今日はしない、とキスの合間にもちゃんと口に出せたはずだ。
明日は友人たちと遊びに行く予定になっている。寝坊はしたくないし、コンディションが良くない状態で出掛けたくはなかった。気遣われてしまうかもと思うと心苦しくもある。
だから、今日はブラッドリーとのプレイはなしだ。
カインの言葉はきちんと伝わったと思う。目の前にいるのだ、聞こえないほうがおかしい。だというのに、ブラッドリーの指先は全く離れる気配を見せなかった。
「っ、は……ブラッ、ド!」
腕を突っぱねて体を離す。今日はコントロール権を渡していなかった。いくらブラッドリーがしたがっても、セックスのように勢いでなだれ込むことは出来ない。それに気づかないはずはないのに、ワインレッドの瞳は楽し気に細くなったままだ。とても嫌な予感がする。更に一歩、距離を取った。
「今日は、絶対、しないからな」
「キスぐらいならいいだろ」
なあ、と甘えたような声が囁く。咄嗟に否定できなかった。確かに、キスまで禁止してしまうのはやりすぎかなと言う気がしてくる。それに、しなくなったらさみしいなとも思ってしまう。
口ごもるカインに、犬歯が覗く唇が近付く。
「ん……」
優しく触れた唇に、ほっと肩の力を抜いた。先程までの性を煽るようなものとは違う、じゃれあいのようなキスだった。少しかさついた指先が、ゆっくりと髪を撫でる。
「っふ……ぁ、ぼす……」
思わず服を掴んだ。もっと、と言いそうになって唾を飲み込む。小さく笑い声が落ちた。
「ぅ、んっ……」
そっと差し込まれた舌を拒めなかった。ゆっくりと擦り合わされて、指先に力が入ってしまう。これ以上は、と思う心と、まだもう少しだけなら、と思う心が順番に顔を出す。
離れようか決めかねている間に、いたずらな指先が髪留めを弄った。あ、と思う間もなく外される。急に心臓が大きな音をたてた気がした。背中に流れた長い髪ごと抱き寄せられる。
じっくりと歯列をなぞる舌先は、どこまでも優しい。だけど妙に体が熱くて仕方なかった。項をくすぐられると肩が跳ねてしまう。湿った吐息が零れた。
蕩けていきそうな頭を何とか叱咤して、唇を離す。だけど、ブラッドリーを押し返そうとした腕は熱い指先につかまえられてしまった。
「何で逃げんだよ。よかっただろ?」
「っ……よく、ないっ!」
咄嗟に首を振ると、楽しそうな呟きが返る。掴まれた手が動かされて、自身のものに触れた。指に触れたそこは、スラックスの上からでもわかるほど兆している。撫でるようにされて、声が零れてしまった。
「《Say》」
まだコントロール権は渡していないはずだ。だというのに、カインの意思を裏切って、体は素直にコマンドを喜んでしまっている。頬が燃えるように熱い。喉が震えて嫌だと言えない。
小さく唾を飲み込んで、口を開いた。