「幸せを感じる時はいつですか?」
いくつかの質問を答えていたが、その質問でペンが止まった。
幸せを感じる時。
考えたことなかった、と頭を抱えていると、
ふと背後に気配を感じて、頭を上げた。
「なに唸ってんすか?」
風呂から出た沢村が俺の前にミネラルウォーターのペットボトルを差し出す。
「ん~広報誌の質問コーナーのやつ」
「あ~あれ御幸の番なの?」
「まあな。あ~めんどくせぇ」
「めんどくさいとか言わない!ファンのためですから!」
「お前本当こういうの好きね」
沢村は、基本的にこういうファンサービスがうまい。
こういうところも、本当心配で仕方ないが。
「なになに~『幸せを感じる時はいつですか?』」
「…沢村はどういう時こう思う?」
改めてこういうことを聞いたことがなかったと思い当たった。
幸せなんてもんは人それぞれだ。
他人からしたら大したことのないことも、本人には大切なことだったり、幸せなことだったりするのだ。
「俺は今!」
沢村はニッと笑顔を見せた。
「今?」
「御幸と一緒にいられるこの時間が幸せ」
なんなんだ、こいつ。
いつだって何気ないこいつの言葉に俺は簡単に舞い上がる。
俺の喜怒哀楽、全てが沢村次第だ。
その事実に思わないこともないが、それでいいとも思う。
「大好きな人と野球して、ご飯を一緒に食べて、同じベッドで今日のことを話ながら眠るって、すっげぇ幸せなことじゃないですか?」
そう、そういう日常がすごく幸せなことだ。
当たり前すぎて分からなかった。
当たり前のことではないのに。
沢村が俺の隣にいて、笑ってくれている。
そのことがとても幸せなことなのだ。
「お前そんなかわいいこと言ってさぁ…お誘い?」
笑いながら、首に腕を回してひきよせた。
「そのつもりですけど?」
てっきり逃げると思ったらどうやら違うらしい。
「御幸は?幸せ?」
嬉しそうに細められた目が俺を優しく見つめる。
「お前が幸せなら」
囁いて唇を重ねると、沢村が小さく言葉を紡いだ。
「じゃ、今アンタもすっげぇ幸せなんすね」