なあ、と隣の恋人に呼びかけた声は、自分でもよくわかるくらいに拗ねていた。自覚してしまうとすぐには言葉を続けられなくて一瞬口ごもってしまった。からかうように零れた笑い声を睨みつけて、小さく咳払いしてからブラッド、ともう一度呼びかける。楽しそうな声が何だよ、と答えて、それに合わせるように顎の下をくすぐられた。
「これ、そんなに楽しいのか?」
言いながらブラッドリーの指先を突く。恋人に触れられるのは好きだけれど、こんな風にどこかのペットみたいにはしてほしくない。普段は違うだろと訴えれば、そうだったかと白々しい言葉が返ってくる。覚えてねえなと言われて、それでようやくカインにもブラッドリーの考えが読めた。だったら見本を見せてみろとか、そんなことを言うに決まってるのだ。
今日は絶対、この人の思い通りにはならないぞと拳を握る。
「俺は、しないからな」
重々しく告げたカインの言葉に、ブラッドリーは笑うだけだ。そうかよとすんなり頷いて顎の下から手を引っ込める。離れた体温を無意識に目で追ってしまってはっとした。慌てて視線を反らすと、ブラッドリーの方に向いた耳に指先が触れた。思わず肩が跳ねる。
「ブラッド!」
「何だよ。てめえはしねえんだろ?」
だから代わりにしてやってると当たり前のように言って、長い指でゆっくりと耳輪をなぞっていく。耳たぶをくすぐり、頬を包まれただけで反射的に瞼が落ちた。キスされると思ったのはその後で、聞こえた笑い声に我に返ったのは更に後だった。
目を開いてブラッドリーを睨みつける前に、項を撫でられて心臓が跳ねた。すがるようにブラッドリーにしがみついてしまう。弧を描く瞳を見つめていることしかできない。
項の髪を弄んでいた指が背筋を伝い下りて、腰を抱く。明るい室内に耐えられなくて、小さくブラッドリーの名前を呼んだ。
途端に、ぱっと手が離れていく。
放り出されたような気分になってぽかんとして、さっきまで何の話をしていたのかを思い出して目の前の顔を睨みつけた。
「……やりすぎだ!」
「てめえの期待に応えてやっただけだろ」
「ここまでとは言ってないからな!」
ベッドの中みたいな仕草がいいなんて一言も言ってない。カインはただ、いつもみたいに恋人同士の触れ合いがしたかっただけだ。
「例えば?」
「しないって……」
「言ってもいいが、手加減は期待すんなよ」
また同じことをすると言外ににおわされて言葉に詰まる。嫌なわけじゃないけれど、この後何もできなくなるのは困る。もうそろそろクリーニングに出していたジャケットを取りに行かなければならないのだ。
うまく乗せられたみたいで悔しかったが、仕方なくブラッドリーに手を伸ばした。二色の髪をゆっくり撫でて、頬にキスして、ぎゅっと抱きつく。鼻をくすぐるかおりにほっと息を吐いて、首筋に頬をすり寄せた。ブラッドリーが楽しそうに笑う。
「覚えといてやるよ」
囁かれた言葉に首を傾げた。