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    kxxx94dr

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    94/ドラロナ(五十路、やもめ、Δ)ミニパパ
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    現パロ、セトネフ(ネフセト)+アヌビス
    11月23日はいい夫妻の日なので、親子のお話

    #ENNEAD

    手の届く範囲「セト? どうしたの?」
    「…………いや」

     じゅうじゅうとフライパンの上で焼ける音に掻き消されるくらい小さな声で返事が返ってくる。じっと見つめてもそれ以上の返事はなかった。けれど火から目を離すわけにもいかず、また手元に視線を戻す。
     背後に立っているのには気付いていた。何かキッチンに用があるのかと思っていたけれど、どうやらそうではないらしい。飲み物も軽くつまめるものもなんでもあるはずなのに、それに手を出す気配もない。
     ただ黙ってこっちを見ている。

    「お腹空いちゃった?」
    「…………いや?」

     これはまたわかりやすい。笑ってしまいそうなところをぐっと堪えて手を動かし続けた。さっきからずっと視線を感じていて、けれど何も言わずに見ているだけだった。どうやらちゃんと意味があったらしい。

    「じゃあアヌビスと向こうで待っててくれる? ここにいると危ないから」
    「もう終わるだろ?」
    「アヌビス、お父さんと向こうで待ってて?」
    「……はい」

     足に抱きついていたアヌビスが手を離し、すぐ側に立っているセトを見上げた。セトはセトで何も言わずにアヌビスを見ている。
     ほら、と促せばセトは屈んで手を差し出してきた。ん、と言うだけでそれ以上何も言わないのに、アヌビスもうん、とそれに答えている。

    「行くぞ」

     セトの首にきゅうと抱きついてリビングへと移動していく二人の背中を見送る。何か言いたげなのに何も言わずに歩いていく二人。ソファの上でようやくぽつぽつとしゃべり始めるのが聞こえてきた。
     邪魔しちゃだめだ、とか、じゃましてないです、とか。同じようなことを二人が言い合っている。同じような声のトーンで、同じようなことを言っているのに二人はどうやら気がついていないようだった。
     なのにくぅとお腹の音が鳴ったかと思うと、二人の声が急に弱々しくなっていった。お腹すいたなぁ、なんて誰に言うでもなくぽつりと呟く声に、同じように答える声もどこか力が抜けていた。

    「はーい、お待たせ」

     お皿を持っていくとぱっとこちらを向いた二人が、同じ顔で見上げてきている。さっきまで自分は悪くないと口を尖らせていたというのに、そんなことも忘れてしまったのかぱあっと花が咲いたようだった。
     赤と黒と色は違うけれど、同じ顔で同じことを考え同じように笑う。

    「どうぞ」

     わぁと高い声が揃って上がった。何を出しても反応のいいのは、いつ見ても気持ちがいい。これはセトだけの時も、その膝の上にアヌビスが乗るようになってからも変わらなかった。
     誰に教わったわけでもなく、アヌビスはこの表情をするようになった。くしゃりと顔いっぱいで笑い、いやなときは隠してるつもりが隠しきれてない。とても素直な子だった。隣に座る誰かのように。

    「早く食おうぜ」
    「先食べてていいわよ」
    「いや、それくらい待てるだろ」

     意外なところで律儀なこの人は、よっぽどのことがなければ先に食事に手をつけることはなかった。一緒に食事をするのならば、揃ってからとなぜか待っている。
     二人でいるのに先に食べたりと別々に食事をしていたのは、それこそアヌビスがまだ生まれて間もない頃。ゆっくり椅子に座る暇もなく、まだ言葉も通じないアヌビスの育児に追われ、なんとか食事を取っていた時は二人揃ってなんて数えるくらいしかなかったように思う。
     そして今は二人がそわそわとこちらを見て、私がくるのを待っている。

    「いただきます」

     声が揃う。全員の料理が揃った途端、二人は顔を見合わせてぱちんと手を合わせた。きれいな顔に合わず大きな口を開けて、料理を口の中に運ぶ。咀嚼しているから何も言葉はないはずなのに、目が何かを言っているのがわかる。
     この瞬間がとても好きだ。食事は肉体のための栄養をと理解していたけれど、それだけではないのだと思えるからだ。今、目の前で気の緩んでしまった顔で、楽しそうに自分が作ったものを食べている二人を見ていると、食べてもいないのに胸がいっぱいになってくる。
     そんな気持ちが味わえるとは思わなかった。だからセトにもアヌビスにも感謝している。こうして家族として過ごせる時間に、感謝してもしきれない。

    「ゆっくり食べないと喉詰まっちゃうわよ?」
    「はい」

     アヌビスは丁寧に返事を返してくるが、口の周りにはあれこれつけて手は止まらないようだった。元気に育って、セトのように大きく健康になってくれたらいいのに。どうなるかなんて誰にもわからないけど、そうだったらと願わない日はなかった。
     一人でないことがこんなにも幸せだなんて、思ってもみなかった。




    「いただきます」

     ネフティスはいつも少しだけ間を置いて食事に手をつける。特に大きな理由はないと言っているが、こうして何もない時間を楽しんでいるのは知っていた。何か言っているわけでもないのに、おかしそうに口が緩み笑うその顔が好きだった。だからそれ以上何かを聞くことはなかった。
     数年前までは考えもしなかった三人での生活も、今はすっかりと当たり前になっている。お互いの行動も、考えもなんとなくわかるようになってしまった。
     二人の時とはまた違う生活の中で、成長するアヌビスが見せる顔が少しずつ変化していくのが楽しかった。何かを頼む時、言葉使いや食事中のマナーなど、言っている以上に子供というものはよく見ていた。
     幼いながらも喋る言葉は丁寧で落ち着きを感じてしまうし、箸やフォークを持つ手も食べ方もこんなに小さな指先で握っているはずなのにとてもキレイで、むしろこっちがはっとさせられる時があるくらいだった。
     夫として、そして父親として、二人の隣に立った時、少しでも恥じないようにありたい。自分がどう見られるかということなど考えたこともなかったが、今は俺は二人の夫であり、親であるのだ。どうしても俺の評価が二人へと関わってきてしまう。
     二人を守りたい、幸せにしたいと思っているのに、俺が二人に不幸をもたらすようなことだけはあってはならない。だからこそ少しのことでも気になるようになっていた。

    「ごちそうさまでした」
    「はーい、よく食べられました」
    「じゃあ、お皿片すぞ。ほら、アヌビス。ちゃんと前見ろ?」
    「はい」
    「ネフティスももう終わったなら、持ってくから。ほら」
    「いいの? ありがとう」

     二人分を重ねても空の皿はずいぶんと軽い。形のあるものは姿を変える。けれど見えないものも形を変えている。ただ気付けないだけで。
     だからこそ今胸の中にあるはずのこの気持ちが変わらないように、二人の中にあるものが変わっていかないようにと願うことしかできない。そうなるために自分ができることをするしかないんだ。

    「アヌビス、まっすぐ持って。そうそう、ゆっくり置いて……。はい、上手」
    「ごちそうさまでした」
    「手も洗っとけ」
    「はい」

     シンクの水を出すと冷たかったのか、一瞬ぴゃっと腕を引っ込めたが、丁寧に洗うとまたリビングへと戻っていった。食器を洗っている背後からテレビの音が聞こえる。どうやら子供向け番組が始まっていたようで、陽気な曲が流れていた。
     何もしていなくても、それぞれが何をしているのかも、次どうするのかもなんとなくわかってしまう。自分のことではないのにそれほどまでにわかってしまうのも、おかしな気もしたがどこかほっとしてしまう。
     きゃらきゃらと笑う声、それを見守る空気。何もないけれど、欲しいものが全てここにあるのを感じる。何でもないはずのこの食器を洗う瞬間さえも、家族の存在を感じて頬が緩む。

    「うわっ……。ネフティス……?」

     音もなくするりと細い腕が腰に巻きついて、見えないけれど背中に熱を感じた。この家でこんなことができるのは一人しかいない。けれど返事もない。
     振り返りたくても手はまだ泡だらけで、キレイな髪の色がちらりと視界の端に映るだけだった。

    「どうした? 袖濡れるぞ?」
    「うん」
    「アヌビスは?」
    「テレビに取られちゃった」
    「そうか」

     それだけ言うとまたきゅうと腕の力を込めてくる。柔らかい腕の感触が服越しに伝わる。あたたかい、優しい感触が。

    「もう終わるから、向こうで待ってろよ」
    「ううん、私がこうしていたいの。少しだけ」

     すりと頭と寄せられて、ネフティスの香りがふわと漂った。洗剤の香りのこもる中でもはっきりとわかる香り。流れていく水にも溶けて消えずに、俺の回りに立ち込めている。きっと誰にもわからないだろうけど。

    「セト」

     ついさっき、子供に嫉妬していたような自分に、ネフティスは気付いていたのだろうか。だからこうして同じようなことをしているのだろうか。

    「ネフティス」

     けれどそんなことはどうでもよかった。二人を思い生まれる感情全てが特別で、どれもが愛おしかった。それだけで良かった。
     この空間にある全てが、ただただ幸せだと思えるのが嬉しかったのだ。 
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