鼻血「───ッいってぇ!ちょっと提督?ここまで来てお預けってのは無しですよ?」
ポプランは抵抗するアッテンボローを半ば無理矢理ベッドに押し倒した。
「あっ、鼻血……お前鼻血出てるって!」
アッテンボローはポプランの顔を見あげてカラカラと笑っていた。
「へ?」
ポプランはアッテンボローを押さえた手はそのままに、反対側の手で鼻の下に触れるとぬるりとした感覚がした。
「本当だ」
ポプランは血を付けたままアッテンボローに触れたくないと思い、手に付いてしまった血を舐めた。
喧嘩慣れしているからかそんなポプランの様子は板に付いている。
一種の現実逃避だろう。アッテンボローは殴った相手を見上げながら呑気にそんな事を考えていた。
「殴られ慣れているなんて結構な事だな」
「そんな貴方は組み敷かれるのが板に付いてきているみたいですけどねぇ」
アッテンボローが反論しようとポプランの方を見るとにやにやと下卑た笑いを浮かべていた。
なんともいけ好かない顔だ、とアッテンボローの中に苛立ちが募る。
「そんなに熱心に見つめてくるなんて、提督もモノ好きですね」
アッテンボローの険しい顔と刺さるような視線に耐えかねたポプランはつい口を開く。
「はぁ?」
「提督は戦況を見通すことは得意でも、今、自分が、どういう状況かはお分かりで無いようですね」
「どういう意味だよ?」
ポプランの言葉に反論しつつ、自分はポプランのことをそんなに見つめていたのか。とアッテンボローは思った。そうこうしているとアッテンボローの唇に生温かい感触が触れてくる。
舌で唇をなぞられてアッテンボローの背筋にはぞくりとした感覚が這い上がる。不快を遠ざけたくてポプランを招き入れる様に口を開くと案の定口腔内に侵入してきた。
キスに応じつつアッテンボローは自分の今までの行動を振り返っていた。
酒を飲んで…2人して悪酔いして、BARで売られた喧嘩を買って、追い出されて……どちらともなく欲を発散させようと言い出して、酔いが回った俺が吐きそうだからってホテルに………ホテルに?
アッテンボローがそこまで回想した所で、目の前の相手が塩対応で気に食わないのかポプランが悪態を付き始めた。
「提督は随分余裕なんですね、これから俺に犯されるのに」
ポプランは唇を拭いつつ元も子もないことを言う。
「気持ちいいかは別だけどな」
アッテンボローはせめてもの去勢とばかりに悪態を付いてみせる。
「吐きそうなくらい酔ってたくせに」
「吐いてない!……ってお前は捕まえた女の子に対してもそんな事言うのか?」
ポプランは目を見開いてくすくすと笑い出した。
「まさか!丁寧に、それはもう宝物を扱うかのようにしますよ」
そう言った後ポプランはアッテンボローの唇に再び自身の唇を重ねた。先程とは異なり、優しく触れて早急さが全くない。この天と地の差がある口付けにアッテンボローは次に口を離したときに嫌味のひとつでも言ってやろうと心に決めた。
「最初っから、優しく扱って欲しいもんだけどな」
「提督は男ですし。それに……」
ポプランが言葉を切り、一瞬躊躇うように目を逸らした。
「身体だけの関係でしょ?俺達」
「お前は女とも身体だけの関係だろ!」
アッテンボローは起き上がらんばかりに勢いよく言い返したが、その後アッテンボローは自分の発した言葉をすぐに後悔する事になる。
「───提督、元も子もないこと言うじゃないですか」
次の瞬間ポプランの声色が明らかに変わっている。アッテンボローはあまりの変わりようにに怖くてポプランの顔を見られない。
「なっ……!」
シャツの下から手を差し込まれ、アッテンボローは突然の人肌に全身がぞくりと粟立った。身を捩った拍子に一瞬だけポプランの顔が視界に入る。
ポプランは真顔でアッテンボローを見下ろしていた。
「───じゃあ、御要望にお応えして恋人ごっこでもしてみますかね。提督?」
アッテンボローはからからにかれきった声と首元からちらりと見える位置に残されたキスマークをそのままに次の日の会議に出席し周囲から散々揶揄されたという。