焚き付け燃やすのは得意です ※何もかもがご都合主義
※とや兄が普通に監獄でなくお外にいます、保護観察処分かな
※考えるな、感じて欲しいの勢いのみで読むのを推奨
焚き付け燃やすのは得意です
「燈矢兄、入るよ~」
返事を待たずに入った。
荼毘としての許されざることをして、本来なら監獄──それもタルタロス級のところへの収容されるのが妥当な燈矢兄はセントラル病院の一角に大人しく収まっている。一重に崩れかけた身体の維持にはここの設備でしか到底叶わないという一点に尽きる。個性に関しては使えないこともないらしいがそんなことをすれば身体はたちまちに崩れて終わり。その為抑制、といえば聞こえがいいが要は制御具を医療器具の中に取り込ませて繋がれている。そんな本人は「一度燃え朽ちてるし、荼毘として動いてたときから崩れっぱなしだったから変わんねえよ」「てか再生医療に貢献してんだから感謝されるもんだろ」と体は確かにベッドに横たえて病人だけど普通の態度のままある種のふてぶてしさのまま生きている。そう、生きている。私の兄は、生きている。
「その返事待たずに入ってくるのどうにかなんねえの」
「燈矢兄の返事待ってたら日が暮れちゃうでしょ」
「冬美ちゃんのそういうとこキライだよ」
「そっか」
毎度の憎まれ口の応酬を済ましてから入院グッズを取り出す。悲しいかな、母・父、加えて末弟も入院することが多くて準備に関してはもうリストアップなんてしなくたって出来る。違うのは下着とかのサイズ違いとかそういうところくらい。さっさとタオルや服を所定の位置に片付けていく。看護師さんたちに分かりやすいように詰め込んでしまうことだけは避けて。代わりに出た洗濯物を袋に入れて。こんどは来週、ううん5日後くらいかななどと予定を組み立てる。私が見舞いにくることは手続き上すごく大変なことだった、らしい。らしいで済んでいるのは私は住民票とかの取得をしただけでほとんどしていないに等しいから。俺やりますよと請け負ってくれたのだ、ホークスさんが。親身にしてくれてお礼を幾ら言っても足りない。ただ兄はその存在が気に食わない。まあ、内通者だなんだと揉めていたころよりはおさまっているけど波長の問題だろうけど。私にはたまに仲良しに見えてたりするんだけど気のせいかな。だって大事な人同士が仲良くしてると嬉しいものだもの。ホークスさんは父──エンデヴァーを支えてくれたのみならず我が家を支えてくれた恩人で、それで、ちょっと前から私の恋人だったり、する。
「で?今日もあの彼氏面の焼き鳥もいんの」
「彼氏面って……彼氏だよ」
「俺は認めてねえの」
「んもぅ」
「冬美ちゃんもやめとけって。ヒーローだぜ?ヒーローの恋人!字面は良いけど苦労しかしねえの目に見えてんだろ。同業者ならともかく一般人だろ」
「……ヴィランがヒーローと付き合うより苦労しないから大丈夫じゃない?」
「当てつけ?いつからそんな嫌味言えるようになってんの」
「燈矢兄が知らない時から」
「可愛くないよ、ホント俺の妹は」
揶揄したり愚痴ったり悪口めいたこと──所謂煽り言葉になると途端に燈矢兄は饒舌だ。でも可愛くないよと言いながら触れてくれる指は確かに崩れかけながらもなんとかこの世に居てくれる私のたった一人の大事な兄のもので、そのツギハギさえも焦げてしまった感触は確かに愛しいと思えるもの。だから嬉しくなってふふ、と笑った。それから抱き着いてみる。壊れないように、崩さないように。燈矢兄のベット上にちょっと乗り上げて。すると子どもかよと鼻で笑いつつも頭を撫でてくれた。ちぐはぐだなあと思いつつ嬉しいと思う。だってこれは弟たちには出来ない。そして父母にも残念ながら家庭環境的になかなか出来ない。燈矢兄だからなんとなく出来るの、その私的なすごさを本人が分かってない。まあ、分かられても困るけどと考えが巡ってから唐突に思い出す。違う、これと同じ事この間した。誰に、……恋人に。そしてこんなに穏やかな気持ちじゃなくて必死だった。あと通じなかった。
「にやけ顔してたと思ったら落ち込むとか、人に抱きついといてそれはねえだろ」
「ねえ……燈矢兄」
「何」
「男の人って、ギュってしただけだとやっぱり妹扱いだけするものなの?」
「……はァ???」
*
バサリ、と病院前に降り立った。
受付に顔を見せれば心得たように頷かれて認証パスを渡された。顔パスからの認証パス。緩いんだか厳しいんだか。変身の個性もちだったらどうすんのよとか一瞬思うけど、ドア通る時に生体認証は済んでるんだよね~すごいなセントラル病院~と棒読みの心の喝采を行いながら目当ての病室に進んだ。
「どーも、具合如何」
「お前の面見たら悪くなった。帰れ」
「はい元気で何より」
横たわったベッドから相変わらずの言葉しか並べられないのは最早通常運転だ。「死ね」やら「殺す」ではなく「帰れ」なことに優しさすら感じてしまう。ガタリと椅子を引いて腰掛け座る。カコンとプルタブを開けて珈琲を飲み始めると嫌そうな顔がもっと目を細めて怪訝ですと訴えてきた。
「見舞い先ほっといてテメェだけ何飲んでんだよ」
「俺、見舞いに来たんじゃないから。親族以外の第三者による経過観察ですんで」
「減らず口が」
「なんとでも。お仕事なんで」
好みの甘さを喉奥に通して笑う。
今日はどんな嫌味を言われようと傷つかない自信がある。なにせ、俺は一昨日大変にかわいいものをチャージしてきたので。かわいい恋人のかわいいお強請り姿である。その前にもなんとお強請りしてくれたみたいなんだけど俺の恋人──目の前の荼毘もとい燈矢の妹である冬美ちゃんは奥ゆかしい子なのでお強請りも慎ましすぎて見逃してしまったのだ。不覚。
その据え膳逃した事実が発覚した時には猛省した。観察眼を公安であれだけ磨いてきたのに活かしきれないなんてと悔やんでその分頑張ると告げれば「フォローしなくていいし頑張らなくてもいいです!」と顔を真っ赤にして言われてしまった。それもまたかわいくて噛み締めてしまった訳ですけども。そうしてその分頑張ると標榜していたんだけどもこの間完璧に『お誘い』されありがたく受けた。最高だった。そんな訳で今の俺は生気に満ち溢れてお仕事へのやる気も満々。こんな嫌味はなんの傷にもなりはしないのだ。
「へぇ……なあ、」
「何」
「『据え膳』、美味かったかよ」
「ブッ、げほ、ごほっ!」
「きったね」
気管に入った。
は?何?今確かに据え膳のことは考えてたけどタイムリーに出す?見返せばさっきと打って変わってにやにやと薄ら笑いを浮かべてこちらを見ている。ちょっと待て、さては。
「入れ知恵、アンタか」
「ひでーな、素晴らしい導きだっただろうが」
「どうりで……よく考えたらおかしいと思った」
「迷えるかわいい妹に教えを説いてやったんだ」
「因みになんて」
「上手く誘えなかったの、男の人って抱きつくだけじゃ妹扱いなの?どうしたらいい?ってさ。だから『んなもん上目遣いで谷間寄せとけ』と」
「おい実兄」
「良かったろ?なんだご不満か」
「大変よぉございました」
「はっは!だろうな、ほーら言ってみ?お兄様ありがとうございますってな」
「誰が言うか」
「つまんね。てかよ」
「今度はなんだ」
「さっきので引っかかるとかチャラ男とか言われてっけど童貞くせぇ嗜好してんのな、お前」
「提案した奴が言うなっつーの!」
暫く冬美ちゃん来させなくしますが?と言えばおー清々するねと憎まれ口を叩く。……嘘のくせに。
「ま、暫くしたら俺もアンタのこと義兄さんって呼ばないとだからその憎まれ口慣れないとかな」
「は?認めねえし。そもそもお前が恋人ってのも認めてねえ」
「お前は彼氏でもなんでもないやつに対し誘惑するよう妹に教え授けたの??ちょっとよく分からんが??」
「今みてえに弄りがいがあることは教える」
「最低か」
「よく言われる、冬美ちゃんに」
「今のマウント?何ひとつとして羨ましくなかったけど」
「うるせえな後方彼氏面の勘違い男」
「違うけど?後方も前方もというか三百六十度全方位に向けて彼氏だと主張して叱るべき立場ですけど?」
「今久方振りに滅茶苦茶腹が立ってきた、灰にしていいか?」
「いいわけあるか。精々俺と冬美ちゃんのラブラブ見せつけられて妹の幸せを指くわえて祈ってろ」
その為にその身体いい加減もうちょっとマシにしな、と告げれば心底嫌そうにしてから「結婚式は火の海なのは決まった、寝る」と宣戦布告である。そうそうそうやって精々長生きしなよ、そうするともれなく俺の大事な人が嬉しそうに幸せそうにするのだから。
「あ、でも要らんこと吹き込むのはこれっきりにしろよ」
「やだね」