恋を自覚したのはそれはいつものことだったはず。
ヤマダはそう思った、思っていた。
タコの双子がシスとの距離が近いのも、話し方や雰囲気がとても柔らかくなるのも昔馴染みだから。
だからなんとも思っていなかったはずなのだ。
「せんぱい」
「ん、どうした?」
最近は双子の時ほどでは無いが、とても柔らかくなったと思う。
それでも。
「いや…、なんでもないです」
この気持ちはなんだというんだ。
湧き上がってくる気持ちを抑えようと、拳を握りしめる。
普段とは違うヤマダの様子に、シスも双子も首を傾げる。
早くにどこか合点がいったらしい双子が、アイコンタクトをする。
シスは、また双子だけの会話が始まったなくらいにしか認識しなかった。
ヤマダは突然始まった双子の掛け合いにきょとんとし、見るだけになる。
2人の会話が終わったらしい双子が、ヤマダとシスの2人を見やる。
「シス、俺らはもう行くわ」
「また今度話そう」
「お前らだけの話は終わったのか?」
2人で頷き、手を振った。
それにシスとヤマダが振り返す。
2人を見送り、さっきのはなんだったんだと少し呆けるヤマダ。
シスはもう見慣れたのか、気にせずにヤマダに向き直る。
「それで?なんかあったか?」
「え?」
2人が何も言わずに行くのはなにかがあるから、と思っていたシス。
思い違いかと首を傾げた。
「あの2人がいきなりアイコンタクトし始めたからなにかあると思ってたんだが、違ったか?」
「………」
双子にはバレた?なんで。
はくはくと浅く息をし、けれどもバレたからなんだと出そうになったため息を飲み込んだ。
「本当に…大丈夫ッスよ。なんともなくなりました」
「?…そうか」
自覚したらもう、戻れなくなってしまった。
ヤマダは顔を出したこの恋心をどうしようかと、胸に手を当てフクをグッと握りしめた。
双子とシスは昔馴染みというが、お互いとても大事に大切にしていた。
そういう関係かもしれない。
ならばこの気持ちは無視してしまおうか、と頭の片隅に追いやる。
握っていた手を緩めて、落ち着けるように撫で下ろした。
「時間、空いちゃいましたね。何するッスか?」
「そうだな…」
いつものヤマダの笑顔に、シスが今日はなにをするかとナマコフォンを出した。
どうかこの気持ちに気づかないで。
でも気づいて欲しい。
ああ、片想いってこんなにも苦しかったのか。
首を振って、自分もなにかないかとナマコフォンを取り出す。
その様子を目の端で見たシスは、何事も無かったかのようにヤマダに話しかける。
「本当に、何もないんだな?」
なにかを疑うような視線に少しヒヤリとするが、いつもの笑顔で答える。
「本当に大丈夫ッスよ!ナワバリ潜ります?それとも買い物行きます?」
それともなにか食べるっスか?と首を傾げるヤマダに、少し訝しげにしながらも頷く。
「甘いもの、食べたい」
「いいっスね、じゃあここなんてどうです?」
ロビーすぐ横の、いつもカフェが見えるところ。
「ここカフェの反対、空いてた場所に食べれるものが増えたらしいッスよ」
「新しいところか…」
行ってみるかとお互い頷きあって、2人並んで歩き始めた。