に食い込み抵抗してくる。
     縄に伝わる重さの向こうに、触れてもいない肉の弾力を感じる。服の中に隠されているはずの体の硬さや厚みが、力を込めて締めるたびに手に伝わってくる。
     触れていないはずなのに触れられてしまっている戸惑いを隠すので必死になっていた。俯かなければいけなかったのが、かえって良かったのかもしれない。
     表情を見られてはいない。だから大丈夫だと言い聞かせ、細い体に縄を食い込ませていく。
     アイロンの掛けられたシャツやスラックスに不自然な皺がいくつも出来ている。ギシッと布が擦れる音がする。大丈夫。なんでもない。

    「ふっ…………ぅ」

     ようやく足首まで辿り着いた時だった。縛りあげるにはギリギリの長さで、少し力を入れると頭上から吐息が漏れてきた。
     苦しげに、けれどどこか甘さを残すその音は、どこかで聞いたことのあるものによく似ていた。

    「ごめんっ、痛かった!?」
    「いや……少し苦しいだけだ。大丈夫、気にするな」
    「うん、ごめんね。あと少しだけ頑張って」

     縄が食い込んだせいでスラックスが少しだけ持ち上がり、骨の浮いた足首が丸見えになっている。普段は隠された場所である白い肌の上に滑らすように縄を這わすと、足首の肉がかすかに縄の上に盛り上がる。関節なんて皮下脂肪も薄いはずなのに、まっすぐな足のラインはたしかに波打ち、縄が食い込んだのを見て取れた。
     硬いマネキンなどではなく、今目の前にあるのは血の通ったあたたかい肉なのだと思い出してしまう。しっとりと汗ばみ、脈打つあたたかな存在。

    「ん…………っ」

     極力力を入れないようにしても、全身を拘束され直接肌を圧迫されることに痛みを感じてしまうのは当然だった。けれど息苦しさを別のことで感じることをつい思い出してしまう。

    「これでおしまい。父さん、だいじょ……ぶ……?」

     雑念をかなぐり捨て縄を縛り顔をあげた。何も気付かれないように、少し高めの声でそう呼びかけたはずなのに、喉からはそれ以上出てこなかった。
     見上げた先には体を幾重にも赤い線が引かれた父さんがいた。白い髪、白いシャツの上に散らばる赤はやけに目を引いた。
     そしてなぜか白い肌はほんのりと赤く染まっていた。縄の色が移ったわけでもないのに、たしかにじわりと赤が浮かんでいる。
     痛みなのか何なのかはわからなかったが、涙の滲む瞳でじっと見下ろしている父さんと目があってしまった瞬間、ひゅっと喉から息が抜けた。

    「あ…………」

     苦しげに寄せられた眉に見覚えがあった。上気した頬も見たことがあった。縄によってくっきりと浮き出したシルエットもよく知ったものだった。
     いけない。そう思っているのに、気付いたらこくんと喉を鳴らしていた。聞かれていないかを確認したいのに、じくりと重くなる腹の奥が気になって言葉に詰まってしまった。

    「んっ……」

     カラカラになった口を開いて、名前を呼ぼうと思ったと同時に、背後で大きな音がして思わず肩を竦めた。衝撃に心臓がばくばくと脈打っている。そう、この鼓動の激しさは驚いたからだと言い聞かせた。
     振り返るとさっきまではなかったはずの場所に出口があった。重々しい扉を両側に大きく開いて、真っ暗なその先を見せている。

    「あれって……」

     もう一度見上げれば父さんにもあの扉が見えているようで、同じ場所を見つめていた。ということはあれはきちんと存在しているらしい。

    「は……ははっ…………」

     気付かないうちに息を止めていたようで、漏れ出した吐息と共に零れた声は掠れていて、どこか愉快な音をしていた。情けない顔をしている気がするが、お互い扉を見ていて誰にも見られていないことが救いだった。
     ゆっくりと息を吐き出すと、けたたましく鳴る心臓を押さえ、引き攣る顔を整える。いつも通り、何でもない表情を思い出して口角を引き上げた。

    「開いたね」
    「どうやらそのようだな」
    「お疲れ様、父さん」

     なんでもない顔で縄の結び目を解いていく。擦れないように慎重に外していくと、薄い皮膚にくっきりと縄の跡が残るのが目に留まる。
     何本もの筋が白い肌の上に花びらのように咲いていた。うっすらと赤みの浮かぶ淡い花。初めて見た光景だった。
     けれどこれは見てはいけないものだ。意識してはいけないもの。
     赤い縄が床に落ちていくと、少しずつ日常に戻っていく。けれど目の前のアイロンのかけられたシャツには、不自然な皺がいくつも残っていた。
     全ての縄が外れていつも通りに戻れたはずだった。あとはここから出るだけ、そう思っていた。

    「体、大丈夫?」
    「これくらいなんともない」
    「そう、よかった」

     いつものように笑って話して、ここを出たらまた日常に戻るだけ。けれど余計なことを言う気にはお互いなれず、黙って扉へと歩いていった。落ち着けるために吐き出した息が、やたらと大きく聞こえる。
     それは父さんも同じだったようで、荒い吐息が聞こえた。拘束されてまともに息もできていなかったのだろう。
     でもなぜかその吐息に色を感じてしまった。ただ喉から滑り出たものなはずなのに、そう感じ取れてしまったのは別の何かを知ってしまっているから。
     頬が紅潮しているのも息苦しさのせい。そのはずだと言い聞かせて、汗を浮かべた顔から視線を外した。

    「…………っ」

     くしゃくしゃな袖から覗く細い腕に残された縄の跡。白い肌にできたいくつものへこんだ跡の奥に、変わってしまった色を見つけてしまった。
     柔らかな春のような優しいピンク色が、白い肌の上にいくつも咲いていた。そして同じ色をどこかで見たことがあることを思い出してしまった。
     服の奥に隠れた、母さんさえ知らない場所。人知れず愛を求めて脈打つ場所と、まったく同じ色をしていた。

    「どうした? 大丈夫か?」
    「あ、う、うん……だいじょうぶ……」
    「そうか。それならさっさと出るぞ」
    「わかっ、た……」

     気付いてしまったらだめだった。心臓は鼓動を速め、呼吸は簡単に乱れた。何より腹の奥がずくりと鈍い重さを持ち始めてしまった。
     荒れた呼吸音を蓋するように口元を手で覆い、無心で扉へと歩いていく。
     振り向きませんように。どうか気付かれませんようにと願いながら。
     
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